[KATARIBE 28417] [HA06N] 小説『聞き込み開始』

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Date: Fri, 11 Feb 2005 16:50:39 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28417] [HA06N] 小説『聞き込み開始』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年02月11日:16時50分38秒
Sub:[HA06N]小説『聞き込み開始』:
From:久志


 ちは、久志です。

 へろりへろりと続けます。すでにツンデレじゃねー(涙)

 いつぞやどっかのチャンネルでたまにゃと猫屋さんが話してたあやしげな
無国籍地区を勝手にイメージして作ってみたりしてみました(おいおいおい)
なんかあやしすぎるんで修正はいるか場所がかわるかも……なあ。

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小説『聞き込み開始』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。ちょっと最近動揺気味。
     :2000年当時、24歳。

史久 〜思い当たる節
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 刀剣関連。一口にいってもその幅は結構広い。
 まあ、本来銃刀法という法律がある以上、普通に刀剣類を手に入れようとし
たら、手に入れることができるのは刃入れと焼き入れをされていない美術刀剣
くらいかな、それも審査をパスして登録証をもらわないといけないし。

「まあ、正規に購入する人がいるなら、ねえ」

 まあ、まさか辻斬りするためにわざわざそんな申請を出して刀剣をそろえる
ような奇特な人がいるとも思えないけど。

「やはり盗品の故売か、密売、でしょうか?」
「その線が一番ありえそうですね」

 それに一般で手に入る美術刀剣や模擬刀ではろくすっぽ人なぞ斬れないだろ
うし、まあそれでも凶器には違いないけれど。
 今回の事件で使われたと思われる刀剣は相当な斬れ味を持っていると推察さ
れるし、そんな業物を手に入れようとするからには。まあ、一般でないルート
で手に入れるしかないわけで。

「故売、密売ルートかあ」

 なんとなく、そういう路線の思い当たる節を手繰ってみる。
 その手のルートはまったく知らないわけではない。
 けど。

「少し、物騒なんだよなあ」
「ええ、でしょうね」

 ええと、いや、その、警部大丈夫かなあ。

「とりあえず僕が少し思い当たるところがあります、まずそこで少し情報を集
めてみましょう」
「わかりました」

 しかし二人一組の原則上、警部を置いて行くわけにもいかないし。まあ警部
一人ならまあヤバくなってもなんとか連れて逃げられなくも無いか、先輩なら
キツイけど。


 覆面パトカーのハンドルを握って県道を走る。
 吹利市中心街からどんどん外れた細い道へと入りこんでいく。

 そこは、中心街から郊外への丁度エアポケットのような位置にある。
 窓の外は住宅街とも商店街とも似てもつかない、少々国籍の入り混じった、
ごみごみした統一感のない街並みが広がっている。

 軒先につるした干物を売る年老いた女、そのとなりでうずたかく詰まれた麻
の服を黙々と折りたたむ日本離れした顔立ちの少女、そこから少し離れた所に
は、道端の屋台で七輪にあたりながら談笑する中国系の男性が数人。
 正直、同じ吹利市内とも思えない周囲の風景に、助手席の警部が息を飲む音
が聞こえた。

「驚きました?」
「え、ええ……吹利にこういった市街があったんですね」
「まあ、無理もないかな。この付近のほんの少しの区画だけのことですから。
それに、かなり長い間立ち退き問題とかでごたごたしてて、一時期立ち入り禁
止区域だったこともあるんで」
「そうなんですか」
「それに、こういったところは、色々な温床になりやすくて、ね」
「なるほど」

 その声は冷静に答えながらも、ちょっと裏に得体の知れないものに対するか
すかな不安が感じ取れる、まあ無理もないかなあ。

 正直、僕もこの職に就くまではこの区画のことは知らなかったし。
 まあ、県警勤めになってからはしょっちゅう足を運ぶようになったけど。

 市役所や県警もこの区画にはずっと目をつけてて、いつまた立ち退き騒動が
起こってもおかしくないような、そんな中途半端な緊張感が漂っている。

「ちょっと知ってる駐車場に止めてから歩きます」
「はい」

 下手なとこで止めたりしたら怖いんだよなあ、ここ。

「少し距離あるんで、できるだけ僕から離れないように歩いてください」
「……はい」

 いやまあ、怖がらせるような言い方する僕も悪いけど。最近マシになったと
はいえ、実際あまり治安がよいとことも言えないし。


 通いこむうちにすっかり顔なじみになった駐車場のおじさんに軽く挨拶して、
警部と連れ立って入り組んだ街並みを歩く。
 猫の額程の広さしかないはずの区画に、これでもかといわんばかり露店と小
さな商店が並んで、店先に道端に国際色豊かな人が通りを行き交ってる。まる
で一昔前の香港のような印象だ。

