[KATARIBE 28525] [HA06N] 小説『気の早い話』

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Date: Thu, 10 Mar 2005 17:40:29 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28525] [HA06N] 小説『気の早い話』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200503100840.RAA80738@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28500/28525.html

2005年03月10日:17時40分29秒
Sub:[HA06N]小説『気の早い話』:
From:久志


 ちは、久志です。
へろへろとログを読んでいて。

<#HA06-01:gombe> #幾久幾久
<#HA06-01:Catshop> # ききゅー?
<#HA06-01:gombe> #いくひさいくひさ
<#HA06-01:gombe> #万葉集だか古事記だかの、収穫祭の祝い歌のシメ言葉
<#HA06-01:Catshop> # それは──もしや本宮家の幻の五男坊っ!?(ぉぃ > いくひさ
<#HA06-01:CorDially> #どちらかっつうと、長男夫婦の第一子の方がありそう>幾久
<#HA06-01:Catshop> # わはは。> 長男夫婦の第一子

 これはネタにせずにはいられない。
というか書いてたら、本宮本家のおじさんのキャラが楽しくて
たまらなくなってきました(おいおい)

 というか、バカップルやってるなあ……

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『気の早い話』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警巡査。のほほんおにいさん。
 卜部奈々(うらべ・なな)
     :吹利県警警部。仕事とオフとでかなり違う。史久の婚約者。
 本宮のおじさん 
     :史久の叔母の夫。気弱な入り婿さん。突発的な発言が多い。

オフの電話
----------

 ぼんやりと、居間のソファに腰掛けてテレビを眺める。
 まだ昼間なので特に目を引く番組があるわけでもなく、チャンネルをあれこ
れ回しても、温泉特集や再放送らしいドラマやレポーターが走り回る買い物特
集など、特に目を引く番組もない。
 でもまあ、こういう何もない暇な時間もそんなに悪くないかな。

 ねえ、奈々さん。

 膝の上、ちょこんと頭をのせて奈々さんが寝息を立てている。頬にかかった
髪をそっと耳にかけて頭を撫でる。

 やっぱりお疲れなんですね、いつも気張り詰めてるからなあ。

 でも二人揃ってのオフってのも久しぶりだ。大抵お互い忙しいし、そうそう
二人あわせて休みもとれないし、まあ署内じゃ僕らのこと内緒だからしょうが
ないかな。まあ別段必死に隠さなきゃいけない事でもないんだけど。

 胸ポケットの個人用携帯が震える。
 奈々さんを起こさないように少し小声で電話にでる。

「はい」
『もしもし、史久くんかい』
「ああ、おじさんですか」

 本宮本家のおじさん。正確に言うと本家の叔母の旦那さん。本家長男である
父が家を出ているので、本来ならば立場上本家において筆頭の権力を持ってい
るはずの人だ。実際のところは……言わないでおいてあげよう。

『突然すまないねえ、麻須美さんから史久くんがお休みだと聞いてね』
「いえいえ、何か御用ですか?」
『いやあ、今度なんだがね。窓香に見合いの話を持っていきたいんだがね』

 窓香ちゃん?ああ、そう言われてみれば和久と同い年だし。いやあ、そんな
歳になるんだねえ。

「そうなんですか、早いものですねえ」
『うん、それがねえ。どうにも本人がお見合いを嫌がっていてねえ、それで史
久くんのほうからも、ちょっとそれとなく窓香にお見合いを勧めてみてくれな
いかなあ』
「そう言われましても……」

 なんだかなあ、急いているのは周りだけということか。
 昔じゃないんだから、すぐに結婚しなきゃいけないとか家の為に相手を見つ
けなさいとかそういうのはいただけませんよ。そういうおせっかいはちょっと
できかねます。

「窓香ちゃん自身の気持ちをもっと汲んであげてくださいよ、おじさん」
『それはわかっているんだけどねえ』

 ああ、周りの親族さん方がうるさいんでしょうねえ。大叔父さん大叔母さん
やら、先代さんの従兄弟さんやら結構うるさい人いますしねえ。
 本家のために早く婿をとれ、お見合いしろ、とでも言われたんだろうなあ、
きっと。

『そうしてあげたいんだけど、私だとなかなか……』
「おじさんがそんなじゃあ窓香ちゃんが可哀想ですよ、もっとしっかり守って
あげてください」
『……すまないねえ、史久くん』
「いえ、僕にあやまることではありませんよ。そうですねえ、親族の方たちに
は僕からも一言いいましょうか?」
『頼めるかい?』
「僕でよければお力貸しますよ」
『すまないねえ、史久くん』

 最初からそれが目的だったでしょう、おじさん。まったく。
 それにしても、本家での権限など実質ないはずの僕がなんで口利きしなきゃ
いけないかなあ。僕が父さんの長男とはいえ、とっくの昔に家から出奔したは
ずの父さんの権限がいつまでも通じるってのがなんとも……
 というか、おじさんもっとしっかりしてくださいよ。いつまでも父さんや僕
に頼らないでください。人はいいんだけど、いかんせん弱いんだよなあ。


『ところで史久くん』
「はい?」
『子供はいつ頃産まれる予定なんだい』

 携帯電話片手に思わずむせこんだ。
 というか、突然何をおっしゃいますか。

『だ、大丈夫かい、史久くん』
「い、いつ頃って、おじさん。そんなまだ籍も入れてませんし」
『そうだったっけかな。いやあ、落ち着いてるからすっかり結婚しているもの
だとばかり』

 それって僕が老けて見えるってことでしょうか。まあ、落ち着いてるっちゃ
落ち着いてますが、いきなり話が飛びすぎです。

「まあ、いい年なのは認めますが」
『そろそろ麻須美さんや尚久さんから孫を見せてとか言われないかい?』
「言われなくもありませんがね。でも二人とも割と自由主義なんで、特にすぐ
見たいとか、そういうのはありませんね」

 まあ、母さんなんかは初孫は女の子がいいわ!などと主張しているものの。
 特に早く見せろだの、結婚はまだなのというような人を急かしたり強要して
きたりというようなことはあまり言ってこない。ありがたいですけどね。

『そうかあ、いいねえ。こっちはもう早く跡取の男の子が欲しいだのなんだの
と戦々恐々なんだよねえ』
「それ、ちゃんとおじさんが矢面に立ってあげてくださいね。窓香ちゃんを守
れるのはおじさんだけなんですよ」
『いやあ、わかってるよ。それでさ、もし君らのところに男の子が生まれたら
跡取として引き取るという手もあるかな、などと……』
「……おじさん」

 なんとなく読めた。
 というか、どうしてそんなに気弱なんですか、もう。

「産まれてもいない僕の子供まで当てにしないでください。そちらがどういう
事情であれ、子供は自分の手元で育てたいですし、ましてや本家の跡取の道具
にするつもりも全くありません」
『そうかあ……』
「とにかく、本家さん方には僕からも一言いれますし、父さんにも口添えを頼
んでおきます。おじさんも、もっとしっかりしてくださいよ」
『ありがとう、すまないねえ』
「では、また何かあったら連絡くださいね」
『うん、頼むよ。じゃあまた』

