[KATARIBE 28303] [LG02N] 小説『バードライン』続き

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Date: Fri, 21 Jan 2005 21:33:24 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28303] [LG02N] 小説『バードライン』続き
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月21日:21時33分24秒
Sub:[LG02N]小説『バードライン』続き:
From:久志


 ちは、久志です。
バードラインの続きです。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『バードライン』続き
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登場キャラクター 
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 阿古崎陣内(あこざき・じんない)
     :父の整備工場を手伝う少年。宇宙船操舵手にあこがれている。
 ミハエル安東(みはえる・あんどう)
     :陣内の友人、同じく宇宙船操舵手を夢見ている。

ENDLESS CHALLENGE
-----------------

 惑星コーべ。
 ペルセウス腕、第三新神戸星系でも有数の交易の中心地。
 その名称からもわかるとおり日系移民が非常に多い惑星でもあった。
 しかし、今では経済の急速な発展とともに流入する移民も多様多種に富み、
日系以外の人口も次第に増え、星系人種が入り乱れる混沌とした交易地として
さらなる発展をしつつある。
 曽祖父の代、超高度経済発展の只中にあったこの星に移民として移り住み、
祖父、父ともにこの星で生き続けてきた自分の家系。今となっては四世代続け
ての純日系である自分はめずらしいと、ミハエルは言う。
『そして、その純日系四代目が、先々代から長年育ててくれた星を捨て飛び出
そうというんだ、皮肉なものだよね』
 代々、親父や祖父達がこの星で生きて培ってきたすべてを否定するつもりな
んてないけれど。
 親指の爪を見つめる。
『ジンナイ、その爪を噛む癖は子供だと思われるよ、なおしたほうがいい』
 いつまでも子供じゃない。
 考えて、望んで、行動して、やりたい事は自分で決める。

 袖の裾を少し引っ張る。淡いブルーに白いラインの入った試験受講者用の機
内服は、着込んだ際少しゆるく感じたが、ステーション内を移動する間次第に
体に馴染んできた。
 惑星コーべ中央ステーション。
 港湾ゲートにはいかつい係官が目を光らせ、広い窓の向こうには入港してく
る輸送船に貨物監視船、水先案内船とが案内灯を点滅させながら行き来してい
るのが見える。中央ステーションは親父の仕事の手伝いで何度か訪れたことは
あるが、その時とはまた違う空気を肌で感じていた。
 不意に、二の腕をつつかれる。
「ぼんやりするなよ、ジンナイ」
「わかってる」

 今日から軌道上の中央ステーションで二泊三日で船舶免許取得の二次試験が
行われる。受験者は自分らとそう変わらない年頃からかなり年配まで幅広い。
中には一目で異星の者とも思われる異なった外見の者もいる。
 実地試験といっても、船舶操作自体はシミュレータでの操作とそうそう変わ
るものではないという。あるのは自身のプレッシャー。
 それと、もうひとつ。

 実地には落とし穴がある。

 毎回、実地試験の際、どこかでかならず想定外の出来事が起こる。
 それは別段試験側で意図的に含ませた出来事ではなく、ただ本当に偶発的に
発生する。それがなぜかはわからない、実はそれはまことしやかな噂に過ぎず、
ただの偶然の積み重なりかもしれない。だが、そんな思いを狙いすましたよう
に思いもしない出来事は発生する。過去には実地試験中の想定外の事故で死亡
者が出たことも何度かある。
 実地には落とし穴がある。
 それがどういう状況でどういう判断を迫られるかはまったく予想がつかない。
頼りになるのは、ただ培った慣れと己の判断力。

「いよいよだね」
「ああ」
「やっぱり落ち着かないみたいだね」
「……うん」
 少し息苦しい。詰まった機内服の襟元を少し緩めようかと思ったけれど、
だらしなく思えてやめた。たぶんこの息苦しさは服のせいじゃない。
「ここまで、きたんだよな」
「そうだね、僕達の長い投資もすべてはこの日の為だよ」
「投資、か」
 息苦しさの正体。試験前の緊張と、うしろめたさ。
 自分の夢の為とはいえ、母親に嘘をついて整備のバイト料を前借りしたのは
やっぱり心苦しい。頭を下げて頼みこんだせいもあるが、何事にも口うるさい
はずの母親がめずらしくあっさりとお金を出してくれたのは、自分としてはあ
りがたかったけど、やっぱり心にしこりは残る。
「そんな顔するもんじゃないよ君」
「え?」
「ママに嘘をついたことを考えてるんだろう」
「なんで、それを」
「君鏡を見たほうがいいな。全部書いてあるよ」
「……」
「ねえジンナイ。君のママがうちのママと一緒に買い物に出かける仲だってこ
とは知ってるよね」
「え?ああ」
「情報をリークしたのさ、」
 なにかを思い出したのか、ミハエルがさもおかしそうに笑う。
「君が片思いの相手との初デートで一緒にバードラインを見たいから、なんと
かお金を都合しようと頑張ってるらしいよ、ってね」
「んなっ!」
 よりによってなんてことを、こいつは。どうりで、というか、出掛けに見た
母親の顔が微妙に笑ったようなおかしな顔をしていたわけだ。
「君のママもオクテでカタブツな君の将来を案じて、快く費用を捻出してくれ
ただろ?」
「な、なにを無茶苦茶なことをっ」
「まちがっちゃいないだろ、ジンナイ」
 顔に笑みを浮かべたまま指を一本立てる。その指先はステーションの窓の向
こう、広がる宇宙空間を指している。
「僕たちは、何年片想いしてる?」
「……」
 口をつぐむ。その言葉は、決して間違ってはいない。


『これより、宇宙船舶操船免許試験実地を行います。試験番号を読み上げられ
た者は速やかに8番ゲートに試験表IDを身に着けて集合しなさい。繰り返す』

 中央ステーションに響くアナウンス。

「お待ちかねのお相手がくるよ、ジンナイ」
 ぽん、と。ミハエルのこぶしが肩を叩く。
「初デートだ、気合を入れていこう」
 こぶしをきつく握る。手の中にはじわりと汗がにじんでいる。
「……ああ」

 実地試験には落とし穴がある。
 その言葉を心の中で噛み締めながら。


時系列と舞台 
------------ 
 2145年 惑星コーベ中央ステーションにて。

解説
----
 宇宙船乗りになる為に、実地試験を受けにきた陣内。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
まだ続く。

試験どーすっかなあ。



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