「こっちです」
「あ、はいっ」

 隣を歩く雰囲気から緊張が伝わってくる。いやこう、気にするなといっても
無理だろうなあ。
 まあ僕もはじめてきたときはあれこれ見回して小突かれたんだよね。

「警部、毅然としていてください、なめられます」
「はい」

 背筋をすっと伸ばして、かつかつとローファーの足音を規則正しく響かせて
歩く姿は、それでもやはり多少街並みから浮いている。そしてそういう相手に
ここらの警戒心の強い住人はとても敏感だ。

 ちょっと、やばいかなあ。
 うーん。やっぱり、警部には申し訳ないけど県警で待っててもらっていたほ
うが警部のためにもよかったかもしれない。

「失礼します、警部」
「え?」

 腕を伸ばして警部の肩を引き寄せる。

「少し、急ぎます」
「は、はい」

 背後に刺さる視線、振り向かずに怯まずに飲まれずに。
 このルールさえ守っていれば、彼らは手出しはしてこない。


奈々 〜見知らぬ街並
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 一瞬、自分がどこか海外の見知らぬ街にいる錯覚をおぼえた。

 12歳まで、吹利で生まれ育った自分だったけど。
 ずっと、こんな地区があることすら知らなかった。

 肩に回った手。

 あの本宮巡査がひどく真剣な顔で急ぎ足で歩いている。
 その足取りについて行けるよう、足がもつれそうになるのを必死にこらえて
駆け足であわせる。

 しっかりしなければ。

 彼の足手まといにだけは、なりたくない。


史久 〜商談
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 小さな商店と商店の間にぽっかりと開いた地下への階段。

「ここです」
「……は、はい」

 少し切れがちな呼吸を抑えながら警部が頷く。

「警部」
「はい」
「ここでは警部は絶対身分を明かさないようにしてください」
「……はい」

 下手に知られたりしたら、警部の不慣れな様子につけ入ってこようと狙う輩
は山ほど出てくるだろうしなあ。

「行きましょうか」
「はい」

 一歩一歩、暗い階段を下りていく。突き当たりの少しガタのきたドアを押す
とかすかな悲鳴を上げるようにゆっくりと開いた。

 あやしげな入り口から見ると、中は意外なほど普通な雰囲気に包まれている。
 背後で少しほっとしたような雰囲気の警部の気配を感じつつ、店の奥へと足
をすすめる。
 ちょっと透かし彫りのはいったアンティーク調のテーブルセットが少し暗い
店内のあちこちに綺麗に置かれ、数人の客が見える。談笑するもの、刻み煙草
をくわえているもの、将棋に似た陣取りゲームに興じるもの。
 そして。
 店の最奥にあるテーブル席。一人の金髪に細面の青年が、小皿にのったザラ
メを指でつまんで舐めながら、紹興酒をちびちびとあおっている。
 一口二口。飲んでは舐めてを繰り返しながら、ふと動きをとめて胸ポケット
を漁り、しわくちゃになったハイライトを一本取り出す。

「火、つけましょうか?」

 細面の青年が動きを止める。

「なンだい、てめえは」
「どうぞ」

 トレンチコートのポケットから古ぼけた百円ライターを差し出す。
 どこにでも売ってるようなありふれたライターの側面に少し消えかかった電
話番号がプリントしてある。
 その番号を横目で見て、青年が哂った。

「何が欲しい?兄ちゃん」
「そうですねえ」

 とんとん、とライターでテーブルを軽く叩く。

「最近、ここらで刀剣類を買った顧客の話、かなあ」

 青年の両目がぎゅっと釣りあがる。

「……アンタ、何モンだ」
「しがないドブねずみです」

 立ち上がろうとした青年の肩をつかんで押さえる。

「まあ、穏やかにお願いしますよ。僕も座りましょうか」

 青年の肩を押さえた手はそのまま、あごで警部を促して僕も席につく。
 店員に片手を挙げて。

「お茶二つ、いただけます?」
「かしこまりました」

 礼をして去っていく店員を見送って、肩においた手の力を少しゆるめた。

「汚えねずみと話すことなんざねえ、かえンな」
「まあまあ、落ち着いて」

 別に君をとって食おうってわけじゃあないんだから、ねえ。

「ちょっとした事件がありまして、こちらはちょっと最近刀剣類を購入した人
を洗いたいだけなんですよ」
「話すこたねえ、帰れ」
「いやいや、そうもいかないんですよ」
「アンタの都合なぞ知るか、こっちは信用第一なンだよ」
「いえ、そうも言ってられなくなっちゃいますよ」

