[KATARIBE 28515] [HA06N] 小説『 Dead Line 』

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Date: Sat, 5 Mar 2005 00:22:03 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28515] [HA06N] 小説『 Dead Line 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年03月05日:00時22分03秒
Sub:[HA06N]小説『Dead Line』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
風邪です。
熱あります。
……なにやってんの己(汗)。

てなわけで、宿題もひとつ。
……こちらのでっどらいんです(ふふ)

********************************:
小説『Dead Line』
================
 登場人物
 --------
 桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
  :底の知れないシステム管理者。六華に協力中。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
  :霊感のある葬儀屋さん。 恋愛的になかなか春の来ない人。
 軽部真帆(かるべ・まほ)
  :自称小市民。はったりだけは一流。

本文
----
   
「…………ちょっと待て」
『そう聞きましたよ』

 桜木さんからの電話である。
 六華さんには伏せて、と、先に言われていたから、何とかそれ以上の声には
ならなかったものの。

「……そちらに行きますよ、すぐに」
『御願いします』

 電話を切る。
 と、六華がこちらを見ている。

「ちょっと出てくるけど……いい?」
「いいけど……何かあったの?」
「うん、本宮さんのことで」

 ……うん、嘘じゃないぞ。
 日頃、『本宮さん』は史久さんのほうで、幸久氏のほうはゆっきーさんと呼
んでいるにしろ。
 嘘じゃない嘘じゃない(自己欺瞞中)。

「それ、呑んでていいから」
「……うん」

 自分の過去を語ってから、六華はどうも元気がない。

「まあ、そのうち帰るから、適当に寝てて」
「はい」

 
 六華さんには、言わないで下さい。
 桜木さんはそう言った。
 ……気持ちは、わかる。

 彼女自身のデッドラインだけでも一杯一杯だろうのに、そこにゆっきーさん
のそれまで加わったら、
多分彼女のほうが……潰れるだろう。

 財布を持って。
 何度か行ったことのある居酒屋へ。

                 **
 

「あ、真帆さん」
 入り口できょろきょろしていると、桜木さんのほうから声をかけてくれた。
「こちらです」
 片隅のテーブルに、桜木さんと。
 こころなしか、身を縮めた幸久さんと。

「……話は聞いたわよ」
 空いた席に座る。桜木さんも腰をおろす。
「3月26日が……挙式だって?美絵子さんの?」

 てか彼女、それにしては付き合い良すぎです。
 婚約者さんが六華のたくらみ知ったら、ただではすまないだろうに。

「……おう」
 流石に……この人も元気がないな。
「期限切られちゃったね」
 六華に引っ張られて数度呑んで、何となく判る。
 このお人、どうも最後の最後で自信が足りないつか実力に見合う自信がない
つか。
 押しが、弱いんだよな。
「……そんで?」
「俺は!…………その」
 ……そこで小声になってんじゃねえ。
「……ええと、話はえらい簡単」
「ですね」
 桜木さんがこくりと頷く。
「……貴君はどーすんの」
 改めて、尋ねる。
「…………」
 ……そこで沈黙で返すかよ!
「……あんた、ねえっ」
 ああ苛々するなあ、と、思っている横で、流石に桜木さんは気が長い。
「どうしたいのか、です。一生に一度の大勝負かもしれないんですから──」
 それでも流石に、笑っていながらも口調が厳しい。
「他人のことなんかかまってる余裕はないですよ?」

 近づいてきた店員さんに、グラスで冷酒を頼む。
 これは呑みでもしないと、付き合えない。

「俺は……」
「やるか、諦めるか、です」
「…………」

 ……ほんっとに、こう。
 ここまで言ってもらって、まだ黙るかこの男は!

「……諦めれば?」
 我ながら、相当冷たい声が出た。
 ぐ、と、俯いた幸久さんの喉から声がこぼれる。
 まあ……と、桜木さんが、なだめるように手を振る。
「幸久さんの場合、諦めるをチョイスすると一生後悔して、どんな女性と付き
合っても上手く行かないでしょうけどね」
 そりゃ、そうだろうけど。

 『……たった一言あればいいんですよ』
 美絵子さんは、そう言っていた。

 その一言を、今回また言い切らずに彼女を泣かす気か、この男は。

「てかだってね、桜木さん。彼女のために自分の立場一つ変えない奴に」
 だから、あえて言う。
「諦める以外の何が出来るよ」
 桜木さんが、少しだけ笑った。
 ひどく苦い笑いだった。

 注文したグラスが来る。
 場の雰囲気からか、店員さんはそそくさと去った。

「…………いやだ」

 ふ、と。
 喉の奥から、ようやっと出てきたような声で。

「……何が」
「もっと大きな声でどうぞ」
 にこにこと……けれども笑わない目で。
 畳み掛けるように。

「…………いや、その……このまま、諦めるのは…………」
 言いながら、幸久氏の視線は、どうしても上を向かない。
「…………嫌だ」
「胸を張ってどうぞ」
 だから突っ込まれるんだよ。
 ……と、内心呟いたところで。
 まーたこの男は黙って下向くし。
「負け犬の顔をしてたら勝てる戦も勝てません。まして負け戦ならなおのこと
──虚勢でもなんでも胸を張って勝ったような顔でいなくちゃ」
 言うなあ、桜木さん。
 ……六華に対しても、そうなのかな、と、ふと。
 うん、これはちょっと雑感。

 幸久氏は、それでも下を向いている。

「……あのね」

 たった、一言。
 その一言を聞けなかった彼女は、すっかり疲れた目をして。
 
「あたしらに向って言うくらい出来ないで、彼女に向って何が言えるっての?」
「……っ!」

 初めて。
 幸久氏が顔を上げた。

「……俺は、諦めたく……ない」
「……」
 だから、見据える。
 どれほどの気迫で、あんたは今その言葉を放っているのか。
 それを……見極めるために。

「俺、ほんと……鈍くて意地っ張りで莫迦であいつに頼ってばっかで」
 ……自己採点は満点ですな。
「でも…………」
「でも?」
 桜木さんの問いに……搾り出すように。
「できるなら……」
 真っ白になるほど、拳を握り締めて。
「もっかい、俺から」
 それでも、負けることのない視線で。
「……取り返したい」

「…………ばっか」
 及第。但し……優・良・可の可。
「出来るなら、じゃないよ」
「できるとか、できないとかじゃなく──おやりなさいませ」
 あはは、桜木さん、同じことを思ったらしいな。

「全力でお手伝いしましょう。できることがあれば、お申し付け下さい」
 その言葉に、こくり、と。
 幸久氏は頷いた。

「胆は決まりました?」
「…………おう」
「よし。じゃ、次のアクションを決めましょう」
「……時間、無いよ?」

 ……だからそこで黙って下向くなと!

「…………莫迦」
「あでっ」
 ったく、こちらも手がでるっての。
「いざとなったら彼女をかっぱらうくらい出来るでしょうが!」
 怒鳴ってから、ああここお店だった、まずいかな、と、思ったんだけど。
 ……桜木さんはにこにこ笑ってるし。
 『真帆さんに発破掛けてもらうほうがいいだろうな、と、思ってたんですよ』
と、後でやっぱりにこにこしながら言ってたけど。

「どうします? ストレートにぶつかっていきますか? それとも相手に手を回
して破談にします?」
「……手回し、て、達大さん……」
「絡め手もある、ってことです」
 なんか妙に怖いですそれ。
「……俺、回りくどいことできねえから」
「……うん」
「ぶつかるしか…………ねえのかな」
「ま、それが一番でしょうね。これまで男らしくなかったですから、大勝負く
らいは裸でぶつかってくくらいの方が」
「……てめえ」
「はい?」
「…………くそっ」
 そこで負けるんじゃないっつの。
「ほら、そこで目を逸らす」
「ぐっ」
「いいんですよ、そこでボクを殴るくらいで。そのくらい勢いつけてもらわな
いとサポートする方もやりがいがないってもんです」
「……全くね」

 ……って、あたしもサポートに回ってんのか。

「……ぶつかってやるさ」

 流石に。
 腹の決まった声で、言う。


 ……ああ全く、他人様の幸福追求に、何を関わってんだあたしは……と、思
いつつ。
 何だか、おかしくて。

 あたしが彼の立場だとしたら、もっと諦めているだろうな、と思う。
 ただそれでも……はったりだけは、本当に出来るようになるのだな、と。

 そういう役目だけは。


「さて」
 
 桜木さんがにこにこと笑う。

「……どう、動きましょうか」


時系列
------
2005年3月初め

解説
----
全員から背中を蹴飛ばされて……かもしれませんが。
とりあえず、前進状態の、初めですな。

*****************************:

……てなとこで。
でわまたーーー





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