[KATARIBE 28499] [HA06N] 小説『冷たい水の中をきみと歩いていく』

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Date: Mon, 28 Feb 2005 22:59:45 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28499] [HA06N] 小説『冷たい水の中をきみと歩いていく』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月28日:22時59分45秒
Sub:[HA06N]小説『冷たい水の中をきみと歩いていく』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
……ええと、先日より、或る方の音楽にはまりまくった結果がこれです。

というわけで、ちょと書いてみました。

**********************:
小説『冷たい水の中をきみと歩いていく』
=================================
登場人物
--------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
    :自称小市民。多少の異能有り。この話の語り手。
  六華(りっか)
    :冬が終われば溶ける、冬女。

本文
----

 淡く透明な印象の声で、六華が歌う。
 時折揺らぐ、どこか儚げな声で。

「…………六華」
「……なにー?」
「あんたの声で、その歌歌わないで」
「えー」
 小首を傾げて、六華はこちらを見やる。
「でも、真帆サンこの歌好き、でしょ?」
「うん、好きだけどね」
「だから、鼻歌歌ってたんでしょ?」
「……いや、そうだけどね?」
「あたし、下手?」
「いやそーじゃなくて…………」

 声が似ている……とまでは思わないけど、声域とかが合うんだろう。
 どこか子供っぽい響きの、甘みのある感じとか。

「……あんたら、カラオケとか行ったりするわけ?」
「あー、達大さんが行きましょうかってこの前言ってた」
「そこであんたその歌歌わないほーがいいよ」
「……下手?」
「いやそーじゃなくてっ」

 曲がさあ……

「歌詞が歌詞じゃないか」
 六華の手の中の、歌詞カードをつつく。
 曲名は『冷たい水の中をきみと歩いていく』。

 ……うん、桜木さん知ってたら、題名だけでコケるな。

「って、真帆サンは、歌詞も好きでしょ?」
「好きだけどね」

 空に向かって落下する異能と同時期に、あたしは大気の流れるのを、色とし
て捉えることが出来るようになった。
 大海と化したこの空の中を、渡るためのもう一つの能力であるかのように。

 だからその歌の出だしを聴いたとき、確かに自分の見ている風景を、この人
は歌ってくれているような気がしたのだ。
 
 ……の、だが。

 みのらずに終わった恋。
 それが……あまりに声ごと透明で。

「……だーからそこが……」
「なんで?」
「あんたが歌うと実感こもりすぎ」

 谷山さんの曲を教えてくれたのは、やはり話を書いていた後輩で。
 どの曲が気に入りました、と尋ねられて、この曲とか『ガラスの巨人』とか
『SEAGULL』と答えたら、その曲聴きながら文芸部の文章書いちゃだめです、
先輩またキャラクター不幸にするでしょ、と、睨まれたものだ。

 ……ごめん、あの時はちげーよとか思ってたけど、この子に歌われると納得
するわ。

「えーでも……」
 少しだけ、六華は首を傾げる。
「みのらずに終わるこころがすきとおるなら」
 目元に淡く、笑みを浮かべながら。
「あたしは少しだけほっとするけどなー」
「いやそれ、ほっとするとこちゃうし」
「えー」
「だってラストの繰り返し、はっぴーえんどに聞こえないんだけど?」
「…………真帆サンいじわる」
 いやだってさ。


 桜木さんという人とは、数度会った。
 飄々とした人だった。
 ……飄々とした風情に包まなければ、多分、本気が溢れるのかな、とも。

 自分が幸せになりたくはないんです、と、言い張る六華を
 自分は消えたいんです、と、笑う六華を

 引き止めて一緒に居たい、という本音があまりにもはっきりと。


 リフレインを、六華は繰り返す。
 えーいだから歌うなとゆーに。

「……あーだってね六華」
「へ?」
「その歌、どう考えても、はっぴーえんどじゃないでしょ?」
「……うん」
「それって、ゆっきーさんとか美絵子さんに良くないと見たね!」
 ぽっかり、と、六華が口をあける。
「……そっか、そうだね真帆サン!」
「そう、だからカラオケとかで歌ったらあかん」
「そっかあ」

 …………よーやっと納得したかー(脱力)。

「でも、ここで歌う分には良くない?」
「…………あーわかったわかった」

 ほんとうは。
 彼女がこの歌を歌っていると、判らなくなるからだ。

 みのらずに終わる恋を、彼女があまりにいとおしげに歌うから。
 
『愛されるというのとても嬉しいけれど
 それよりもこの空の綺麗なこと』

 ……あれは、池澤夏樹さんの『塩の道』の中の一節じゃなかったかな。
 (やはり後輩に借りて、手書きで写したその紙片を)
 (あたしは一体どこにやったろう)

 綺麗で。
 綺麗だけども。
 ……綺麗なままでも構わないと思ったり。
 それが卑怯だとも思ったり。

 十重二十重に思考だけが混濁する。
 その癖、彼女の声は透明で。

 ……そしてまた、何もかもわからなくなる。


 (私も貴方の幸いを願いたいのです)
 (貴方が喜ぶ顔を見たいのです)

 願うことは、かろうじて出来ても。
 

「……真帆サン?」
 ふと、六華が歌を止めた。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」

 消えてゆくリフレイン。
 あまりに綺麗だから……壊れられる、と。

 その程度で壊れるほどには、もうあたしは綺麗ではない。
 ……けれどもこの子は、そうかもしれない、と。
 そのことがとてもこわいのは確か。
 
 ……そしてとても辛いのも確か。

 
 冬の上に重なる、春の気配が。
 一日一日と強くなる。

 六華の歌う声も。
 真帆サン、真帆サン、と、呼びかける声も。
 ころころとよく響く笑い声も。


 それは溶かしてしまうのだろうか…………

時系列
------
2005年2月末

解説
----
六華の口ずさむ歌に、消えてゆくという近未来を思う真帆。

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……このほかにも、歌うなーって曲多いですけど(笑)>六華

ではでは。


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