[KATARIBE 28535] [HA06N] 小説『風交点・逢音刻』

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Date: Sat, 12 Mar 2005 18:34:58 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28535] [HA06N] 小説『風交点・逢音刻』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月12日:18時34分57秒
Sub:[HA06N]小説『風交点・逢音刻』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
書けるうちに書いちゃいます、ってんで、ログ小説、ひとつ。
一応花澄の出てくる部分を加工しましたが、前後にかなり付け加えてます。
桜木さんのチェックお願いします(いやほんとまじに……)>猫丸屋さん


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小説『風交点・逢音刻』
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 登場人物
 --------
  桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
     :底の知れないシステム管理者。六華を引き止める為に策謀中。
  平塚花澄(ひらつか・かすみ)
     :彼岸の人。ほわほわしている割に口は悪い。真帆の悪友。
  譲羽(ゆずりは)
     :球関節人形に憑いた木霊の少女。花澄の擬似娘。
  軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民。この話の語り手。


本文
----

 昨日の今日では、流石に六華も来辛かったらしい。
 ついでにまあ、六華の意思無視して、どうやったらあの子がこの世に残るか
考えるってんだから、彼女がここに来ちゃいかんのだけど。

「そういえば、香夜さんてどこに今居るんですか?」
「……それが不明です」

 てーかあの怨霊のお嬢さん。気がつけばあたしの周りに居たらしく。

「何だろうなあ。あたし相当怖がられてた筈なんですけど」
「香夜さんに?」
「酒も呑んでるのになあ」
「……」

 そのお酒で相当香夜を脅したとかで、桜木さんは少々微妙な顔になった。
 ……だからかな、今日は喫茶店で会いましょうと言われたのは。

「香夜さんの説得と、六華さんの説得と」
「そういえば桜木さん、雪兎を溶かさないあてってあるんですか?」
 昨日は六華が居たんで、はっきりとは訊けなかったのだが。
「あります。かなり確実に」
 なら、良いのだけど。

「結局、雪野の魂が雪兎に乗り移って、六華になったってことで良いんでしょ
うかね?」
「六華さんというより……冬女、雪女になったってことじゃないですかね」
「あ、成程」

 とすると、雪兎が溶けて六華の魂だけが浮いて……ああでも、それを回収し
て、どこかに詰め込むってことがそも可能なのかってのが

 あ。

「……ごめん桜木さん、ちょっと携帯貸して」 
「はい? ──どうぞ」 
「すいません、ちょっと長くなるかも、だけど」

 今年これで二回目。
 さて……捕まるかな。

 …………。

「すみません…………これ、どこ押せば電気つきます?」
 携帯って持ってないし、持つ気も無い。弟夫婦からは連絡が取れないから困
る、と時折言われるのだが、連絡を取れないが故の自由を放棄する気にはなれ
ない。
 
 ……と、主張してみても、こういう時に困るってのは変わらないんだけどね。

「──番号を教えていただければ、ダイアルするところまでやりましょう」
「すいません」
 お借りした携帯電話を、桜木さんに返す。

「ええと……」
 あまり聴き慣れない市外局番に、電話番号。
「はいはい」

 ぴっぽっぱ、と、姪っ子が振り回してた玩具の電話と、よく似た音。

「どうぞ」
「すみません」

 小さな機械の向こうで、転がるような音が数度。
 そして。

『……はい、もしもし』

 ほんわりとした、春を思わせる声。
 高くも無く低くも無く、ゆったりとした……声。

「…………ああ居た、花澄」 

 ほ、と、息をつく。
 気がつかないうちに、相当緊張してたらしい。

『真帆?』
「うん。……あ、今時間ある?」
『大丈夫大丈夫。こちらご飯の用意終わったとこだから』
「……あ、そうなんだ」
『真帆もじゃないの?』
「……いやちょっと……」

 平塚花澄。
 留学を一緒に過ごした友人。
 あたしの知る限りでは一番の酒豪かもしれない。
 そして間違いなく……あたしの知るうちで、一番『強い』人間。

『ええと、で』
 電話の向こうで、何かをことんと置く音。
『一ヶ月程度のインターバルで真帆が掛けてくるっていうと……また何か碌で
もないこと?』
「どういう意味それ」
『違うの?』
「碌でもない、わけじゃないけどね」
 まあ……質問はなんじゃそらってものだけど。 
「いや、そっちに木霊のお嬢ちゃんいるでしょ?人形に寄生した」 
『ゆずのこと?』
「うん、その子のこと」
 何度か会ったことがある。花澄も自分の子供のように可愛がってたし、お嬢
ちゃんも相当懐いてたんだけど。
「その子ってもし、体……人形が壊れたら、次の人形に寄生できるの?」 
 考え込むような沈黙が、数秒。
『そうねえ……ちょっと待って、本人に代わるから』 
 
