[KATARIBE 28500] [HA06N] 小説『六華を巡る策謀の弐』

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Date: Mon, 28 Feb 2005 23:10:25 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28500] [HA06N] 小説『六華を巡る策謀の弐』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月28日:23時10分24秒
Sub:[HA06N]小説『六華を巡る策謀の弐』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
六華関係のログから作成した、話です。
ねこやさん、チェック御願いします。

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小説『六華を巡る策謀の弐』
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登場人物
--------
 
   桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
     :底の知れないシステム管理者。色々裏があるらしい。
   軽部真帆(かるべ・まほ)
     :六華の同居人。小市民。相当の毒舌家で酒豪。今回の語り手。


本文
----

 矛盾を繰り返す。
 
 恋愛のどこが幸せか、と、呟きながら、幸久氏の恋愛成就の為に、六華は駆
け回る。
 飄々としながら、桜木氏は六華をこの世に留めようとする。
 あたしが消えれば、多分一人だけは幸せになる、と、六華は言う。
 そして多分、一人は不幸になる。

 消えることを本人が、自分の目的の成就と思っているならば。
 ……それを邪魔する理屈を、あたしは自分の内部に持たない。

 六華の理は、追わないあたしを期待しているだろう。
 六華の情は、消えるなと泣くあたしを期待しているだろう。
 (……何となくそれが判るくらいには、彼女も正直だったりするし)

 何より腹が立つのは、そのぐちゃぐちゃの中にあたしが頭からのめり込んで
いて、その癖動くに動けないところかもしれない。

      **
 
 電話で呼び出した時間に喫茶店に着くと、桜木さんは先に来ていた。
 また今度、六華さんをお借りしますね、と、桜木さんは笑った。
 何やら、互いに妙な具合に協定が出来てまして、と。

「……まあ、いいですよ」
 苦笑せざるを得ない。
「六華のことだから、また幸福の為にとか称して駆け回ってるんでしょうから」
「幸福のためなら、か──他人のためにあれだけ一生懸命になれるのはうらや
ましいことですよねぇ」
「…………本当に」
 日頃インスタントに馴染んでいると、喫茶店の珈琲は妙に苦い。
「ボクなんか自分の身の回りのことで精一杯だ。とてもとても」
 ……そういう割に……と思ったのが顔に出たらしく、
「言いたいことがあればどうぞ」
 さらり、と、返されてしまった。
 思わず……溜息が出る。

「どうしてそれで、六華にまで関わりますかね」
「それは昨日言ったとおり、ですね。欲しいから」
「……欲しい、ねえ」
 欲しい、という感覚。
 人を、欲しい、という感覚。

 誰かに欲しがられることって、怖いと思う。

「……達大さん、私にはわからないんですけど」
「けど?」
「人を……欲しいって、どうして、思えるんですか?」
 尋ねると、桜木さんは真面目に答えた。
「それ、つきつめてくと物凄くドライな話になっちゃって面白くないですよ?」
「いや、つきつめることもないんですけど」
「んじゃ、ボクの場合は寂しいから、ってことで」
「……手の中に握り込みたいって奴ですか?」
 ふと、六華の顔が浮かぶ。
 あの子なら、一体どう言うだろうか。
「ボクの手はそんなに大きかないですよ」
 桜木さんは苦笑した。
「……そうですかね」
「体温が感じられて、呼吸する音が聞き取れるくらいの距離にいてくれればそ
れで十分」
 さらっと、この人……えらいこと言ってませんか。
「お互いが、そうしたいときだけ、ね──なんて理想ですけど」
「……それが、難しい……んじゃないですかね」
「そりゃぁもう。現実は、そんなに綺麗にはいきませんから」

 ふと。
 ああ……と。
 
「正直……最初から六華、そっちに行ったほうが良かったかも」
 思わずそう言うと、桜木さんは少しおどけるように笑った。
「そんなにボク、不幸せそうに見えます?」
「いや、そうでも……あるかもしんないけど」
 って、ちがーう。
「いや、違うんですよ。六華とあたしは、似てるから、互いに何を相手に期待
するか判ってしまう」

