[KATARIBE 28490] [HA06N] 小説『六華を巡る策謀の壱』

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Date: Sat, 26 Feb 2005 20:26:36 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28490] [HA06N] 小説『六華を巡る策謀の壱』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月26日:20時26分35秒
Sub:[HA06N]小説『六華を巡る策謀の壱』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
目がしばしばしてます。うるうるもしてます。
…………なんでそれでこゆことしてますか(汗)>自分

とにかく。
ログ斬る代わりに、話に仕立てました。
ちょっと時系列とか何とかで、辻褄あわせが多かったんで。
色々、見ていただけますと有り難いです>ねこやさん、久志さん

**********************************
小説『六華を巡る策謀の壱』
=========================
登場人物
--------
 
   桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
     :底の知れないシステム管理者。色々裏があるらしい。
   軽部真帆(かるべ・まほ)
     :六華の同居人。自称小市民。相当の毒舌家で酒豪。
   藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の幸せ(六華談)。他人の恋愛には相当鋭い。

本文
---- 

 螺鈿の櫛を彼女は見ていた。
 一声……呼び止めるように、響いていた。

 太夫、雪野太夫……と、艶めいた女の声で。

 その言葉の意味は、判った。
 その示すものの重さは、見当がついた。

 それだけだと…………思っていた。

     **

「……てーか、気になるんですよ」
 居酒屋には、丁度人が入り始めた時刻である。まだそれほどのざわめきでは
なかったために、その声は聞き取れたのかもしれない。
 但し、次の言葉はもっと明白に、達大の耳に届いた。
「……美絵子さん、その、桜木さんて人……どういう……」

 二人連れである。
 すらりとしたOL風の女性と、眼鏡をかけた化粧っけの無いごく目立たない女
性。
 その会話に、達大は耳を傾ける。
 ざわめきや店員の掛け声。それらから彼女達の声を選び取る。
 そんなに難しいことでもない。
 
「ええ、ちょっとつかみ所がない風な感じもしますけど、悪い人じゃないです」
「…………いや、悪い人かどうかは、別として」
「もともとあいつの知り合いで私もそうそう詳しくはしらないんですけどね」
「……ええ…………」
 無意識の癖なのか、こめかみを指で一度、抑えるようにして。
「……まーずいな」
 ぼそり、と、片方が呟いた。
「なにかまずいことでも?」
 徳利を取って相手に差しながら、の声に、ぽつり、と、返る。
「……六華って……なんてかな、自分に対する好意とか気がつかないほうです
けど」
 達大はびくりとする。
 その名前には……おぼえがある、どころではない。
「美絵子さんが気がつくなら……六華だって気が付いている……な」
「……まあ、気付きそうなものですけど」
 眼鏡の女性は眉をしかめた。
「……それ、すげーまずい」
「どこらへんがまずいんでしょ?」
 それは、達大としても知りたいところである。
 
       **

 何で判っちゃうんだろう、と……考えると真帆としても哀しいものがあるの
だが。 
「あの子は、自分に対する好意が、一線越えるようなら、本来は斬る子です」
「……ふむ」
「それを実行していない……それすらも、利用しようというなら」
 あーいやだ、見当が付くから嫌だっ、と、愚痴交じりに。
「好意が一線越えて、構わないって思う……それ、どういうことだと思います?」
 美絵子が首を傾げる。無言の問いに、真帆は答える。
「……あの莫迦、本気で消える気だわ」
 一瞬、二人とも沈黙した。

「……斬る人、なんですね」
 何度か一緒に呑んだことのある顔を思い浮かべながら、美絵子は呟いた。
「自分が消えれば、好意も何も未練無く消えるって思ってんでしょ」
「……そう、簡単なもんじゃないんだけど、な」
 ふっと視線が宙に浮く。
 歯に衣着せぬ言い回し。
 どうも時折反応が元気良すぎて幼くて……けれども妙に凛とした。
「全く同感」
 溜息混じりに真帆が頷く。
「ただ、それでも……本当に六華が消えたら……確かにそれまでなんですよ」
 彼女にかかる思いは多分、どこかに消える。ゆっくりと彼女は記憶から消え
る。
「…………あーの莫迦者っ!」
 真帆がグラスを、テーブルに打ち付ける。
「……困った人、よね」
 お猪口を傾けつつ、美絵子がぼやく。


