[KATARIBE 28570] [HA06N] 小説:『それぞれの開幕』

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Date: Wed, 23 Mar 2005 23:10:55 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28570] [HA06N] 小説:『それぞれの開幕』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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MOTOIです。
3月26日、パ・リーグの模様を、狭間キャラの立場からお送りします。

なお、自キャラ以外のキャラを何人かお借りしましたので、
台詞に不具合がありましたらチェックを宜しくお願い致します。
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小説『それぞれの開幕』
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登場人物
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 十川学(そがわ・まなぶ)
  :新中学3年生。パソコンの基本的な知識はある。ライオンズファン。
 御法川美香(みのりかわ・みか)
  :新中学3年生。パソコンは触ったこともない。野球も初心者。
 榎愛菜美(えのき・まなみ)
  :新高校1年生。1995年製造のアンドロイド少女。ホークスファン。
 猫実美子(ねこざね・よしこ)
  :製造されて間もないアンドロイド少女。愛菜美の部屋に居候中。
 新崎智也(しんざき・ともや)
  :新大学4年生。吹利で一人暮らし中。ファイターズファン。
 白神知佳(しらかみ・ちか)
  :新小学5年生。智也のいとこの子供で、智也と仲良し。
 岡啓介(おか・けいすけ)
  :新大学4年生。千葉に旅行中。マリーンズファン。
 氷川美琴(ひかわ・みこと)
  :新高校3年生。啓介と真剣にお付き合い中。
 ローラ・オニール
  :新高校3年生。アイルランド出身。バファローズファン。
 桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
  :IT企業に勤める社会人。休日の楽しみは中国茶。
 桐村駿(きりむら・しゅん)
  :新高校1年生。動物と会話が出来る。イーグルスファン。
 ヤシガニ
  :吹利に生息する謎動物。エサねだりは日課。
 十条健一郎(じゅうじょう・けんいちろう)
  :新大学2年生。野球全体を扱うHPを運営。ハンドルは「Kイチロー」。


十川学の場合
------------
 「もしもし、学くん? ワタシ、美香だよ」
 「美香ちゃん?」

 春休みに入ってすぐ、ボクの家に美香ちゃんから電話がかかってきた。

 「明日、ちょっと家にきてくれない?」
 「え、ど、どうして?」

 急にそんなこと言うもんだから、びっくりした。

 「あのねー、『ぱそこん』ってのを買ってね、『いんたーねっと』ってのを
 申し込んだんだけど、機械の繋ぎ方がわからないの」
 「あ、そういうこと……」

 なーんだ。
 ボクだって中学3年生だもん、一瞬ドキドキしちゃったよ。

 で。
 翌日、ボクは美香ちゃんの家にお呼ばれした。
 そういえば、美香ちゃんが吹利に来てから、おじさんとおばさんに会うのも
初めてだっけ。

 ボクは、挨拶をすると、さっそくパソコンをセットしてあげた。その途中で、
おじさんは仕事で自分の部屋に、おばさんは買い物に行っちゃったんで、ボク
と美香ちゃん二人になった。ちょっとドキドキ。

 「はい、できたよ」
 「へー、ずいぶん簡単なんだねー……で、これで何が見られるの?」
 「んーっと……あ、そうだ」

 ボクは、はっと思い出して、URLバーにアドレスを打ち込んだ。

 「はい」
 「これ……テレビじゃないの?」
 「うん、動画配信っていって、スポーツ中継がテレビみたいに見られるんだ」
 「へー、すごいなー」

 思い出したのは、今日が3月26日ってコト。
 開いた画面は、ライオンズの動画配信中継。

 「これ、野球中継?」
 「そう、ライオンズの。今日は開幕戦だから」
 「そうなんだー……それじゃ、一緒に見よっ」
 「うん」

 ボクは、ドキドキしながらも、野球を美香ちゃんと見ることにした。
 でも、美香ちゃんはべつにドキドキなんてしてないだろうなぁ……。


榎愛菜美の場合
--------------
 もうすぐだ。
 毎年、ワクワクしながら待ってる時間が近付いてくる。

 「愛菜美おねーさん、たのしそうですー」
 「だって、もうすぐ開幕戦だもんっ」

 プロ野球の開幕戦。プロ野球のファンにとっては、待ちに待った開幕。
 もちろん、私もその一人だ。

 「ところで、その服、なんですかー?」
 「これはね、ユニフォームっていって、野球をする選手が着るの」
 「え、おねーさんも野球をするんですかー?」
 「そうじゃないけどね、これを着ると、選手と同じ気持ちになるから、応援
 にも熱が入るんだよ」
 「そうなんですかー……」

 美子ちゃんには、よくわからなかったかな。
 でも、そのうちわかるようになるよ。

 私も、生まれたばっかりの頃は、よくわからなかった。
 パパがよくホークスを応援してたけど、その気持ちはわからなかったな。
 あらかじめ、ホークスを好きになるプログラムが入ってたわけじゃないから。

 でも、長いことパパと一緒に野球を見てたら、だんだんわかってきた。
 ホークスが勝つと嬉しい。負けたら悔しい。
 なんでかって言われたら、今でもよくわからないけどね。

