[KATARIBE 28415] [HA06N] 小説『冬女』第五章

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Date: Thu, 10 Feb 2005 23:36:33 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28415] [HA06N] 小説『冬女』第五章
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月10日:23時36分32秒
Sub:[HA06N]小説『冬女』第五章:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
がしがし流しです。
ちょっと、この週末あたり、用事があるかもしれないので(予定は未定)、
今日は二つ流します。

…………てかあれだ、ちまちま流すより、がーっと流してあとで自分の首が絞ま(以下略)。

*****************************
小説『冬女』五の章
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登場人物
--------
 六華(りっか):
   自称冬女。雪を降らす異能有り。結構謎多し。酒豪。
 軽部真帆(かるべ・まほ):
   物語の語り手。ごく普通の小市民(自称)。現在六華が同居中。

本文
---- 

 人はそれぞれ、理という名の盾と、情という名の矛を持っているようなもの
じゃないかと思う。
 左手に理。右手に情。
 そして、それぞれ相手と対峙するのじゃないかと思う。

 まあ普通は、盾を構えて矛を突き刺す。
 互いに納得いくまで争って、よし、と思えば矛を下ろしておしまい。
 
 例えば情動が勝る人ってのは、左の盾が薄かったり、時には地面に置いてし
まって、右の矛だけで突っ走っているようなものじゃないかな。
 盾が無い分、時に身軽だし、そういう人の矛ってのは破壊力があったりする
から、一撃必殺、の強さはある。
 そう考えると、お互いが矛だけ持っている場合……もしかすると修羅場発生
かもしれないわけだ。一撃必殺の勢いで互いがぶつかって、そして轟沈。

 ……まあ、互いに威嚇しあって終わるってほうが多いとは思うけど。

 反対に六華やあたしのように、やたらに盾が強固な連中も居る。こういうの
が争う場合は、どうかすると矛を置いて盾で殴りあうことになる。ある意味不
器用だけど、互いに致命傷を負うことはない。
 ただ……時にして、盾というのは手に重く、持っているだけで手首をくじく。
 そして盾を持てなくなったら、多分その盾の陰で、そういう奴は喉を掻っ切
るのだと思う。
 ……自分の持つ、矛で。

      ***

 前にも言ったと思うけど。
 妹によると、『ねーさんって、本人そんなに飛びぬけて変でもない割に、周
りに変な人多いよね』だそうで。 
 前半はともかく、後半は自分でも賛成したいところがあるんだけど。
 でも自分としては、所謂心霊、オカルトというものは、あまり好きじゃない。
いや、信じていないわけじゃない。ただ一般にそういう事象って、ことさら秘
密めかされたり、勿体ぶられたりする。そういうのが何だか嫌なのだ。
 いーじゃないですか見えないものがあたしの頭を踏んづけて闊歩してっても。
 (こちらが潰されないなら全く問題なしってもので)。

 ただ。
 相手がこちらに干渉してくる場合は、また話は別だ。
 つーかこちらが望んでも無いんだから、出てくるなよな……と思うのだが。

 ……が。


 話を進める前に、一つ説明しとかないといけない。
 自慢じゃないが、現在住んでいるのは六畳一間に台所等がくっ付いた部屋で
ある。つまりがとこ狭い。そこに、小柄とは言え人一人が加わる場合、一体ど
こに寝かせるんだ、という問題が出てくる。
 で……どうするかと言うと。
 うちの場合、あたしが天井に寝ることになる。

 異能、と、妹は言う。
 なんというか……あたしは、空に向って『落下する』ことが出来る。この場
合、例えば途中に天井があると、そこに引っかかってストップする。無茶苦茶
な話だが、重力の方向が、自分一人だけ変化するってのに近いだろうか。
 そしてこの時、自分が一緒に持っているものも、やはり同様に落下する。
 要するに、この一月ほど、あたしは寝袋に入って天井で寝てたわけだ。

