[KATARIBE 28543] [HA06N] 小説『頼られ損な人』

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Date: Wed, 16 Mar 2005 23:57:36 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28543] [HA06N] 小説『頼られ損な人』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200503161457.XAA82453@www.mahoroba.ne.jp>
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2005年03月16日:23時57分35秒
Sub:[HA06N]小説『頼られ損な人』:
From:久志


 ちは、久志です。

 こう、書かなきゃいけない話が詰まっている間に、息抜きで書いたほかの話が
さくさく進んで書きあがるという悪循環(だめやん)
ちょっと思いついた、史兄の親族の事情のお話。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『頼られ損な人』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警巡査。のほほんおにいさん。意外と影の権力者
 戸萌の大叔母さん
     :史久の祖父の妹。厳しい人らしい。異能を非常に嫌う。
 親族の方々
     :やたらと頼ってくるらしい。

ご訪問
------

 なんだかなあ。
 なんで僕がこんな根回ししないといけないかな。

 なんか今時時代錯誤な感もあるけど、うちの親族さん連中は妙に血筋とかを
重んじてて、年に数回は必ず本家分家ともに親戚の世帯主が集まって会食なぞ
してみたり、本家の跡取がどうのやら分家の嫁がどうだの話し合ってみたりと、
正直肩が凝ってしょうがない。
 その中でも、最年長である大叔母さんは今現在、一番の発言権を持っている。
親戚内での諸々の決定権をほぼ握ってるといってもいい。

 本家から程近い場所にある、ちょっと大きなお屋敷。
 本宮本家に次ぐ分家である戸萌のお家であり、大叔母さんが先生をしている
茶道教室でもあったりする。本家さん、分家さん、どちらも世間一般から見れ
ばかなりご立派なお宅の部類に入ると思う。
 もっとも、父が出奔という形で家を出ている僕ら家族には、どちらもあまり
縁がないんだけどね。

 挨拶用に買ったお茶菓子の入った手提げを持って、呼び鈴を押す。
 出迎えたお手伝いさんに挨拶しつつ、家にあがり奥の間に通してもらう。

 戸萌の大叔母さん。おじいちゃんの妹にあたる人で、分家の戸萌に嫁いだ身
ながらも、今まで本家をとりしきってた大叔父さん亡き今、実質親族一の権力
者でもある。

 ひとつ、深呼吸する。
 あの人に会うときはいつも緊張するんだよなあ。

 畳の間の前で両膝をついて一礼する。

「失礼します、大叔母さま。史久です」
「ああ、お久しぶりです史久さん、お入りなさい」
「はい」

 畳の間に座した姿は、かなり高齢でありながらも年を感じさせない力強さと
威厳に溢れている。正直、おじさんとはかなり格が違う。
 しつらえた席に正座して、もう一度礼をする。

「お弟子さん方はもうお帰りになられたのですか?」
「ええ、今日は貴方がこちらへ訪問すると聞いたので、お稽古は少し早めに切
り上げさせていただいて、引き取っていただきました」
「そんなお気遣いなさらなくても、僕が無理を言ってお時間をとっていただい
たんですから、そちらのご都合にあわせましたのに」
「いいえ構いません。それにしても、貴方は本当に昔からしっかりしてること」
「ありがとうございます」

 静かな畳の間に茶筅の音が響く。

 どうにも、僕は昔から大叔母さまにたいそう気に入られているらしい。
 すすめられたお茶を一礼して受け取る僕の姿を見て、大叔母様が小さくため
息をついた。

「本当、尚久さんの結婚に反対したことが悔やまれます」
「はい?」
「貴方が本家の総領息子だったなら、これほど頼りになる跡取りもいなかった
でしょうに」
「そうおっしゃられましても、こればかりは」
「できれば、貴方か幸久を本家に引き取りたかったものですが」
「今では過ぎたことですから」

 置かれたお茶を手にとって回し、抹茶を口に含んでよく味わう。
 いい香りですね、わざわざ僕の為にご用意してくださったんでしょうか。

 それにしても。
 僕や幸久を気に入ってくださっているのは嬉しいのですが、ね。
 結婚を反対したことを悔やんでいるという今でも、頑として異能持ちの血筋
の母さんや、右目に異能を持っている和久を無視するんですね、貴方は。
 友久が生きていた頃には、その姿を目にするのも嫌だといわんばかりの態度
を隠しもしませんでしたよね。
 貴方がどんなに僕を気に入っていようと、なんとお褒めの言葉をいただこう
と、貴方のその態度は僕には不快です。

 お茶を置いて一息つく。

「戸萌の大叔母さま」
「なんです?」
「貴方が家をとても大切に思われて、本家の行く末を案じておられるのは、
僕もよく理解しているつもりです」

 目の前の人の威厳にのまれないように、ちょっと目に力を込める。

「ですが、その為に、意に染まぬ結婚を強いたり、本人の意思を無視したりと
いうことはできればもうお止めいただけませんか?」
「史久さん?」
「周り中がそんな態度では窓香が可哀想です」

 たぶん、おじさん夫婦だけじゃあ親族の声を押さえきれてないんだろうなあ。
おじさんはどうにも頼りないし、叔母さんの方もどちらかというとおっとりし
た人だし。

「あの子はもう大人です、結婚を決断するのも相手を選ぶのも自分の意志です」

 視線がぶつかる。揺るがない視線、やっぱりこの人は手ごわい。

「大叔母さま」
「なんでしょう」
「父の出奔だけでは飽き足りませんか?」

 かすかに、大叔母さまに動揺の色が見えた。

「僕が本家の長男でないことを後悔していらっしゃるのに、どうして未だに母
をお認めいただけませんか?どうして末の和久の存在を無視しますか?」

 父の結婚で一番猛反対したのは、この大叔母であったらしいと、聞いた。
 母が異能持ちの血筋であるということをひたすら嫌い、父が出奔した後でも
頑として母を認めず、母方の血を濃くひいて生まれた友久や和久も忌み嫌い、
母や和久とは未だに顔を合わせてもろくに口を聞こうともしない。

「同じことをまた繰り返されるおつもりですか?」

 本家の血が汚れる、と。大叔母は言う。
 なにを時代錯誤なことを、と。僕は思う。

 人と違うことを非常に嫌う。人と違う異能をひたすら嫌悪する。
 そういう考えを持つ人がいるということは、理解する。異能を受け入れる者、
拒否する者、それぞれに思うところがあってのことだろうけれど。

 でも、生まれ持った異能の為に苦しんだ弟達を僕は知っている。

 人より強い異能ゆえに家族から遠ざかった友久を見てきた。
 人に見えないものを見て泣く幸久を見てきた。
 人と違う瞳を持って苦悩した和久を見てきた。

 僕はそれを知っているから、どんな考えがあろうと異能を完全否定するこの
人とは決して相容れない。その考えの為に自分の母、弟達を否定されたり、
可愛い従妹を苦しめることは、僕には許しがたい。

「本家から出奔した父の息子である僕には、本家での権限などは実質ありませ
ん。ですが窓香は僕の可愛い従妹でもあります」

 大叔母の返答はないまま、言葉を続ける。

「意に染まぬ結婚や見合いを強要されるようなことは、正直僕は見ていられま
せん。差し出がましいとは思いますが、一言苦言を言わせていただきます」

 きっと、正面を見据える。
 強い視線は変わらないものの、それなりに効果はありそうだ。

「できればお考えを改めていただきたく、訪問いたしました。それ以上の意図
はありません」

 返答はない。
 何十年とかけて積み重なった考えや本家に対する思い入れが、僕の言葉ひと
つでそうそうひっくり返るわけがないとは思う。けど、やはり一言いわずにい
たらいつまでも同じことを繰り返す。

「僕はこれで失礼します、お忙しい中お時間を取らせて申し訳ありません」

 深く一礼する。

「本当に」

 小さなため息と一緒に、大叔母さまが口を開いた。

「あなたが総領息子であったならどんなに頼りになったことか、本当に惜しい
ことです」
「お時間を取らせて申し訳ありません。失礼します」

 申し訳ありませんが、その言葉におこたえはできません。
 もう一度一礼して、立ち上がる。

「お邪魔しました」

 そのまま部屋を後にする。


 分家さんのお宅から外に出て、胸ポケットから携帯を取り出す。

「もしもし、おじさんですか」
『ああ、史久くん。どうだった?』
「ええ一応、一言いっておきました」
『いやあ、すまないねえ。窓香も安心するよ』
「……というか、そういう手回しは本来おじさんがすべきことでしょう」
『それを言われるとツライねえ、でも本当に感謝しているよ』
「礼にはおよびません。ですが、僕はもともと本家さんとは縁がないはずなん
ですけど」
『いやあ、史久くんは本家でもかなり一目置かれてる存在だからさあ、さすが
だねえ』
「いや、おじさん。そこで感心しないで、おじさんがもっとしっかりしてくだ
さいよ……」

 電話を切ってため息。
 まったく、困った人だなあ。都合よく僕に頼らないでください。
 携帯をポケットにしまおうとしたとき、丁度携帯が鳴った。

「はい?」
『もしもし史久くん、お久しぶり。覚えてるかしら?』
「ええと、確かその声は……山岸のおばさん?」

 えーっと、確かおじいさんの弟の娘さんの……ってなんで僕の電話番号を?

『よかった、本家さんから連絡先を聞いておいたのよ』
「おじさんが?なんでまた、どうなさいました?」
『それが他でもないのよ。最近ねえうちの靖典を本家の跡取に引き取ろうって
動きがあって、ねえ』

 嫌な予感がした。

『それでね、史久くんから大叔母さまに一言いってもらえない?』
「どうして僕が」
『ほら、史久くんて本家さんでもかなり発言力を持ってるでしょう?』
「……本来、僕にそんな権限はありません」
『お願いよ、私はもう嫁いだ身だし本家には関係ないっていうことをきっちり
言ってもらえない?』

 ああ、また。

「ご自分で伝えてくださいよ……」
『ちょっと一言いってくれるだけでいいから、ねえ』
「……わかりました」
『助かるわあ、やっぱり長男の長男の長男は貫禄が違うわねえ』
「今回だけですよ……」

 おじさんといい、おばさんといい。皆さん、どうしてよってたかって僕に頼
るんですか?勘弁してくださいよ。
 僕は便利屋さんじゃありません……


時系列 
------ 
 2005年3月初め
解説 
---- 
 何気に本家をじわじわ掌握してる史久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。

 気に本家での発言力は非常に強かったりする史兄。
やっぱ影で支配してそうです。



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