 私が生まれたばっかりの頃は弱かったホークス。
 そんなホークスが優勝したときは、すごく嬉しかったなぁ。

 「あ、おねーさん、はじまるみたいですよー」
 「……っと、ほんとだ」

 今年こそ優勝して、パパや美子ちゃんたちと一緒に喜べますように。


新崎智也の場合
--------------
 「よー、知佳っち」
 「智也おにーちゃん、こんにちはー」

 親戚の知佳っちが俺の部屋に来た。
 このデカさで小4……いや、4月で小5か。
 どっちにしろ、知らないやつは信じられないだろうなぁ。

 「で、今日は何の用だ?」
 「んーとね、花粉症について調べてほしくてきたの」
 「あれ? 知佳っちって花粉症だっけ?」
 「うん、今年から、目がかゆくて。ママが目薬買ってくれたんだけど、治す
 方法ないのかなって。パパもママも花粉症じゃないからよくわからないって」
 「あー、なるほど」

 確かにこの時期はつれーよなぁ……
 かくいう俺も花粉症だからな。だから俺のところに来たんだろうな。

 「まー、根本的な解決は難しいけど、軽くする方法ならいくつか……」

 とりあえず、知ってることやネットで調べたことを知佳っちに教えてやった。
 そんで、チラッと時計を見ると……

 「うお、もうこんな時間か!」
 「ほえ?」
 「テレビ、テレビ」

 俺は、慌ててテレビとチューナーの電源を入れた。

 「あ、野球やってるんだー」
 「今日からだよ」

 開幕戦のことすっかり忘れてたぜ。
 本当は所沢まで行きたかったんだけど、大学に行く用が多かったんで実家に
帰る暇がなかったんだよなぁ。

 「せっかくだから、知佳っちも一緒に見て行くか?」
 「うん、そーするー」

 まあ、素直に部屋で中継を見るとしますか。
 そのためのCS放送だしな。

 「知佳っちも、一緒にファイターズを応援しようぜ」
 「はーいっ」

 元気のいい知佳っちの返事で、こっちも元気が出た。
 さあ、気合を入れて応援するとしますか。


岡啓介の場合
------------
 Trrrr……

 オレの携帯が鳴ってる。
 ここで出ても、周りがうるさくてオレの声が聞こえないだろう。
 オレは、人ごみをかきわけ、なるべく静かな場所に移動した。

 「もしもし」
 「啓介さん……こんにちは」
 「ああ、美琴ちゃん……こんにちは」

 電話の相手は、オレの大切な彼女、美琴ちゃん。
 ……改めて言うと、未だに照れる。

 「どうしたの?」
 「あの……無事に着いたかと思って……」
 「おかげさまで、無事に着いて、無事に座れたよ」
 「……よかったです……」

 そう、今、オレは千葉に旅行中。
 一度来てみたかった、マリーンズファンの聖地、マリンスタジアム。

 オレは今、そのライトスタンドにいる。
 実際に来て見ると、テレビよりもはるかに迫力がある。

 「わざわざ電話くれて、ありがとうね」
 「いえ……私も、啓介さんの声が聞けて……うれしいです……」

 正直なところ、美琴ちゃんと一緒に来たかったってのが本音。
 でも、彼女はまだ高校生だから、金銭的にも世間的にも無理な相談だよな。
 第一、野球はオレの趣味だから、無理やりつき合わせるのも悪いし。

 「お土産買って帰ってくるから、楽しみに待っててね」
 「はい……」
 「それじゃ……」

 そして、電話を切り、再び人ごみをかきわける。
 どうにかこうにか、オレの席に戻る。

 さあ、試合の始まり。ライトスタンドの盛り上がりも最高潮だ。
 オレも、その盛り上がりの中に加わっていく。

 勝利を美琴ちゃんへの土産話にするためにも、懸命に応援するぞ!


ローラ・オニールの場合
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 今日は、午後には外出したくないので、午前中に買い物を済ませましょう。
 そう思って、私は、お店が開店する時間より早く家を出ました。

 買い物は無事に終了し、その帰り道のこと。
 私は、男の人に声をかけられました。

 「おや、ローラさん。お久しぶりですね」
 「Hi, Mr. Sakuragi」

 桜木さんは、私の知り合いの男性で、情報関係の会社に勤めておられます。
 今日は私服を着ているので、おそらくお休みなのでしょう。

 「お買い物ですか?」
 「Yes. これから、帰る、ところです」
 「ずいぶん早い時間のお買い物ですね」
 「桜木さんは、どちらへ、おでかけですか」
 「ちょっと、龍穴まで」

 龍穴とは、Chinaの雑貨品店で、Chinese Teaも扱っているそうです。
 桜木さんはChinese Teaがお好きで、よく通っておられるとか。

 「よろしければ、ローラさんもご一緒にいかがです?」
 「いえ、私は、早く、帰らなければ、ならないので」
 「ふむ。なにかご用事ですか?」
 「I want to watch baseball game」
 「ほう、野球ですか」
 「Yes, I like baseball」

