[KATARIBE 28545] [HA06N] 小説『決意』

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Date: Thu, 17 Mar 2005 00:23:10 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28545] [HA06N] 小説『決意』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月17日:00時23分10秒
Sub:[HA06N]小説『決意』:
From:久志


 久志です。
小説『Dead Line』の後、ゆっきー腹をくくりませう。

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小説『決意』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :三月末に結婚式を控えていたりする。

晴天の霹靂
----------

 あの頃、俺は高校三年生。
 あの日のことは、今でもはっきり思い出せる。

 六月も半ばを過ぎて、七月も間近の頃。
 連日、うんざりするほど続いていた雨がやっとやんで、まだ少し湿り気の
残ったまとわりつくような空気と夏に近づいた蒸し暑さと、だけど空だけは
雲ひとつなくきれいに晴れた、そんな日だった。

 俺はその日の放課後、美絵子に屋上に呼び出された。
 あん時の俺は、この後に起きる衝撃の出来事になんか気づきもしないで、
また小言かよとか思いながら、屋上に続く階段をのぼっていた。
 人気のない屋上。
 後ろ手に両手を組んで美絵子の奴が待ち構えてる。

「遅いわよ、ユキ」
「なんだよ、いきなり人のこと呼び出しといて」

 ちらりと上目遣いで俺をにらむ。その様子は、普段俺に小言やおせっかいを
言う時の雰囲気と違って、こう、なんだろ?

「ユキ、あのね……」
「なんだよ」

 なんだか歯に何か挟まったような、口ごもったしゃべりかた。
 普段の、なんでもばしばし言いたいことを言うはずの美絵子の様子がなんだ
かおかしい。

「どしたんだよ、お前」

 一旦うつむいて、また顔を上げて俺の顔をじっと見る。

「本宮幸久!」
「な、なんだよ」

 いきなり真顔でにらまれながらフルネームを呼ばれて、一瞬ひるんだ。

「藤村美絵子、あたしはあなたが好きです」

 え?

「……あたしと、つきあって、ください。以上」

 え、と。

 言われたことを頭が理解するのに30秒。
 って俺、いくらなんでも長すぎだろう。
 いや、でも、その、あまりに唐突すぎて、突然すぎて、ありえなさすぎて、
正直信じられなかった。

「え……あの、えっと」

 まともな言葉がさっぱりでてこない。
 言葉の意味を理解して、そんで、って、それって、ええと、落ち着け俺。

 固まってる俺を見て、ちょっとうつむいて美絵子が口を開く。

「返事……聞かせてよ」
「あの……」

 っておい、俺。返事、返事だよ。
 ほら、ええと、あれだ。

「はい、あの、オーケー、えっと、うん、了解」

 なんだよ、そのめちゃくちゃな答えは。
 でも、その……なんか、顔が熱くなってきた。

「ありがと……ユキ」
「……ああ、うん」

 今まで、失恋なんざ山ほどしてきたけど。
 告白されたのは、生まれて初めてだった。


 あれから十年近く経った今でも、あの時のことははっきり覚えてる。


崖っぷちで
----------

 やるか、諦めるか。
 少し酒の冷めてきた頭を振る。ずっと握り締めた拳を開いて、もう一度きつ
く握り締める。

『やるか、諦めるか』

 どう考えても絶望的なことくらい、わかってる。
 砕けて終わるかもしれないってことも、ほぼそうなるだろうって結果が見え
ていても。
 それでも、このまま諦めるのは、嫌だ。
 このまま、諦めたく、ない。

『彼女の傍にいることを、あたかも自分が苦労して得たことのように思ってい
た。私はただ与えられた状況を受け取っていただけだったのに』

 小池のおやっさんの言葉が痛い。

 俺も与えられた状況を受け取っていただけだった。受け取るだけで、あいつ
に何一つ返せてなかった。
 鈍くて、意地っ張りで、莫迦で、あいつに頼ってばっかで。

 どうして、もっとあいつのこと考えてやれなかったんだろう。

 こないだのダブルデートの時だって、手を伸ばす資格だのどうこうなんて考
える暇あったら、さっさと行動してりゃよかったんだよ。
 みっともなかろうが、未練たらしかろうが、もっとあいつのこと追っかけれ
ばよかったんだよ。
 大学の時、あいつにフラれた時だって、やせ我慢して引き下がったりしない
で、もっとあいつのこと追っかければよかったんだよ。

 そして今、あいつは俺から離れて手の届かないところに行こうとしてる。
 そのほうが、あいつには幸せなのかもしれないけど、俺のわがままの悪あが
きなのかもしれないけど。

 俺はおやっさんみたいに悟れない。
 だから。

『ユキはユキで社長さんとは違うし他の誰でもないんだから、社長さんとは違 
うユキの考えでユキやり方で、やっていけばいいじゃない』

「……ちくしょう」

 式は今月末。

 嫌だ。
 絶対に嫌だ。

 もっかい、抱きしめたい。
 もっかい、俺から取り返したい。

 たとえ蹴られようと、拒否されようと。
 どんな結末になろうと。

 もう、後悔はしたくない。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年3月初め 
解説 
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 小説『Dead Line』の後。腹くくったぞ、ゆっきー
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 




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