[KATARIBE 28393] [HA06N] 小説『面子』

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Date: Thu, 3 Feb 2005 22:02:26 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28393] [HA06N] 小説『面子』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200502031302.WAA68521@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年02月03日:22時02分25秒
Sub:[HA06N]小説『面子』:
From:久志


 久志です。

勢いがしめすままに一本。
てけとうに直すんで、つっこみよろ。

てか、ツンデレってないヨ。
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小説『面子』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。またの名を昼行灯。
     :2000年当時、26歳。
 丹下朔良(たんげ・さくら)
     :吹利県警元刑事、今は前線を引退して裏方に徹している。
     :面倒見のよいイイ親父

史久 〜調査
------------

 過去記録っていっぱいあるなあ。まあ、当然だけど。
 12年前ともなると結構昔の資料を引っ張り出さないとでてこなさそうだ。

「けほっ」

 それにしてもホコリくさいなあ、ここ。
 吹利県警資料室。歴代の吹利の過去の事件や捜査資料のほぼすべてがここに
保管されている。いくつか立入禁止書架はあるものの、捜査での調査資料とし
て自由閲覧可能になっている。
 12年前、何があったのか。
 僕もなんでそんなことに興味もつかなあ。
 よっこらせとやっとこ発掘した資料を開く。ぶはっ、すごいホコリ。

「えーっと」

 警察官が殉職するってのは、それなりに一大事ではある。でも悲しいかな珍
しいことじゃあない。職業上、危険と隣り合わせだという自覚はあるし最低限
の身の保障と安全はわきまえている、それでもいつなんとき発生してもおかし
いことではない。

 一件一件、資料を手繰る。
 深山巡査、その名を探して。

 ぱらり、と、手が止まる。

 深山壮平巡査。
 ○年○月○日、要人警護任務中、凶器所持凶悪犯人逮捕にあたり殉職。
 あった、日付名前からいって間違いない。詳細は……

 ○年○月○日、遺跡視察に来ていたトリンシア公国ブリティス王子の歓迎祝
賀会において、王子を狙った反王国派分子凶悪犯人逮捕にあたり殉職。

 ふむ。
 歓迎祝賀会において、殉職、か。

 そんなイベントあったんだなあ、てか12年前ってことは僕が14歳の頃か
覚えてなくて当然かも。
 けど、その事件がどうしていつまでも警部の心にひっかかっているんだろう。

「よお、こんなとこでなにやってんだ、史の字」

 ふいに、ぺこんと頭を叩かれた。

「あ、さくらさん」

 丹下朔良。
 吹利県警刑事課で長年刑事を務めていたベテラン。僕らにとっては大先輩に
あたる。もっとも、今では前線を退いて後輩指導や資料管理など裏方に徹して
いる。いかつい顔に禿げ上がった頭に黒い眼帯、左手の薬指と小指が第一間接
から先がないというちょっと一見怖いお人。その外見から恐れられがちだけど、
実際の所よく気がついて面倒見のよいイイ人でもある。
 あと、僕にとっては吹利署における飲み仲間の一人でもあったりする。

「昼行灯のでくの坊が、なに熱心に資料漁ってんだ」
「ひどいです、さくらさん」

 そう言えば、さくらさんなら12年前の事件のこと知ってるかな。県警の生
き字引みたいな人でもあるし。

「あの、さくらさん」
「あん?」
「さくらさんは県警の過去にお詳しいですよね?」
「ああ、たりめーよ。俺がここで何年刑事やってたと思ってやがる」
「ちょっとお聞きしたいのですが」
「なんでぇ、言ってみ」

「12年前に殉職なさった深山巡査という方をご存知ですか?」

 かすかに、だけど。さくらさんの目の奥の色が変わった。
 これはちょっと、ワケあり……なのかな?

「深山、か」
「ご存知ですか?」
「ああ」


朔良 〜美談
------------

 ありゃまだ正月明けて間もない頃、まあ今時分と同じ頃だったあな。
 どこぞの国の王子さんがくるってえ事で、県警も各署も交通規制だの巡回だ
ので連日おおわらわだったな。

 ま、その頃はワシらはあるネタを追っかけてた最中でよっぽどのことでもな
い限りは係わり合いにはならねえはずだった、が。
 ある日な、俺らが追っかけてたヤマの重要参考人が、王子より一足先に来日
していた王子の側近の一人とこっそり接触していたっちゅう情報を深山の奴が
手に入れてきた。

 勘、かね。いわゆるな。

 その側近は絶対何かをやらかす、と。
 ワシも深山も何故かピンときた。しかしな、確実な証拠ってモンがもねえ。
 おまけにそいつあ、もっとも王子さんが一番信頼してる部下ときたもんだ、
一介の刑事ごときの助言で遠ざけるわけもなかった。

