[KATARIBE 28341] [HA06N] 日記的断片『潜竜期途上』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 29 Jan 2005 02:39:35 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28341] [HA06N] 日記的断片『潜竜期途上』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200501281739.CAA98921@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28341

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28300/28341.html

2005年01月29日:02時39分34秒
Sub:[HA06N]日記的断片『潜竜期途上』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ふと覗いて、キーボードに頭をぶつけかけております。
……十年……そんなに経ちますか?
つか……あれ、最初のキャラ化って、95年の1月?
……そのほぼ一年後に、めっけたのか己……
もしかして自分、結構初期にお世話になってましたかいな。

…ってんで、死亡後数年状態な奴から、
 唐突に掛かるとりとめのない電話に似て。



日記的断片『潜竜期途上』
======================

登場キャラクター
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
       :数年前に吹利を離れる。元本屋店員。
 軽部真帆(かるべ・まほ)
       :その友人。


本文
‐‐‐‐

 十歳が二十歳になる間に、二十五歳は三十五歳になる。
 前者が目を見張るほどの変化を示すのに対し、後者は……まあせいぜい、本
人の意識に、一点はっきりと刻み込まれる程度の変化しかないのでは、と。
 そんなことを、思うことがある。

 己が居ないこの世界を、鋭いまでに予測するようにはなったけれども。



『てかさ、仕事と別口とで、感覚全然違うんだよね』
 彼女からの唐突な電話には、もうすっかり慣れた。
 寧ろ感謝さえしているかもしれない。
 その唐突な電話が無くなれば、彼女と自分との縁は途切れるだろうから。
「って?」
『仕事だと割とネット使うんだよ。そすっと自分なんか、完全に年寄り御老人
なんだよね』
「……同い年に言われると、きついんだけど」
『でも別口は完全にオフラインで、そこだと七十の方が『うん僕サイト作るよ、
作ったら知らせるから』とか言ってるし、六十代の方ががしがしプログラム系
の仕事してるし、あたしなんて若造扱いだし』
「……それは、あるわね」
『もうすぐ八十って人にさ、『最後の最後まで疲れてる暇は無い』とか言われ
ると、ほんっと自分って小僧だよなーとか思うしさー』
「確かに」

『草枕』に、或る老女が出てくる。
 過ぎる年を花の移り変わりで知る彼女を、語り手の絵師は羨むのだけれど。
 花粉症で目をしばしばさせている兄で、一年の速さを知るというのも……
『てかね相当それきついんだからね!』
「へ?」
『あんたは花粉症なんて縁がないかもしれないけど!』
「……真帆って花粉症?」
『現在目をこすってますがね』

 それでも、と思う。
 それでも真帆は、自分とは別の、とても進みの速い時計を持っているじゃな
いか、と。
『それって甥っ子と姪っ子?』
「それそれ」
『…………あーーーーー』
「電話口で老け込まないの」

 陽光すら届かぬ深海に潜り続ける竜の如き年月を。
 深く潜れば潜るだけ高く飛ぶだろうとの言葉を思い出しても、その時の短さ
に、怯えるようになってから。

「……怖くなることは、あるけどね」
『穢土では浮上しないかもって?』
 ……同い年って、ほんと気分的に泥沼になる。こういう時って。

 でもさ、と、電話の向こうから、確かに笑い混じりの声がする。
『その台詞、こっちじゃ五十代の人だって使ってるよ』
 かろく。
 そんな、言葉を。

『生きてる限りは、使える言葉なんじゃないの?』


 年毎に巡る花の景色に、時の儚さを思い知り。
 己が目の前で繰り返されるのは、あと幾度かと思い。
 四次元時間軸方向への歩みを、こころもとなく思っても。

「…………そうかもね」
『そう、思いたいんだよね、あたしもさ』

 互いに。
 足元のおぼつかなさを、叱咤しながら。

『元気そうで良かった』
「そちらこそ」
『皆に宜しく』
「……ありがとう」

 そして電話は、静かな機械音だけを残す。
 受話器を、また元のように置いて。

 一度、息を吐いて……そして少しだけ笑ってみる。
 
 十年、と、突きつけられて、痛くもあり辛くもあるけれども。
 
 
 ……痛くもあり、辛くもあるけれども。


時系列と舞台
-----------
2005年1月29日の、どことも知れぬ場所。

解説
----
 十年という期間が、決して長い時の単位ではない、と、
体感してしまった二人の電話風景です。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

 次の十年をもまた、語り部が越えてゆかれますよう。
 ではでは。




 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28300/28341.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage