[KATARIBE 28505] [HA06N] 小説『理によって立つ』

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Date: Tue, 1 Mar 2005 23:11:04 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28505] [HA06N] 小説『理によって立つ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月01日:23時11分04秒
Sub:[HA06N]小説『理によって立つ』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねこやさんから宿題(冬女の過去をVTR的に書くよーに)と頂いたんですが。
……その手前で終わってます(がっくり)

*************************:
小説『理によって立つ』
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登場人物
--------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
    :自称小市民。多少の異能有り。この話の語り手。
  六華(りっか)
    :冬が終われば溶ける、冬女。

本文
---- 

 最後に見たのは、南天の目を持つ雪兎。
 それがぴょんぴょんと跳ねてゆく様。

        **

 もう行かない、と、六華が言う。
 もう、行かない、どこにも行かない、と。

「何でまた……」
「行かない」

 ってああたね、一升瓶掴んでめそめそしないで下さいまし。

「何が一体気に食わないの」
「……あたし、やっぱり莫迦なのかなあ」
「否定しづらいこと言わないでよ今更」
「…………真帆サンの意地悪っ」

 だからね、折角冷やしといた一升瓶をそうやって抱えて……ってああ、この
子が抱いてる限りは大丈夫なのか。

「だーから。ゆっきーさんと美絵子さんのほうは、まだどうなるか判らないん
でしょ?」
「…………もう、いい」
「おい」
 
 思わず居住いを正して六華を見る。
 六華は一升瓶を抱きしめている。
 頑なに……視線を落として。

「どういうことよ」
「…………おにーさん、多分大丈夫だから」

 ……まあ、この前話した限り……何とかあの方も頑張る積りになったようだ
けど。

「多分ってあんた、あの人の場合最後までどこにどう転がるか不明だよ?」
「それでも!」

 きっと、六華は顔を上げた。

「あたしが消えたら、香夜は喜ぶ、幸せになる!」

 ……あ。
 って、もしかして。
 半ば直感のままに、あたしは言葉を紡ぐ。

「……桜木さんに、何か言われた?」

 と。
 えらい勢いで六華が身を起こした。掴み掛かる勢いであたしに向かってくる。
「何でっ!」
「……何でって……見当つくもの」
 まさかこの子を残そうと、密談していたとは言えないけれども。
「何で……」
「好意に何も返せないって言ってたのあんたでしょ?」

 かくり、と六華は細い肩を落とした。

「なに言ったの、桜木さんは」
「…………しを……」
「え?」
「……あたしを、絶対に消さない……って」
 確かに、もう三月の初めである。
 ……そろそろ最終時だから……だろうな。

「でも!」
 不意に六華が顔を振り上げた。
「でも、それでも……それでも!」
 長い髪が残像のようにその後を追う。
「駄目なの……香夜をあたしは……!」
「どうしたの」
 ひく、と、六華の喉が鳴った。
「……言いなさい、六華」
 まるで、子供のような泣き声が、その声からこぼれてくる。
 誰ももう、頼ることが出来ない者のように。

「……あたしは、香夜を、殺したのだもの」

 しゃくりあげる合間に、六華は呟く。だから、あたしは、と。
 もしも誰か一人を選ぶなら、あたしは香夜を選ぶ、と。

 彼女が幸せになるには、あたしが消えなければ……と。


 彼女の論理は、実はあたしにはかなり判りやすいものだ。
 そして、納得のゆくものだ。
 
 ……故に、あたしが彼女の論理を破るには、同じ論理をもって行うしかない。
 情の槍で六華を刺すのは、あたしの役目ではない。


「六華、でもそれ、論理が破綻してるよ」
「…………え?」

 流石に意外だったのだろう、まだ涙をこぼしながら、六華がこちらを見る。

「どういう……こと?」
「だってね、あんた今、それを思い出してるよね?」
「……うん」

 冬の初めには、確かに思い出していない。
 けれども冬が終わろうとするこの時、彼女はここまで思い出している。
 で、あるならば。

「ってことは、去年も、その前も、やっぱり思い出してたんじゃないの?」
 虚を突かれた。
 そんな表情が、六華の顔に浮かぶ。
「あんたのことだから、多分その時も消えなけりゃと思ったんじゃないかな。
そして多分、自分で消えようとして」
「…………あ……」

 ふ、と、六華の視線が空に浮いた。
 過去方向を一心に見る余り、虚ろになった目のまま。

「……きえよう、と、したの」
「そして?」
「きえるから、って、きえるから……って」

 不意に六華が悲鳴を上げた。
 高い高い、喉を震わすような声だった。
 ……自分自身を引き裂く声、と。
 そんな風に、ふと。

「六華!」
「真帆サン、あたし……あたし消えることも出来ないの!?」
「六華!」
「消えられない、死ねない、何も成せない、何も残せない、何一つ……!」

 ……その言葉は全て、あたしに跳ね返る。
 死ねない、何も成せない、何も残せない、何一つあたしには出来ることがな
い。

 そのとおり。そのとおり。

 だけど。

「……莫迦言ってんじゃない六華!」

 小さく息を呑んで、六華が黙った。

「何の為にあんたあたしのとこに転がり込んできたのよ!」
「……な、なん……」
「何かを成す為、強くなる為にここに来たんでしょ。それを途中で諦めて放り
出して、何が強くなる為か!」