 まあ、こっからは適当に。

「真偽はともかく、ここから流れたらしい武器で凶悪犯罪が起きた、と広まっ
たら、困るのはここの人たちでしょう?」
「…………」
「ここ潰したがっている人が沢山いるのはご存知ですよね?」
「関係ねえな」
「あなたになくても、ここから何もでてなくとも、潰す口実はなんでもいいん
です」

 まあ、今までの区画立ち退き騒動だって、ほとんどが言いがかりのようなも
のばっかりだったし。県警だって半分こじつけみたいな理由で一斉捜索だのガ
サ入れだのが何度もやったわけだし。

「こちらとしては、魚を泳がせる場所が減る程度ですけど、あなたがたにはど
うでしょう?」
「きたねえ野郎だ」

 いやまったく、僕もこういうやりかたは好きじゃないです。

「ちょっとだけでいいんで、情報、いただけませんか?」
「くどい」

 肩にのせた手に力を入れる。

「こちらはね、泳がせる魚は、別に種類は何だっていいんですよ。そこで泳い
でいてさえくれればね」
「…………」
「それが別にあなたでなくても、こちらはまったく変わりない」

 かちっとライターの火をつける。

「煙草、吸わないんですか?」
「…………」
「是か否で答えてください。最近、ここで刀剣を買った人はいますか?」
「否だ」
「業物の横流しがありましたか」
「否」
「刀剣を欲しがっているという人物の話を聞いたことは?」
「否」
「先日起こった通り魔事件のことをご存知ですか?」
「否」
「ここ最近この界隈で不審な人物の話を聞きましたか?」
「否」
「最近お金に困ってたりします?」
「否」
「でもジャケットの脇のとこ穴開いてますよ」
「うるせえ」
「ザラメお好きですね、甘党なんですか?」
「ふざけてんのか!」

 手のライターの火が揺れる。

「もう一度聞く。最近、ここで刀剣を買った人はいるか?」
「否と言っているっ!」

 小さな炎が男の顔を照らす。じっと、その顔を眺める。

 神経質そうな細い目が落ち着きなさそうに、しきりにあたりの様子を窺って
いる、少し頬骨の出た細長い顔、その額にうっすらとにじんだ汗。カリカリに
脱色したと思われる細い金髪、自分で開けたのか少し曲がった位置にある金の
ピアス。

 うーん。
 シロかな、これは。

 動揺は隠してるにしろ、この感じからは裏の影は見えない。
 はずれ、かな。

 ライターを消してポケットにしまう。

「わかりました、ご協力ありがとうございます」
「ふざけんなっ」

 まあまあ、僕もずいぶん意地悪いけど、そんなに怒らないでくださいよ。
 丁度、店員の持ってきたお茶を受け取って、一口飲む。

「お騒がせしてすみませんね」
「……」

 店員のおじさんは、僕をじろりと一瞥すると何事もなかったように引き返し
ていく。

「さあて、では今日は失礼しました」

 肩に置いた手を離す。

「てめえっ」

 一瞬、僕に食ってかかろうとして、動きを止めた。

「どうかしましたか?」
「……っ」

 ちょっと笑って、目の前で中途半端にとまった手をそっと払う。
 おやおや、手震えてますね。寒いんでしょうか?それとも、怖いのかな?

 まーた先輩に腹黒呼ばわりされちゃうなあ、こりゃ。

「また、ご縁があればお会いしましょう、ね?」
「……」
「いきますか」
「は、はい」

 慌てて立ち上がる警部を横目で見ながら、札をテーブルに置く。
 まあ、ちょっと色ついてるからザラメ代にでもしてくださいよ。

「では」

 やれやれ、ここははずれ、かあ。
 次をあたるとしましょうかね。


時系列と舞台 
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 2000年2月頃 
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『今時辻斬り』のあと。
 刀剣関係の聞き込みをする史久。
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いじょ。

 お母さん、史兄ちゃんが黒いです……
 へたなヤクザより迫力がありそうです、合掌。



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