[KATARIBE 28494] [HA06N] 小説『ちょっとご相談』

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Date: Sun, 27 Feb 2005 16:04:52 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28494] [HA06N] 小説『ちょっとご相談』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月27日:16時04分52秒
Sub:[HA06N]小説『ちょっとご相談』:
From:久志


 久志です。

 もとみーがローザちゃんを預かる話をさくっと進めます。
そうしないと小学生ズが遊びにくる話ができねへ!

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『ちょっとご相談』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :本宮家長男、屈強なのほほんお兄さん。
     :吹利県警刑事課巡査。
 前野浩(まえの・ひろし)
     :人間コンバータな黒服さん。
     :無道邸執事。
 本宮和久(もとみや・かずひさ) 
     :本宮家末っ子、生真面目なお兄さん。
     :吹利県警生活安全少年課巡査。

史久 〜オフのひとコマ
----------------------

 紅茶をひと口、ほんのりと渋みが口に広がる。
 平日昼間の喫茶店は席もガラガラで、窓際の席に座った僕らを含めて4・5
人くらいのお客さんしかいない。

「お子さん……ですか?」
「えぇ」

 弟の知人であり、僕にとっても友人の前野さんから、相談したい事があると
いう話を受けて。
 かちゃっと、カップを置く。

「知り合いの親戚の子なんですが、その知り合いが事情があってここを離れる
ことになりましてね」 
「そうなんですか」

 知り合いの親戚の子を預かってくれる人を探したい。
 年の頃10歳の女の子。なかなか難しい話かもしれない。

「そうですねえ、生活が不規則でなく、安定していて、子供の情操に悪い影響
をあたえない人、でないとだめですね」
「なかなか、そういう知り合いはいませんでしてね」

 苦笑しながら紅茶を飲む。
 まあ、それだけ条件が重なると確かに厳しいものがあるかもしれない

「小学生くらいのお子さんは多感な頃ですし……生活が安定していて、面倒見
がよくて……」

 子供を任せても安心ってのは意外と難しい。
 生活の安定もあるけれど、なにより人となりってものが一番大きいと思う。

 考え込んだ僕を見て、前野さんが苦笑を浮かべたまま、ちょっと言いにくそ
うに口を開いた。

「まぁ、ついでに言えば……私の『知り合い』ですから」
「ああ……わかりました」 

 前野さん。彼自身なんというか、ちょっと普通でない人でもある。
 普通でないという表現もなんだけれど。普通な一般人である僕から見たら、
ちょっと普通でない特殊な何かを持っている。
 そして彼の家、彼の知り合いには、ちょっと普通でない人が多い。

 この件の女の子も、ちょっと尋常でない何かを持っているということだろう。

「一般のご家庭や施設にお願いするのも、なかなか」 
「なるほど。少し条件が狭まりますねえ」 

 特殊なもの、普通と変わったもの、ちょっと異常事態、そういうものに耐性
がある人でなければ、ちょっと厳しそうだ。

 ふと、そういえば。
 そういう特殊な手合いに慣れたというか。自ら特殊な力を持っていて、特殊
な物事に動じず、なおかつ人となりも良いやつが……いる、なあ。

「えぇ……私も多少は心当たりはあったんですが、小学生の同級の子が居まし
てね。流石に、生活の場まで同じだと辛いそうで……」 
「ふむ。ええと、思い当たる節は一応あります」
「ありますか。流石は史久さん」
「身内で恐縮ですが、うちの和久なんてどうでしょう?」

 和久、僕の末の弟でもある。あいつ自身、僕と違い特殊な力を持っていて、
なおかつ物事に動じず、まあ身内の贔屓目ってのもあると思うけれど、子供
を任せるという事においても信頼できそうだ。

「面倒見のよさと生活の安定は、兄である僕が保証しますよ」 
「なるほど。和久君ですか」 
「ええ」 
「……って……和久君?」 

 一瞬、前野さんが考え込んだ。
 どこか、まずいところでもあるんだろうか?