 
 確かに変です。自覚してます。六華や妹や親友の花澄以外が見たらのけぞる
風景だとは思います。
 ……でもね不法侵入者に悲鳴上げられる筋合いは無いと思います自分。



「きゃあっ」
 至近距離からボールを鼻先にぶつけられたくらいの勢いで、こちらは目が醒
めた。
 目の前に……ええと誰ですかこれは?
「な、何奴?!」
 なにやつって、またみょーに大時代な台詞を。
 目をこすって、相手を見る。眼鏡が無いんで大雑把にしか判らないが、声か
ら多分女性、白い顔と黒い髪。
「……てかそちらこそ何者」
「やかましわ、この化け物ッ」
 いやああた、天井に寝てる人間の目の前でふよふよしてて、人を化け物呼ば
わりとは筋が通らん話でしょ。
「化け物に化け物とは言われたくないな」
 えい、と手を伸ばして、相手の髪の毛を掴む。存外腰のある髪をぐっと引っ
張ると、きゃああ、と、相手が叫んだ。
「ここ安普請なんだから、きゃあきゃあ言わないでよ。他に聞こえるし」
「な、何をこの」
「うーるさいっ」
 ぼか。
 振り回した手は、見事に彼女に命中した。きゃああ、と、またひとしきり高
い声をあげた彼女は、上に……いや違うな、床のほうに向って落下し、そのま
ま……
 ……あれ?

「……真帆、サン」
 下の布団の上で、六華が身を起こしている。長い髪が扇のように布団の上に
広がっていた。
「今の、見えてた?」
「見たけど……真帆サンって……」
「あ、ちょい待って」
 寝袋から抜け出す。適当に畳んで小脇に抱え、せえの、で、宙を泳いで床に
到着。床に張り付いてから落下を解除すると、普通の状態になる。そこで起き
上がると、目を丸くした六華と向き合う格好になった。
「……やっぱ、今のはあたし夢見てた?」
「てかー、あたしも見てたけど」
 いや六華さん、そんなああたあからさまに『あんたって莫迦?』みたいな顔
しないでくれないかな。
「つーか、今の、女だよね?」
「わかんなかった?」
「声は女だなって思ったよ。顔見えなかったけど」
「見えない?」
「眼鏡無かったから」
 あ、なるほど、と、口の中で呟いてから、六華はこちらをはったと見据えた。
「今のはねー……ってか真帆サンどうして叩けたの?」
「へ?」
 振り回したら、手が当たっただけなんだけどな。
「今の、あたしに憑いてるゆーれーだと思うんだけどー」
「……は?」
「思い出したの。幸せにしたいなーとか思うと、あのゆーれー出てきて邪魔す
るんだー」
「…………ってもしかして」
「うん、あたしを恨んでた子ー」

 ……………………。
 
「真帆サン、ゆーれーとか見たこと無いの?」
「無いよそんなもん」
 言いながら、机の上の眼鏡をとって掛ける。ようやく視界がはっきりした。
「おっかしいなあ、真帆サンゆーれーとかに好かれそうなのにー」
「好かれて堪りますか」
 寝袋を畳みなおして、押入れに突っ込んで。
「でもねえ、六華さんや」
「はい?」
「あんなもん憑けてこないで欲しかった」
 無茶言ってるなあ、と思いつつ、思わず言ってみる。
 反応は速かった。
「あたしだって、憑いて欲しくなかったー!」
 ……ま、ご尤も。


 その日一日、仕事をしながら考えていた。
 彼女に憑いている幽霊のこと、それを殴ったこと。
 (ってことは現在も、彼女の後ろに幽霊はくっ付いているのだろうか)
 (そもそも何で幽霊が殴れるんだろう、という疑問)