 なにぶん時間がねえ、そいつが黒でも白でもいい、なんとか証拠を挙げて事
実を明白にしねえことにはこっちもおさまりがつかねえ。

 だが結局、なんの証拠もつかめねえまま、あの歓迎祝賀会がきちまった。
 おう、ゴージャスな式だったぜ。豪華な食事に高そうな酒、こっちゃ見てる
だけで腹いっぱいになりそうだった。
 俺たちゃ手練手管を尽くして何とか警備の連中をかいくぐってなんとか中に
もぐりこむことができた。その割にゃあ、大して強固な警備でもなかったんだ
がな。

 祝賀会は実にスムーズに進んで、和やかなまま終わりそうな雰囲気だった。
 一瞬、ワシも勘違いだったのかと己を疑ったもんだ。

 だがな。

 最後の最後で、その側近が牙をむいた。

 祝賀会が終わった気の緩みからか、王子の警備が手薄になった一瞬のことだ。
 悲鳴と怒号とグラスが割れる音。

 あの時その場にいた誰よりも早く、深山は動いてた。

 そしてその一瞬後、動かなくなった。
 二度と。


史久 〜理解
------------

 僕は黙ったまま、指先で資料の文字をなぞった。

「まあ、警備の杜撰さと犯人フ意外性と……ワシの滑稽さゆえの悲劇だあな」
「そんな」

 さくらさんの目の奥、かすかににじんで見えるのは、後悔だろうか。

「あんとき、深山のやつが体を張って王子さんを守らなかったら、吹利県警の
最大の汚点になったんだろうなあ」

 ゆっくりとさくらさんが伸びをする。

「まあ、美談だよ。警備の杜撰さも反王国派分子捜査の手詰まりも、何もかも
深山の美談に押し隠して、それっきりだ」

 確かに厳重警備の只中で要人を殺されたりしてしまったら、県警はじまって
以来の汚点になったのかもしれない。

「奴の葬儀には、喪章付きのお偉いさんどもがこぞって手を合わせてたよ。
派手な葬式だったな」
「え?」

『よくおぼえていますよ、さみしいお葬式でした』

 小池さんの言葉がよぎる。

「さびしいお式だったと、僕は聞きましたが?」
「……派手なのは、見かけだけだったがな」
「…………」
「ただ、一人残された娘を置き去りにして」

 卜部警部のこと、ですね。

「近しい親族もろくにおらず、お偉いさんに囲まれて一人きりで、ろくに見も
知らない大人連中から一方的に『あなたのお父さんは立派でした、偉かった』
と感情もなく連呼され続けて、警察当局に勝手に取り仕切られるまま、葬儀は
終わってた」

 確かに、さびしいお式だったのかもしれない。
 彼女にとっては。

「史久よ、どこで深山の話を聞いたかしらないが」
「はい」
「何をかぎまわりたいのかは知らねえが、ワシが深山について知ってるのはこ
こまでだ」
「はい」
「お前は馬鹿じゃない、むしろ物分りがいい奴だと思ってる」
「ありがとうございます」
「お前は、当時の県警の立場を理解するかい?」
「理解は、しますよ」

 こう、つまり。警察ってのは組織だ、それはわかる。
 公僕である以上、信頼を得なければいけないし面子も守らなければならない。
 それも、わかっている。
 そのために、犠牲になった深山さんを一方的に称えて警備の不備その他もろ
もろを押し隠そうとした。

 理解はする。
 納得するかは別ですが。

「今となっちゃ、もうあの頃のお偉いさんがたは殆ど残っちゃいない」
「そう、ですか」

 さくらさんに、言うべきだろうか?
 一瞬、躊躇する。
 個人的なことに勝手に足を踏み込めるほど、僕は礼儀知らずではないけれど。
 正直、伝えておかなければいけない、のかな。

「卜部奈々さん、ご存知ですか?」
「うらべ?こないだうちに来たキャリアか?」
「……親族に引き取られる前は深山という性でした」

 さくらさんの動きが止まった。


史久 〜資料室を後に
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 資料室のドアを閉めて。
 一息。

 なんていう、かな。
 警察って実はそれほど綺麗でもない。
 まあ、綺麗にこしたこたないけど。

 面子とか、体裁とか、縄張りとか。
 古めかしい考えや馬鹿みたいな縛りがそこかしこに確かに根付いている。

 それを警部は知ってるんじゃないのかな?
 小さい頃、警部が何を思ったのかは知らないけれど。

 なのに。
 なのに、警部はどうして警察官を志したんだろう?

 うーん。
 なんで、僕こんなに気にしてるんだろう。
 さて。


時系列と舞台 
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 2000年1月頃 
解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。小説『墓前での遭遇』の続き。
 殉職した奈々の父の過去を調べる史久、そこで知ったのは。
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以上。

警察うんぬんに関しては超適当に書いてます。
まあ、いいか(よくねへよ)



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