「──どこかで聞いたような名前が出てくると思ったら」


「……?」
 妙に穏やかな声に、真帆は振り返った。
「桜木さん?!」
 美絵子が目を丸くする。
「……おや」
「はじめまして。今、話題の桜木達大です」
 なんてタイミングで出てくるのよ、この人は……と、美絵子はかなり呆れた
ものだが、男のほうは、その声同様、穏やかな表情のままである。
「……これは……初めまして」
 呟いた真帆の目の前に、名刺が差し出される。あ、ども、と、真帆がそれを
受け取る。
 登場の唐突さが、そんな日常のやりとりで緩和される。
 そこら辺は……確かに上手いものだ。
 
「しかし……どこから聴いていらっしゃいました?」
 軽部真帆といいます、六華はうちに住み着いてます、と説明してから、席を
勧める。
 達大はにこにことその勧めに従う。
「桜木さんて、どういう人──あたりから」
「……ま、これだけ言ってたらね」
 言いながら……美絵子は少し首をすくめる。
(ちょっと怖いなあ、真帆さん)
「……んじゃ、話は早い」
 そんな、内心の声は少なくとも真帆の耳には届かない。
「ボクとしても──」
「はい?」
「今の状態で彼女に消えられるのは本意ではないので。もしよろしかったら
アドバイスなどお聞かせ願えれば、と」
「……それ、当のあなたが言いますか」
「先ほどの口ぶりからして、ボクなんかよりもよくご存知だと思いました」
 呆れたような美絵子の言葉に、さらり、と応えがある。
「……てか……発想が同じなんですよ」
 真帆が苦笑した。
 一緒の部屋に一ヶ月以上。黙っていても、見えてくるものはある。 

「ま、聴いていらっしゃったなら話は早い」
 グラスを置きなおして、真帆が達大のほうを向く。
「アドバイス……一番早いのは、桜木さんが六華に執着しないことですかね」
 出来るもんならしてみろ、と、言いたげな表情。
 友人にしては……妙に保護者然とした。
(なーんか、親みたいよね)
 少々岡目八目気味に、美絵子はそれを見ている。
 
「それは真っ先にそれを検討しました──でも、それって一種のジレンマじゃ
ないですか」
「ジレンマ?」
「彼女に執着しないボクが、彼女が消えないことを切に願うか否か」 
 グラスを目線の高さにあげて、グラス越しに相手を見ながら、そう言う。
「難しいとこね、それ。……あたしには無理だと思うけど」
 自嘲するように言う美絵子に、達大は頷く。
「願わないでしょう? そういうことです」
「そら、ごもっともなんですけどね……」
 ああもう、と、口の中で呟いてから、真帆は背を伸ばした。
「……つーか、この場合、あの子が、消える気満々なんですよ」
 苦笑交じりに。
「……桜木さんに……あたしもちょっと訊きたかったんで」

 
 何だか知らないけれども一所懸命で、率直で。
 幸せにしたいのだ、どうしてもしたいのだ、と言い張る。
 
 冬が終わると消える……六華。

「なんで、あんなに自分の存在を否定したがるんでしょうねぇ」
 (──そこがまた、たまらなく魅力的ではあるんだけど)
 内心の声が、他人に聞こえないのは幸いだったかもしれない。
「理で生きるからこそ、かな」
「本質的には理というより情のようにも思いますけどね──ところで、お訊ね
になりたい事というのは?」
 丁寧な問いに、すぱーんと叩きつけるような疑問符がぶつけられる。
「……桜木さんは……六華の負担になりたいか否か」
「……きついな、真帆さん」
「だって、それしかないもの」
「なるほどね」
 遠慮は無いが……確かに要点は付いている、というところか。

