[KATARIBE 28353] [HA06N] 小説『講習帰りに』

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Date: Sun, 30 Jan 2005 22:40:21 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28353] [HA06N] 小説『講習帰りに』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月30日:22時40分21秒
Sub:[HA06N]小説『講習帰りに』:
From:久志


 久志です。

 日記日記とあれこれ悩んでいたらまったく関係ない話がぽんぽん
湧いてきました。
 過去のある日の美絵子の日記という感じで(そんなのアリなの?!)

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小説『講習帰りに』
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登場キャラクター 
---------------- 
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。
     :当時中学三年生。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :当時中学三年生。

冬期講習
--------

 はぁ。やーねえ受験って。

 駅前の小さな学習塾。冬休みの短期集中講習に来ているのはあたしをいれて
12・3人。夜の部だから人が少ないのはしょうがないけど、女の子はあたし
を入れて4人、それもあたしとは学校が違っていて顔も知らないし、おまけに
あちら三人は知り合い同士みたい。なんかあたしが紛れる隙がない。
 もともと、あたし自身ちょっとここから家から遠めだし、同じ中学同士の知
り合いはいないのよね。

 まあ、本来勉強に来てるんだから顔見知りでなくても、おしゃべりできなく
ても全然構わないんだけど、やっぱり、ちょっとさびしいじゃない。

 カリカリとノートにシャーペンを走らせる。講習は英語数学の2教科コース、
英語はまあまあだけど数学はちょっとがんばっときたい。
 あ、とちった。
 ペンケースの中から消しゴムをだそうとして、中にはシャーペンと換え芯し
か入ってないのに気づいた。
 あれ?おかしいな、夕べ復習してたときには入ってたはずなのに。かばんの
中に落ちたのかな。机の脇にかけた鞄をあれこれ探っても消しゴムが見つから
ない。ガタガタ動き出したあたしを見て隣の席の男の子がこっちを見る。
ホワイトボードに数式を書いていた講師の人が振り向いた。

「そこ、静かにしなさい」
「すいません」

 あーあ、注意されちゃった。もういっそ線引いて消そうかな、ノート汚れ
ちゃうなあ……

 ぴこん。
 と、何かが机に飛んできた。

「ん?」

 拾い上げると結構使い込んで半分になった大きさの消しゴム。
 隣の席を見る、さっきこっちを見た男の子は頬杖をついたまま何事もなかっ
たようにシャーペンを走らせている。
 貸してくれたのかな。
 とりあえず遠慮なく使わせてもらおっと。


講習終わって
------------

 講習が終わったのは21:00。結構遅い時間だけど開始が18:30だし、
割と集中してできたんでそんなに時間が経った感覚がない。でも外真っ暗よね、
あたりまえだけど。ちょっと、やだなあ。
 男子連中は顔見知りその他知らずへらへらしゃべくってる。あっちの三人の
女の子達と知り合いの子も数人いるみたい。

「それでは今日は終わり、遅いから気をつけて帰れよ。男子、遅いから近所の
女子を送ってやれ」

 男子連中からえーとか、まじかよーとかいう抗議があがる。女の子三人もや
だあとか言いながら笑ってる。確か家近いのよねこの子達、だから笑ってられ
るんだろうけど。
 でも、送ってもらおうにもあたし無理だろなあ、歩いて30分近くかかるし、
顔見知りでもない男の子が送ってくれそうもないし、顔見知りだったとしても、
この歳の男の子がそんなことしてくれるとも思えない。

 こないだ市内で変質者でたって、お母さん言ってたわよね。帰りは気をつけ
なさいよ、言ってたけど。
 やだなあ。

 ばらばらと帰っていく子達を見ながら、コート羽織ってマフラー巻いて席を
立つ。早く帰らなきゃ。

 学習塾を出た入り口に、黒いダッフルコートに白いマフラーの男の子が立っ
てるのが見えた。
 あの、隣の席の。
 なんとなく返しそびれてしまった消しゴムはペンケースにいれたままだった。

「あ、ごめん。消しゴム返すの忘れてたね」

 慌てて鞄の中からペンケースを引っ張り出して、消しゴムを渡す。

「えっと、ありがと」
「ああ」

 ぶっきらぼうに答えて消しゴムをポケットにしまう。なんとなく立ち尽くし
てしまったあたしをチラッと見て、口を開く。

「で、どっち」
「え?」
「家だよ」
「え……?」
「帰んだろ」

 えっと、ひょっとして。
 送ってくれる、の、かな?