 はったりと強がりと。
 それで人が一日でも諦めるのを止めるなら、幾らでもはったりで切り抜けて
やる。

 ……いつかそのはったりが、己が身を苛むのは覚悟の上。
 (そんなものは毎日のこと)
 (そんなものは)

「いいじゃないの、桜木さんが消さないって言ってんなら。桜木さん、消える
理由を探してくれるわよ。それが判れば本当に消える理由だって判るだろうし
……消えない方法も判るかもしれない」
「だって!」
「香夜が納得した上で、だよ、勿論」

 内心、桜木さんに合掌。……大丈夫かなあ、と、思わないではないんだけど。
 
「とにかく今まで、同じように失敗して、同じように繰り返してきたんだから。
それを今回、繰り返しを破ってやろうっていう協力者が出てきてんのよ」
 
 最後の最後。永遠に消えるかこの世に残るか。
 その判断は、多分彼女とあたし達のそれは違っている。
 けれども。

「それを利用しないでどうするの」

 瞼を紅く染めたまま、六華は黙っている。
 納得と、反抗と、どこか複雑な色を眉の辺りに浮かべたまま。

「……なにも、返せなくても?」
「桜木さん、何か返せって言ってた?」
「…………消えさせないって」
「返せと、言ってた?」
「…………」
 そら言うもんか(つーか、言ってたら殴る)。

「だから。あんたは何を一番にするか、考えなさいよ。一番は何?」
「……香夜、を……しあわせにする」
「そう。その為にあんたが消えるかどうかは、これは……もし消えないでいい
ならそれでもいいんでしょ?」

 その昔、六華だけを友としていた娘が、延々と六華に取り憑き続けていると
いうこと。
 その心情は……判らないでは、無い。

「でも、消えろって……」
「そうやって要求呑んで……で、今までずーっと同じように失敗してんじゃな
いの」
 よく考えたら、毎年香夜は消えることを要求してきたってことになる。
 そして毎度消えても、彼女は幸せになってないのだ。

「言っちゃなんだけど、香夜だって要するに、自分がどうやったら幸せになる
か判ってないんじゃないの?」

 幸せにしたい。幸せになりたい。
 ……どうせ未来なんてわかりゃしないくせに。

「……でも」
「消えるってのは確かに相手の要求だし、それに従うのは楽かもだけど、現状
全然変わらないじゃない。
そういうのを繰り返すのって、短絡的って言います、あたし的に」

 『その短絡を毎度やってる人だれだっけ』……と、絶対片帆なら言うだろう
な、と。内心。
 …………ああ本当に、あの子が聴いてなくて良かった。

「……で、どうすんの」

 情の槍で六華を刺すのは、あたしの役目じゃない。
 ただ……それでも、理の盾で彼女を殴り、その行くべき方向を変えることく
らいは。

「…………真帆サン、電話貸して」

 する、と、六華が立ち上がる。
 傍らの一升瓶は……ああ、本当に凍っちゃったな。

「……真帆サン?」
「何?」
「……いっしょに、行って」
「了解」

 ここらで全員の知識量を等価にしておかねば、どうやってもこちらに不利だ。
 ……まあ、そういう理由で六華が声をかけたかどうかは、おくとして。

 視線の先で、六華は番号を押す。もしもし、と、小さく呟くように。
「あ……げんき、です……あの、そうじゃなくて……あの、今」
 何度も何度も、ためらうように。
「……今、どこに……そっちに行っていいですか、真帆と?」

 勿論です、と。
 その声は何も無い空間を通ってこちらにまで伝わる。

「今から、行きます」

 そう言って……受話器を、置く。
 その上に手を重ねて、六華は暫く動かなかった。


 好意は。
 利用するにはかなり難しいものだ。
 その好意が純粋であればあるだけ、お返しを望まなければ望まないだけ。

 かけられる好意は、かけた相手こそを望んでいるわけだから。


「……行こうか」
「うん」

 どの判断が正しくて、どの判断が間違っているか。
 多分それを決めるのは、現在の己の役目ではないけれども。


「……真帆サン」
「なに?」
「あたし、ここに来て……間違えてないよね?」
「当たり前でしょ」

 でも、はったりでいいなら幾らでも押し通してやる。
 ……流石に、それくらいは……出来るようになったのだろうな、あたしも。

「……行こう」
 既に三月の夜の中。
 冬女はあたしの傍らにまだ居る。

時系列
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2005年3月の初め。
http://www.mahoroba.ne.jp/~furutani/ML/4220231F.7060700@po.across.or.jp.html
[HA06L] チャットログ『春の先触れ』 
の翌日くらい。

解説
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理の勝った二名の、ぶつかり合い。
冬女の最後へ向っての、一局面です。
   ***************

てなわけで、ではでは。




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