[KATARIBE 28533] [HA06N] 小説『暗夜道行』

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Date: Fri, 11 Mar 2005 22:51:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28533] [HA06N] 小説『暗夜道行』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月11日:22時51分29秒
Sub:[HA06N]小説『暗夜道行』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
衝動降臨。
……一気書きです。

六華と香夜の対決。
穏やかな……とは、このような意味でございます。

***********************************
小説『暗夜道行』
===============
 登場人物
 --------
  六華(りっか) 
     :記憶の戻った冬女。香夜を殺した過去を持つ。
  香夜(かや)
     :六華に憑いた怨霊。六華に殺された過去を持つ。

本文
----


  月の無い夜の道行は
 
    惑い惑うて消えゆくばかり

        **

 自分の足音だけが耳につく。
 じんわりと水分を含んだ大気は、すっかり春のもの。

 時が、無い。

 胃の奥に冷たく重いものが一時に押し寄せるようで。
 六華は一瞬足を止める。

 (怖い)

 消えてしまえばいい、と、思う。誰の期待も誰の願いも忘れてしまって。
 それが出来ない自分。

 (期待を破ることも、期待に応えて動くことも、ようしないくせに)

 そのことが……痛くて、辛くて。


 だから。

「ゆきの」

 その声に、六華はある意味、救われたようにも思ったのだ。

「……香夜」

 狭い路地の只中に。
 さらさらと長い髪を零しながら。

「香夜」
「思い出したね、ゆきの」
「……思い出した」

 ふわ、と、彼女は六華の目の前に降り立った。
 その表情は、不思議なほどに静かだった。

「……香夜、教えて欲しいのだけど」
「何を?」
「あたしは……この前の冬には、貴女の望みを叶えずに終わったの?」
「ああ……」

 香夜は苦笑した。

「こうやって、お前がこの世に在るうちに、全てを思い出すほうが珍しい」
「え?」
「お前を護るものが、お前の記憶をも護っている故に」
「……あたし、を?」
「気が付いて、おらぬの?」

 香夜は一つ息を吐いた。

「雪兎」
「え?」
「お前のこころが溶けるまで、と……言わなんだか?」
「……あ」

 それもまた言霊、と、香夜は呟く。

「お前が全て思い出せば、お前は償おうとしたろうね」
「でも、思い出せばあたしが消えるから……?」
「そう」
「怨霊の形を、香夜が取っていたのは」
「思い出させるにはそれしかあたしに術も無く」

 それに思い出さねば私はこのままなのだもの、と、彼女は笑う。

「怒りが積もったものよ」

 しみじみと。
 六華は香夜を眺める。

 少し釣り上がり気味の目元。白い肌。
 勝気な……哀しいほどに勝気だった、彼女の姿のまま。

「香夜、教えて」
「……何を?」
「貴女に、あたしは何をすれば良い?」

 幽鬼と化した女は、怪と変じた娘をひたと見据えた。

「ほんに、知りたいか?」
「知りたい」
「何の故に」
「……貴女の望むことを、するために」
「ふうん」

 微かに、香夜が笑った。

「あの者達は?」
「……真帆サンと、達大さん?」
「そう。この世になんとしてもお前を留めると言っていたのではないの?」

 六華の顔が歪んだ。

「……それでも」
「それでも?」
「あたしは、お前を一番に思う」

 それはもう遥かに昔のこと。
 共に笑ったこともあり、共に泣いたこともあり。
 そして……

「あたしはここまで、お前を連れてきてしまった」

 かつての意気地と張りの全てをこめて。
 怪と変じた娘は言い切った。

「何をすれば良い?」

 瞬時。
 幽鬼と化した娘は笑ったように見えた。

 ……嗤ったようにも、見えた。

「では」

 その笑みのままに、香夜は言葉を放った。

「お前はあたしと一緒に、黄泉路を辿っておくれでないかえ」 

 六華の顔から、血の気が引いた。

 (どれだけ覚悟をしていても)
 (やっぱり怖いね、真帆サン)

 それでも、返す声には微塵の揺らぎも無く。
 
「お前がそれを、望むならば」 

 凛、と。
 鳴るような声に、確かに香夜は。

 笑った。

「このつきの、十四の夜」

 ふわり、と、口元を袖で隠し。
 ふわり、と空に舞い上がりながら。

「その日に」

 そしてその姿は、さらさらと水が散りこぼれてゆくように。
 六華の目の前から、消えていった。


「…………」

 気がつくと、六華は座り込んでいた。
 恐怖。とうとう動かない未来となった死、への。

 そして。

「…………さん」

 思わず呟いた名前に、六華は目を見開く。
 それは……駄目だ。それは、駄目だ。

「帰らなきゃ」
 立ち上がり、まだ震える膝を一度叩いて。

「帰らな……」

 泣き声に、六華は口をつぐんだ。

 (帰らなきゃ)
 (帰って……)

 ぽろぽろと、涙がこぼれる。
 今更……何に泣くのか、自分は。


 暗夜に。
 道だけは見えたものの。

 その道のあまりの暗さに。
 (惑い惑うて消えゆくばかり……か)

 一度、こぶしで目をぬぐって。
 一度、咳き込むように笑って。

 六華はまた歩き出した。


時系列
------ 
2005年3月初旬。
『折れる者しなう者』とほぼ同時進行、強いて言うならこちらが少し先。

解説
----
人の輪から外れてしまった二人の風景です。

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さあ、後は頼んだ!>達大さん(おい
ではでは。



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