「うん、あの、こっち……遠いけど、いいの?」
「たいしてかわんねーよ」

 その言い方はぶっきらぼうで、見た目もちょっと不良っぽかったけど。
 結構、いいヤツなのかな?


帰り道
------

 道すがら、何もしゃべらないってのも、苦痛なわけで。
 なんだかなあ。男の子と二人で歩くって、正直生まれて初めてだ。何話せば
いいのやら。

「どこ受けるの?」
「吹利学院高校」
「へえ、同じじゃない」
「普通科?」
「うん、あたしも」
「そか」

 途切れる会話。

「ねえ」
「何?」
「家、近いの?」
「そこそこ」

 また途切れる会話。っていうかコイツ少しはキャッチボールしなさいよ。

「兄弟いる?」
「ん、ああ、兄貴二人と弟」
「男ばっか四人?」
「悪いかよ」
「いや、めずらしいな、って」
「みんなそう言うよな」

 あ、なんかちょっとさっきの会話と感触が違う。

「でも、いいな。私は妹いるから、お兄さんか弟欲しかったもん」
「そんないいもんじゃねえぞ」
「そうかなあ、頼れるお兄さんっていいじゃない」
「まあ、頼れるってのはあるけど、いいとこばっかじゃねえよ」

 なんかちょっとひねた言い方。なんか、あるのかな?

「そかなあ、あたし二人姉妹で姉だから、頼れる人欲しいし」
「美人のねえちゃんなら欲しかったけどな」
「何言ってんのよ」
「はは」

 だんだんお互い軽口になってきたけれど、でも、なんかちょっと、こう。
 いいな、こういうの。

 でも、うち結構遠いんだけどなあ。

「ここらへんまででいいよ」
「ん?」
「こっから道路渡って先行けばうちだから」

 正直まだあるけどここら辺なら道明るいし。なにより、彼に悪い気がして。

「いいよ、ここまできたら大差ねえし」
「え、うん……」

 結局、あれから家の前まで送ってもらって。

「じゃな」
「ねえっ」
「んだよ」
「あの、送ってくれてありがとう」
「ああ」

 はた、と止まる。

「ちょっと待って」
「あんだよ」
「名前、聞いてなかった」

 立ち止まった彼がちょっと眉をあげる、なんかこう正面からまともに見ると、
ちょっとひねた雰囲気あるけどちょっとカッコいい子かも。

「本宮幸久」

 それだけ言うと、さっさと踵を返した。

「ありがと、本宮くん」

 背を向けたまま、片手を振って歩いていった。


それから
--------

 結局、あれから。冬季講習の間、本宮くんは帰りにあたしを家まで送ってく
れた。合間合間、ぽつぽつととりとめもないことをしゃべりながら。

 冬季講習最終日。あたしはなんだかんだいって残り三人の女子連中と仲良く
なって、休憩時間の合間とかにおしゃべりをするようになってた。

「ああ、幸久くん?あたしのクラスの子だよ」
「へえ」
「ちょっと不良っぽい感じするけど、結構いい人だよ」

 それは、ちょっとわかる。
 当の本人は向こうで学校の知り合いらしい連中となにやらだべってる。

「その……幸久くん、って家遠いの?」
「え?」

 あたしの家があるとこは結構遠いはずなのに。

「まさか、幸久くん家って、こっから商店街抜けていったすぐ先だったはずだ
けど」

 それ、おもっきし反対方向じゃない。あたしの家と。

「そう、なんだ」

 ふうん。

「……吹利学院高校か」
「うちらも同じだよ」
「あ、そうなんだ」

 受かると、いいな。

 一緒に。


時系列と舞台 
------------ 
 1993年1月 吹利駅前学習塾にて。
解説 
---- 
 高校受験冬期講習の時、美絵子が出会った男の子。
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以上

 ゆっきーと美絵子の過去話。こんな出会いだったんだなあ。



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