「状況によりけり、ですね」
 答は非常にまっとうなものだった。
「支えたい、つまり負担とはまったく逆の役をしたいとも思いますし。逆に甘
えさせて欲しい時だってあるでしょう」
 ほんとうに、その答は、まっとうで。
 ……故に一言で両断される。
「………無い」
「男女の機微ってもんだと思いますけど──その辺の感覚も、ボクと彼女とで
はズレてるわけですね。つまり」
「ずれてんのは、多分六華のほうでしょうけれども」
 遠慮会釈の無い言葉が返る。
「あの子は、多分甘えさせて欲しいと思うことを、自分に許しませんよ」
 
 よく考えれば一ヶ月。
 二人で使う鍵が、殆ど毎度、一つで済んでいるのである。
 こちらの行動を適当にではあるが読み、くどくならない程度に尋ね、そして
ごく自然に邪魔にならないように動く。
 そこに甘えは、無い。

「そういうとこ、別な意味で武士よね」
「……うん」
 その表現には、達大も内心頷く。
(サムライ──なるほど、確かに凛々しいわな)
 頷きながら、言葉を継ぐ。
「強要をするつもりはありませんよ」
「……強要、じゃないんですよ」
 やはり癖なのだろう、こめかみを指でこすりながら、真帆は苦笑した。

「六華って、案外、すとーんと人の懐に入るでしょ?」
「懐どころか──」
 つい、語尾をぼやかす。そう、懐どころか……
「だから誤解されるけど……懐に入っても、あの子は崩れない。自分の領域は
崩さない」
「そうですね」
「……そういうとこ、やっぱプロよね」
「──プロ?」
 訊き返しながら、しかしどこかで納得している。
 ああやはり、と。

 『太夫、雪野太夫』
 それはつまり――――

「……ああ……美絵子さんは知ってた?」
「ええ、こないだ一緒に飲んだときに六華と話しててね」
 んじゃ、いーか、と、真帆は肩をすくめる。
「……あの子はね、生きてる時は、御職張ってた花魁ですよ」
 たいしたものだ、と、実際思うのだ。あの無邪気さがその間、彼女の中に保
たれていたことを思うと。
「手の内で何人転がしたかわかりゃしない」
「あの強さというか、己の強さも……そういうとこからきてるわよね」
「……きてるきてる」
 ……と。

「む──なるほど」
 妙に深々と納得している一名に、後の二名が首を傾げる。その様子に構う素
振りも無く、達大は言葉を続ける。
「道理で、花魁に入れ揚げてるしょーもない大店の若旦那になったような気分
になるわけだ」
 がく、と、真帆が前につんのめった。
「……笑えないわよ、それ」
「このまま行くと、身代潰しかねませんからねぇ」
 飄々として言ってのける……その内容もおいおいってなものだが。
「……で、若旦那としては、あれですか」
 よいしょ、と、身を起こした真帆の返しも相当である。
「手に入らない御職だから欲しくなった、と?」
(なんだかなあ、この二人)
 会話が見事に成り立つのが、問題のような……おかしいような。
 美絵子が見物している先で、どこか切り合いめいた会話が進む。
「それはまた別のお話ですね──まぁ、確かにあっさり手に入るものよりはあ
りがたみがありましょうけども」
 受けて流して。
「言ってみればオマケみたいなもんです。彼女の魅力は──そういう環境で身
についたものではあるかもしれませんが、その環境そのものじゃない」
「……まあ、ね」
「確かに、彼女自身の資質よね」

 今の世では、悲惨とか哀話と言われるような、そんな過去を微塵も感じさせ
ない。
 それは確かに六華の資質だろう。

「……ただ、恋愛と幸せとに関係が無いって言い切るところは、その環境も
ちょっと関係するかもね」
「でも実際、ないでしょう?」 
「ないない」
「より正確にはダイレクトに結びつく人と、そうでない人がいるというべきか」
 世の一般論からは多少ずれたところで、二名納得したようである。

「……で」
 グラスはいつのまにか空になっている。注文をしてから、真帆は苦笑交じり
に問いを放つ。
「それを知ってる若旦那はどうしてまた執着しますかね、と」
「うーん──」
 腕組みして天井を見上げて。
 理屈にならないことを、言葉で説明するのは難しい。
「……理屈じゃ、ないのよね」
「だから、困るの」
 ぽんぽん、と、やりとりは跳ねる。
 達大は一つ息を吐く。
「あえてそれらしく言ったら、欲しいから、ですかねぇ。本能に近いところに
あるんで理屈ではなんとも」
「…………欲しい、ねえ」
「わからなくもないってとこが、やっかいよね」
「いや」
 言葉の鋭さで、相手を斬るようにも。
「理屈で割り切る奴には、通じないよ?」
 達大は苦笑する。
「論理で言うなら、彼女の存在がボクを幸せにしてくれるから」
「…………ああ、それなら少しわかります」

 元気が良くて、一所懸命で。
 ……でもそんな理由が後付けに思われるくらいに。
 視線を握りこまれるように――――

「……とりあえず、まず第一に」
「第一に?」
「あの莫迦者がどうしてまた、消えるのをきっちり覚悟したのか、が問題」
 
 この数日に、その原因がある、と、真帆は言う。

「望みが叶いそうだから、かな──たぶん」
 幸久と美絵子の間を取り持って、大いに動いていた数日なのである。
「叶いそう、に見えないんですけどね」
 真帆は眉をしかめて、視線を流す。流されたほうは視線を空に泳がせる。
「とにかく、その原因をほどけば、あの子の消えたいってのも少しは揺らぐと
思うんだけど」
「ちなみに、その案はボクも提案してみましたが。それなら、やっぱり消える
とおっしゃってましたよ」
「いや、ゆっ……じゃない、幸久さんのこと、じゃなくて」
 わけが、わからない。
「だって、消えれば幸せになる奴がいるもの。六華の論理にしてみれば」
 苛々と言葉を継いだ真帆に、ふと、美絵子は目を上げた。
「……幸久に似ただれかのこと、かな」

 (あのねー、情の強い人は、本当に理の強い人間には、勝てないですよー)
 (だから、もう、いやだなって思いました)
 まるで、誰か、思い当たる相手がいたように。
 そんな台詞を……
 
「……それ」
 ぴ、と真帆が指を立てる。
「六華の後ろに憑いてる奴」
「……憑いてる、ねえ」
「はぁ──そんな方が」
「もーそりゃばりばりに」

 長い髪を振り乱し。
 ゆきの、ゆきの、と、叫んでいた顔。

「多分ね。幸久さんを幸せにし損ねたとしても、自分が消えればその憑いてる
奴は幸せになる。両方に掛けて、どっちにしても誰かは幸せ、万歳……っての
を狙ってるんじゃないのかな」
 あ、なるほど、と、美絵子は呟いた。
「……憑いてる人を幸せにしたいから、憑いてる人ににた幸久にちょっかいか
けてきたってことかな」
「……多分、ね」

 理屈は、わかる。
 ……ただしかし、それで納得が行くかどうかは、全くの別問題であり……
 そして今更どうして、六華が決意を固めたのかについては、全く回答になっ
てない。
 うーん、と、真帆が頭をかかえたところで。
 
「もしかして、この櫛が関係あるんでしょうか」
 す、と。
 掌に収まるほどの大きさの櫛が、目の前に出てくる。
 黒の地に、銀と貝の象嵌で、桜の文様が描かれている。
 それがびっしりと歯の部分にまで至る。
  
「……それは?」
「六華さんが骨董品屋で見つけてブルー入ってました」
「……んで、何でそれをまた……」
「まぁ、情報収集はネゴの基本ですから」
 あっさりと言ってくれるものだが。
「……それだけで、結構値打ちものな櫛、買っちゃうのね……」
 指を伸ばし、触れてみる。
 見事な象嵌の模様は、しかし触れると指には伝わらない。一つ一つがごく丁
寧に埋め込まれ、
研がれているに相違ない。
 相当の、細工物だ……と、大して詳しくなくとも判る品である。
「すごいような……わからなくもないような」
「……まじに若旦那だわ」
 口々に言われて、達大は肩をすくめた。
「そんなに高くなかったですよ? 細工が随分と見事なのに、なんでこんなに
安いんだろうと思ったんですが」
「……が?」
(まぁ、要するに曰く付きだったわけだ)
 まさか、櫛が雪野太夫と呼んでいた……とは言えない。
「いえ──ともかくも、元花魁ということなら、こういう品ともご縁があって
も不自然じゃないわけですね」