 ええと、あのお嬢ちゃん、ぢいぢい、しか言わなかったんじゃ……と思いか
けて、思い出す。
 確か電話を通せば、彼女の言葉は分かるんだっけか。
 電話口を抑える気配。ゆず、ゆず、と、小さな声。
 そしてことことと小さな足音。
 そして、受話器からは、まだどこか舌の回らない、幼い子供の声。

『あのね、いまね、花澄にね、きいたの!』 
「あ、ゆずちゃん?」
『そなの。花澄にね、きいたの!』
「うん。ゆずちゃんのお人形が割れたら」
『あのね、ゆずのねお人形が割れたらね、ゆず一回出ちゃうの』 
「出ちゃう……人形から?」 
『うん、そんでね、もし花澄がね、もひとつお人形あったらね、そっちにいけるの』 
 ええと、もし花澄がもう一つ人形を『持っていたら』だな。
「それって、花澄が作った人形ってことね?」
『うん』
 こっくりと。多分頷きながらあの小さな少女人形は話しているに違いない。
 
『あのね、でもね、ゆずね、もし誰かがどっかいっちゃえっていったら、いっ
ちゃうかもなの』 
 おや。
「……ああ、人形に入るなって言われたら、ゆずちゃんどこか行くのね?」 
『うん……』
 何だかしゅんとした声は、その次の瞬間勢いを取り戻し……どころではなく。
『だからゆずをこわしたら、だめなのーーっ』 
 ……耳元で力一杯叫ばないで欲しかった。
「……いや、わかりましたから……ありがとう、花澄に代わってくれる?」
『うんっ』

 ぢいぢい、と、元気の良い声が、やはり受話器から伝わる。
 黙ってこちらを見ている桜木さんが、少し首をかしげる。頷くと、少しほっ
としたように座りなおし、また珈琲を手に取った。 

『もしもし、代わりました』
「あ、どうも花澄。ゆずちゃんにお礼言っといて」
『……それで、役に立ちそう?』 
「助かった」 
『……それならいいけど』
 ほんの少し、言葉が途切れて。
『……真帆?』 
「はいな?」 
『……深入りしないしないって偉そうに言うのに、毎度深入りしてあなた泣く
んだよねえ』 
「…………」 

 こいつわあああっ!

『気をつけてね……じゃまた』 
 かちゃん、と、受話器を置く音。

「…………」
 あーまったく、テーブルに頭を打ち付けてしまいます。
 ほんっと信じらんない。あいつこれだけの電話でどうしてここまでえぐるこ
とを言えるかねっ!
 
「──どうかしましたか?」 
 あー……思わず変な人やってる自覚はあるんですが、ちょっと立ち直りに時
間が欲しいです。
「……悪友ってのは容赦がないねえ」 
「まぁ──容赦があるようなのは悪友とは言わないでしょうから」
 それはそうですけどね……
 
「先ほどの可愛らしい声のお嬢さんが悪友さん──ではないか。さすがにそれ
は、いくらなんでも」
 ああ、あの声こちらにも聞こえてたのか。 
「いや、あれは、悪友のとこに居る、人形に取り付いた木霊の子です」
 言ってみて、相当妙なことを言ったか……と思ったが。 
「ふーむ」 
 櫛と会話が出来る人だったね、そういえば。
 それならこちらも安心して話せるというものだ。
「その子に訊いてみたんですよ。もし、その人形が壊れたらどうなるか、と」 
 拠り代と、その中身。下手に相互作用されるようだと、換えが効かない可能
性もある。六華の場合についても、ちょっとそれが心配だったんだけど。
「新しい人形を用意して、その上でその人形に取り付く為のみちぞなえをして
やれば、どうにかなるようです」 
「……ふむ」

