[KATARIBE 28550] [HA06N] 小説『教育連鎖』

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Date: Sat, 19 Mar 2005 01:57:09 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28550] [HA06N] 小説『教育連鎖』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月19日:01時57分08秒
Sub:[HA06N]小説『教育連鎖』:
From:久志


 久志です。

 夕べチャットで話してた、ボタンの留め方を教える和久のお話。
ボタンくらい留められるだろう、とは思ったのですが、
いまいちおぼつかないという感じで。

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小説『教育連鎖』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮和久(もとみや・かずひさ) 
     :本宮家末っ子、生真面目さん。吹利県警巡査。
 御堂ロザリンデ花梨(みどう・ろざりんで・かりん) 
     :日独ハーフで貴族なパンパネラ。通称ローザ。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :本宮家長男、ほほんお兄さん。お父さんお母さん代わりだった。

おぼつかない手つき
------------------

 休日に重なったオフの日。
 台ふきんを片手に、キッチン周りを丁寧に拭う。
 東京で一人暮らしをしていた頃は、一人ということもあり外食に頼ることも
多かったけど、今は同居人もいるということもあり、できる限りは自炊を心が
けている。その分、台所周りは結構汚れがちだ。
 ぱん、と。ゆすいだ台ふきんをはたいてのばす。拭き掃除で汚れた手を洗い
ながら今日の夕飯の献立を考える。
 せっかくの休みだし、ちょっと手を加えたものを作ろうかなあ。

 なんとなく、だけど。
 どうにも、今の同居人である銀髪の少女……ローザとのコミュニケーション
がうまく取れていないような気がする。
 一緒に住み始めてからまだ日が浅いせいもあるけど、いや、こう頑張ってる
んだけど。なんか、空回りしているような気がする。正直10歳の女の子が何
を考えてるかなんて、自分にはさっぱりわからなくて、なんとか話題をふって
みようにも、どんな話題を出せば喜んでくれてるのかわからなくて。
 結局、あたりさわりないありきたりな会話になってしまう。

 なんとかしないと、なあ。
 俺のことを信頼して預けてくれたからには、ちゃんと責任もって面倒見てあ
げないと先方に申し訳ないし、俺のことを気遣ってくれた史兄にも悪い。
 ふと、視線を上げるとテーブルの椅子に座ったローザの長い銀髪が見える。

 頭を振る。
 いや、それは関係ない。
 あの子を思い出すから、なんていいわけだ。

 後姿を眺めていると、不意にローザが振り向いた。

「カズヒサ」
「え、はい?」
「今日はこれからお友達のお宅へお出かけします。お夕飯の時刻には、ちゃん
と帰宅しますわ」
「あ、ああ、わかった。何かおやつかなにか持っていく?」
「いいえ、結構ですわ。ちゃんと用意してあります」
「そう、ならいいんだけど」

 立ち上がって丁寧に頭を下げると、部屋にコートを取りに戻っていく。
 その後姿を眺めながら、ちょっと考える。
 えーと、ここでもっと話題を広げようよ、俺。誰のお家にいくの?とか何を
持っていくの?とか、色々会話のとっかかりあったはずなのに、ダメだなあ。

 音も立てずに戻ったローザがコートを羽織る。流れるような長い銀髪に白い
コートが良く似合っている。裾をあわせて上からボタンを留めようとして、
なんかその手がおぼつかない。いや、できないわけじゃないみたいだけど。
 結夜さんから聞いた話だと、以前外国にいたころはばあやさんがいて、身の
回りの世話をすべてやってもらっていたらしい。
 日本に着てからは自分で身の回りのことをするようになったものの、やっぱ
り少し慣れていないとの話だった。

 なんとなく、昔のことを思い出していた。

回想
----

『和久』

 幼稚園の頃だったかな。
 自分もおぼつかない手つきで、ボタンを留めていた。

『和久おいで』
『史兄?』
『ボタンを留めるときにはね、こうやって』

 目の前で、ひょいと穴にボタンをあわせる。

『穴にボタンを半分通して、通ったほうを片手で持って、こう引っ掛ける』
『えーと』

 史兄のやりかたを真似して、ボタンをあわせる。

『こう?』
『そうそう、ほら、できた』
『うん』
『もっかいやってごらん』
『うん、ありがと史兄』
『ほら、ちゃんできた。って、こら幸久!クッキーは三枚までって言ってるで
しょ!友久取り上げて!』

 ぱたぱた走ってく史兄を見送って、もいちどボタンに手をかける。
 穴にボタンを半分通して、通ったほうを片手で持って、引っ掛ける。

 留めてはずしてもっかい留めて。

教育連鎖
--------

「ローザ」

 振り向いたローザの前に歩いていって、ちょっとががむ。

「ボタンを留めるときはね」
「カズヒサ?」
「こうやって」

 白いコートのボタンをあわせる。

「穴にボタンを半分通して、通ったほうを片手で持って、こう引っ掛ける」
「…………」
「やってみて」

 ボタンを半分通して、通ったほうを片手でもって、引っ掛ける。

「ほら、できた」
「…………」

 あ。
 でも、これって俺が幼稚園の頃だったからよかったんであって。
 ひょっとして子ども扱いしすぎたのかも……
 いや、そんなつもりじゃ。

「あ、ええと、やってみて」

 ちらっとこっちを見たローザに慌てて弁解して。

「じゃあ、遅くならないように、ね?」

 だから、そこで逃げちゃうのがだめだなあ、俺。
 史兄みたいにはいかないよ……


時系列と舞台 
------------ 
 2005年3月 本宮和久宅にて。
解説 
---- 
 ボタンを留めるローザをみて、昔を思い出す和久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。

 こんな風にしてみた。
ツッコミどころとかあったら遠慮なくやったっておくれ>れあなん




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