[KATARIBE 28335] [HA06N] 小説『さりげなく』

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Date: Fri, 28 Jan 2005 09:39:10 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28335] [HA06N] 小説『さりげなく』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年01月28日:09時39分09秒
Sub:[HA06N]小説『さりげなく』:
From:久志


 久志です。

 も少しツンデレをすすめてみる。
ちまっと、相手を意識してみた。

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小説『さりげなく』
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登場キャラクター
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。またの名を宴会決戦兵器
     :2000年当時、26歳。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。ちょっと最近動揺気味。
     :2000年当時、24歳。

奈々 〜昼行灯〜
----------------

 あれから数日、まるで何事もなかったかのように。本宮巡査はいつものよう
にぼんやりした雰囲気そのままに私に普通に接している。以前のような注意や
小言にも前と変わらず素直に頭を下げて、この間の出来事など本当に無かった
ことのように振舞っている。

「それでは、今日の報告反省会を終わります」

 ばたばたと筆記用具を片付ける音、報告書類を揃える音、席を立つ音が聞こ
える。席を立つもの、話し込む者のいる中、少しのんびりした様子の巡査の姿
を見つける。

 本宮史久。吹利県警刑事課所属の刑事見習い。通称、昼行灯。
 昼行灯といっても特別彼自身が無能というわけではなく、仕事はそれなりに
こなしているらしい。けれど、本人を取り巻く空気というか、自身の雰囲気が、
昼行灯の名に恥じないぼんやりとしたイメージを周囲に与えている。
 呼び名の通り、彼が純粋たるボケ者なのか、それとも昼行灯を気取った有能
な人物なのか、私には未だにわからない。署内の大半の人間は前者だと思って
いると思うけれど、なんとなくどう言えばいいのかわからないけど、どこか心
の奥底を読ませない不思議な感覚を最近感じている。実際、署内でも彼に対し
て一目置いてる人も少なからずいるらしい。

「ふぅ」

 読めない。巡査が何を考えていて、何を思ってどう行動するか。
 そうでない人達ならば、なんとなく心の底で何を思っているか、わかるのに。

 ぐるぐるまわる考えをかき消す頭を振って気合を入れる。仕事中に気を抜い
てはいけない。それに今日は、刑事課の転属祝いの飲み会があるのに。
 もう二度とこの間のような醜態をさらすわけにはいかない。絶対に。

 この間の……

 ああ、まだ思い出すとダメだ。ひとつ大きく息をついて呼吸を落ち着ける。
 気を引き締めなきゃ。


史久 〜決戦兵器再び〜
----------------------

 何気にうちの課の人達、宴会好きだよねえ。まあ、僕も好きだけど。
 居残った夜勤組には悪いけど飲めるのは楽しい。今度、お留守番の夜勤組に
差し入れでも買っていってあげよう。

「では、卜部警部を歓迎して乾杯」
「かんぱーい」
「さ、警部どうぞどうぞ」

 なんだかなあ。
 意図が見え見えです、みなさん。まあ、こないだの宴会でみんな警部に撃退
されてたんですよね、確か。警察ってのは司法組織であるけれど、組織を固め
ているのは人だから、その人個人の意図や心情が絡んだりってのもわからなく
はないですけどね。

「ふん、現場に触れてビビっても知らんぞ、女キャリア」
「なんで僕に隠れて言うんですか」

 かっこ悪いですよ、先輩。

 お酒の入ったお猪口を片手に、ぼんやり周りを眺めてみる。
 やっぱりというかなんというか、警部の周りに人が集まってきてる。

 うーん。
 なんとなく、見てられないんだよなあ、こういうの。

「ちょっと僕も行ってきます」
「おお、決戦兵器が立った!」

 ていうか、人を兵器呼ばわりするのやめてくださいってば。

「行け本宮!見事討ち取ってこい!」

 戦国武将ですか、僕は。


奈々 〜隣に来たのは〜
----------------------

 気が重い。

 差し出されたお銚子からとくとくと、お酒が注がれる。

「どうぞ警部」
「ありがとうございます」

 正直、自分はそんなにお酒に強いほうとは言えない。今だってやせ我慢と意
地で酔いを必死におさえている状態だ。さっきトイレにたった際も何度も顔を
洗って鏡に向かって酔うな酔うなと自分に言い聞かせてきたばかりなのに。