 電話を切ってため息。
 まったく、大丈夫かなあ……


 と、いつの間にか、膝に頭を預けたまま奈々さんが僕を見上げてる。

「史さん」
「あ」

 すいません奈々さん、起こしちゃいましたね。
 あんだけ言い合ってれば無理もないか。

「ごめんなさい、起こしちゃいましたね」
「いいえ、ゆっくりできましたから」

 まったく、人騒がせなおじさんだなあ、もう。
 もそもそと起き上がった奈々さんの髪をなでてちょっとはねた髪を直す。

「お茶でもいれましょうか?」
「いえ……」

 どうしたのかな?奈々さんなんか変ですよ。
 隣に座った僕に寄りかかって、腕に手を回してくる。

「どうしました、奈々さん?」
「ええと」

 腕にぎゅっと手をまわして肩に頭をのっけてもぞもぞと口を開いた。

「史さん……子供、欲しいですか?」
「え?」

 ええと。

 何をどうすればそういう発想になりますか。
 いやまあ、さっきのおじさんとの会話のせいなんでしょうけど。奈々さんも
おじさんに負けずと、突発的な発言しますね。

「そりゃまあ、将来的に一人くらい欲しいと思います」
「……はい」
「まあ、正直言えば二人ぐらいいてもいいかな、とも思います」

 贅沢言ったら、まあ子供は結構好きなんで何人いてもいいかなとか無責任な
こと考えてみたりもしてます。

「ですけど、こういう事って。やっぱり僕より奈々さんの意向のほうが大事か
と思いますし」
「……」

 僕はしがない地方公務員の一巡査で、吹利県警勤務かつ零課兼任という立場
上、吹利を出ることはまずないと思う。
 けどキャリア組という奈々さんの立場でいうと。状況によっては全国に転勤
だってありえるし、それでなおかつ子供となるとやはりそれなりに負担になる
と思う。やっぱり体力面やメンタル面、仕事での影響を考えると負担は僕より
奈々さんのほうが大きい。産むの僕じゃないんだし。

「籍についても、仕事との兼ね合いとかも考えていますし。いつでもいいかな
とか、気軽に思ってます」
「……えと、私の意向というか、私もいつでもいいと思ってます」
「はい」
「子供は……ええと、正直いつかは欲しいです」
「はい」
「まだ、ちょっとわかりません」
「いいじゃないですか、それで」
「でも、それで史さんの重荷になるのはいやかな、とか」
「重荷になんてなりませんよ」

 すぐ気をまわしすぎるからなあ、奈々さんは。

「ゆっくり考えればいいですよ、周りの声とかそういうのそんなに気にしない
でください」
「はい……」

 腕に手を回したまま、うつむいてしまった。というか自分でそういう事言い
出しておいて照れないでくださいよ。困るなあ、もう。

「……たとえ話で言えば、個人的意見で言えばは女の子が欲しいかな、とか思
います」

 うちは男ばっかだったしなあ。末っ子とは七つも違ってたし、ほとんど僕が
育ててたようなもんだったし、おまけに甘えん坊の三男もいたし。

「えと、私は男の子がいいかなあ……史さんに似た子がいいです」
「奈々さんに似たほうが凛々しい子になりますよ」

 ちょいと指先で奈々さんのあごをもちあげる。目鼻立ちは奈々さんのほうが
はっきりしてるなあ、細いあごとか綺麗だし。黒目が大きくてちょっと小動物
ぽい目元も可愛いし、ああ、だったら女の子のほうがいいか。

「ええと」
「なんですか?」
「やっぱり男の子だったら、名前に久しいの字がつくんでしょうか?」

 ちょっとこけそうになった。

「いや、別にそういう命名規約があるわけではないのですが……」
「え、あの、でもご家族を見てると、そうとしか思えなくて」

 まあ、確かに。史久、友久、幸久、和久……ときて次にくる名前と言えば、
そういう風に考えちゃうんでしょうけどね。

「好きな名前でいいと思いますよ」
「そう、ですか……でも、考えるとちょっと楽しいかなと思って」

 ふむ。
 父さんが尚久、おじいちゃんが忠久、で、僕ら兄弟。
 どんな漢字がいいでしょうか、ねえ。

「幾久」

 いくひさ?

「幾久幾久、たしか万葉集か古事記かの、収穫祭の祝い歌のしめの言葉です」
「ほほう」

 幾久。
 なかなか、いい響きですね。

 まあ、気の早い話ですけど、ね。

時系列 
------ 
 2005年3月初め
解説 
---- 
 オフの日、おじさんの突然の電話からなぜか子供談義に発展する二人。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。

 きっと本宮本家のおじさんには『突発的発言で人をむせさせる:3』を
所持していると思われます。



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