[KATARIBE 28401] 『冬女』第一章

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 6 Feb 2005 23:45:20 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28401] 『冬女』第一章
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200502061445.XAA24557@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28401

Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28401.html

2005年02月06日:23時45分20秒
Sub:『冬女』第一章:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
さっき、IRCで話してまして。
それを、表に出すにはこれを流さねば……と。

……とりあえず、現在4話まで出来てます。他の人完全に出てきません(おい)

ではちこちこ流します。

************************
『冬女』一の章
===============


 見つかったよ、と、彼女は笑った。
「まだ、候補だけどね」
「……それはそれは」
 良かったね、と言いかけて止める。どうも素直に『良かった』とオチが付き
そうに無い……と。
 まあ、直感したと言えば一番当てはまるかもしれないが。

 
 彼女に会ったのは、十二月のはじめである。
 まだ銀杏並木に黄色の葉が残っている……異常気象ながらも、上着くらいは
流石に無いと寒いよねって頃。
 そうなるとやはり夜は冷える。鞄からスカーフを取り出して巻こうとした時
に、声を聴いた。
 大半は男の、妙にべたっとした声。その中に一筋だけ、ほわーっとした女性
の声。

 「幸せになりたいわけ?ほんとーに?」

 ……どっちがどっちをたらし込んでるじゃ、と、考え込んでしまった自分が
ちと哀しかったり。


 妹が評して曰く、
『ねーさんって、本人そんなに飛びぬけて変でもない割に、周りに変な人多い
よね』だそうで。
 私ゃ飛びぬけない程度には変かい、と訊くと、大きく頷いてくれたんで、そ
こはきっちり可愛がっておいたわけなのだけど。
 確かに……自分の近くには変な奴が多い。筆頭が妹、その次に親友、そして
そしてと挙げてゆくと切りが無いのだが。
 今回、彼女が此処に居る、ということを妹が聞いたら、多分断言してくれる
と思う。
「ねーさん変な人を『また』拾ったわけ?」
 ……『また』と言うほど拾ってないとは思うのだが。


「候補って……つまり、不幸そうな人が居たの?」
「うんいたよー」
 ほわんほわん、と返事をする彼女は、けれども顔立ちと口調がいまいちそぐ
わない。切れ長の目、小さな口元、白い肌、印象としては結構硬質、古風な…
…何つか歌舞伎の女形(それも多分一座の花形)みたいな日本美人なんだけど。
「なーんかねー、失恋して酔っ払って背負われてた」
「……観察しとったんかい」
「面白かったもーん」
 ……ってあんたね。
「相手を幸福にしたいんじゃなかったの?」
「したいよー」
「その相手を面白がって観察しちゃあいかんでしょ」
「でも観察しないとなーんも判らないし、観察って楽しんだほーがいーでしょ?」
「観察してるほーは楽しいかもしれないけどさ」

 
 あ、俺幸せになりたいわけよ、協力してくれる、などと鼻から抜けるような
へにゃっとした声の男達を避けて、信号のほうに歩いてゆく。うっとおしいな、
とは思ったけど、積極的に邪魔をする気力は無かった……筈なのに。
「あれ、六華さんじゃない」
 彼女と目が合う。と、同時にそんな言葉が口から飛び出した。
 ……りっかさんってな誰じゃい、と、内心自分に突っ込んだが、何故か口が
止まらない。
「どうしたの、こんなとこで」
 やーなんか幸せの定義がねー、あのひとたちちょっとおかしいと思ったから、
助けてもらおっかと思ってねー……と、後で彼女が種明かししてくれたのだが、
どうやらこの時、言わば彼女はこちらを操って『知り合いの振り』をさせてい
たらしい。
「あー、せんせーだー」
 歌舞伎の女形のような……ぶっちゃけ実年齢より年食って見られそうな顔だ
ちなんだが、表情や肌の具合は充分に若い。親戚にしてはあまりに似てないし、
友人にするには年が離れすぎているが、元家庭教師あたりなら妥当だろう。咄
嗟のこととは言え、彼女の判断は的確である。そういうはったりは上手なんだよー
…と、これもまた彼女の台詞であったのだが。
「もう遅いよ、帰らないと」
「わー怖いひとに見つかっちゃったー……またね」
 言い終わる前に、男達は気まずそうな顔になってもそもそと離れてゆく。今
日のところは幸せに為り損なった、とでも言うべきか。
 とにかくそう言うと、彼女は笑って男達を見送り、そしてこちらに向き直っ
た。
 綺麗な綺麗な笑みを浮かべたまま、するり、と、空いた腕に腕を絡めてくる。
「ご協力、ありがとー」
 耳元で、声がした。
 やはり笑い混じりの声だった。

