[KATARIBE 28436] [HA06N] 小説『路地裏』

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Date: Sun, 13 Feb 2005 23:49:03 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28436] [HA06N] 小説『路地裏』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月13日:23時49分03秒
Sub:[HA06N]小説『路地裏』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
冬女書いてて、真帆の異能書いてて、ふと思いつきました。
幸久さんお借りしてます。

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小説『路地裏』
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ):
   霊感葬儀屋さん。恋愛が絡まないと強い。
 軽部真帆(かるべ・まほ):
   自称一般人。幽霊を実体化させる異能の持ち主。


本文
----

 その路地は、いつも薄暗かった。
 夜には両側の壁に映る影の色が、ようやっと周りの闇を少し和らげるように
見える。
 それほどに、暗い路地の壁にもたれて。

 探している。
 ずっと探している。

 
 ……ふと、気配がして、彼女は顔をあげる。


 路地の向こうから、やってくるのは二人。一人は女性、一人は男性。
 黒いコート。黒い服。
 ほとほとと、足音は決して大きくはない。

 ほとほと、と。

 一瞬だけ、その歩みが止まる。何やら話している気配。
 そして。

「どうしました?」

 気が付くと、すぐそこに女性がいる。
 薄暗い中、黒っぽい上着と髪の毛に挟まれて、顔だけがぼんやりと浮かんで
見える。

「……探してるんです」
「って、落し物、ですか?」
「ええ」
 探して、探して、探して、探して。
「右手と、右足を落としたんです」

 探して、探して、探して、探して、

 未だに見つからない――――


「え?」
 ふと、不思議そうな声に、彼女は女のほうを見た。
「手、と、足……って?」
「え、だって、見つからな……」

 ふと、彼女は言葉を止めて、自分の手を見下ろした。

「ちゃんと、あり……ますよね?」

 けげんそうに、尋ねる声。
 

     **

 白い顔に長い髪の女は、自分の手を揃えて打ち眺めている。
 真帆は、それを眺めている。
 白い手、白い足。
 両方揃った、綺麗な手足。

 薄青い半袖のワンピースが、如何にも寒そうで。

「……でも、寒くないですか?」
「え?」
「早くあったかいとこに帰ったほうがいいですよ」

 首に巻いたスカーフを外す。大判のそれを、相手の首にふわりとかけて。

「風邪、引かないで下さいね」


 彼女は黙ってスカーフに指をすべらせる。
 ぺこり、と、一礼して、真帆は歩き出す。
 黙って見ていた幸久が、それに続く。

 そのまま、暫く。


 くん、と、肘のあたりを引っ張られて、真帆は足を止めた。

「見たろ」
「……女の子を、ね」

 おい、と、低い声が返る。

「だって、両手両足ありましたっしょ?」
「どう見ても、この寒い中夏服で」
「でも、スカーフかかりましたっしょ?」
「……そうかもしれねえが……」

 面倒な奴、と、小さく呟く声。
 いやそうだろうね、と、心中真帆は頷いている。

「……つか、相手に聞こえるかな」
「さあ」

 肩越しに、後ろを振り返る。
 暗い路地の、少し先。

「……あ」

 向かいの壁の影だけが残っている。
 そこに居た筈の、誰かは。

「居ない?」
「いや」

 そのまま黙って、幸久はその場所を見ている。
 真帆の目には、そこには何の揺らぎも無く。

「……何が見えてるの」
「さっきの女」
「……へえ」

 視線の先を、辿る。
 やはりそこには、何も見えず。

「寒くない、かな」
「ああ」

 その視線をやはり闇の中に据えたまま、ふと幸久が笑う。
 
「……良かったな」

 そのまま、数瞬。
 ……そして。

 ふう、と。

「あ…………」

 風、の、ような……

         …………気配?

「消えたよ」
「消えた、のか」

 ああ、やっぱり、と、真帆が呟く。

「見えたか?」
「いや、何となく気配」
「成程」

 それだけ言うと、幸久は足早に歩き出す。
 真帆はその後に続く。

「……何が見えたの?」
「笑ってた」
「笑って?」
「……手と足が、あった、って」

 細い綺麗な手だった。
 すらりとした足だった。

 白い儚い…………

「笑ってたんなら、それは良かった」
「……だな」

 細い路地を、真っ直ぐに抜けてゆく。
 (天神様の細道じゃ)
 そんな童歌を、ふと思い出す。

「……でも、また戻ったりするかな」
「知らねえよ」
 あっさりと言って……そして言葉を継ぐ。
「戻らないことも、あると思うけど」
「……ふうん」


 ふと、もう一度振り返ってみる。
 その路地は、もう、そんなに暗いところには見えなかった。



時系列
-------
2005年1月の半ば頃

解説
----
 怪異実体化の能力を持つ真帆には、幽霊が幽霊とは見えません。
 幽霊を幽霊と見える幸久と、幽霊を人と見る真帆と。
 同じ風景は……少しだけ違うようです。

*******************

てなもんで。
ではでは。


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