[KATARIBE 28553] [HA20N] 小説『休みの補講』

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Date: Sun, 20 Mar 2005 17:24:18 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28553] [HA20N] 小説『休みの補講』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月20日:17時24分17秒
Sub:[HA20N]小説『休みの補講』:
From:久志


 久志です。

 へろっと思いついたマコリンのお話。
 安西先輩と泰一先生をお借りしてます。はりにゃ、猫屋さんチェックよろ。

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小説『休みの補講』
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登場人物 
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 真越倫太郎(まこし・りんたろう)
    :重度時間流動障害を持つ少年、高校一年生。あだ名はマコリン
 安西志郎(あんざい・しろう)
    :アヤシイ先輩。好みがちょっと変わった人。
 香月泰一 (かづき・やすかず) 
    :陰陽教師。学内では英語教諭

補講の日
--------

 三月中旬、だいぶ暖かくなったよねえ。
 卒業式もとっくに終わって、もう学校はすっかりお休み、のはずなんだけど
ねえ。
 てこてこと、校門をくぐって校舎へ向かう。
 僕も春休みが終わったら二年生……のはずなんだけど、病欠で出席日数がか
なりギリギリなせいで、春休みも学校に来ないといけない。勉強自体がダメな
わけじゃあないんだけどね。

 校庭では野球部の人が一生懸命に練習してる。ときどきバットがボールを打
つよく通る音が耳に聞こえてくる。
 まだ時間も余裕があるからと、のんびりと校庭の練習風景を眺めながら歩い
てると校庭の隅にある花壇に見知った人がいた。

「安西せんぱーい」
「ん?」

 ぶんぶんを手を振ると花壇で水遣りをしてた先輩が振り向いた。

「おお、倫太郎か。どうした休み中に?」
「ええと、補講受けにきてて」
「試験悪かったのか?」
「ううんテストは良かったんだけど、結構授業お休みしちゃったから、出席日
数分埋め合わせしないといけなくて」
「そうか、大変だな」
「先輩は水やり?」
「ん、ああ。じきにここら一面奇麗に咲くぞ」
「へえ、楽しみだねえ」

 花壇には、まだつぼみがふくらむちょっと前くらいのチューリップやら水仙
やらたくさん植わってる。まだ咲くには早いけど、きっと入学式の頃には奇麗
に咲いてるだろうなあ。

「補講、頑張れよ」
「はーい」

 も一度先輩に手をふって、てこてこと校舎へと向かう。


 と。
 きいん、と耳に通る音が響いた。
 校庭で練習してる野球部の人の甲高い声が聞こえる。

「あぶない!」

 ゆらり、と浮遊感と一緒に僕の時間が変わる。

 波打つようなゆるやかな雑音。
 僕の方を見て、目を見開いたままの野球部員さん達。
 ふよふよと浮かんでる白いボールがゆっくりゆっくりと僕に近づいてくる。

 ゆっくりゆっくりと、目の前に来たボールを片手でひょいとつかむ。

 戻る、時間。

「あぶねえ!」
「馬鹿!どこ向かって打ってんだ!」
「おい、大丈夫か」

 わたわたとこっちへ走ってくる部員さん達。
 ボールを片手に持った僕をみて目を丸くする。

「今の、捕ったのか?」
「怪我ないか?」
「あ、えっと、大丈夫」

 あわてて走ってきた部員さん達が僕を取り囲んで心配げに見る。
 大丈夫だよーと手を振って、ボールを差し出す。目を丸くしたまま、部員さ
んの一人がボールを受け取った。でも驚くのも無理もないかなあ、一見ひょろ
ひょろのひ弱くんな僕が素手でボール取ったなんて。

「えっと、それじゃ僕補講あるから」

 まだ不思議そうな顔をした部員さんたちにぺこりを頭を下げて歩き出す。

 ちょっと道草くっちゃったなあ。
 ぱたぱたと下駄箱で靴を履き替えて、教室へ向かおうと廊下を歩いて。


 目の前が、揺れた。
 足に、力が入らない。

 壁に手をつこうとしたけど、届かなくて。

 景色がまわる。
 そのまま落っこちそうになった瞬間、急に腕を引っ張られた。

「あ」

 僕の腕をつかんだのは、ちょっと怖そうな雰囲気の男の人。

「真越、また倒れたのか」
「せんせい?」

 僕の腕をつかんで引っ張りあげたのは、英語の香月先生だ。
 怖そうな人だけど、実はそんなに怖くないひとだったりする。わざわざ授業
を休んだ僕一人の為に、わざわざ休みに授業をしてくれるいい先生だと思う。

「せんせ、今日補講……」
「保健室で休んでろ、その調子じゃまともに授業を受けられんだろう」
「ごめん、なさい」

 体に力が入らない。
 先生がそのまま首根っこをひっぱりあげて、僕を立たせる。

「どうせ受けるのはお前一人だ、俺も保健室で時間つぶしてる」


保健室常連
----------

 先生が僕の首根っこつかんだまま、保健室のドアを開ける。
 机の前で雑誌を読んでいた保健の先生が振り向いた。

「あら、真越くん?」
「ええと、ちょっと廊下を歩いてたら」
「ほら、いいから奥で寝ていなさい、襟とベルトをゆるめて」
「あ、はい」
「ほら、寝てろ」

 ぽいっと、保健室のベッドに転がされる。

「少し休んで落ち着いたら授業だな、どうせ受けるのは一人だ」
「……はい、ごめんなさい」

 上履きを脱いで、制服の詰襟を開けてワイシャツのボタンを二つはずす。
ベルトの穴をひとつ緩めてベッドに横になった。
 体の中から沈み込むように、意識が落ちていく。


先生の会話
----------

 すっかり眠りに落ちた倫太郎の顔を見下ろして。
 腕組みをしたまま泰一がつぶやいた。

「だいぶ、無理が来てるようだな」
「そうですね。でも本人が学校生活を心から楽しんでる限り、ちゃんと通わせ
てあげたいと思います」
「そうだな」
「小学中学と、ほとんど受け入れてくれるところがなかったそうなので」
「……医学でも呪術でも、治せないのだな」
「ええ、身体の根本的な機能の障害だそうですから……無力ですね」
「そうか」


お見舞い
--------

 目を覚ますと、メガネの人が僕を見下ろしている。

「安西先輩?」
「倒れたと聞いて来たんだが、大丈夫か?」
「うん、ありがと先輩」
「しっかりレバーやほうれん草を食べているか?」
「うーん、ほうれん草は好きだけどレバーはちょっと」
「いかんな、いい臓物(なかみ)は食生活からしっかりとしなければ」
「はーい」

 起き上がると、保健の先生と香月先生がお茶を飲みながらこっちを見てる。

「安西、お前の無駄な頑丈さを真越にも少しわけてやれ」
「分けられるといいんだがなあ」
「あはは」

 笑って、少し気分が軽くなった。

「真越落ち着いたか?補講始めるぞ」
「あ、はい」

 シャツのボタンを留めて上履きを履く。

「好き嫌いするなよー」
「はーい」

 先輩に手を振って保健室を後にする。
 先生の後をついて歩きながら、パパの言葉を思い出す。

『学校、楽しいか?』

 うん。
 楽しい。

 だから。

 学校、やめたくない。

時系列と舞台
------------
 2005年3月中旬
解説 
---- 
 結構ヘヴィな宿命背負っちゃってる倫太郎。それでも学校に通いたい。
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以上

 異能は自動的なんです、はい。



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