 『真帆サンは好きになるけど愛さない』
 それが正解。故にあたしのところに居てよかった、という子。

「この人は、自分が居なくなっても泣かないでいてくれる、とかね」
「楽ではありますけど──」
 表情、というより、声に感情が出る。
「そういう共感の仕方は好みじゃないかも。なんだかネガティブですよ」
「そうそう」
 全くそのとおり、なのだ。
「そういう共感が……多分、あの子が起きた時には、必要だったのかもしれな
い」
 それは、自分でもそう思うのだけど。
「でも、今となっては、ほんっとあの子を殴っとけばよかったと」
「惜しくなりました?」
 笑って言うなよ。
「惜しい、というより……幸せになってくれって、願えない自分が、今更に情
けないですかね」
「情けない──と思うようなら、もう幸せを願ってるんじゃないですかねぇ」
 いや、願ってますけど。

「あの子に言えないんですよね。幸せになれ、なんて」
「怖くて?」
「……いや。言う資格が、あたしに無いだけです」
「資格とかなんとか言ってるから面倒になるんですよ。それが本音なら言えば
いい」
 穏やかな声で、しかし結構言うことは言って……桜木さんは苦笑した。
「──と思いますけどね。まぁ、簡単じゃないか」
 簡単、なんだろうけどな。
「幸せになれ、ってのは、ある意味呪いだと、思うんですよ」

 この世に残り、怪として長く生きることが幸せなのか。
 香夜を納得させることが彼女の幸せになるのか。
 幸せになどなりたくない、と、言う六華の為に、幸せを望むことは……

「……それを思うと……言えない」
「そうですね。でも、ね」
 どうやら聞こえない声を聴くらしい人は、断言する。
「言葉は全て呪、ですよ──」
「……ええ」
「望むと望まぬとに関わらず、人を変えてしまう。畏れないのはあまりに危険
ですが、あまりに畏れてすくんでは何もいえなくなってしまいます」

 ……言ってくれるよなー。

「……ってか、桜木さん、真面目な話、春の来ない国に行く勇気あります?」
「自分の生活を投げ打つつもりはないですよ。相手への依存でしかないですか
ら」
「……うーん」
 あたしは、自分の生活を投げ打つ積りがない、から、彼女に幸せになれって
言えないんだけど、な。
 自分ではそれを責任と思うけれども。
 それが依存といえば……そうなのかもしれないとも思う。

「でも、自分の足で歩いていける限りは歩いていきますよ。春のない国でも」
「…………そこが、あたしと違うとこですね」
 絶対動かないからね。
「割と頭が悪い方なものですから」
「へ?」
 にこにこと笑って、桜木さんは妙に脈絡の無いことを言う。
「自分で体験しないと、納得できないんです」
「それは、頭が悪いとは違いますよ」
「そうですか?」 
 納得する為に、行動を必要とするだけのことだ。
 そのほうがどれだけか。
「どれだけ考えて、それがどれだけ正しくたって、動かない石地蔵なら役にた
ちゃしません」
 ……それは、判ってるんだけどな。
「頭の良い人って、失敗するな、と思ったら行動しないんですよね。無駄だか
ら」
「…………」
「勝算が十分あるって納得したときだけ動く。そのほうが無駄がないから」
 一瞬嫌味かと思いました、ええ。
「……つまりはそれ、愚か者を自分で証明してます」
「どうしてですか? 実に無駄のない合理的な生き方だと思いますけど」
「失敗かどうかってのは、自分の今までの経験やら知識で判断してますから」
 そら、はっきり失敗するってわかっているなら、判断も有効だろうけど。
「それが通用しない場面では、判断が仇になる。それくらいなら動いたほうが
いい」
 
 気がつくと、珈琲はかなり冷めている。それを一口含んで。

「……と、判ってなお動かない奴だから、六華がうちに来るのは間違えてたっ
て思うんですよね」
「ふむ──」
 暫く、間をおいて。
「じゃぁ、うちに寄越してください」
 笑いながら……この人も言うなあ。
「……それはそっちで口説いて下さいな」
「わはは。幸か不幸か姪っ子を預かってるんでヨコシマなことはできませんよ?」
「ヨコシマって……」
 思わず苦笑。
 しつつ、ふと。

 にこにこと、穏やかな風情にうまく隠してはいるけれども。
 この人は、鋭いほどに……本気なのだろうな、と。
 
 包まなければ六華を突き刺すかもしれないほどに。

「ええ、六華にヨコシマな手を出して、あの子がどういう反応するか、あたし
も見てみたいっすねえ」
 だから……誤魔化す。
 多分、互いに。
「うーん──確かにそれは興味ありますねぇ」
「手練手管で流されるか、張り倒されるか」
「まぁ、若旦那をあしらうのはお手のものでしょうからね」