 何か上の空だな。
 つーか……若旦那、妙に不穏当な目になってらっしゃいますが。
 大丈夫かなあ。六華をとどめる為なら、結構この人手段選ばなそうだし。

「……桜木さん」 
「──あ、はい?」 
「こう、考えられませんか」 

 ただ、それでも。
 最終的に手段を選ばないことになるかもしれないけれども。
 まずは手段を選ぶところから入っていっていいと思うのだよね。

「香夜は多分、六華が消える……否、死ぬことを要求すると思います」
「……はい」
「でも、六華は……言わば六華と雪兎の合わさったものですよね」
 そしてどうやら、雪兎は六華の味方なわけで。
「六華と香夜が、黄泉路を辿る……その途中で、溶けた雪兎と、六華をもし、
引き離すことができるなら」
 六華の魂だけが別れたその時に。
「……そして、六華がその時に、こちらに戻るこころがあるなら」
 それだけの未練を、こちらにあの子が持ってくれるなら。
「こちらで雪兎を用意できれば…………あの子は、戻ってきませんかね?」

 うーん、と、桜木さんが考え込んだ。

「香夜さんが、それを納得してくれれば──ですねぇ」 

 いや、だからさ。

「…………この世に、六華をどうしても必要とする人間がいる、ということを
香夜に伝えること」 
 指を一本折って。
「そして同じことを、六華に伝えること」
 もう一本、指を折って。
 桜木さんを、見据える。

「──あぁ、なるほど」 
「それは、あたしがやっちゃまずくないですか?」

 答える前に、桜木さんは珈琲を一口含んだ。

「101回目のプロポーズ、ですね」
 
 ああ……ってあたしは見てないけど。
 『僕は死にません』だけは、噂できいたことがあるなあ。
 
「……まあ、あの二人とも、素直っぽいから。そのまーんま言うのが一番早い
んじゃないですか?」 
「恋愛不良債権な誰かと違って、言うべき時と言葉は心得てるつもりですよ?」

 さらっと言って、また珈琲を飲む。
 ってそれ、幸久氏のことか。
 確かに……相当不良債権溜め込んでそうだ。
 
「…………まあ、あたし独りだと……六華が香夜と行きたいって言い出したら、
止めようがありませんから」

 自分がその立場なら、そうするだろうから。
 
「お願いしますね」 
「それはもう。今さら念を押されるまでもなく」 

 てかこー……失礼なんだけど、やっぱ心配になるというか。
 こちらの顔色を読んだのか、桜木さんは苦笑した。

「雪兎は、こちらで用意しておきます」
「ええ……って、そうだ、それ、達大さんが作った方がいいんじゃないかな」
「そんな風に言ってました?」
「ええ。木霊の子は花澄……いや、友人の作った人形に入ってるんですけど、
同じ人が作った人形なら移れるって言ってましたから」
「……同じでは、ないですが」
「こういうと何ですけど……想いの有る無しじゃないか、と、思うんですよね」

 あこやとかさね。
 もうとうの昔に亡くなっただろう二人の少女。
 
「……成程」

 こちらも珈琲を飲み干して。

「しかしそういえば、幸久さんのほうはどうなってんです?」
「不良債権がまだ片付いてませんね」
「……あ、そ」

 てか、絶対この人あの二人のことをダシにしてるし。
 気持ちは……判らないではないけど。
 美絵子さんについては、これは本当に幸せになって欲しいと思う。応援もす
る。ただどうも幸久氏については……
 ……見てて後ろから蹴りたくなるんだよなあ。

「じゃ……今日はそんなところで」
「そうですね」

 伝票を、今日はこちらが先手を打って。

「あ、それ」
「電話お借りしましたから」

 喫茶店だしね。大したことは無い。

「じゃ、雪兎のこと宜しく」
「六華さんに、宜しく」
「……諒解」

 
 ほてほてと、家までの道。
 ……言ってくれるよな、花澄も。

 『深入りしないしないって偉そうに言うのに』
 『毎度深入りしてあなた泣くんだよねえ』

 ……あたしがやっぱり、一番莫迦か。

 アスファルトの道にも、何より大気にも。
 春の匂いは過剰なほどに溢れて。
 

 冬女奪還作戦、さて上手くいくものやら。


時系列
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2005年3月上旬。
『雪野〜六華』の翌日。

解説
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達大さんと真帆の、策謀風景の一つ。
何だか一番苦手なとこに頭を突っ込んでる気がするわけですが……

関連ログ
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http://kataribe.com/IRC/kataribe/2005/03/20050308.html#000000
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ログのとこ見て頂けますと、桜木さんの内心とかも見えて面白いです。
ではでは。


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