[KATARIBE 28421] [HA06N] 小説『冬女』第七章

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Date: Fri, 11 Feb 2005 20:42:54 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28421] [HA06N] 小説『冬女』第七章
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月11日:20時42分53秒
Sub:[HA06N]小説『冬女』第七章:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
用事が何とか少し速めに一つ済みました(あとひとつー)

と、ゆーわけで。
冬女、送ります。
この前のIRC使ってます。
久志さん、変だったらがしがしつっこみ御願いします。

************************:
小説『冬女』七の章
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登場人物
--------
 六華(りっか):
   自称冬女。雪を降らす異能有り。酒豪。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ):
   一見のほほんな刑事。酒豪。
 軽部真帆(かるべ・まほ):
   物語の語り手。ごく普通の小市民(自称)。現在六華が同居中。

本文
----

 たらしこむ、という技法があると思う。
 普通は、男性が女性を、もしくはその逆だと思うけど。
 もし、万人に通用する『たらしこみ』方法があるならば、それは案外、性別
に伴う魅力をある程度排除したものじゃないのかなあ……
……などと、六華を見ていると思ったりする。
 一応美人で、ほんわりとしてて、華奢で。
 その癖全然女性らしくなくて、毒舌で、放言しまくりで。
 それでも妙に人に好かれるって、それはそれで相当の技術というか天然とい
うか、だと思う。

 最大の矛盾は、それでも彼女があたしと同類、というところに尽きるのかも
しれない。
 強固な理の盾を、前面に押し出す人種である、という意味で。

      **

 またも、聞いた話である。


「悪女、ねえ」
「そそられるとか言うし」
「……それは、言いそうだ」
「莫迦ーとか言っちゃいました」
「いや、言って直るなら馬鹿ともいいますがね」
 結局、史久が来てからすぐに、幸久は沈没した。
「てか、治るとは思ってませんけどー」
 3人のうち、最も毒舌度の低い(相対的に)一名が潰れたわけである。当然
(?)残った二人の毒舌は、潰れた一名のほうに向かう。だいたいこの二人、
共通の話題といえば先日夜中に出会ったこと、くらいである。どうしたって幸
久が酒の肴になる。
「だから難儀なんだよね」
「おにーさん大変ですねー」
 酔わない奴がグラスで呑むと、どうしても酒の減り具合は早くなる。まあゆっ
くり、というところでグラスを猪口に変えてもらった六華がくすくすと笑う。
「年季はいってますから」
 苦笑しながら、史久は弟のほうを見やる。
 うーん、と、小さく唸って、六華は首を傾げた。

「でもね、思うんですよー」
「ん?」
 猪口を傾けながら、史久が促す。
「どうして……誰かを、手に、いれたいんだろーなって」
「厳しいご意見ですね」
「厳しくはないですよー」
 ほわんとした口調と、ゆったりとした口調と。
 内容の割にどちらもほのぼのと聞こえるのは……人徳と言ってよいのか悪い
のか。

「まあ、でも。僕は誰かが欲しいというこいつの気持ちもわからなくもないで
すから」
「や、えと、欲しい、は判りますけど」
 わたわた、と、六華が手を動かす。
「ええと、けどでも」
「まあ、それに答えてくれる相手を見つける目がないというのが、一番の問題
なのであって、ね」
 前回も前々回も、と、どれだけ重ねれば懲りるんだろうなあ……というのは、
流石に兄として心配なことなのだが。

「……てゆか……うーん」
 少し困ったように、六華が額を指の関節で擦り……そのまま、手をひょいと
かざした。
「えとですね、おにーさん、ちょっと手を、こーやってみてくださいな」
「はい?」
 右の掌を広げて、史久に向ける。『そこでストップ』の手つきといえば分か
りがいいか。
「こうですか」
「うん」
 こくり、と、六華が頷く。
「それが、酔っ払いさん」
「はい」
「んで、酔っ払いさんは」
 言いながら、今度は自分の手を軽く握って。
「誰かが手をこうやってぶつけると」
 そのまま史久の掌に軽くぶつける。
「はい」
 受けた史久の右手の指を、空いた左手で軽く撫でるようにして折り曲げて。
「握手じゃなくて、かぱっと止めて、握ってる」
「ふむ」
 六華の手が小さいせいもあるが、丁度史久の手が六華の拳を包む格好になっ
ている。

「でも、恋愛って言うなら、握手しないとなーって思うんですよー」
 ふわ、と、拳が解ける。そのまま手を握り替えて。
「……ね」
「ああ……成程ね」
 握手した手を一度揺するようにして、そのまままた解く。解いた手は徳利に
伸びて。
「どぞ」
「ああ、どうも」
「だから、莫迦」
 さらり、と、言い切る。
「なんとなくわかります」
 さらり、と頷く。
 言われている本人は……幸か不幸か潰れたまま動かない。