 てかこの人が言うと、若旦那がはまってるからなー。

「むしろ張り倒してくれるようなら望みアリかもしれませんね」
「凍っても知りませんよ?」
 笑いをこらえてわざと真顔で言うと、けろっと切り返される。
「凍えるのを恐れて春のない国を歩けますか──なんて言ってみたりして」

 まあ、実際のところ、と、桜木さんは、苦笑した。

「幾らなんでも、そこまで無謀じゃありませんよ。今はまだそういうことをし
てもいい間合いじゃない」

 そう。そしてその前に何とかせねばならないことがある。

「……まずは、あの子が、この冬の終わる時に、消えないかどうか、なんです
がね」
「消えるときには必ずボクに断ってからにしてください、と」
「見送るために?」
「はっはっは。そんなに諦め良さそうに見えます? ──と、これはオフレコ
で」
「いや、見えないですよ、ありがたいことに」

 ほんとうに……ありがたいことに。

「まぁ、そういうわけで」
「ええ」

 実際、少しずつ六華の過去はわかってきている。
 彼女が……正当防衛とはいえ……昔は親しかったろうあの怨霊の子を殺して
しまったこと。
 そしてそのことを悔いていること。
 そこまでは了解したし、怨霊の子が六華にとっついている理由も良く判った。
 
 ただ、正直、どうしてそれで彼女が『冬女』……春には溶けるとはいえ、繰
り返し蘇るのかがわからない。
 六華自身には確かに悔いはあったろう。
 けれども香夜がその為に怨霊としてこの世に残り……要するに成仏しそこね
ているというのに。
 毎年、彼女はそのことを最終的には知っている、筈なのだ。

 ……どうして六華は、この世にまた現れるのだろう?
 どんな思いが、どんな理由が、それを可能にしているのだろう?

 ……それは、彼女が冬の終わりに消えるのと同じくらい奇妙なことに思える
のだ。

「桜木さん、この前の櫛を買ったお店、まだ覚えてますよね?」
「はい」
「六華は、花魁……つまり、居たのは吉原と思っていいかと。その同輩の遺品
が吹利で見つかっているってことは」
「ことは?」
「六華の遺品が、一緒にある可能性は……あるんじゃないか、と」

 香夜を殺して。
 その後一体何があったのか。
 それを知るのは、多分……六華自身の遺品のはずだ。

「なるほど。彼女の名前を知らないか、聞いて回ってみましょう」
「御願いします」
 頭を下げると、桜木さんは苦笑した。
「どうにも、あまり趣味の良い真似ではありませんが」
「……誰でしたっけ、春の来ない国に歩く元気のある人は」
 言葉尻をしっかり捕まえて、やりかえして。
「その元気で御願いします」
 はっはっはと笑いながら、桜木さんは立ち上がった。
「それじゃ歩いてきましょうか、春の来ない国を」
 ってまて、伝票を持ってゆくな。
「あーそれ、こっちが持ちますよ」
「いや、貴重な情報をいただきましたから。情報料代わりに」
「……じゃ、ご馳走になります」

 少し、悔しかったのはある。
 六華の為に、何かを出来るこの人を。

 ……能力としても、その心情としても。

「よろしく、お願いします」
「……はい」

 上着を羽織り、真っ暗な空の下に立つ。
 もどかしさと悔しさと共に。

 それじゃ、と、桜木さんが言う。
 それじゃ、と、あたしが言う。

「また、連絡します」
「お願いします」

 …………それでも。
 この人が居ることは、あたしにとっても幸運なのだろう。

 六華を失わない、その一つの手がかりとして。


 ざあざあと風が吹く。
 目に、その残像が痛い。



時系列
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2005年2月半ば。
『六華を巡る策謀の壱』の、翌日。

解説
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 冬のみ生き残る六華を、どうやって生かすか。
 彼女に最も近しい2人の密談です。

参考ログ
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http://kataribe.com/IRC/KA-02/2005/02/20050217.html#220000

から、大体2時間弱をご覧下さい。
 *********************** 

 てなもんで。
 ではでは。


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