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Date: Mon, 24 Jan 2005 16:23:22 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28309] [HA06N] 小説:『新幹線』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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MOTOIです。
自キャラ、美香を題材に小説を書いてみました。
癒し系抜け首少女:御法川美香
http://kataribe.com/HA/06/C/0417/
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小説『新幹線』
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登場人物
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御法川美香(みのりかわ・みか)
:抜け首一族の娘。山梨の奥地から一家で吹利に旅立つ。
塩尻駅
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「まもなく4番線に電車が参ります、黄色い線の内側に下がってお待ちくだ
さい」
塩尻駅のホーム。アナウンスの直後、特急電車が滑り込んでくる。
「本当に、もう未練は無いな?」
「もう決めたことよ、未練なんてないわ」
深刻な表情で、ホームに立つ男女がいた。
「美香、いつまでも走り回ってるんじゃない。電車が来たぞ」
「あ、はーい」
美香と呼ばれた少女は、慌てた様子で男女の下へと駆け寄る。
「美香、もう中学生なんだから、そう子供みたいに振舞うんじゃないわよ」
「わかってるよー、ただ……」
「ただ?」
「……ううん、なんでもない。なんでもないよ、ママ」
どこか寂しそうな表情を見せる美香。
「美香、お前……やっぱり離れたくないんじゃないのか……?」
「違うよー……それに、今から引き返したって、荷物もう送っちゃったんだ
からさぁ」
「……」
「さ、電車に乗ろう、パパ、ママ」
美香は、先頭を切って特急電車に乗り込んでいく。
その姿を見ては、彼女の両親も、何も言うことができず、続いて電車に乗っ
た。
「特急しなの号、名古屋行き発車します、ドアが閉まりますのでご注意下さ
い」
特急しなの号
------------
「まもなく中津川です。中津川の次は多治見に停まります……」
塩尻を発車して1時間余りが過ぎた頃。最初は窓からの景色を楽しんだり、
車内を歩き回ったりしていた美香も、疲れがきたのかぐっすり眠ってしまった。
「すっかり寝ちゃったわね」
「ああ……」
ふと。
「あっちゃん、けーちゃん、しょーくん、ごめんね……」
寝言。
「……美香……」
「……やっぱり、お友達と別れるのは辛かったのね」
「……ああ、あたまとらないでー、からだにもどしてー」
「ちょ、ちょっと美香、変な寝言いわないのよっ」
「大丈夫、寝言だから誰も本気にはしないさ」
そして、父は、小さな声で一言。
「……でも、寝てる間に首が抜けたり伸びたりしないようには、気をつけて
見ててくれよ」
「もちろん、わかってるわよ」
回想
----
抜け首一族。それが彼らの正体である。
由来は、弥生時代に大陸から渡ったとか、古墳時代に宇宙から飛来したとか、
もっともらしいものからうさんくさいものまでいろいろある。
だが、はっきりとはわかっていない。
彼らは、生物学上は普通の人間である。
普通に食事もするし、普通に睡眠もとるし、普通に排泄もする。
一つだけ違うのは、首が伸び縮み、あるいは胴体から離脱することである。
それゆえ、偏見を恐れ、とある山奥の人里離れた温泉地で、よそ者を決して
受け入れずに、一族のみで過ごしてきたのである。
だが、そんな村に、一人の少年が迷い込んできたことから、状況が変化した。
最初は、ただ迷い込んだだけだった。
少年は美香と出会い、外の世界を知らなかった美香は、少年を歓迎した。
一緒に遊び、一緒に話をした後、彼が住むという山の麓への道を教えた。
その後、少年は度々山に登ってくるようになった。
その度に、美香は少年を歓迎した。
そして、少年を村に招き入れた。
村の人々も、少年を歓迎してくれた。
……村の長老など、一部の人たちを除いて。
「村によそ者は入れぬのが古からの慣わしではないか」
「長老、彼はまだ少年、そう慣わしにこだわらずとも」
そんな問答が毎日なされていた。
ある日のこと。
少年は、ついに見てはならないものを見てしまう。
「み、みかちゃん……おばけだったの?」
「おばけじゃないよ、あたまがとれちゃうほかは、ふつうのにんげんだもん」
「わが一族の秘密、見たなっ」
「うわっ、ちょーろーさん」
美香の首が抜けるのを見た少年は、そのまま長老の家に連れて行かれた。
そして……一族の『仲間』とされたのだ。