 はい。野球です。
 今日は、日本の野球の公式戦が始まる日なのです。

 「しかし……ローラさんはアイルランドの出身でしたよね?」
 「Yes」
 「あちらでは、野球はやっていないでしょう。野球が好きというのは珍しい
 のでは?」
 「はい、よく、言われます」

 私が幼少の頃、神戸で、野球の試合を観戦したことがあるのです。
 その試合の内容に感動したのが、私が野球を好きになったきっかけです。

 「私は、Bluewaveが……ああ、今は、Buffaloesが、好きです」
 「ほほう。去年、いろいろ話題になったチームですね」

 その年に、Bluewaveは優勝しました。
 後から知ったのですが、その年の初めに、神戸では大変な災害があったのだ
そうです。
 それを乗り越えて優勝したBluewave。ですから、さらに感動しました。

 そのとき、私は、決めたのです。
 何があっても、Bluewaveを応援していこうと。
 たとえ、Buffaloesに変わっても。

 「では、これにて、失礼します」
 「はい、ボクも失礼しますね」
 「See you」

 すっかり、話が長くなってしまったようです。
 時計の針は既に12時を指していました。

 「Oh, I should hasten home」(急いで帰らなければ)

 新しいBuffaloesを応援するため、家に急ぎましょう。


桐村駿の場合
------------
 『エサくれー』
 「うわっ、どこから入ってきたのさっ」

 あー、びっくりした。
 いきなり、居間にでっかいヤシガニがいるんだもん。

 『エサくれ、エサくれ、エサくれー』
 「まったく、君はそれしか言えないの?」

 しょうがないから、ポテチの袋を開けて、ヤシガニ君に渡す。
 ちぇっ、せっかくテレビ見ながら食べようと思ったのに。

 「食べ終わったらもう帰ってよね」
 『もうエサはないのかに』
 「ないっ」

 まったくもう……あ、そうそう。
 もうすぐ始まるから、テレビつけなきゃ。

 『何してるかに』
 「テレビで野球見るんだよ」
 『テレビって食えるのかに』
 「食えないよっ」
 『それなら、ヤキュウって食えるのかに』
 「食えるわけないでしょっ」

 ホントに、食うことしか考えてないんだから。

 『食えるものがなくなった。悲しいがに』
 「ったく……」

 なくなって、悲しい、か。
 意味合いは全然違うけど、今の僕には、結構重い言葉だな。

 去年の6月。突然発表された、チームの合併。
 僕の大好きだったチームが、突然、消えることになった。

 僕を含めて、ファンはみんな反対した。
 選手達も、みんなで反対した。
 でも、結局、合併は『予定通り』に行われた。

 いつかは日本一に。そんな希望を持ちながら応援してきたのに。
 その希望は、ついに叶えられなかった。

 そんな僕たちに、唯一残った希望の光。
 選手とファンが、必死に訴えて、残った光。

 それが、新しく出来たチーム、イーグルスだった。

 世間では、いろいろ批判もされていたけど。
 でも、僕は、消滅したチームの意志を継いでくれる、そう思ってる。

 だから、僕は、今年から、イーグルスを応援しようと思う。
 消滅したチームが手に出来なかった、栄光の『日本一』を目指して。

 『食ったがに』
 「食ったらさっさと帰る」
 『もう、エサはないがに』
 「だから、ない」

 すごすごと帰っていくヤシガニ君。
 まったく、家にまで入ってくるなよな。

 そうこうしてるうちに、もう試合開始だ。
 新しいチームの船出だ。気合入れて応援しなきゃ!


そして、開幕
------------
 いよいよ、2005年のパ・リーグの開幕や。

 今年の注目は、なんといっても、新球団のイーグルスや。
 今までプロ野球のチームがなかった宮城で、どれだけファンをつかめるか。
 うまいこと地元に根付いて、長く続いてほしいもんやね。

 それと、今までファンが望みながら、なかなか実現せーへんかった交流試合。
 今年から、よーやっと開催されることになったわけや。
 セ・リーグとパ・リーグのチームの真剣勝負。めっちゃ見応えありそうやで。

 去年はプレーオフでライオンズが勝ったけど、ホークスも相当燃えとるはず
やし、簡単に連覇とはいかんやろ。
 それに、去年ほんのちょっとの差で明暗を分けたファイターズとマリーンズ
は、今年も激しく争ってくることになるやろな。
 もちろん、合併したバファローズも、本気で優勝狙いに行くはずやで。

 今年最初の試合は、ホークスとファイターズ、ライオンズとバファローズ、
それにマリーンズとイーグルスの3試合や。
 最初から最後まで、目が離せへんシーズンになりそうやで。

 ……おっと、もう試合が始まるで。
 ほな、またシーズン中にあいまひょ!

                      2005年3月26日 Kイチロー


時系列と舞台
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 2005年3月26日


解説
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 2005年、パ・リーグ開幕。
 ファン達はそれぞれ思いを胸に秘め、応援をする。

$$
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2005年パ・リーグ開幕戦は、午後1時、3試合一斉にプレイボールです。

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Motofumi Okoshi
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