 恨まれた相手に良く似た人を、幸せにしたい、という彼女の動機とか。
 判るような判らないような……でもえらいめんどいな、とか。
 幸せにするってことは、その相手に関わらないといけないんだから。
 情が突っ走る人間に関わるってのは、理が勝つほうの立場から言えば……無
茶苦茶疲れる話の筈だし。


  『あたしたちは、本当に強い』
 そう、笑っていた親友の顔をふと思い出す。
  『だから、互いには噛み合わない。互いの距離も大概判る。
   ……だからこそ、互いの距離なんて考えずに飛び込んでくる相手を
   羨みながら、叩きのめすのかもしれないよね』
  『叩きのめすわけ、やっぱ?』
  『そりゃ、そうよ』
 ほんわりと、春を思わせる表情の割に、結構彼女は口も性格も悪い。
  『領域に入る者は、必要ないもの』
 
 領域に入る者は,叩きのめす。
 ……でも、叩きのめしたくて叩きのめしてるわけでもないんだよな。

 
 やたら強固な盾を持つ奴と、一撃必殺、槍だけ持ってぶつかる奴。
 これが真正面から対峙したら、どちらが勝つか。
 
 自分の経験から言えば、確実に前者だと思う。

 なんせ槍は、情だから鋭いけれども案外折れやすい。理の盾で薙ぎ払ったり
した日には、見事一撃で折れたりするわけで。
 また、仮に万が一盾を打ち抜いても、相手は盾の陰の自分の槍で自死してた
りする。
 そして何より……相手の盾にぶつけて折れた槍の穂先ってのは、槍の持ち主
に跳ね返ってぐっさり刺さったりするものなのだな。
 

 理の盾を掲げ、情の矛をその陰に隠すような連中ってのは、基本として一人
で立っている。自分から情の矛を相手にぶつけることはしない。
 けれども相手から矛をぶつけられた日には、割と過剰防衛気味に相手を叩き
のめしてしまう。
 そこまでやらなくても良かったんじゃないか、と、時折言われる。けれども
一度自分の領域を宣言し、それでもその中に入り込もうとする奴が居るならば。
 そりゃー殴るさ。

 
 それでも、六華は情の槍を持つ相手を幸せにしたいという。
 幸せにするまで関わろうとしている。

 ……大丈夫、なのかなあ。
 つかめんどくさそうだよなあ…………

 大概の思考が、『何が何だか判らなくなる』に落ち込むのと、『めんどくさ
そーだなあ』に落ち込むのと。
 見たところあんまし変わりが無いようだけど、前者だと夏目漱石、後者だと
自分だもんなあ。
 あー………


 ……などと、まあ。
 仕事をしながら(またその仕事が割と単純作業だったりしたもんだから)ぐ
ずぐず考え、家に帰りながらもやっぱりぐずぐず考えていたんだけど。

 部屋の中に誰も居ないのは、不思議でも何でもない、として。
 留守電がぺかぺかと点灯している。

「?」
 
 ボタンを押す。と、決まり文句のあとに

『あー六華ですー、真帆サンあのねー、あのおにーさんに会ってるからちょっ
と呑んでくるねー』
 妙にわたわたっと言った後に、ぼそぼそと声がする。なんだよ、どうやって
きるの、どこ押すの。
 そして、つー、と、これは確かに通話が切れた音。

 どうしてこう、録音された声だと脳天突き抜けて呑気な声に聞こえるかなあ
……じゃ、なくって。

「……大丈夫かよ」
 思わず、呟いてしまう。あのおにーさんと言うからには、公園で会った『お
まわりさん』もしくはその弟さんなんだろうけど。

 ……大丈夫、かなあ。
 
 鞄を下ろして、冷凍庫からおからの包みを出す。少し考えて、紙パックの酒
も出して。
 卯の花と日本酒。珍しく一人酒。

 大丈夫かな、と思いはしながらも。
 ……動くことはない自身をどこかで確認しながら。

 **********************

てなもんで。
次、もう一つ送ります。



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