[KATARIBE 28519] [HA06N] 小説『離れる年頃』

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Date: Sun, 6 Mar 2005 18:47:07 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28519] [HA06N] 小説『離れる年頃』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月06日:18時47分07秒
Sub:[HA06N]小説『離れる年頃』:
From:久志


 久志です。

 本宮兄弟昔話、へろへろ思いつくままに書いてみました。
HA06現在では死亡扱いになってる友久と史久の過去の会話です。

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小説『離れる年頃』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :本宮家長男、屈強なのほほんお兄さん。 
     :当時大学一年生。
 本宮友久(もとみや・ともひさ) 
     :本宮家次男、割としっかりさん。
     :当時高校二年生。隔世遺伝で青い瞳している。 

最近の次男坊
------------

 洗い終わった食器を一枚一枚拭いては食卓のテーブルに並べる。
 時刻は九時半、とっくに夕食も終わって、末っ子はもう部屋で寝付いてる。
三男坊は部屋に戻ってお勉強……らしいけど、たぶんラジオでも聞いて遊んで
るんだろうね。
 母さんは父さんと一緒に療養をかねて、遠縁がいる長野へ行っている。まあ
万年新婚夫婦のいつもの小旅行ってやつかな。まあ、最近母さんは貧血気味で
調子が悪かったみたいだから、ゆっくり体休めてきて欲しいけど。

 がらんとした台所。
 テーブルの上にならんだ食器を乾いた順に食器棚にしまっていく。

 時刻は九時四十分。
 次男坊はまだ帰ってきてない。

「どこいってるんだかねえ、まったく」

 今日遅くなる、という電話があったのは七時前。
 このところ、二つ下の次男坊の帰りがいつも遅い。といっても別段悪い遊び
をしているとか、悪い仲間ができた風でもない。遊びが増えたというよりかは、
家族と距離を置くためにわざと帰りを遅くしてるような感じがする。

 まあ、そういう年頃なのかもしれないけどね、あいつの年代からいって。
 僕なんか、長年半分親代わりやってたせいか、家族から離れるって時期がな
かったし、むしろ弟どもの世話してやらなきゃって感じだったし。
 まあ、あいつは僕とは違うし、そういう苦労を負担させたくないってのもあ
る。それにあいつも面倒見はいいほうだし、家にいるときは積極的に僕に協力
してくれる、だからそれ以外の普段では、普通に年頃らしくしていてもいいん
じゃないかとは思ってる。
 なんというか、年が近いせいか一番普通に弟らしい弟だよね。まあ下二人が
やたら手がかかるお子様なせいもあるんだけれど。

 小さく玄関のドアが開く音が聞こえる。
 極力音を立てないようにという気遣いを感じる足音が、廊下からかすかに聞
こえてくる。なんか、こういう所も兄弟それぞれだよね、ホント。
 台所のガラス戸が細く開いて、廊下の薄暗がりの中から青い目が光る。

「ただいま」
「お帰り友久、遅かったね」

 すとんと手にしたスポーツバッグを床に置いて、襟元をゆるめてる。

「夕飯は?」
「いや、まだ」
「じゃあ、おかず温めるからちょっと待ってて」
「そのままでいいよ」
「そんなのたいした手間じゃないんだから」
「……わるいな、兄貴」
「いいから手洗って座ってなさい」
「ああ」

 台所に戻ってコンロの火をつける。
 今日はカレイの煮付けとスイトン入りの豚汁、ほうれん草の胡麻和えは全部
食べちゃったんだよなあ、かわりにキュウリでも切ろうかね。

「おまたせ」
「サンキュ」

 一人で食卓に座って夕飯を食べる友久の背中を眺めながら、こぶしで軽く肩
を叩く。

「最近、一人でどこいってんの。このひねくれ者」
「ちょっとね」
「まあ、そーいう年頃だとは、思うけど」
「…………」
「でもさ、あんましみんなに心配かけないようにしなよ」
「わかってる」

 まあ、いつまでも家族べったりってのもないんだろうけど。

「悪いな、兄貴」
「ま、夜遊びもほどほどにね」

 弟三人の中でも一番しっかりしてるほうだとは思うけど。
 やっぱそれなりに心配っちゃ心配だし、ね。


お疲れ様の一杯
--------------

 あれから。
 洗い物もすっかり片付いて、食器棚のガラス戸を閉める。

「お疲れ、兄貴」
「ん?」

 僕の後ろで、友久が片手に一升瓶を掲げてにやりと笑った。

「友久、お前……」
「飲む?」

 お前さん高校生でしょうが、まあすぐにコップ用意してる僕も僕だけどさ。
 でもまあ、正直大学とかの知り合い連中だと、まともに飲めないし、お前か
父さんでないと呑み相手にならないんだよね、実際。
 まあ僕らが群を抜いてうわばみなだけなんだろうけど。

「なんかつまみ作ろうか?」
「いいよ、これで」

 ことんとテーブルに置かれた小皿に盛られた塩。
 お前さ、これ高校生の飲み方じゃないよ、胃壊すぞ。まったく。

 とくとくと、注がれるお酒。

 静かなリビングのテーブルで、ゆっくりコップを傾ける。
 にぎやか担当三男坊や割と感情的な末っ子がいないと妙に静かだ。
 まあ、別段僕は寡黙な方でもないし、こいつもしゃべらない性質でもないん
だけど。だからといってひっきりなしにしゃべるとかいう訳でもなくて、ただ
静かに二人で酒を傾ける。まあうちの兄弟妙にバランス取れてるよね。

