[KATARIBE 28532] [HA20N] 小説『十年の長さ』

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Date: Fri, 11 Mar 2005 22:18:24 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28532] [HA20N] 小説『十年の長さ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月11日:22時18分24秒
Sub:[HA20N]小説『十年の長さ』:
From:久志


 久志です。

 設定不幸キャラなマコリンこと真越倫太郎。
セッションで動かして結構楽しかったので、ちまちまキャラ固め。

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小説『十年の長さ』
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登場人物 
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 真越倫太郎(まこし・りんたろう)
    :重度時間流動障害を持つ少年、高校一年生。
 中嶋勇(なかしま・ゆう)
    :倫太郎と同じを持つ少年。

花屋さんで
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 どのお花にしよーかなあ。
 花屋さんには色とりどりなお花が溢れんばかりに置いてあって、百合の花の
強い香りと、葉っぱの青い匂いが鼻をくすぐる。
 化学部代表で僕が先輩にお花を渡す係になったのはいいんだけど、あんまり
お花の種類ってわかんないんだよねえ。

「いらっしゃいませ」
「あの、卒業式のお祝いのお花の予約なんですけどお」
「はい、どのようにお作りしましょうか?」
「ええっと」

 先輩ってどんなお花好きかなあ。ていうかお花好きなんだろーか?
 今までまともにお花買ったことなんてないからわかんないよお。

「よろしければお見立てしますよ?」
「えっと、はい、それでお願いします」

 一応、部で決めてもらった予算を伝えて、なんかお花を渡す先輩の外見とか
聞かれて、お店のお姉さんはあれこれ紙にイメージを書いてる。

「卒業式の日取りが、こちらですね。受け取りのほうは?」
「えっと、僕がきます。朝にここ寄るんで」
「かしこまりました、では朝におつくりしてお待ちしています」
「お願いしまーす」

 予約の引き換えの紙を受けとって、ぺこりと頭を下げる。

大通りで
--------

 花屋さんを出て、大通りの横断歩道で信号を待つ。
 道が広いせいか、昼間で人通りも多いのに、走ってる車は結構ぴゅんぴゅん
スピード出してる。

『あの通りはいつも車の通りが激しいから、無理に渡ったり信号無視したりし
ちゃいけないよ、いいね?』

 もう耳にタコができそうなほど、パパに注意されてる。
 僕もわかってるし、あちこちに飛び出し注意の看板がかかってる。
 でも、ここの信号ってすごく長くて、それでも無理に渡ろうとしてよく事故
が起きるらしいんだよね、

 横断歩道には信号待ちで結構な人数が立ち止まっている。
 まだ信号は赤のまま、低いうなり声をあげて走ってくる大きなトラック。

 不意に。

「危ない!」

 悲鳴が聞こえた。

 何故か道路に飛び出したのは、白い猫。
 走って、走り抜けようとして、立ち止まってしまう。

 あちこちから悲鳴が聞こえた。

 トラックの運転手さんも気づいたみたいだけれど、もう止まらない。


 こんな時。
 一瞬、すうっと、僕自身が周りの時間の流れから切り離される。

 周りの音が、水の中から聞こえるみたいにゆらゆらと揺れる雑音に変わる。
 周りの人達が、まるで凍ったように動きを止める。
 走ってるトラックが、じわじわとにじみ寄るように、カタツムリよりも遅い
スピードでゆっくりゆっくり動いている。

 そして、横断歩道の真ん中で止まったままの白猫さん。
 水色の目が大きく見開いてしっぽはふくらんだまま高く伸び上がってる。

 周りの時間を置き去りにしたまま、僕はてくてくと道路の真ん中まで歩いて
白猫を抱えあげる。そのまま、反対側の歩道まで歩いていって。

 僕の時間が元に戻る。

 静かだった周りが急に騒がしくなる。
 うなり声を上げて走り抜けていくトラック。一瞬戸惑ったような顔の運転手
さんがちらっと見えた。
 あちこちの悲鳴の声がまだ終わらないうちに、驚きの声があがった。