「そういうとこ、不器用なやつだからなあ」
「……でも、不器用とかゆーてたら、ぶつかったおねーさん多分傷つきますよー」
 こっちの手、とばかりに右手を拳にしてみせると、またその手を開く。ゆっ
くりとその手を下ろしながら、六華はぽつりと言った。
「……だからあたしは、この人には幸せになってほしーんですよー」
「……そうですね」
 いつの間にか徳利が空になる。
「何頼みます?」
「おにーさんどーぞ。あたし呑み過ぎです」
「まだ平気じゃないですか?」
「へーきですけどね……どぞ」
 渡されたメニューを開く。
「妙に東北系のお酒が強いな、ここ」
「あ、それ思いましたー」
 じゃ、これとこれ、と、注文を済ませてから、史久は改めて弟のほうを見やっ
た。
「素直に手を出してくれる人は、いなくもないのに」
 毎度毎度のことながら、後半は溜息混じりになる。
「……こいつは素直じゃないから」
 うーん、と、また六華が唸る。

「……おにーさん」
「はい」
「どれだけ不器用でも、相手を傷つけないまま、幸せになるのってどうしたら
いーかわかります?」
 真面目に問われて、史久も真面目に返す。
「なんでしょうねえ」
「……こーやります」
 右手をぴんと広げて、先程のように顔の前にかざす。そしてそのままその手
を止める。
 一瞬、他の席のざわめきだけが耳についた。
「そして?」
「……そして誰にも触れない」
 生真面目な表情のままそう言うと、彼女はぱっと笑って手を下ろした。

「真理ですね」
 肩をすくめて笑う。確かにそれならば自分も傷つかず、他人も傷つかないだ
ろう……が。
「こいつには到底無理ですがね」
「……どうして、無理なんでしょう」
 注文した徳利を、店員が並べる。その向こうで六華は少し首を傾げた。
 存外真面目な顔である。
「結構、こいつはさみしがりの甘えたがりなんですよ」
 左手で、軽く幸久を示して。
「だから、いつも誰かがほしい」

 一瞬、妙な間が空いた。

「……どうして?」
 え、と、疑問符を発する前に六華が呟いた。
 その間を押しつぶすように、続けて言葉を紡ぐ。
「誰かを得るなんて、誰にも出来ないのに」
「できないとわかってても……いや」
 微かに鋭さを増した問いに、けれども史久はやっぱりゆったりと返す。
「できないとわかってるから欲しいんですよ」

 六華が軽く、唇を噛んだ。

「…………欲しくない、けどなー」
「それもまたひとつの形ですから」
 く、と、一度口をつぐむと、猪口に手を伸ばし、かぱっと空ける。その仕草
に余裕が無いのは分かる。
 何かに引っかかっているのは確か、でもその何かはまだ見えない。

「僕の思うやりかたとは違うし」
 何に引っかかっているのか。何にこだわっているのか。
 問うわけでもなく、宥めるわけでもなく、言葉を紡ぐ。
「こいつもこいつで、欲しい相手にはいつだって必死で一生懸命ですし……
……それをどうだこうだという気はないです」
 どこか悄然として俯いている相手に、微笑して続ける。
「子供ではありませんし、ね」
「……うん、それはそーですけど……」

 ふと、六華は顔を上げた。
 やはり……笑顔のままだった。

「でも、そやって手を伸ばして、丸め込まれて……あたしはそれで不幸になり
ました」
「なるほど」

 冬女だから長生きなのだ……と。
 最初に会った時のことをふと思い出す。
 ああ、なるほど、と。

「だからこの酔っ払いさんには、幸せになってほしい」
「そう、ですか」
「……もうこれ以上、不幸が出ないように」
「僕も、そう願います」

 動機はそれぞれ。けれども願うことは同じ。
 
「さんせーってとこで、乾杯」
「はい、乾杯」

 でもやだな、やっぱりあたし少し呑みすぎたなあ、と、六華がぼやく。
「どうしてです」
「……なんかおにーさんに毒吐いちゃいました」
「大丈夫です」
「えー」
「こいつの場合は、そんなもんじゃない」
 だから大丈夫、と続けようとしたのが……相手がなんとも珍妙な表情になっ
たのを見て、史久は口をつぐむ。
「ゆっきーさんと同じになっちゃったら、あたし終わりです」
「……忌憚無い感想を、ありがとう」
 
    ***

 異能、と、妹は言う。例えばあたしが空中に『落下する』ことや、花澄の周
りが毎度春めいていることなど。
 ただ思うんだけど、異能って、そういう……なんつか目に見えて不思議な技
能ばかりを言うものじゃない、と思う。
 ほぼ初対面の男性二名、それも(見たところは)年上の相手に向かってこれ
だけ好き放題言って、
そんじゃまた一緒にのもーね、で別れられる。
 そういうのって十分に異能じゃなかろうか、と思う。

 ……便利なのかめんどくさいのか、どうも微妙な気もするけど。

*********************

てなとこで。
ではでは。


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