「だめでしょうか?」 
「……いえ……当人が何と言うか……」 
「あいつならちょっと普通でない事象でもわりと耐性があるし」 
「越してきたばかりで、大丈夫でしょうか?」 
「むしろ世話を焼ける人がいるくらいのほうが、あいつの為にもいいとおもう
んですよね」 
「なるほど……」 
「あいつも、そろそろ立ち直ってもらわないと」 

 銀髪の恋人さんを失ってから、あいつはずっとへこんでいる。
 普段は口に出さなくても、その傷をずっと抱え込んでる。

「だから、保護対象として世話をやける相手がいるほうが。あいつの為にもい
いかと思いまして」 

 庇護者が必要な子供。あいつにとっていい薬になるんじゃないだろうか。

「……えっと……小学生の子ですけど」 
「ええ、大丈夫だと思います」 
「ヴァンパイアなんですけど……大丈夫でしょうかね?」 
「ほう」 

 ヴァンパイア、とは。ちょっと大物さんですね。
 まあ、色々事情があるんでしょうね。

「さすがに……難しいですか? 
「まあ、人には色々事情がありますしね、それくらいで動じるやつでもないで
すよ。まあ、一応僕から和久に打診してみます」
「わかりました……お願いします」
「ええ、和久と連絡をとって確認してみて、また結果をご連絡します」 
「よろしくお願いします」 
「はい、任せてください」

 後で実家にいる和久に打診しよう。まあ、なんとかなるかな。


和久 〜本宮家にて
-------------------

 居間のソファに座ったまま、思わず俺は飲みかけのコーヒーをむせこんだ。

「子供?!」
「そうだよ」

 寝耳に水とはこういうことか、という感じだった。
 小学生の子供を預かってくれないかな?
 という思わぬ史兄の突然の言葉に、けほけほとむせた。

「まだ十歳の女の子らしくてね、庇護者が必要な年頃なんだよ」

 それはわかるけど。

「なんで、俺に?」
「いやあ、丁度いい機会かな、って思ってさ」
「え?」

 史兄は俺の疑問の言葉もどこ吹く風とも言わんばかりに、言葉を続ける。

「……お前ね、いつまでもへこんでちゃダメだと思うよ」
「…………」

 ずきり、と。胸に刺さった。

「お前、まだあの子の事、気にかけてるでしょ?」

 千影ちゃん。
 いなくなってしまってから二年も経って、俺は吹利を離れて、そしてこっち
に戻ってからも、まだずっと心の中にいる恋人。
 いや、もうとっくに恋人じゃあないはずなのに。

「冷たい言い方かもしれないけどね、あの子がいなくてもお前はこれから仕事
して、生活して、これから色々やってかなきゃいけない。それなのにいつまで
も彼女の事を気にかけて溜め込んでいたら何もできないよ」
「……うん」

 史兄の言葉がひとつひとつ胸に刺さる。けど、決して史兄は俺のことを傷つ
けたくて言ってるんじゃない。そこまでわからないほど俺も莫迦じゃない。

「だからね。保護対象の世話を焼ける人がいるっていう生活は、お前の為にい
いんじゃないかなと思ってね」

 じっと見る目は穏やかだけど、真剣で。

「立ち直らなきゃ、さ」
「……うん」
「今まではね、フラナくんや佐古田くんの面倒を見るつもりで、逆にお前が面
倒見てもらってたようなものだろ?」

 そうだ。
 保護者ぶって面倒見てるつもりで、俺はいつも二人に頼ってた気がする。

「今はさ、二人だってもう大人だよ?だから、いつまでも頼ってばかりじゃあ
ダメだよ、だからこの話をお前に持ってきたんだ」
「……うん」
「いい機会なんじゃないかなと、僕は思う」
「…………」
「もっとしっかりしなきゃ、ね?二人といつまでも対等でいたいなら」
「……うん」

 二人といつまでも対等にいたいなら。
 いつまでも悩んで落ち込んでいないで、立ち上がらないと。

「史兄……」
「なに?」
「ええと……あの」
「どした?」
「……あの、いつまでも……心配かけてごめん」
「あはは。いいんだよ、そんなの」

 ひょいとソファから立ち上がって、空になったカップを持って笑った。

「じゃあ、考えておいてよ。無理強いはしないからさ」
「……うん」


時系列と舞台 
------------ 
 2005年2月 吹利のどこかの喫茶店、および本宮家にて。
解説 
---- 
 結夜が吹利を離れる間ローザを預かる相手を探す前野さんと史兄。
 白羽の矢がたったのは……
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。



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