「猫が消えた?」
「今、何か影が……」

 ざわざわと騒ぐ人たちを横目に見ながら、腕の中でぴこんと白い耳が動くの
を確認する。

「だめだよ、飛び出しちゃ」

 やっと状況に気づいたのか、腕の中でもぞもぞともがく猫を下に降ろす。
 自由になった白猫さんは僕に振り向きもせず一目散に走り出した。

「ばいばい」

 小さく手を振る。
 気をつけないとだめだよ、ね。


 時間流動障害。

 実際には僕だけ切り離された違う時間の中にいるのではなく、僕の中で流れ
ている時間が狂っているらしい。
 それを知ったのは僕が六歳の頃。
 同じ障害を持ったあの子にあったのと同じ頃だった。

 あの頃、僕は六歳で今は十六歳だから。
 ナッシーに会ったのはもう十年前なんだね。


十年前の僕
----------

 僕が六歳の頃。
 ママが死んでからしばらくして、僕は幼稚園をやめた。

 大好きなお友達と離れるのは悲しかった。
 一緒の小学校に行けないのもさみしかった。

 でも。
 僕は、こっそり盗み聞きしてしまったから。

 パパとお医者さんの話を。

 僕は知ってしまったから。
 みんなと一緒に大人になれないことを。

 クラスのミキちゃんをお嫁さんにする約束も、大人になったら一緒にケーキ
屋さんをやろうといってくれたシュウくんとの約束も破っちゃうから。

 幼稚園をやめた日、いつも僕をモヤシっ子呼ばわりしてたリョウくんが宝物
にしてたはずの電車のおもちゃをくれた。

『マコリン、大きくなったらお嫁さんにしてね?』
『ねえ、将来一緒にケーキ屋さんやろうよ、マコリン器用だから』
『おいモヤシっ子、お前電車好きだろ。これいらないからやるよ』

 みんな大好きだったけど。

 みんなと顔をあわせるのが、辛くて。
 夜眠るのが怖くて。
 明日が来るのが嫌で。

 怖くて、さびしくて、悲しくて、辛くて。
 パパに手をつないでもらわないと、眠ることもできなくて。

 怖くて。
 怖くて。

 だから。
 僕は幼稚園をやめた、小学校にも行かなかった。
 どこにも、行きたくなかった。


 あの日。
 パパに手を引かれて、何度も入院したあの病院へ連れて行ってもらった。
 あの病院。看護婦さんは優しかったけど、先生も僕のことすごく心配してく
れたけど、病院は嫌いだ。

『……私が迂闊だったんです……』
『……いつかは知らねばならない事ですが、本当に申し訳ありません……』

 先生とパパが何か話してる。
 けど、僕はパパの手を握ってずっと黙り込んでいた。


 普段病院に入院したときはいつも一人の病室だったけど、この日のお部屋は
ちょっと広くて隣にもうひとつベッドが置いてあった。
 誰か寝ているみたいだったけど、そんなのどうでもよかった。

 ベッドに座って膝を抱える。

『マコリン、大きくなったらお嫁さんにしてね?』
『ねえ、将来一緒にケーキ屋さんやろうよ、マコリン器用だから』
『おいモヤシっ子、お前電車好きだろ。これいらないからやるよ』

 大きくなったら?

『こら、マコリン。にんじんも食べないと大きくなれないよ』
『ねえねえマコリン、僕ちょっと背伸びた?マコリンと同じくらいかな?』
『なんだよチビッコ、くやしかったらもっとでかくなってみろ』

 大きくなったら?

