[KATARIBE 28402] [HA06N] 小説『冬女』第二章

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 7 Feb 2005 21:41:23 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28402] [HA06N] 小説『冬女』第二章
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200502071241.VAA65598@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28402

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28402.html

2005年02月07日:21時41分22秒
Sub:[HA06N]小説『冬女』第二章:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@幽霊 です。
何だかんだで流してゆきます。
一応、一日一章ってことで。
(まだストックがあるからいいですけど……無くなった時はちょっとなあ(汗))

**************************
小説『冬女』二の章
==================

登場人物
--------
 六華(りっか):
   自称冬女。雪を降らす異能有り。酒豪。
 軽部真帆(かるべ・まほ):
   物語の語り手。現在六華が同居中。
 軽部片帆(かるべ・かたほ):
   真帆の妹。毒舌大学生。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ):
   一見のほほんな刑事さん。『雪もよい酒』にて六華と面識有り。

本文
----

 「あのねー」
 長い髪を、さらさらと首から背中へと流しながら。
 「あたしねー、幸せにしたいの」
 誰を、とも、どんな風に、とも言わず。
 「冬女で起きてる間に、どうしても」

 ほわほわとした口調で告げられた言葉は、けれどもどこかに揺るがないも
のを含んでいた。

     **

『ねーさん、莫迦?』
 そうくるのかよって台詞が、見事に電話から流れてくる。
「……遠慮って知ってる、片帆?」
『遠慮の通用しない人には知らない』
「あたしばっちり通用する人よ?」
『遠慮が有効活用されてないじゃんねーさんの場合』
「てえかね、姉を莫迦呼ばわりしますかね!」
『ちゃんと疑問文で言ったでしょーが。それを肯定するか否定するかで評価は
変わるわよ』
「無論否定する」
『態度で示してね』
 ………………ほんっと口の減らないったら……

 大学に入った途端、とっとと一人暮らしをし始めた妹から、電話があったの
が運の尽きである。
 いや、我が家の冬女さんは、うっかり電話に出るなんていう失策をする人で
はない。つーかそもそも電話が来たのが夜の9時、まだまだ御帰宅前って時間
である。こういう場合消去法で考えても、失策をしたのはつまりあたしなんで
ある(消去法で考える必要性はそらありませんけどさ)。
「えー……と、何、次の土曜……うちに?」
『駄目?』
「あ、えーと……」
『何か不都合でも?』
 てかね妹よ。どうしてここから突っ込みまくって冬女同居状態まで聞きだし
ますか?
『あーもう……あのね姉さん、その人本当に大丈夫なの?』
「大丈夫って何が」
『アレな話だけど、泥棒して消えるとか』
「酒は私も呑み倒してるけど?」
 寧ろ銘柄とか見るに、こちらが大いに得してる気がするんですけど。
『……貯金盗まれるとか』
「盗まれるほどの貯金は無い」
『PC盗まれるとか』
「多分相当無理」
『データを盗むとか』
「……ボルネオ島の地上データ盗んで、あんまり嬉しいことって無いと思うけ
どね」
 むう、と、電話口で流石の妹が黙った。
 ……確かに実に金にならない仕事をもしかして自分してます……よね、ええ。

 
 基本としてたかられてない、たかってるとすりゃこちらだ、と、何とか妹を
納得させて電話を切った後に、六華嬢がてこてこ戻ってきた。
 身長は150あるかなしか。体重はそれに見合って相当軽い。華奢で古典風美
人で若い女性、というとあんまり遅くまで外に出すのはまずいなー…………と。
 ……思えないあたりが、流石に冬女なんだけど。
「今年の冬は、焼酎が流行ってるのねー」
「あ、うん、結構ね……日本酒のほうが好き?」
「無論」
 おお、力強い肯定だ。
「今日はねー、桃川買って来たよー」
 お。
「ねー、何かおつまみ持って、公園行かない?」
「こーえん?」
「雪見酒ー」
「……雪降ってないじゃん」
「だから、降らしたげるからー」
「…………寒い」
「だからぁ!お酒持ってゆくから!」
「……いこか」

 …………微妙にこう、女性二人の会話かよとそれがと自己突っ込みしたくな
るわけだが。

 
 グラスを二つ、鞄にねじこんで。
 薩摩揚げを軽くあぶって、適当に切ってラップに包んで。
「肉じゃがは?」
「おはちごともってくの?」
「あたし好きー」
 まあね、雪女だか冬女だか知りませんけど、食べる『必要』は無いらしい彼
女が、わざわざ注文してくるわけで、そういうのは何だか嬉しいけど。
 そこそこ美人が嬉しそうに肉じゃがのお鉢持って歩いてる図って、やっぱ珍
妙では、ある。

 公園のベンチを確保して、肉じゃがをセットしてから、六華嬢はふわりと両
手を宙に舞わせた。
 途端にほろほろと雪が降り出す。
「流石」
「えへへー」
「ってこれ、局地的?ここだけ?」
「んー、妙に思われない程度に局地的」
 それは有難い。
「そのほうが人来ないしー」
「まあ、夜の十時に公園で酒呑もうとするのは、あたしらくらいっしょ」
「やあ、仲間が居るっていーなー」
 笑いが引きつる一瞬ですな。

 一升瓶が半分近く空いた頃に、しゃこしゃこした音が近づいてきた。
「ん?」
「あ、自転車……うわ、あたしら相当怪しいか」
「普通だよー」
 いやそれは違うだろう。
 柔らかく降る雪に、灯がやはり柔らかく滲む。その灯の向こうから自転車が
一台。
 そして……
「おや」
 きき、と、何だかブレーキの音まで柔らかく。
「こんな時間に……って……あれ?」
「あー」
 あ?
「背負ってたおにーさん?」
「あ、やっぱりこの前の」

 なんですと?