 改めて、美絵子は櫛を見る。
 幾ら安いにしても……それなりの値段はするだろう、と見当がつく品である。
 それを、衝動買いするかなあ、と……正直、思いつつ。
(でも、そーいう気持ち、わかるのよね……)
 あとの半分で、そんなことを思ってしまったりする。
 ……何となく……微妙なものがあったりする。

「……その収集した情報、ちょっと吐いて頂けると助かりますが」
 そしてこういう場合、その手の微妙な部分を放り出すのは真帆のほうである。
「ちょっとばかり、妙な人になってもいいですか?」
「あ、全然構いません」
「具体的には、モノと会話する電波入ったサラリーマン、なんですけど」
 突然会って、突然会話して、の相手の異能に、しかしこの二名見事に平然と
したもので。
「…んなもん気にしてたら、六華をうちに泊めてませんよ」
「……変な奴には慣れてるわよ」
 心強いというか……妙というか。
 とりあえず、今のところは好都合である。
「それでは失礼して──そんなわけで、軽くアナタのことをお聞きしたいんで
すけども。上品な螺鈿のお嬢様」
 丁重に螺鈿の櫛を捧げ持つようにして、そう呟く。
 暫くの、沈黙の後。

「ふむ──どうやら、元の持ち主は、その怨霊のお嬢さんだったみたいですね」
「……それで曰くつきなわけね」
「……あ、六華じゃないんだ」
「で、怨霊のお嬢さんが襲い掛かったので、雪野さ──いや、六華さんが正当
防衛したところ、うっかり死んじゃったと」
 軽い言い方だが、内容はかなり深刻なものである。
「……そういう曰くか」
 真帆が、小さく呟いた。


 ……と。
 ころころ、と、流れるような電子音の連なり。
「あ、あたしだ……もしもし?」
 カバンから素早く携帯を抜き取った美絵子は、声を聴くなり、少し目を見開
いた。
「あー……うん、大丈夫よ、今から行くから……ええ、はい」
 指でボタンを押して、通話を止めて。
 そして、くすっと笑う。
「……話題の人からの電話でした」
「あーー」
「じゃ、ボクも御一緒していいですか」
「いいですけど。真帆さんは?」
「あたしは行ったらまずいでしょ」
 
 消えるのだ、こんどこそ消えるのだ、と。
 そう言い張る相手を、どうやってこの世に留めるか。
 そんなことを話しあっていたなどと六華に知れたら、後が非常に面倒である。

「……あ、そんで、桜木さん」
 上着に手を通しながら、真帆が口を開いた。
「はい?」
「明日くらい、お時間無いですか?……出来れば夕方くらいに」
「六華さんのことで?」
「無論」
 ぶっきらぼうな一言が、妙に焦って聞こえる。
「……この際、若旦那のお手を拝借したいもんで」
「構わないです。そしたら」
「あ、あたし携帯持ってないんで……こちらから連絡しましょうか?」
「お願いします」
 電話番号を教える。カバンからメモを出して、その番号を書き取る。
 そういえば……案外最近珍しい光景である。
「……嫌いなんですよ、携帯」
 視線に目をあげて、真帆は笑った。
「多分、六華もそうじゃないかな」
「六華さんも?」
「あれ持ってると、消えられないですからね」

 そんな、一言を。
 なんでもなげに。

「じゃ……明日五時頃電話します」
「お願いします」
 
 冬が終わって、春が来て。
 誰かが幸せになったら。

 なってしまったら。

 (ようやっと、あたし消えます)

 嬉しそうに言う相手を、どうやったらこの世に留め得るのか――――

 お勘定、はい別々で。
 その声に、財布を引っ張り出しながら。

 三人分の、溜息が揃った。


時系列
------
2005年2月半ば。
『空即是色』『雪兎』の数日後。

解説
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時間制限のある、冬女六華。本人もまだ全ての記憶を取り戻していないのですが。
彼女を引き止めるための策謀……その一、です。

参考ログ
--------
http://kataribe.com/IRC/KA-02/2005/02/20050217.html#000001
から、一時間ちょっとです。
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話すは一時間、処理は(以下略)
ではでは〜


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