「今日から、君はこの家で、私たちと一緒に住むことになる。美香も一緒だ」
「やだよっ、とうさんやかあさんのところにかえりたい」
「これが、正体を知られた者に対する、村の『掟』……仕方ないの」
「かえりたいよーっ」
村の掟……正体を知った者は、『仲間』に引き入れ、外に出さぬこと。
この『掟』によって『仲間』となった人間も少なくない。
少年も、そのうちの一人になろうとしていた。
脱出
----
だが。
「どうしても、パパやママにあいたいんだね」
「うん……ぐすっ」
「だったら、ぬけみちがあるよ」
「え、ほんとなの?」
「うん、このまえたんけんしてみつけたの。わたししかしらない、ひみつの
みちなんだよ」
『仲間』が普通に村から出ようとすれば、なぜか必ず長老に見つかってしま
う。だから、『仲間』となった者は、一生村で過ごすほかなかった。
だが、美香は、どういうわけか見つかることなく外に出る道を発見していた。
「ここからにげてっ」
「ありがとうみかちゃん、ありがとう」
「おれいはいいから、はやくっ」
その夜、村は大騒ぎとなった。
少年が見つからない、脱出された。
外部の者によって村が滅ぼされるのではないかという心配もされた。
しかし、1週間たっても、1ヶ月たっても、外敵は現れなかった。
村の人々は、いつしか少年のことを忘れていった。
……長老たちを除いては。
「正体を見た者は一生村から出してはならぬのが掟、捜すのじゃ」
「しかし、こうして皆以前と変わらぬ生活を送っているではありませんか」
「掟は掟じゃ」
『掟』……
果たして、それに意味はあるのだろうか?
そう思う者も多くなっていった。
移住
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それから2年後。
村にある噂が流れ始める。
逃げ出した少年が、吹利−村では、魑魅魍魎が集うと言われる地−にいると
いうものであった。
「長老、われわれが吹利に出向き、彼を見つけて参ります」
「そうか、やってくれるか」
「元々、彼を逃がしたのは、共に暮らしていた我々の責任。必ず、彼をこの
村に連れ帰って参ります」
「頼むぞ」
こうして、御法川一家は吹利に移住することとなったのである。
だが、それは本心ではなかった。
「本当に、村から離れるのね」
「ああ……掟、掟と、古いものに縛られすぎだ。古い掟に縛られて生き延び
るくらいなら、いっそ滅んでしまってもいい」
「私もそう思うわ。あなたについて行きます」
名古屋駅
--------
そして、一家三人は、今、吹利に向かうために、特急電車に乗っている。
「まもなく終点、名古屋に到着します……」
「あら、乗り換えだわ。美香、起きなさい」
「う〜ん……」
「美香、名古屋に着いた、乗り換えるぞ」
「あ、は〜い」
名古屋駅。中央本線の終点で、東海地方一の大都市、その中心駅である。
「新幹線はあっちだな」
「うわー、広くて人がいーーーっぱいいるねー」
「美香、手を離しちゃダメよ、迷子になるわ」
そして。
「これが、新幹線か……」
「私も、実際に見るのは初めてだわ」
新幹線。日本が世界に誇る技術の一つである。
最高時速は270kmにも達し、乗り心地も抜群だ。
美香たちは、テレビで見ることはあっても、実際に乗ったことはない。
村を出る機会がなかったので、当然といえば当然だが。
「うわー、きれいな電車だね〜。これが新幹線なんだ……」
今までに見たこともない、新しい電車。
この新しい電車で、古い掟だらけの村から、新しい世界へと旅立つ。
美香たちにとって、新幹線はただの電車ではなく、広い世界へと向かう白い
翼であった。
「のぞみ号博多行きはまもなく発車します、ご乗車のお客様はお乗り遅れの
ないようご注意下さい」
発車を告げるアナウンスが流れる。美香たちは急いで新幹線に乗り込んだ。
「さあ、しゅっぱつしんこーっ」
「おいおい、美香」
新しい生活に向け、御法川一家を乗せた新幹線は、名古屋駅を出発するので
あった。
時系列と舞台
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2003年12月(回想は2001年)。山梨の名もない温泉村から吹利への道中。
解説
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美香の家族が吹利へ引っ越すいきさつ。
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作中の「少年」とは、もちろん自キャラ・学のことです。
元・人間の抜け首少年:十川学
http://kataribe.com/HA/06/C/0402/
なお、「塩尻駅」は、JR中央本線の駅で、長野県にあります。
山梨から京都方面に向かう際は重要な乗換駅ですが、
PLは行ったことないので、細かい描写のミスはご容赦を(ぉ)。
motoi@mue.biglobe.ne.jp
Motofumi Okoshi
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