 自転車から降りたのは……背広の……おじさん呼ばわりしちゃああかんな。
多分あたしより年下の社会人。
「こんな時間に危ないですよ」
 落ち着いた声が、本当に世間話のように言う。
「あーだいじょぶだよ、冬女だから」
「うーん、でも女の人だから」
 ……何か妙な会話だ。
 と、どうもその気持ちが顔に出たらしく、その誰かはこちらを見る。
「あ、すみません。一応職が職ですので、つい」
「職……?」
「おまわりさん」
 何故か答えたのは、六華のほうで。
 社会人さん……ええと、おまわりさんなのか?……は、少し首を傾げてから、
「まあそんなものです」
 と答えた。
「あ、ども……」
 善良な小心者としては、官憲には思わず挨拶をするのです……ってあたしゃ
苦沙弥先生かよ。
「何、この前の人っておまわりさんに背負われてたの?」
「そそ……でもこの前はねー、背広じゃなくってふつーの服だったよ」
 ……それでよく識別できるもんだなー。
「そちらの方も、雪女さんですか?」
「あ、いや普通人です」
「えー」
 何やら言いかけた六華嬢をえいと睨んでおく。
「冬女さんが一緒なら大丈夫でしょうが、風邪にはお気をつけて」
「あ、はいすみません」
 …………あり?
 妙にこのほわーっとした喋りには憶えがある。
 記憶を探る。ほわーっとした声と、制服と……何だっけ、お茶?

「あ、ほうじ茶」
「はい?」
 ああそうだそうだ、お茶の葉をあぶってたおまわりさんだ。
「いつぞや道に迷った時にはお世話になりました」
「あー……いや、そうでしたか」
 憶えてないだろうなあ。こちらもお茶で憶えてたくらいだし。

「一杯いかがですかー?」
 何時の間にか六華の手に、雪の塊が握られている。それで丁度空になったグ
ラスをきゅきゅ、と磨いて。
「薩摩揚げと合いますよー」
「一応、勤務中なんで……」
「だいじょぶですよー、おにーさんそれくらい水と同じでしょ?」
 おい良いのかってな台詞を、かろかろと言う。
「……いえ、それはそうですけど、勤務中ですから」
「えー」
「てか、そこで無理に勧めない」
 飲酒とか何とか、公務員には最近風当たり厳しいんだから。
 うーん、と、彼女は一度唸る。その顔に、その人はくすりと笑ったが、
「また、勤務外の時に、お願いします」
 ……と、言った。
「あ、それは嬉しい」
「……宜しいんですか?」
「ええ、そりゃもう」
 知らないぞー。見てくれどこじゃない大酒呑みなんだぞー………とは流石に
そこではいえず。
 こちらの心中を見事に無視してにぱぱっと笑った六華は、あ、そうだ、と、
小さく呟くと、もう一つの包みを差し出した。
「んじゃ、薩摩揚げどーぞ」
「おや」
「おいしーですよ」

 …………あ。
 何か、判ってしまった。

 日本美人でほわほわしてて、任せてよーひっかけるの上手だよ、なんてけろ
りと言うこの冬女殿が、それでも異性にもてる理由。
 ものすごく単純に……嬉しそうにものを他人に勧める、んだ。
 あ、じゃ、どうも、と、おまわりさんが薩摩揚げをつまむ。
 六華嬢がにこにこと笑う。

 そして、またふと思う。
 多分、男女間のごたごたしたその真っ最中でも、この人はそういうことが出
来る……んじゃないだろうか。

 人に迷惑をかけない距離感を咄嗟に掴むことが出来て。
 幸せになりたいの?、と、下心丸判りの連中に、それでも下心とは別次元の
声音で語りかけることが出来て。

 だから……あたしひっかけるのうまいんだよーなんて、言えるんじゃないだ
ろうか。


「あ、失恋酔っ払いさんにも宜しくー」
「…………ありがとう。ごちそうさまでした」
 流石に苦笑して、おまわりさんは自転車に乗る。
「どうも」
 日本語でも有数の『如何様にも使える挨拶』をして、一礼する。

 しゃこしゃこ、と、雪を掻き分ける音と一緒に自転車の灯が遠ざかってゆく。


 「六華…さん」
 「さん、いらないよー」
 「いや、六華さん、だと思うんだ」

 ちょっと不思議そうに、彼女が首を傾げる。
 そしてあたしは……良く考えたら彼女が家に転がり込んで一ヶ月して初めて、
この問いを彼女に投げかけたのである。

 「冬女になる前、六華さん、何だったの?」


時系列
------
2005年初頭。
作品としての順序は、『泣き酒』『雪もよい酒』の次にあたる。

**************************************************
解説は、書きようが無いんで勘弁です。
(話の一部なんで……)

次のメールで、六華のキャラシート送ります。
ではでは。


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28402.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage