[KATARIBE 28416] [HA06N] 小説『冬女』第六章

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Date: Thu, 10 Feb 2005 23:44:08 +0900 (JST)
From: いー¥あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28416] [HA06N] 小説『冬女』第六章
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月10日:23時44分07秒
Sub:[HA06N]小説『冬女』第六章:
From:いー¥あーる


ども、いー・あーるです。
次、行きます。
この前のIRCでのチャットを、よーーーやく使えた、という奴です。

てゆかよーやっと他の人のキャラクターが出てきてる……

**********************
小説『冬女』六の章
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登場人物
--------
 六華(りっか):
   自称冬女。雪を降らす異能有り。『たらしこみ』技能有り。酒豪。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ):
   霊感葬儀屋さん。女性全般に弱いかもしれない。 
 軽部真帆(かるべ・まほ):
   物語の語り手。ごく普通の小市民(自称)。現在六華が同居中。


本文
---- 
 ここらは後から、まとめて聴いた話である。
 ついでに言うと、面倒なんで敬称略である。


       **

 人が出会う時の第一印象というのは色々なのだろうけれども。
(おいおい、やべーの憑いてんな)が第一印象になるって例も、少ないんじゃ
ないだろうか。

 宵の口、の時刻から少し過ぎた頃に、幸久は丁度歩道橋を渡っていた。

 歩道橋の階段を昇って。
 案外長い歩道橋に、けれどもあまり人は通らない。遠回りでも次の角にある
横断歩道を使う人のほうが多いらしい。
 階段を登りつめたところで、幸久は少し足を止めた。

 向こう岸から、陽炎のように立ち上がる、朱の色。
 特殊な視覚能力のある者には、向こうの風景が見えないほどの、圧倒的な密
度の炎。
 その中に混ざる、幾筋もの黒い……女の髪。
 瘴気。

(相当やべー奴が憑いてんな)

 そして階段の縁からぽっこりと顔が出てくる。
 女……まだ若い。白い顔と長い髪。
 後ろにどろどろと滴るような怨念を従えて、けれども本人は至極呑気にある
いてくる。

(気がついてねえのかよ)
 
 それならそれで、別にこちらから関わる必要はない。確かに碌でもないモノ
だろうが、本人が気がついていないのに、わざわざ言い立てることもあるまい。

 ……などと考えながら、歩を進める。わざとらしくない程度に目を逸らし、
相手とすれ違おうとした、時に。

(うわっ)

 朱の瘴気と、黒の髪。縺れ絡まる二色の中にある筈の顔は、外からは良く見
えない。その見えない筈の目が確かにこちらを向いて、ぎろり、と睨んだ気配
があった。
 
「……え?」

 一瞬、立ち止まる。と、すれ違いかけていた相手も、足を止めた。

「あれ?」

 小首を傾げるのは、二十歳そこそこの女。瘴気の中の黒髪と混ざるような、
漆の色の長い髪。
 
「おにーさん……あれ、見えてるの?」

 一瞬雛人形を連想するほど白い顔が、ぱっとほころんで。

「そかー見えるのかー」
 言うなり細い手が伸びる。
「おにーさん面白いねー、一緒にのもー!」 
「って、おいおいっ!」

 ずるずるずる。
 二十歳そこそこの、小柄で華奢に見える女が、二十台後半くらいの男性の腕
を抱え込んで、ぐんぐん進む。
 もし見ている人が居れば、相当に爆笑ものの光景だったに相違無い。

 と、相手がぴたりと足を止めて、見上げてくる。
「だっておにーさん、仕事終わりっしょ?」
「う」
「今から用事、別になさそーだし、どーせ今家に帰っても独りっしょ?」
「う……って、おい!」
「いーからいーから。おいしーとこあたし判るし」
 にこにこと、笑う。妙にあどけない、その癖媚びるところの無い笑みである。
 ……やってることを考えたら、媚が無いというのが不思議なくらいなのだが。

「教えたげるから、奢ってねー」
「なっ!ちょっとまてっ」 
「お財布忘れた?」
「いやあるけど……てまて!」
 ずるずるずる。
 問答無用の勢いで、相手は歩を進める。
「おにーさんお酒の呑み方下手っぽいもん。ちゃんと教えたげるよ」
「……って、え?」
 
 くす、と、相手は笑った。

「おにーさんが酔っ払って潰れてるとこの目撃者」

 幸久の腕を抱え込んだまま、器用に指先で自分を示す。

「っ……」
「見た顔だなーって思ったの。そしたらおにーさん見えるんだもん、好都合っ
しょ」
 何が好都合なんだか良く判らない。
「あたしね、六華っていうの」
「りっか?」
「六に、華。雪の異称……おにーさんは?」
「……本宮幸久」
 ふうん、と、六華は頷いたが、
「んじゃ、ゆっきーさん?」
「違うっ!」

 あはは、と、六華が笑う。
 ほんとうに子供のように。


 確か宮部みゆきさんの本に、こんなくだりがあったと思う。
 男が女を傷つける、もしくはその逆ってのは有り得る。何故なら男は女になっ
たことはなく、女は男になったことが無いから。
 でも、男も女も、昔は子供だった。そのことを憶えている限り、子供を傷つ
けることは……本質的に出来ない、と。
 
 顔立ちは古風な日本美人、年齢よりも老けてみられても可笑しくない筈なの
に、どうしてか彼女の雰囲気は子供のようで。
 子供の持つ、一所懸命さと遠慮の無さと、あけっぴろげな表情と。
 それらに逆らえなかった、と見るか。
『たらしこむの得意なんだよー』と言ってのける六華のほうが正しいのか。

 ……とりあえず、到着したのが近くの居酒屋、という事実には変わりが無い。



「わー、喜久泉なんてあるー……あ、山桜桃も」
「ゆすら?」
「これ、おいしいよー……花薫光は無いね、残念」
 メニューを開いて日本酒を選ぶ。
「相当……呑んでねえか?」
「日本酒、詳しいんだー」
 注文した酒がきたところで、ふと、六華は真顔になった。
「おにーさん、まだ、見える?」
「え?」

 ひょい、と、自分の頭上を指し示す。
 先程まで渦巻いていた朱と漆黒の瘴気が……確かに欠片も見えない。

「いや、今は」
「あ、じゃ、よかったー」
 ほわっと笑ったまま、彼女は当たり前のように付け加えた。
「あの怨霊さんねー、お酒苦手なんだよ」
「…………は?」
「昔、厭というほど呑んでー、身体壊したんだって。だから嫌いみたい。特に
日本酒」
 御神酒をひっかけられて退散する亡霊ならばまだ居そうだが、酒嫌いで居酒
屋にも入れない怨霊というのも、相当妙じゃないだろうか。
「だからねー、強くなっちゃった」
 あはは、と笑うと、彼女は冷酒の注がれたグラスを持ち上げて、こちん、と
幸久のグラスにぶつけた。
「乾杯」

 
 なんだかんだと言って、酒好きが銘酒を前にして、仏頂面を続けるのは難し
い。

「おにーさん久保田が好きなの?」
「とりわけ好きってほどじゃねえけど、何で?」
「この前呑んでたの、久保田だったよ」
「そうだっけ」
 そもそも銘柄など、覚えている余裕は無かった記憶がある。
「勿体ないなあ」
「……そういう酒だったんだから仕方ねえだろ」
「そういう酒にするには、久保田は勿体ないって言ってるの」
 びし、と、突っ込む割に、口調に毒が無い。
「……るせえな」
「てかねー」
 強い、と断言しただけあって、六華の顔色は微塵も変わらない。手元のグラ
スを揺すりながら、彼女はやはり何でもなげに言葉を続けた。
「おにーさんには幸せになってほしいのねー」
「何でだよ」
「幸薄そうだから」
「おい」
「こー、そこはかとほんわりと」
「そこはかとじゃねえっ」
「んじゃくっきりとはっきりと幸薄そう?」
「幸薄い、じゃねえよ!」
 あはは、と、六華は笑った。
「……てのも、あるけどね……おにーさん、似てるから」
「誰に」
「あたしの知ってた人」
 ゆらゆらと揺れるグラスの中に、雲母の破片に似たものが舞う。
「幸せになれないまんま死んじゃったけど」
 あはは、と、ひどく明るい笑い声のまま。
「だから、おにーさんには幸せになってほしーなって」

 その誰かと自分とは違うのだ、とか。
 勝手なことを言うな、とか。
 言うべきことはいくらでもあったのだろうけれども。


「えー、そんなの無いよー」
「いや、こう、悪い女って……ソソらねえ?」
「……うっわー」
 四、五合の酒が入る頃には、それなりに口が軽くなる。ついでに知らない相
手だからこそ、毒を吐くのも楽な場合がある。加えて相手も相当の聞き上手だっ
たりすると、一体いつの間にそういう話になってるんだ、と、なることもある
わけで。
「おにーさん、相当莫迦」
 すぱーんと、容赦ない合いの手が入る。
「ばかいうなっ!」
「だって莫迦じゃんー」
「いや……ばかなのは知ってる……」
 がく、とのめった鼻先に、どうぞとばかりにつまみが差し出される。
「でも、こう……好きなんだよなあ……」
「ん、だからー……自分で判って莫迦やってるなら、それはいいけどさ」
 癖なのだろう、やはりゆらゆらとグラスを揺すりながら、六華は言葉を継ぐ。
「でも、それで幸せになろーって思ってたら、やっぱ莫迦」
「だからばかいうなっての!」
「真実だもんー」
 言いながら、ふと六華は手元に目をやり、あ、やば、と、小さく呟いてグラ
スから手を離した。
 視線を追って、幸久もグラスを見やる。
「……凍ってる?」
「持ってたら凍っちゃったー」
 ああ勿体無い、冷えてるほうがいいったって程度があるのに、と、ぶつくさ
言う相手は、『手の中の酒が凍る』事実自体は、少しも不思議に思っていない
らしく。
「……あのね、冬女だから」
「冬女?」
「雪女だけど、冬には起きてる。だから時々凍るの」
 
 酒好きで、日本酒に詳しくて、相当に口が悪くて、いつの間にか手元の酒を
凍らせる雪女。

「……どしたの?」
 ポケットを探り、携帯を引っ張り出す。
「なにそれ?」
「携帯……って知らねえの?」
「使ったこと、ないもん」
「時代遅れ」
「年の3/4は寝てるんだからー!」
 聞き流しながら、メールを打つ。

『結構飲めそうなやついるぜ、兄貴こねえ?』

 そんな呼び出しメールを。

「……携帯って、持って……なにするの?」
「電話とか、メールとか」
「電話、持って歩くのー?」
 大仰に、彼女は顔をしかめる。
「何だよ」
「やだなあそれ」
「何で」
「行方ふめーになれないよー」
「なりたいのかよ」
「いっつも行方ふめーだから……って、あ」
 慌てたように、彼女は腰を浮かせた。
「いっけない……ねーそれ、普通に電話かけられる?」
「……いや、電話だから」
「えとえと、借りて、えと、伝言分だけ、貸してもらえませんか?」
 微妙に口調が丁寧語になるのが、いまさらのようでおかしい。
「いいけど」
「ありがとうございます」
 ぱたぱた、と、受け取って、しばらく眺める。
「そこのボタンを押して」
「あ、そーか、はい」
 流石に電話番号を忘れたわけではないらしい。
「え、えとあのっ……」
 コール音が途切れた途端話し出したところで、六華はぱたりと口を閉じる。
相手の録音した音声が、波動の形でこちらに伝わる。
「あー六華ですー、真帆サンあのねー、あのおにーさんに会ってるからちょっ
と呑んでくるねー」
 そこまで言って、慌てたように六華は携帯を幸久に押し付けた。
「何だよ」
「どうやって切るの、どこ押すの?」
「ああ」
 通話終了。
「真帆さんって……」
「あー、あたしがね、居候してるとこのひと。変なひと」
 どんぐりの背比べ、と、幸久が連想する前に
「あ、そいえば、おにーさんに質問だけど」
「なんだよ」
「……さっきのね、あれ、おにーさんだと殴れる?」
「……?」
 さっきの、と言いながら六華は頭上を示してみせる。つまり先程の怨霊のこ
とらしい。
「殴る?」
「……あ、やっぱいい、ごめんなさい」
 万が一、手を触れることが可能でも、殴りたい相手では無い。そういう前に
相手は質問を引っ込めたが、
「えーと、次……飛良泉とか……あ、じょんがらがある!おにーさんこれおい
しーよ」

 
 そして次のグラスが届くとほぼ同時に、呼び出しをくらった一名が到着する。
「……あー」
「知ってんのかよ」
「おにーさんをおんぶしてたおにーさん」
「さつま揚げをありがとう」
 今ひとつ、辻褄が合っているようなずれているような、妙な会話と共に。

    *************

てなもんで。

しかし話を書くというのは、どうしても自分の実体験なんぞが混ざるわけですが。
……携帯のあたり、かなり実体験です(滅)。
携帯持ってません。
人から借りることはあるんですが……
「ど、どこ押せば電気がつくのっ」と言うて爆笑される、と。

携帯持ってないと『すぐ行方不明になる』と、よく叱られるんですが、
考えてみると、携帯一つ無いだけで、行方不明になれる現在ってのも、なかなかに。
笑える、時代かもな、と。

とりあえず、今回はここまでです。
ではでは。


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