[KATARIBE 28373] [HA06N] 小説『火花』

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Date: Tue, 1 Feb 2005 12:22:41 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28373] [HA06N] 小説『火花』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月01日:12時22分40秒
Sub:[HA06N]小説『火花』:
From:久志


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小説『火花』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :コンプレックス持ちの軟派兄ちゃん。
     :当時、高校1年生。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :芽衣の親友。中学時代から幸久が好き。
     :当時、高校1年生。
 蓮池芽衣(はすいけ・めい)
     :美絵子の親友。幸久のことが好き。
     :当時、高校1年生。
 本宮友久(もとみや・ともひさ)
     :幸久の二つ上の兄。幸久が一年の頃事故で死亡。

幸久 〜ぶちきれ
----------------

 火花が飛んだ。
 ゆっくりと、体が沈んでいく。

 吹っ飛びそうな意識の向こうで目の前の野郎が怒鳴ってるのが見える。
 あと二人、サシなら絶対勝てたはずなのに。

 ああまた来た、避けられねえ。野郎の拳が左頬を捕らえた。体が、跳んで、
地面に転がって、そっから。
 意識が遠のいていく。

 死人には勝てない。
 最初っから、ずっと、ずっと、わかってたはずなのに。
 所詮、俺は兄貴の劣化コピーでしかないわけだ。

 ちくしょおっ!

 暗転。


幸久 〜1時間ほど前
--------------------

 まあ、ふっかけてきたのは向こうだけど、先に手出したのは俺なんだよな。

 校舎裏で、クラスの女がちょっといかつい連中に囲まれてる。
 奴ら、確か三年のしょーもねえエセ三流不良連中。なんつーかアナクロすぎ
なんだよ、いつの時代だよ。

「何やってんだよ、てめーら」
「ああ?」
「こっちはデートの約束してんだよ、うせろ」

 いまどき、んな誘い方あるかっつーの。

「どーみてもイヤがってんじゃねーか、とっとと離して消えろよ」
「……も、本宮、くん」
「おい、こいつ本宮の弟だぜ」

 一瞬、不良どもがたじろぐ。
 なんつか、兄貴の影響力は死んだ今でも結構根深く残ってる。

「……死んじまった奴がなんぼのもんだよ、くだらねえ」
「本宮の弟っつったって、兄貴と比べて全然たいしたことねーんだろ、相手に
もなんねぇよ」

 一瞬でぶちきれた。

「うっせぇよ!」

 言った時にはもうぶん殴ってた。

「お前、逃げな」
「……ひっ」

 わたわたと逃げていくクラスの女を見送って。

「この野郎っ」

 相手は五人。
 一対一なら、あるいは。でも……もう知ったこっちゃねえ。


『無駄が多いんだよ、幸。勝てる戦いかたしろよ』
 友兄貴の言葉。

『お前、もう少し自分の力量と状況を見ようよ』
 史兄貴の言葉。
 下手すると弟にすら遅れを取る俺が状況なぞ見るわけがなくって。


 三人目が沈んだとこまでは覚えてる。
 四人目も、結構いいとこまでいってたはず、だった。つうか相打ちに持ち込
んだはずだった。
 のに。

 火花が飛んだ。


美絵子 〜その頃二人
--------------------

 どこいったのかしら、あいつ。また掃除当番またサボってんだから。
 また屋上でタバコでもふかしてるのかな。

 芽衣も、一緒にいるのかな?

 ふと、考えていると、芽衣の声が聞こえた。

「あ、いたいた、美絵子ー」
「芽衣、ねえ、ユキ知らない?」
「あれ?こっちも探してんだけど」
「え、ユキ屋上にいないの?」
「てっきり、また美絵子にどやされてると思ってたけど」

 屋上にいない?

「どこいったのよ、あの馬鹿」
「どこいってんだ、あの馬鹿」

 あ、ダブル馬鹿呼ばわりだ。


「美絵子ーー!芽衣ーーーっ!」

 そこへクラスメイトの子が血相変えて走ってきた。

「ゆ、幸久くんがっ、ひとりでっ、さ、三年のっガラのわるそーな先輩達とっ、
けけケンカっしてるっ」

 思わず芽衣と顔を見合わせた。

「ユキ、あの馬鹿!」
「くそっ、あんの馬鹿が!」

 走り出す二人。

「あいつがヘボじゃないってことぐらい知ってるけど、一人って馬鹿か!」
「馬鹿よ!」
「美絵子、あたし保健室で薬箱とってくる!」
「わかった、こっち探しとく」

 ばたばたと走りながら思う。
 あの馬鹿ホントなにやってるのよ。

 お兄さんである友久先輩が亡くなってから、あいつはずっと荒れてる。
 友久先輩と比べられることを心から嫌がってるくせに、先輩と違ってること
を確認するように、なんかっちゃケンカを売ったり売られたりの連続で。

 馬鹿よ、あんた。あんたはあんたなんだから、強くてカッコよかった友久先
輩じゃないんだから。
 ええかっこしいで馬鹿でどうしようもなく鈍くて……それでも。

 それでも、あたしはいいんだから。


幸久 〜撃沈
------------

 痛え。
 っつーか、動けねえ。
 大の字に転がったまま、起き上がれない。

 情けねえ。
 絡んでたへぼ三流不良どもはとっとといっちまったらしい。つーかえらそう
にケンカふっかけといてなんだよこのザマはよ。
 ちくしょう。

 ふと、ひらり、と揺れるスカートの裾が見えた。

「ユキ」
「美絵子……?」
「こんなとこいたのね」

 はぁ、と肩を落とした。

「あんた、なにボコボコになってんのよ」
「うっせ」

 ようやっということを聞きはじめた体を起こす、ぎしぎしと節々が悲鳴をあ
げてる。

「何人いたの?」
「五人」
「あんた馬鹿でしょ」
「うるせーな」

 兄貴はあんなアホども10人束になっても平気でのしてたぞ。

「ばーか、あんたはヤワなんだからそんなの無理に決まってんでしょ」
「でも三人やったぞ」
「で、四人目で力尽きたんだ」
「……うっせえな」
「ほんと馬鹿よね。ほら、おでこ見せなさいよ、血にじんでるじゃない」

 ぺしっとハンカチを押しつけてくる。

「痛えよ!」
「我慢しなさいよ、一人で五人と喧嘩なんてするあんたが馬鹿なんだから」
「ちくしょう……結構いいとこいってたのに」
「あんた身の程知りなさいよ」

 くそっ、結構いいとこいってたのに。あの頭突きがちゃんと決まってたらも
う一人だって余裕でやれたはずなのに。

 なんかいい匂いがする。
 額のハンカチか?

 あーだめだ、体中ぎしぎしいってやがる。

「ち…くしょ……」

 また大の字に転がった俺を覗き込む美絵子の顔。
 んだよ、その沈んだ目は。こんなん別になんともねえよ。

 あ、だめだ。意識とびそ。

『そーいう馬鹿なとこ、あたしは好きだけどね』

 落ち際になにかしゃべったらしい美絵子の言葉は俺の耳には届かなかった。


芽衣 〜手持ち無沙汰
--------------------

 手にした薬箱。
 倒れた幸久とその隣に座り込んだ美絵子。

 なんとなくいい雰囲気で。

「なんか、入ったらまずそう、かな」

 後ろ手に持ったまま、その場に入れない。

 心の奥で何かがうずいてるのは、気のせいだろうか?


時系列と舞台 
------------ 
 1994年2月 吹利学院高校
解説 
---- 
 兄の死で荒れている幸久と、幸久を気遣う美絵子、芽衣。思惑はどこへ
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

ゆっきー蚊帳の外街道まっつぃぐら。



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