「警部、お強いですなあ」
「卜部警部、わたくしからも一杯」
「はい、ではご返杯」

 まだ飲み会も始まったばかりなのに。

 辛い。

「あ、先輩。僕もお酌しますよ」

 その時、ふと隣に来たのは。

「本宮巡査……」
「おつかれさまです、警部」

 ぞく、と。背筋に冷たいものが走った。
 この間の宴席の出来事が脳裏によみがえる。

 あとで署内で聞いた話、彼は相当の酒豪で知られてるとのことだった。
 実際、この間の宴席で自分より相当量を飲んでいるにもかかわらず、顔色ひ
とつ変えずケロリとしていたのを覚えている。

 また。
 この間みたいに……

「警部、いかがです?」
「……はい」

 こそっと、小さな声が聞こえた。

「大丈夫、水です」
「え?」

 とん、と目の前に置かれたお銚子には確かに何の匂いもしない。

「少しさましながら飲んだほうがいいですよ」
「本宮巡査?」
「無理して飲むのは、辛いですから」

 ふわり、と巡査が少し笑った。

「お酒は楽しく飲まないと、ね」

 さりげなく。

「先輩、僕もお注ぎしますよ」
「おお、史久か」

 そのまま、周りに集まった人達にせっせとお酒をすすめていく。
 すいすいと、飲んで注いで飲ませて飲んで。
 またたく間に、ぱたぱた人が倒れていく。

 残ったのは。

「ふぅ」

 顔色ひとつ変えず、一息つく。
 私はお猪口を片手に持ったまま、呆然と座ってるだけだった。

「警部、大丈夫ですか?」
「ええ、はい……」

 何か言わなきゃ、何か。

「……ありがとう、本宮巡査」
「はい、警部」

 また、ふわりと笑った。

「……」
「どうしました?」
「いえ」

 私、ちょっと酔ってるみたいだ。


史久 〜手馴れてます〜
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 つわものどもが夢の跡。

 なんて、ちょっと気取ってみたりする。
 累々と戦死者が転がる中、ひょいとお銚子を傾ける。よく冷えた酒がするす
るっと胃に入っていく。大衆居酒屋でも結構いいお酒置いてるんですね、この
お酒なかなかいけるなあ。
 腕の時計を見る。

「えーと、まだ九時前か」

 まあ、早い段階で全員つぶしたからまだそんなに遅くない。このまましばら
く寝かしといて帰りにみんな起こせば、酔いも覚めてすっきりして帰れそうだ
し。明日にも響かなさそうだ。
 そういや警部は大丈夫かな?
 あーなんか呆然としちゃってますね、無理もないか。みんな撃沈しちゃった
もんなあ。お酒すすめようにもこないだの雰囲気だとやっぱり無理して飲んで
るみたいだし。

「警部、ウーロン茶でも頼みますか?」
「え、あ、はい」

 あはは、きょとんとしてますね。なんか意外と可愛いです。
 なんて、ちょっと失礼かな。


時系列と舞台 
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 2000年1月中旬頃
解説 
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 史久と奈々さんの出会いの頃。『玄関前の攻防』の数日後
 ちょっぴり史久を気にしてる奈々と飲み会で奈々をフォローする史久。
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さりげなく。

宴会決戦兵器、笑う凶器、昼行灯、と呼び名の多い史久です。
奈々さん、ちょっと意識がはいってきました。史久もそれなりに。

ちなみに書いてて楽しかったのは先輩です。たいしてしゃべってないけど。



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