 名前は六華、正体は冬女。
 彼女はそう名乗った。
 そしてほら証拠だよーとさらさら雪を(それもあたし達が歩いている坂の上
だけに)降らせた挙句、遠慮会釈なくうちまでついて来て、んじゃー泊めてねー、
の一言で。

 …………何日居付いてますかお嬢様。


「てかー、何日居付かせてますか、おねえさま、かもー」
 ころころと彼女は笑う。確かに彼女は邪魔にならない。昼間はこちらも仕事
だし、相手も外をふらふらしているらしい。ご飯はどうやら食べる必要が無い
らしいし、その割に酒でエネルギー摂取してんのかコラって勢いで呑むけど自
前で買ってくるし。
「でも、その酒を買うお金、どこにあんの」
「たらしこむのー…………冗談だけど」
 ……ごめん今もの凄く納得したんですけどあたし。
「あのねー、冬女が動けるの、そんなに長くないでしょ。寝てる間にねーあた
しのシマで落ちてたお金はあたしのにするの」
「……は?」
「んでねー起きたら貯蓄。こまめであたしえらい」
 えらくないえらくない。
「あとねー、たらしこむこともあるよ?てか、あの時のおにーちゃん達なんか、
軽いよ?」
「うん、軽そう」
 古風でどこか武家の妻女、みたいな顔立ちに、昨今珍しいほどの黒々と真っ
直ぐな長い髪。流行りの顔でこそ無いのかもしれないが、美人と太鼓判を押し
て問題無い。それがほわほわーっと妙にアンバランスな口調で話しかけてくる
のだ。
 そこらの兄ちゃんやらおじちゃんをたらしこむのは簡単だと思う、確かに。
「あーゆーおにいちゃんを捉まえましてね、一緒に呑んでね、さあ帰ろうって
時にタクシー代だけ貰って帰るわけ。タクシー途中で止めたら後は自分のお金」
「……普通あーゆー連中って、お持ち帰りしたがらない?」
「したがるけどねー。んでもこちらから連絡先教えてあっちの名刺とか貰って
またねーってやると、あっちも仲間への見得とかあるのかな、焦ったらみっと
もないと思うのかな、案外なんとかなるもんみたいだよー」
 なんつかこー、相手の『おにーちゃん』達が気の毒になる話ですな。
「でもねー女の人はあんまりたらしこめないのにねー。真帆さんたらしこんじゃっ
た、成功」
「…………どういう意味よ」
「へへー」
 ……笑うなコラ。


「で、失恋して背負われてて酔っ払った……そりゃおねーさん?」
「ううんおにーさん」
「……まさかおねーさんに背負われてっ」
「ないない。おにーさんに背負われてたよ。多分あれ兄弟」
「へー?」
「かお、似てたし」
「良く見てるねえ」
「なんかねー、ほのかに幸薄そうでねー、あれは頑張って幸せ掴もうとして、
幸せぶっ千切るひとっぽかったなー」
 どうしてそういう酷い表現をしますかね。
「つーか、その、ほのかに幸薄そうって何よ」
「なんかこーね、ほわーっと幸薄いっぽいの」
 訊いたあたしが莫迦でした。
「……でもさ、その人本当に不幸とは思わないけど?」
「あ、それはそーかも」
 一緒に呑んでくれて、背負ってくれる人がいるわけだしね。
「ならば重畳かもー」
「何で?」
「しあわせだって気が付けばいいだけだもん」
「……それが大変なんじゃん」
 そーかそーなのかー、と、彼女はひとしきり首をひねっていたが、そのうち、
ほっと息を吐いた。
「まあやってみるしかない……がんばるぞー」
「まーがんばって」


 妹が称して曰く、
『ねーさん人間嫌いとかいう割に、人にペースを乱されない人だよね』だそー
で。
 常時マイペースということにかけては人後に落ちたことの無い奴に言われる
と、非常にこう、なんつか違うだろーと思うわけなのだけど、まあ姉妹なので
遺伝かなと許しておく。
 もっと言うと、確かに彼女は、こちらのペースを『乱さない』人ではあった
のだけど。

 つまりがとこ彼女が、この冬うちに居ついた、これが始まりであったわけで。

 そうやってこうやって。
 一冬限定の珍道中(向うは四次元正の方向)が始まったのである。

 ……とりあえずは、無難に。

登場人物
--------

 軽部真帆(かるべ・まほ):平塚花澄の友人。不思議に対する免疫高し
 六華   (りっか)  :自称冬女。謎多し

解説
----
 何でもない風景から、何でもない話に。
 そういうことを許容する、吹利の風景です。

************************************

てなわけです。
ではでは。


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28400/28401.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage