[KATARIBE 28372] [HA06N] 小説『ずるいやつ』

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Date: Tue, 1 Feb 2005 10:58:51 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28372] [HA06N] 小説『ずるいやつ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年02月01日:10時58分51秒
Sub:[HA06N]小説『ずるいやつ』:
From:久志


 ちは、久志です。

 風邪で寝てるときに限ってネタが湧きますネ。>寝ようよ
こないだれあなんが書いてくれた芽衣さんの話に続いたりします。

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小説『ずるいやつ』
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登場キャラクター 
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 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :芽衣の親友。幸久に告白し、恋人になる。 
 蓮池芽衣(はすいけ・めい) 
     :美絵子の親友。幸久のことが好き。 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :常に蚊帳の外の当事者。

1995年初夏 〜屋上の扉
----------------------

 ずるいやつ。
 ずるいやつ。
 あたし、ほんっとうにずるいやつ。

 さっきまでいた屋上の柵の前には、まだ芽衣がいる。
 屋上の扉の前、扉に背を預けたまま、立ち止まる。

「ごめんね……芽衣」

 知ってたくせに。


1993年春 〜クラス発表
----------------------

 吹利学院高校、入学式。
 クラス名簿が張り出された看板の前に人だかりができてる。

 なんかもう、見えないわよ、これじゃ。
 あたし、何組だろう?

 ふと、浮かぶ顔。

 同じ組かな?
 同じだと、いいな。

「美絵子ぉー」

 人ごみの中から見知った顔の子が手を振った。

「芽衣!」

 中学時代からのクラスメイト、芽衣が手をメガホンにして叫ぶ。

「クラス、同じ!」
「ホント?!」

 飛びつくように駆けていって互いの両手を合わせる。

「やった!」
「これからよろしくっ、美絵子」
「うんっ」

 芽衣と同じクラスになれたのはすごく嬉しい。
 けど、あともうひとつ。

「他、いるかな?」
「ん、洋子と和美は違うクラスみたい」

 同じ中学の友達とは少しばらけちゃったみたいだけど。
 あの子は?

「ちょっとあたしも少し見てくるね」
「うん」

 人ごみをかき分けて、看板の前に出る。
 は、蓮池。ふ、藤村。
 ま、み、む、め、も……本宮。

「あった」

 本宮幸久。

「……同じだ」

 ふわっと、胸の奥が暖かくなる。

「えへへっ」

 同じクラスだ。
 嬉しい、な。


1994年冬 〜屋上のひとコマ
--------------------------

 あたしと芽衣と幸久。
 同じクラスになって。三人揃って気兼ねなくしゃべりあう友達になって。
 それから。

 それから?


「あれ、ユキ知らない?」
「さあ、しらねー屋上じゃね?」

 あの馬鹿、また屋上でタバコふかしてんのかしら。
 見つかったら停学もんでしょ、ほんっとに馬鹿なんだから。
 あいつのどこがいいのよと、たまに思う。でも、答えは出てこなくて。

 思ったとおり、屋上に幸久はいた。けど、そしてその隣には。

「つうか、煙草すいたいんなら家で吸え」 
「別にどこですってもいーだろ」 
「そんなら、職員室行って吸って来い。あそこにゃ灰皿あるぞ」 
「無理だろ、それ」 

 幸久と芽衣。二人並んで屋上の柵の前で立ってる。
 声かければいいじゃない、なのに。なぜか、あたしは屋上のドアの後ろに隠
れてしまった。
 あたし、ほんっと趣味悪い。


「お前、人物とかとらねーの?」 
「んー、苦手かな」 
「なんで?」 
「人の動いてる姿ってさ、すごい綺麗なんだよね。写真ってどうやっても制止
してるじゃん? 上手く言えないけどなんていうか、どれだけ躍動感のある絵
をとっても冷めた目でしか見れないのよね」 

 芽衣らしいな、そーいう考え。

「おまえ、いつも、そういうさめた目でみてんの?」 
「あー、そうじゃなくて……」 
「写真撮る人として間違ってる気もするんだけど、私には動いてる瞬間以上に
生きた絵を撮ることが出来るように思えないの」
「俺は、そーいう感性っぽいのわかんねーけど。そういう瞬間をさ、一秒一瞬
でもとめときたいから、写真ってあるもんじゃねーかと思うんだけど、な」 

 ぎゅっと、手を握る。二人、他愛のない話をしてるだけなのにどうしてこん
なに落ち着かない、かな。
 ちょっと無言が続く。それだけなのに、胸が痛い。

「なんだよ、そのツラ」 
「い、いや。ユキにしちゃマトモなこと言うなって」 
「ユキにしては、は、よけーだろが、おい」 
「そうだね……あー、なんか悔しい」 
「なんで、感想が悔しいなんだよ…」 
「うっせー、あほ。悔しいもんは悔しいんだよ」 
「なんだよ、かわいげねえな!」 
「かわいげなんてもんは惚れたヤツにだけみせりゃ良いんだよ」 
「ああ、そうかい、どーせ俺はたいしたことねー男だよ」 

 んの……大馬鹿。一発殴ってやりたい。

「そーいう拗ねた態度が…………あーくそ、ちょっとそれよこせッ」
「なっ、おい返せよ」 

 げほげほとむせ返る声。

「なんだこれ、なんでこんな煙たいもん好き好んで吸うかね。信じらんね」 
「ほら、吸えもしねーくせにふかすなよ、返せ」 
「うるさい、今は吸いたい気分なんだよ」
「ヘンな奴だな」 

 馬鹿。
 あんたほんっと馬鹿。

 あたしも……馬鹿だ。
 ゆっくりと、音を立てないように屋上から離れていく。

 馬鹿だなあ、あたし。

「芽衣……」

 あたし、どうすればいいんだろう。

「ユキ……」

 どうすればいい?


1995年初夏 〜帰り道
--------------------

 校舎の外。
 こないだまで鬱陶しいほど降っていた雨もすっかりなりをひそめて。夕暮れ
の日差しがほんのり蒸し暑い。

 芽衣のいた屋上を見上げる。

「ごめんね……」 

 ずっと気づいていたけど。
 こればっかりは、これだけは、どうしても。

「……ずるいよね」

 女はずるい生き物だ、という。
 自分もどうしようもなくそうで、わかってて、それでも。

「おーい、美絵子ぉ」

 向こうから聞こえる声。

「ユキ!」
「いたいた、美絵子」

 あたしに駆け寄ってくる姿。
 まだ痛みがあるくせに、やっぱり心のどっかが浮かれてる。

「帰るだろ、その……送ってやるよ」 
「……うん」

 ぎゅっと握った手。
 ひょろっとしてるように見えるけど、意外とがっしりしてるんだなあ。

「帰ろっか」
「ああ」

 自分がずるいのを知っていて。
 それでも。

 握り締めた手。今、どうしようもなく嬉しい。


時系列と舞台 
------------ 
 1993年〜1995年 吹利学院高校
解説 
---- 
 学生時代の美絵子と芽衣と幸久と。幸久を巡る女友達二人。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上

こう、青春だなあ。
つーかいつまでもどこまでも蚊帳の外なゆっきーが笑えます。



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