[KATARIBE 28538] [HA06N] 小説『 13 日の雪の夜』

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Date: Sun, 13 Mar 2005 23:28:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28538] [HA06N] 小説『 13 日の雪の夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月13日:23時28分28秒
Sub:[HA06N]小説『13日の雪の夜』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ぜえはあです。

……よっしゃあ間に合った!!

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小説『13日の雪の夜』
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 登場人物
 --------
  六華(りっか) 
     :記憶の戻った冬女。明日には消える、という。
  軽部真帆(かるべ・まほ)
     ::自称小市民。多少の異能有り。この話の語り手。

本文  
----

 大盤振舞したいと言う。
 どうぞ、と、だから答えた。
 黄泉路を辿れば、もう戻れないよね、と言う。

 …………答えを、求めるな。

       **

「……絶対異常気象だよ」
「だから、冬女なんだよー」
 ころころ、と、笑って六華が言う。
「真帆サン、一緒にお酒呑も。雪見て呑も」
「……って、公園で?」
「うん」

 桜木さんから貰ったというスノウドームを、六華は小さな袋に入れて、首か
らかけている。
 六華の手の中に綺麗に収まる程度の大きさのそれは、見事な象嵌細工を台座
に施してあって。

 あの人、雪野太夫の時代に居たら、まじに身代傾けてたんじゃないか、と、
一瞬。

「肉じゃが、つくろっか?」
「真帆サンの肉じゃが、好きー」
「……そりゃ、光栄」

 達大さんを呼ぼうか、と……言いかけてやめる。
 

 さらさらと、雪。
 咲きかけた梅の花やふくらみかけた蕾には少し気の毒なのだけど。
 さらさらと、雪。

 ……やっぱりこの雪は時期外れだ。

 肉じゃがと一升瓶。
 流石に日は、あの時より長くなっている。
 確かに時間は、過ぎてしまっている。

「しかし六華、この雪どこら辺まで降ってるの」
「……ここ中心に……まあ、変じゃないくらい」
「いや、そもそも雪が降るのが変なんだよ」
「それ言ったら全部変だよー」

 あはは、と、六華が笑う。
 転がるような、声。
 ……その声が、ひどく。
 つらく、聞こえる。

「しかしこう、肉じゃがが冷える」
「タオルでくるんでても?」
「うん」

 肉じゃがをなべに入れたまま、タオルでくるんで。
 割り箸と取り皿。プラコップ。
 

 流石にこの季節外れの雪では、公園には人が居ない。
 ベンチの雪を払って、並んで座る。

「わーい肉じゃがだ」
「……安上がりだね」
「いいの、これ好きだし」

 皿を並べて、コップを並べて。
 雪はその上に容赦無く降っている。

「……あれ、真帆サン、お皿三枚?」
「ん」
「……誰の?」

 誰、ってわけでも無かったんだけど。

「……香夜に、少し取り分けようか」


 酒嫌いの怨霊の為に。
 少し離れたベンチの上に、お箸と肉じゃがを置いて。

「そんじゃ、乾杯」
「……乾杯」

 ぺこ、と、情けない音を立てて、プラスチックのコップがぶつかった。


「真帆サン」
「……はい?」

 細い笛のような声が、そこで途切れて。

「…………六華?」
「楽しかったね」

 ふ、と。
 そんな風に。

「……そだね」

 もし彼女が香夜と一緒に行けば、明日が最後になるだろう。
 もし彼女がこの世に残るとしても。

 だと、しても。

「……真帆サン?」

 彼女がこの世に残るとしたら、それはあたしのせいではなく。
 それは多分、今ここに居ない人が頑張ったせいだろうから。

「…………呑も、六華」

 他愛の無い話を一杯した。
 何も話さない夜もあった。
 一体どこに居るんだか、なんて思った時もあったけど。

 この冬は、楽しかったよ。

「うん、これ一本空けちゃおうよ真帆サン」
「それ賛成」

 『深入りしちゃ、泣くんだよね』

 ……至言だ、と思う。
 でも……

 そうもいかないしさ。
 (六華が泣かないのに)
 (あたしが泣くわけにはいきませんよ、やっぱ)
 (……だよね、花澄)


 さらさら。
 さらさら。
 真冬に降る雪が、静かに降り続いている。

 さらさら。
 さらさら。
 
「……しかし六華、えらい雪の勢い良くない?」
「え、そうかな」

 なんかこう、グラスの中に、雪がほろほろ落ちてきてる気がするんですけど。

「……どうしてかなあ、そんなに降らせてるわけでもないのに」
「あ、そうなの?」
「今日、ほんとに雪の降る日だったかもね」
「ふむ……」

 そういう、日、だったのかもしれない。
 長く長く時を経た冬女の為の。

 そういう日。

 コップを空にする。
 六華がひょいと瓶を取り上げて、ぺこぺこのコップに酒を注ぐ。

「はい、御返杯」
「……さんきゅ」


 13日の雪の夜。
 無数の六華が降る夜の底を。
 あたしは酒と一緒に眺めている。



時系列
------
2005年3月13日夜。

解説
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多分六華が黄泉路を辿ろうと、こちらに戻ろうと、
こうやって過ごすのは最後かなあ、と。
そういう、風景です。
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