[KATARIBE 28425] [HA06N] 小説『戦乙女と唇と』

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Date: Sat, 12 Feb 2005 02:21:07 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28425] [HA06N] 小説『戦乙女と唇と』
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2005年02月12日:02時21分07秒
Sub:[HA06N]小説『戦乙女と唇と』:
From:久志


 久志です。

 美絵子と六華さんと達大さんとの会話の中で。
戦乙女というフレーズがでていたく気に入ったので一本お話にしてみました。

 ちなみに出てきた女の子はゆっきーが一年の頃のファーストキスのお相手
だったりもします。

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小説『戦乙女と唇と』
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登場キャラクター 
---------------- 
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :芽衣の親友。幸久に告白し、恋人になる。 
     :当時高校三年生。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :常に蚊帳の外の当事者。 
     :当時高校三年生。

最近の憂鬱
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 夏休みも間近なこの頃。
 今から休みに向けて予定の話し合いやら、夏期講習の予定やらで、休み時間
中も放課後もおしゃべりが絶えない。

 そんな中。
 最近、何かにつけあいつに絡んでくる子がいる。
 なんていうか絡むっていうか、ぶっちゃけあきらかに色目を使ってる。

 あいつ、こと本宮幸久。一応、私の彼氏。

「幸久くーん」
「ん?」
「ちょっと手伝って欲しいんだけど……」
「どしたん?」

 ていうかねえ、あんた。あからさますぎんのよ。
 まあ、幸久当人はさっぱり気づいてないみたいだけど。


 仲本佐緒里。
 よく手入れされた長い髪にちょっと潤んだ目、可愛くてちょっとこずるい雰
囲気があって、いわゆる男子には絶大な人気があって女子にはさっぱりという
とてもわかりやすい子。
 ユキこと幸久も、一年の頃この子に熱を上げていたのを覚えている。
 まあ、本人は当時学校中で人気だった友久先輩にあこがれていたらしいけど。

 ていうか、なんで今更相手にもしてなかったユキに手出してくるわけ?

放課後の
--------

 授業も終わって。
 すっかり人もいなくなった教室で、あたしは当番の日記を書いてる。
 てか、ユキのやつまたサボったわね。あいつ、また屋上かな、もう。

 ふと、視界にゆらりと長い黒髪が見えた。
 あの子だ。

「ねえ、幸久くんいる?」

 ちょっと、待ちなさいよ。それをあたしに聞く?普通?

「いないけど?」
「なんだ、ちょっと聞きたいことあったのに」

 こう。
 なんていうか。
 もう、あきらかに目がケンカ売ってる。

 かあん、と。
 心の中で、ゴングが鳴る。

「先、言っとくけど」

 先手必勝。

「あたしの、ですから」
「そうかな?」

 余裕かました小面憎い顔、この顔あいつに見せてやりたいわよ。

「まだ、私のこと意識してると思うんだけど」

 返す言葉もない。
 あいつがまだどこかでこの子を気にかけてるのは、気づいてる。

「人のになってから欲しがるって子供みたいよね、あさましいな」
「さすが、親友だしぬいた子は言うことが違うわね」

 間髪いれずバシッと叩き返してくる。
 こんの女、にくったらしいったらもう。

「お兄さんの身代わりでごまかそうとする子よりはマシかもね」
「今は違うから」

 言葉に詰まる。

「私、好きだから」
「ふうん」

 動揺、悟られないように。

「も一度言っとくけど今はあたしの。それが現実。いまさら気づいても遅いん
だからね」
「そんなの、気にしないけど」

 むかあ。
 こいつ、ほんっとにヤな女。てか、騒いでる男どもに聞きたいわよ、どこが
いいのよこの腹黒。ホント見た目でしか判断しないんだから、男って。

「あたしとっくにあなたよりリードしてるけど?」
「私も負けてないはずだけどな」
「なんでよ」
「私、一年の時幸久くんとキスしたことあるもの」

 がつん、と、きた。ボディブローのように。
 でも、それ悟られるのがシャクに触る。

「それで?」
「まだ、私に会うと意識してるってことは、脈あるってことだと思うな」
「なんだ、その程度?」

 正直えらそうなことなんて言えない、けど。これは退けない。

「でも結局、あたしのとこ来てるってことは、その脈意味ないよね」
「……そうかなあ」

 水面下のにらみ合い。
 こう、自分で言うのもなんだけど、女のケンカって地味で陰湿よね。


 と、教室のドアが開いた。
 ひょいと覗き込んできたのは。

「美絵子ぉ、いるか?」

「ユキ!」
「幸久くん」

 同時に出る声。
 ていうか、もう普段の仮面かぶってるわね、こいつ。

「ワリぃ、ちょっとボタンとれちまったんだけどさ、縫ってくんない?」
「まーたケンカでもしてとれたの?もう」

 わざとらしく目の前であいつの腕を引っ張っていく。

「…………」

 ちらり、と。あの子と目があう。
 たぶん、今。火花飛んでる。

やっぱり気になる
----------------

 あの後。
 あいつと一緒に屋上で並んで座りながら。

「ったく、あの野郎」

 隣でシャツ代わりのジャージを着たままぶつぶついってる。やっぱりケンカ
してたんじゃない、この馬鹿。
 見事に全部吹っ飛んだボタンをひとつひとつ縫いつけながら、あの子の言葉
を思い出す。

『私、好きだから』

 どこまで本気なのかしらね。
 単に人のになったからとかのほうが、まだマシだけど。

『私、一年の時幸久くんとキスしたことあるもの』

 いたたたた。
 ってか、ホントかしらね。
 まったくありえない話でもないってところが、なあ。ユキのことだし。

「ほら、直ったわよ」
「お、サンキュ」

 立ち上がって、スカートの汚れを払う。
 一応、着替えるときは後ろ向いて。

 なんだか、なあ。
 別に、昔のことどうこういうわけじゃないし。
 あの子に張り合いたい、というわけでもないけど。

 でも。

「ユキ」
「ん?」

 なんかくやしいじゃない、そーいうの。

「キスしよっか」
「え?」

 なによその鳩が豆鉄砲くらったような顔。

「いやなの」
「いやじゃねえよっ!……って、いいの?」

 後ろに手を組んだまま、目を閉じる。


 短いような、長いような、空白。


「……帰ろ、か?」
「うん」

 ちょっと、すっきりした、かな。
 別段レモンの味じゃなかったけど。

時系列と舞台 
------------ 
 1995年 吹利学院高校 
解説 
---- 
 学生時代の美絵子と幸久。女の争いの最中、やっぱり幸久蚊帳の外。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上

 女の戦いは怖いですね。



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