[KATARIBE 28512] [HA06N] 小説『戦い忘れた戦乙女』

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Date: Thu, 3 Mar 2005 15:40:51 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28512] [HA06N] 小説『戦い忘れた戦乙女』
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2005年03月03日:15時40分51秒
Sub:[HA06N]小説『戦い忘れた戦乙女』:
From:久志


 久志です。

 ダブルデートでの美絵子の心情とかを書いてみました。
こっちもきっちり決着をつけないとなあ。。。

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小説『戦い忘れた戦乙女』
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登場キャラクター 
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 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :三月末に結婚式を控えていたりする。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。

情の戦乙女
----------

『おねーさんあそぼー』

 六華さんの言葉にあっさりひっかかったあたしもあたしだけど。

 ていうか、六華さんとはつい最近まで知りもしない相手だったはずなのに、
なんでこうあっさりと誘いにのっちゃうかな、もう。
 そも、いつぞや半分酔っ払ったユキに電話で呼ばれて、行ってみた飲みの席
で史久さんと一緒に飲んでたのよね。
 子供のような大人のような年代を感じさせない雰囲気に、すとんと懐に入り
込んでくるような、それを不思議と違和感を感じさせない空気を持った人。

 第一声、あれだったわよね。

『おにーさんのしあわせ!』

 まっすぐに私を指差して。
 一瞬何のことかと思ったわよ。
 ユキの幸せのことだって、史久さんは笑いながら言ってたけど、ね。


「なんだよ、ジロジロと」
「別に」

 それが、こういうことになるわけね、もう。
 隣で並んで憮然と歩いてるのは、ユキこと本宮幸久。むかーしの彼氏。
 どうやら六華さんと、ユキの友人である桜木さんの陰謀で、というかほとん
ど桜木さんのダシに使われて、あたしとユキ、六華さんと桜木さんとでダブル
デートということになってるみたい。

 というかねえ、あたし来月末に式控えてる身なんですが。
 まったく、何考えてるんだかなあ。

 そりゃあ、別れてから今までだって何度も会ってたわよ。
 元クラスメイトって仲に変わりはなかったわけだし、二人でお茶飲んだり出
かけた事だってある。

 でも、さ。
 こういうシチュエーションで二人で歩くってのも、なんだかなあ……

 当のお二人さんはこっちをしばらく遠巻き見てて、いつの間にかどっかいっ
ちゃったし。っていうか、桜木さん狙ってたでしょ、それ。
 人をダシに使うのも大概にして欲しいわね、もう。

「……どっか寄ってくか?」
「ああ、うん……」

 ちょっとバツが悪そうな口ぶり。
 別に今までだって、こうやって二人で歩いたことあるのにね。


 昔はね。
 昔の話だけど、さ。
 こうして二人で並んで歩いてるってだけで、幸せだった頃があったのよね。
もう随分と昔のことだけれど。

 でも、それ。
 ユキには幸せだったの、かな?


『おにーさんのしあわせ!』

 なんて、よく言ったものよね。まったく。
 あたしが、ユキの幸せ?そんなの、今更言えたこと?

 さんざんあたしばっかり追いかけて、あたしばっかり戦って。

 ユキは…………何も返してくれなかったくせに、ね。
 その上、あたしがユキの幸せになれって。めちゃくちゃよ、もう。

「ったく、桜木のやつ。俺ら利用しやがって」
「……でも、割といい雰囲気だったわね」
「あの野郎」

 でも。
 あの頃あの時のあたしは、何かを返して欲しかったわけじゃなくて。

「なんだかなあ、俺を差し置いてどいつもこいつも春かよ」
「……あんたねえ」

 何いってんのよ、自分で春遠のかせてる男が!!


 あの頃は。
 ただ。

「……ただ」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
「なんだよ」

 あの頃。
 情の槍を持って、戦ってたあの頃。

 何を返して欲しいとか、どうして欲しいとかじゃなくって。
 ただ、追っかけたかった。

 ひたすら独占欲むき出しにして。
 親友の芽衣のユキへの気持ちも知ってて、それでも止まらなくて。
 クラスメイトのライバルと火花散らして張り合って。
 一言、あの台詞を言って欲しくて。


 でもさ。
 疲れちゃったのよね、あたし。
 というか、がっかりしちゃったのかな。たかが一言いってくれないあんたに。

 別れを切り出した時、引き止めてもくれなかったよね。

 ああ、もう、なんか本当にばかみたいよね。
 全部、あたしの空回りだったんじゃない。


「美絵子?」
「…………」
「……美絵子、どした?」
「……なんでもない」

 もう、やめよう。
 考えるのやめよう。


 今そんなこと考えても、もうしょうがないことなんだし。

『いい縁談じゃない、美絵子ちゃん』
『妹の里絵子ちゃんの方が先にお嫁にいっちゃって、ねえ』
『美絵子ちゃん、お母さんいい時期だと思うのよ。ちゃんと将来のことを考え
ると、今のお話ってすごくいいと思うの』
『いい人じゃない。仕事も安定してて、しっかりしてて優しくて』

 生活とか、将来とか、親の思惑とか、焦りとか。
 打算や理論でぺたぺた自分を塗り固めて。

 あたし、いつからそんな風になっちゃったんだろう?

「…………」
「美絵子?」

『一生のことなんだから、後悔しないようにしなきゃ』

 より後悔をしないほうに?
 いつから、そんな逃げ道ばっかり探す奴になっちゃったんだろう。

「美絵子……どした?」
「……ん」
「さっきから変だぜ?調子でも悪いのか?」
「……ううん」

 何を選んでも、後悔しそうな自分がいる。
 もう戦えなくなってしまった自分がいる。

「何でもない……」

 と、急にぐいっと腕を引かれた。

「どっか店入って座ってろよ。お前変だよ、やっぱ」
「……うん」

 ユキの奴に引っ張られるままに。

 引っ張られて。

 ……やめよう。
 あたしが考えても。もう、しょうがないことなんだから。


時系列と舞台 
------------ 
 2005年2月半ば。 
解説 
---- 
 情の槍を持つ戦乙女、美絵子。自らを囲う理で戦い方を忘れて。それでも。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 

 なんだか美絵子が可哀想になってきました。



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