[KATARIBE 28471] [HA06N] 小説『無血の傷』

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Date: Tue, 22 Feb 2005 23:01:54 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28471] [HA06N] 小説『無血の傷』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月22日:23時01分54秒
Sub:[HA06N]小説『無血の傷』:
From:久志


 ちは、久志です。

 なんとなく、とりあえず先日の真帆さんの話に対する返事ということで。
 小説『Dear My』に続くお話、相羽先輩と真帆さんの会話です。

 真帆さんがほとんどしゃべってないので、何か台詞があったら入れちゃって
みてください。>いーさん

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小説『無血の傷』
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登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警巡査。ヘンな先輩。またの名をおネエちゃんマスター
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :小市民。毒舌家で酒豪。 

酒飲む人と菓子食う人
--------------------

 ことん、と。湯飲みを置く。
 居酒屋にしては、飲み始めるにはまだ少々早い時間帯。
 まあどの道、飲めない下戸な俺にはあんまり関係ないんだけどね。

「なるほどね」
「……ええ」

 奇麗なお菓子をみつけたのでと、誘われて。
 いつの間にか何気なく居酒屋で相手の話を聞くという流れになっていた。
 まあ、俺としては話聞く分には全く構わないし、ついでに好物の砂糖菓子も
ついてくるとなれば大歓迎だ。
 どの道、話を聞いてたところで。多分、悪いけど俺には心にはかからないだ
ろうし、明日になれば仕事に追われてすぐに忘れると思う。まあ、逆にこうい
う俺みたいな性格だからこそ、かえって話しやすいってのもあるらしいが。

 薄紅色の平べったい板状の飴をひとつつまむ。
 有平糖といったこの飴は、砂糖をあめと煮詰めて作られた砂糖菓子らしい。
菓子は好きだが、製法とか種類とかにはたいして詳しくないもんでよくは知ら
ないが、なかなか甘くて舌に心地いい。
 ころころと舌の上で飴を転がす、砂糖の甘さが口の中にふんわり広がる。
 熱いお茶を一口含んで、ゆっくりと甘さを味わう。

 可愛がってくれた祖母。
 正直、俺にはあまりピンとこない。

 まあ、俺自身に祖父母ってもんがいなかったせいもあるけれど。
 別段、両親共に訳あり家庭だったわけでもなく、双方普通の家庭に育ったら
しいけど、どちらも俺が生まれた頃には双方の両親は既にいなかった。
 元々縁が薄いせいかめぼしい親戚もなく、帰省するところもなく。人から聞
く故郷とか実家とかそういうもんに関して、あまり感傷が湧かない。
 だからそんな風に、失うことを恐れたり悲しんだりできるというのは、正直
うらやましいとも思う。

「……いやな時差です」
「ふむ」

 お茶を一口。
 かすかに残ったほのかな甘さと一緒に飲み込む。

「心斬っても、血出ないしね」
「……でませんねえ」
「だから、すぐにはわかんないのかもね」
「ええ」
「まあだから、斬っても貧血起こさずに済むんだけどさ」
「相羽さんは斬るほうですか」
「そらあもう、バッサリ容赦なく」
「それは怖い」

 理と情。
 どっちかというと俺は理に走ってるとは思う。
 情が全くないとは言わないが。

 理が情に追いつく、時差。
 追いつかせない為に、たぶん俺はひたすら突っ走ってるんだと思う。

「正直ね、俺にはわかんないんだよね」
「……はい」
「俺にとってそういう人いなかったし」
「……」

 何一つ返すことを期待されないほどに愛される。
 なんでだろうね、愛されたことが全くないわけでもないはずなのに、まるで
すべり落ちていくように実感がさっぱり湧いてこない。

「愛されたことなかったとは言わないけどね」
「はい」
「たぶん親は愛してたんだろうし。俺だって親はなにより大切だった」

 なんでだろうね。

「でもなんでかね、今の俺にはそゆことさっぱりわからない」
「……そう、ですか」

 中学の時に母親死んで、高校の時に親父が死んで。

「親、死んだとき。俺泣いたよ、ボロボロになるほど」
「……はい」
「引き取ってくれる親戚もいなくて天涯孤独だったしね。でもそんときゃもう
高校生だったから、保護者いないと生きてけないわけでもなくて、とりあえず
生活してなんとか大学出られるくらいの遺産は残してもらったから」
「一人で?」
「まあね」

 あんときは、誰もいない家でぼんやり考え事ばかりしてたような気がする。
 注意する奴も心配する奴もいなくて気楽だ、なんて思った時もある。
 けど、何をしても自由だと思うと、逆に何もする気がなくなって。

「一人きりだと、さ。いらんことばっか考えない?」
「それはありますね」
「んで、考えた結果が今の俺」
「……成程」
「無駄に考える時間多いと駄目だね。考えつきぬけちゃうからさ」

 ひとつ、飴を口に放り込む。
 つきぬけて、走り抜けて、何も残らない。残ることに期待をすることすらし
なくなって、もう何年かねえ?
 たぶん、止まったら俺死ねそうだし。やっぱ走るしかないんだろうけど。

「いいか悪いかは、わかんないけどね」
「……でも、その強さはうらやましいですよ」

 ころころと舌の上で飴が転がる。

 心斬っても、血は出ない。
 血が出ないから、傷の具合もわからない。

 今思えば、ひょっとしたら、あの頃の傷は相当深かったのかもしれない。
 こんなんなった今となっては、もうわからないことだけど。

時系列 
------ 
 2005年2月半ば 
解説 
---- 
 酒飲む真帆さんと菓子食う相羽先輩。小説『Dear My』の後の話。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。

 ちょっとした先輩の過去が垣間見えます。




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