 すとんと空になったコップをテーブルに置いて。

「友久」
「ん?」

 もう一杯、コップにお酒を注ぎながら。

「お前さ、本当に大学行かないの?」
「ん、ああ」

 大学は受験しないと、こいつが言い出したのはつい先週。
 しばらく父さんと二人で言いあいをしていたのを覚えている。

「あのね、学費のこととか考えてるんだったら。お前が心配することじゃない
んだよ」

 まあ、別に僕が学費稼いでるわけじゃあないけど。実際のとこ、僕の学費半
分は無利子無担保で本宮本家から借りている。
 結婚を反対されて本家を飛び出したという父さんの立場上、頭を下げて子供
の学費を本家に借りるというのは相当勇気のいったことだと思う。

 お前達がやりたいことがあって行きたいところがあるのなら、その為に必要
な学費があるならば、本家に頭を下げてでもなんとかしてみせる。頭なんかい
くら下げても減らないんだからさ、と。父さんは笑いながら言っていた。

「そんなんじゃないから」
「別にさ、本家の人たちだって、お前だから学費出さないなんて言わないよ」
「わかってる」

 うちの家族。
 あまり大きな声では言えないけれど、ちょっと普通と違う。
 僕は全くの一般人だけれど、僕以外の兄弟全員どこか普通ではない何らかの
力を持っている。そして、その原因になってるのはどうも母方の血筋らしい。
そんでもって本宮本家の人たちはそれを快く思っていない。

 青い瞳を持ったこいつは、母方の血を特に濃くひいている。そして、生まれ
つき持った力は兄弟の中でも群を抜いて強い。
 そのことを昔から一番気にしているのはこいつ自身で、だから本家さんとの
ことで必要以上に気を使ったり、妙に遠慮したところがある。
 まあ、そういうこともあるから、最近の家に寄り付こうとしないという行動
にも正直納得がいくんだけどね。

「別に、そんなこと気にしてるわけじゃない」
「何かやりたい事でもあるの?」
「一応ね」

 くるくるとコップを回す。
 中に入ったお酒がくるくると円を描くように踊る。

「おじいちゃんの道場継ぐの?」
「そんなところ」

 母方のおじいちゃん。合気柔術の道場主をやっていて。僕らが小さい頃から
ずっと僕ら兄弟のことを鍛えてくれている。そして友久自身が一番懐いていて、
何かと気を使いがちなこいつが唯一気を許してる人でもある。

「そう」

 これ以上は、多分聞いても答えてくれないんだろうなあ。
 まあ無理に聞こうとは思わないけど。

「兄貴」
「何?」
「考えてるから、ちゃんと」

 青い瞳が僕を見る。その目には嘘も迷いもなくて、ちょっと安心する。

「なら、いいよ。でもあまり父さん母さんに心配かけないようにね」
「わかってる」

 コップを傾ける。
 するっと口当たりの良い酒が喉をすり抜ける。

「兄貴まだ飲む?」
「んじゃ少しだけ」


葬儀の後
--------

 友久の葬儀の日。
 突き抜けるように澄んだ青い空が、目に痛い。

 すすり泣く声と線香の煙。
 大勢詰めかけた喪服姿の親族達、それ以上に多かった学生さん達。
 僕は必要以上にせわしなく動き回っていたのを覚えている。

 友久、お前さあ。
 しっかりしてて、よくわかってるけど我が強いというか意地っ張りというか。
昔っから、こけても迷子になっても、歯くいしばって泣かない奴だったよね。
 何かにつけぎゃあぎゃあ泣いて騒いでた幸久や、普段は真面目で大人しいけ
どすぐ感情的になる和久とも違ってさ、扱いやすかったっていうか、苦労しな
かったというか。

 でも、苦労しなかったってことは、それだけ僕がお前に関わってなかったっ
てのと同じなのかな?

 だんだん家族と距離とって、自分のことを頑として語らなくて、でも家族想
いなのは変わらなくて。

 お前さ、こうなるの知ってたの?
 まさか、そんな、ね。

 友久。
 しっかりしてて抜け目なくて心配ない奴だと、ずっと思ってたけど。

『考えてるから、ちゃんと』

 お前、何考えてたの?

 どうして、もっとお前のこともっと聞いてやらなかったのかな。
 どうして、もっとお前のこと心配してやれなかったのかな。

 おせっかいだと思われようとさ。

 聞いたって答えなかったとは思うけどね、お前意地っ張りだったから。
 それでも、思わずには、いられないんだよ。

 畜生。

 友久。
 なんで、お前。

 なんで、僕は。
 もっと……お前のこと、聞いてやらなかったんだろう。

 馬鹿野郎。


時系列と舞台 
------------ 
 1992年11月 本宮家にて。
解説
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 異能ゆえに家族と距離をとりはじめた友久と、それを案じる史久の会話。
 その後の史久の心情。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。





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