[KATARIBE 28371] [HA06N]日記『月末土曜決戦』

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Date: Tue, 01 Feb 2005 07:15:12 +0900
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Subject: [KATARIBE 28371] [HA06N]日記『月末土曜決戦』
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gallowsです。早起きしたのでつみきのキャラ日記(?)も出します。
なんだか全然日記じゃない気もしますが。

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日記『月末土曜決戦』
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登場人物 
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 数房定三(かずふさ・さだぞう)
     :桜居家執事の老人。NPC。
 桜居津海希(さくらい・つみき)
     :桜居家のお嬢様。たいそうな偏食家。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0298/
 桜居独楽(さくらい・とくらく)
     :桜居家の旦那様。娘に甘い。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0322/

1月29日、桜居家の夕食後
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 桜居家執事の数房定三は、台所でシチュー皿を前にして首をひねっておりま
した。陶器で出来たそれは桜居家に古くからある年代物でけして安いモノでは
ありませんが日常的に使われています。本日の夕食のメイン、黒毛和牛のビー
フシチューを注ぐのにももちろん使用され、旦那様やお嬢様の食欲を幾ばくか
そそる任についておりました。そして夕食後、戻ってきたその皿に「何も残っ
ていなかった」のです。数房は大きく首をひねり考え込みました。


 数房は今の旦那様がまだ子供の頃から桜居家に仕えてきました。それ程昔か
らいる数房ですので、今の津海希お嬢様のことは生まれた時から知っています。
 この津海希お嬢様、母親を早く亡くしているにもかかわらず大層愛らしく利
発であると旦那様のご自慢でございました。もちろん数房も深い愛情を持って
接してきたのですが、世のお嬢様という人種のご多分に漏れず、少々わがまま
が過ぎるきらいがあります。特に食べ物の好き嫌いは激しく子供の頃から何を
出しても残してばかり。肉料理に至ってはほとんど手を付けないこともざらと
いう有様でした。
 四歳の津海希お嬢様曰く「かたくて食べるのがめんどうよ。わたしはおかし
とジュースで生きていけるからいいの!」
 数房は身の回りの世話から旦那様の仕事の補助まで八面六臂の活躍でこなす
優秀な執事です。中でも料理には少々、いえかなりの自信を持っていました。
どうにかしてお嬢様の肉嫌いを克服しようと数房の執事魂燃え上がります。
 しかし津海希お嬢様はわがままな上に頑固な所があり、食べないと言ったら
とことん食べない。巧妙に肉を隠してもしっかり気付いて丁寧に取り除く有様。
 また旦那様も津海希お嬢様にはどこまでも甘く、最初はやんわりとながら注
意するのですがひとたびごねられたらたちまち無理に食べることはないよ、な
どと言ってしまう始末。数房すっかり孤立無援でございました。


 そんな戦いの日々の中、六歳の津海希お嬢様、鳩のステーキを前についにぶ
ち切れました。
「かずふさ! 今日かぎりお肉料理は禁止よ! お魚なら少しは食べてもいい
けど、わたしチョコレートがあれば生きていけると思うの!」
 これには数房もたまりません。四十年の歳月に磨き上げてきた自信は砂糖菓
子のようにボロボロと崩れ去る直前。慌てて旦那様と一緒に交渉してみるも、
二時間に及ぶ議論の末に『毎月最後の土曜日にだけは肉を出しても良い』とい
うところで何故か落ち着いてしまったのでした。数房思いました。津海希お嬢
様は将来立派な暴君になるに違いない。
 桜居家の将来には希望が持てそうですが、それも健康あってのこと。数房も
肉を食べなくとも健康の維持に問題ないのはわかっていたのでお嬢様専用メニ
ューを組んで対処してきました。それでも周囲の子供とお嬢様を見比べるたび
に、背も小さく線も細いと心配してしまう数房です。自分の不甲斐なさを一人
嘆くのでありました。
 しかしここでくじけては亡き先代や奥様にも申し訳が立ちません。桜居家執
事兼料理長としての誇りをかけて毎月最後の肉料理には心血を注ぎます。お嬢
様向けアイデア料理のオンパレードです。チョコレートソースのローストビー
フや果実をふんだんに使ったグリルなどで一定の成果を挙げ、わずかながら手
を付けて貰えるようになっていったのです。
 かくして、時にはアイデアが暴走し旦那様に苦情を言われることもありまし
たが、毎月最後の土曜日は数房にとって大きな楽しみになっていきました。
 この習慣は桜居家とその一族の都合により十三歳の津海希お嬢様と別れるま
で続き、再び一緒に暮らすようになった十六歳の現在再開しております。
 数房、外に出してる間お嬢様がわがままを言っていないか気が気ではありま
せんでしたが、ご本人に聞いたところによると他人様の家だったから好き嫌い
言わずに食べた、ということでした。それなら自分の料理も完食して頂きたい
と思う数房ですが、こういうわがままが嬉しくもあるお爺さんなのでした。


 そして本日、数房の前に空の皿が並んでおります。数房にとってこれは一大
事です。なんといっても津海希お嬢様が肉料理を残さず食べるなどというのは
数房の記憶の限りたった一度のこと。五歳の津海希お嬢様に檸檬で香り付けし
たフレンチ風のカツレツを出した時以来のことでありました。
 ちなみにこのメニューも、これ以後は通じませんでした。
 今回はレシピ自体はオーソドックスなブラウンシチューで、過去何度か出し
たことのある代物です。別れて暮らしている間にお嬢様の嗜好が変わったのか
とも思いましたが、他の料理への手の付け方を見る限りそう言うこともありま
せん。
 風味付けに入れたクミンシードが良かったのだろうか。しかし昨年カレーに
入れた時はなんの成果もなかった──数房三度首をひねります。
「数房、そんなに首をひねるとねじれて落ちてしまうわ」
 台所に津海希お嬢様がやってきました。
「あ、お嬢様。ジュースでございますか?」
「いえ。そういうわけじゃないのだけど、何かあったの?」
 数房しばし悩みます。お嬢様ももうすぐ十七歳。立派に大人の理性を持ち始
めている。今なら直接理由を聞いてしまった方が早いのではないだろうか。ご
本人に好みさえ言って貰えればお嬢様好みのメニューを用意することも容易い
はず。
 しかしそれは、脈々と続いてきたお嬢様との戦いの敗北を認めることになる。
数房の中の料理人の負けん気と執事の判断がせめぎ合います。
 私は何を迷っているのだ。私はまず第一にお嬢様に喜んで貰えるものを作る
のが責務ではないか。そうして少しずつお嬢様の好き嫌いをなくしていくこと
が私の夢であったはず。ああ、先代、私は自分の腕に溺れ本質を見失っており
ました。お許し下さい。──そう、数房はプロの執事なのです。
 数房、神父に告解する敬虔なカソリック教徒のような面持ちで口を開きます。
「お嬢様、今日のお料理はお気に召して頂けましたか」
「うーん、まあまあね。おいしかったですよ」
「ありがとうございます」
「それだけ?」
「いえ……その、何故残さず食べて頂けたのかと」
「ああ、そのこと。はい、お誕生日おめでとう」
 津海希お嬢様、小さな箱を差し出します。
「昔は残さず食べただけで日頃の感謝の気持ち表現していたつもりだったのだ
けど、こういう事は言葉にしなければ意味がないのかもしれないと思い直した
のですよ」
 数房、感極まったのか言葉も出ません。
「うーん、やっぱり気付かれてないものね。子供の頃からそうしていたのに」
「あの……では料理の内容は関係ないので?」
「まあそう言うことになるかしら。気分で食べたり食べなかったりですけど数
房の料理は好きよ。お肉も昔よりは食べられるようになりましたしね。 ……
あれ? どうしたの数房。感動して泣いちゃった? おーい。やめてよそうい
うの。照れるじゃない」
 数房、がっくりと椅子に座りこんでしまいました。この時実は声なく笑って
いたのですが、お嬢様には泣いていると思われておいた方がよさそうです。


 その夜、数房は一人自室でピカピカに輝く新しいカフスを付けて次なる戦い
への闘志を燃やしておりました。計算によると次に月末の土曜日と数房の誕生
日が重なるのは津海希お嬢様二十二歳の年。その時までに残さず食べさせてみ
せるのが当面の目標となりそうです。


時系列と舞台 
------------ 
 2005年1月29日。桜居家。

解説 
---- 
 津海希と、執事の数房の長い戦いの一コマ。

-- 
gallows <gallows@trpg.net>


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