[KATARIBE 28552] [HA06N] 小説『一直線と無鉄砲』

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Date: Sun, 20 Mar 2005 15:28:57 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28552] [HA06N] 小説『一直線と無鉄砲』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月20日:15時28分57秒
Sub:[HA06N]小説『一直線と無鉄砲』:
From:久志


 久志です。

ちまっと美絵子のお話、芽衣さんとの会話です。
こうなったら美絵子の為にもゆっきーにがんばってもらわねばなりますまい。

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小説『一直線と無鉄砲』
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登場キャラクター 
---------------- 
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :三月末に結婚式を控えていたりする。
 蓮池芽衣(はすいけ・めい)
     :美絵子とは中学時代からの親友、幸久とも仲が良い。
     :幸久に想いをよせていたらしいが……

戦い疲れて
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 ティーカップに砂糖をひとさじ落とす。かちゃかちゃかき回すスプーンの音
がやけに大きく聞こえる。
 休日の午後という、ちょっと混みあいそうな時間帯だけど、窓際の禁煙席は
さして混んでない。普段なら喫煙席なのよね、あたしは煙草吸わないけど婚約
者殿もユキも結構吸うほうだし。あたしの目の前、芽衣がコーヒーをゆっくり
味わっている。
 蓮池芽衣、中学の頃から高校もずっと一緒だったのよね。高校出てからは、
大学へ進学したあたし達とは違って、日本を飛び出して世界中をあちこち飛び
回ってたみたい。こうやって吹利で会うのはつい最近のことだ。

 あの頃は、芽衣もあいつのこと見てたのよね。

「おめでとう」
「ん、ありがとう」

 なんだか、おめでとうの言葉が微かに疑問系で終わってるような気がする。
あたしのうがった見方なのかもしれないけど、でも、ちょっと心に痛い。

「どしたの、元気ないじゃない。マリッジブルーってヤツ?」
「そーかもね、なんか色々考えすぎちゃって」
「……そういうもんかね」

 顔だけ笑ってるのに、笑ってない。
 いつから、こんな貼り付けたような笑い方するようになっちゃったのかな。
 マリッジブルーか、そういうもんなのかしらね。

「なんかね、こう、昔のことばっか考えるのよ」

 ひとくち、紅茶を口に含む。
 聞いて欲しいのか、ただしゃべりたいのか。

「あの頃の一直線な自分と随分かわっちゃったなーとか、ね」
「いい傾向じゃないんじゃない?」
「そう……よね、ちゃんと考えないとダメだもの」
「…………」

 あの頃は、ただ一直線で、ひたむきで、火花散らして張り合って。
 一生懸命あいつを追いかけてた。

「……無鉄砲な頃とはもう違うのよね」

 なぜか、ため息と一緒にでてくる言葉。
 無言のまま、芽衣があたしの目を見つめる。

「……ねえ、美絵子」
「なに?」
「一直線なのと無鉄砲なのとは違うよ。無鉄砲は何も考えていないことだけど、
一直線っていうのは何かを貫くことなんだよ」

 ずきり、と。芽衣の言葉が心に刺さった。

「……あたしさ、貫くの……疲れちゃったんだよ」
「疲れたら休めばいい。後回しにしてもいいけど、そこで諦めたら終わりだよ」
「…………」
「ユキのこと、まだ引きずってるんでしょ」

 まっすぐな直球が痛い。

「そうだね……まだ、ちょっと痛い」
「もう、後回しに出来ないところまできたよ」

 まだ、引きずってる。
 まだ、悩んでる。

「なにをどうするか、決められるのは、今だけ」
「わかってる」

 このままでいいの?と心の奥の情が問う。
 もうあきらめなさい、と心の奥の理が告げる。

「でも、もう、あたし一直線になれない」
「美絵子……」

 昔はそんなことなかったはずなのに。
 知らず、ため息がでる。

「……疲れちゃったのよ。何もかえってこないのが、もう耐えられないのね」

 あたしの言葉に答えず、だまって芽衣がカップを傾ける。
 たぶん、考えてることあたしと同じなんだろうな。

 ほんと、あいつってしょうもないやつ。

 ねえ、やっぱり、芽衣も忘れてないのかな?
 あの頃さあ、芽衣もユキのこと好きだったんだよね。ホントはずっと気づい
てたんだよ、あたし。
 でも、あたしは知ってて裏切った。芽衣の気持ちを知ってたのに、あたしは
どうしてもあいつが欲しかった。

 本当に、一直線だったんだよね。あの頃は。

「……どこがよかったのかしらね、一体。でも、それでも、なんでかな」
「ああ、もう。むかっ腹が立つ」

 少々乱暴に芽衣がカップを置く。

「なんでアイツはもっとこうシャンとできないかなあ」
「昔っからそうよね。自信なくて、ひねくれてて、しゃんとしてなくて、ええ
かっこしいで、そのくせすぐ拗ねて、ケンカっぱやくて、死ぬほど鈍くて」
「なんでかな、ほんと」

 もう一度ため息。

 でも。
 どこが良かったかなんて、後付で考えても何にも意味がないのよね。
 理由なんかなくて、ただ好きだから好きだったのよね。

 それでも。
 理性とか、理屈とかで。ここがいいからこの人に決めようとか、ここがダメ
だからあきらめようとか、そんな風に考えないといけないのかな。

 でも。
 すべての人が理で生きてるわけじゃない。
 すべての人が情で生きてるわけじゃない。

『一直線なのと無鉄砲なのとは違うよ』

 ずきりと、胸が痛む。
 自分自身を理で固めきって、自分を納得させる。
 それがやっぱり、大人になったっていうことなの?

『無鉄砲は何も考えていないことだけど、一直線っていうのは何かを貫くこと
なんだよ』

 あの頃、貫いていたのは。

 なのに、もう、あたしは動けない。
 貫く強さも、立ち上がる勇気もない。

「美絵子……」
「ううん、ごめん。なんでもない」

 固められたまま、流れてって。
 それで、いいの?

時系列と舞台 
------------ 
 2005年3月初め 
解説 
---- 
 結婚を前に、幸久のことを引きずってる美絵子と芽衣の会話。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 

 さあ、ゆっきーがんばろう。



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