『……もって三十歳前後、ですが倫太郎くんの身体を考えると二十歳を超える
のがやっとかもしれません』

 大きくなったら……


「どうして泣いてるの?」
「……え?」

 気づくと、隣のベッドに寝てた子が起き上がって僕を見てる。短い黒い髪に
青白い顔、同じ病院のパジャマ姿の僕より大きい子。

「君がお医者さんが言ってた子かな?マコリンだっけ」
「えと……君は?」
「僕は中嶋勇」
「お医者さんが言ってた、って?」
「僕と同じ子がいるって言ってたから」
「え?」

 同じって、ひょっとして。

「僕も君と同じ重度時間流動障害者、だよ」

 ずきりと胸が痛くなる。

「あの、君も……」

 言葉が続かない。

「こっそり盗み聞きしたんでしょう?」
「なんでわかるの?」
「僕と同じことしてるから」
「え……」

 そう答えて、僕を見てにこっと笑った。
 それがナッシーとの最初の出会いだった。

時間の長さ
----------

 ナッシーと会って。
 すとんとなにかが落ちてしまったように、怖さも辛さもさびしさも感じなく
なっていた。そのまま、隣のベッドで、僕が眠るまで色んな話をしてくれた。

「ねえ、マコリン」
「なに?」
「考えてみるとさ、三十年って長くない?」
「え?」
「あのね、時間を短い短いって言ってる人は過ぎてから短いって言うんだよ」
「……うん」
「だってね、僕はいま九歳でマコリンは六歳でしょ」
「うん」
「明日がきてまた明日がきて、一年。これ結構長いよね」
「長い……と、思う」
「それが僕なら二十一回、マコリンなら二十四回。これって結構先のことだと
思わない?」
「そう、かも」
「でしょ」

 ナッシーの言葉は力強くて、僕は何故かすごく安心感を感じていた。

「もしそれが二十年だったとしてもさ、僕が十二回、マコリンは十四回。これ
も結構先な気がしない?」
「……うん」
「僕たちにはさ、過ぎて振り返る時間がないから、過ぎた時間が長かったか短
かったかなんてわからないよ」
「…………」
「だからね、マコリン。その間、泣いて過ごすのはもったいないよ」
「……うん」
「何をやったかじゃなくて、どう生きたか、だよ」

 その目はまっすぐで、強くて、奇麗だった。

「みんなより少ないならさ、その分しっかり過ごそうよ。ね?」
「……うん」

 いつのまにか、また涙がにじんでいた。
 けど、さっきまで怖くて泣いていた涙じゃなくて、もっと違う……
 でも、よくわからなくて、止まらなくて。

 そのまま、僕は声をあげて泣いていた。


十年経った僕
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 やっと変わった信号を横目で見ながら、そのまま歩道を歩こうとして。かく
んと膝から力が抜けた。後ろを歩いていた人が思わず僕を避ける。

「ごめん、なさい……」

 慌てて立ち上がって、歩道の端の電信柱に寄りかかった。
 ちょっと疲れちゃった、かな。最近、だんだん時間操作を使った後の疲れが
ひどくなってきてる。

 僕の体、そろそろ持たなくなってきてるの、かな?


 あれから十年

『短い短いって言ってる人は過ぎてから短いって言うんだよ』

 十年って長い?
 あっという間だった?と聞かれたら、そうかもとは思うけど。でも短かった
と聞かれたら、そう短いものでもなかったように思う。

 ナッシーは、あれから二十一回年を越える前、僕が中学を卒業する前に先に
逝っちゃった。先生が言うには、体が持たなかったってことらしい。

『何をやったかじゃなくて、どう生きたか、だよ』

 今、僕は十六歳。
 あと何回、年越せるかな。
 短くて四回、たぶん長くて十四回、結構差大きいよねえ。

『僕たちにはさ、過ぎて振り返る時間がないから、過ぎた時間が長かったか短
かったかなんてわからないよ』

 あと何年。
 振り返るよりは、どこまでいけるか、どう生きるかを考えたほうがいい。

 十年って長い?
 僕には、よくわからない。


時系列と舞台
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 2005年3月
解説 
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 十年前にあった友人を思い、倫太郎が感じるものは。
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以上




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