[KATARIBE 28289] [HA06N] 小説『奈々さんの最悪の朝』

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Date: Wed, 19 Jan 2005 19:11:35 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28289] [HA06N] 小説『奈々さんの最悪の朝』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月19日:19時11分34秒
Sub:[HA06N]小説『奈々さんの最悪の朝』:
From:久志


 ちは、久志です。

 ツンデレストーリーをちょっとだけ。
奈々さんサイドのお話。

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小説『奈々さんの最悪の朝』
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登場キャラクター 
---------------- 
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。

奈々さんの最悪の朝
------------------

 卜部奈々が目を覚ましたのは、まだ早朝。
 目の前に見えるのは白い天井。重たい頭の中はまだ霞に包まれている。
「う…………ん」
 手を伸ばす、が、なぜかその腕は昨日着ていたカシミアコートに包まれたま
まである。
「……あれ?」
 まだ頭が働かない。いつもならば目が覚めて10秒もすればすっきり目を覚
ましているはずなのに、今朝は頭の中の霞がまだ晴れない。
 重たい体をゆっくりと転がしてベッドから下りる。
「……っ」
 体を起こすと急に頭痛に襲われる。喉の奥までからからで、胃の底からこみ
あげる吐き気に顔をおさえた。
 夕べは宴席とはいえ、少し深酒をしてしまったかもしれない。服も夕べの着
の身着のままで、コートすら脱いでいない。なんとか吐き気をおさえて立ち上
がり、コートと上着を脱いだ。洗面所に向かうも、どこか雲の上を歩いている
ように足元がふらつく。なんとか壁づたいに洗面所までたどり着き、冷たい水
で顔を洗う。朝方の身を切るような冷たい水と空気に体を振るわせた。
「冷たっ」
 頭を振ると、やっと少し頭のもやが晴れてきた。
 昨日は、たしか。

 音もなく、タオルが洗面所の床に落ちた。

「あ……」

 卜部奈々。
 大学卒業後、警視庁にキャリア組として採用。その的確な判断力と優れた記
憶力、明晰な頭脳とで吹利県警でもそれなりの信頼を得ている。
 そして、その記憶力は、夕べ自分がどんな振る舞いで何をやらかして、何を
しゃべったかの一部始終をしっかりと記憶に刻み込んでいた。

「あ、ああ……」

 宴会終わりの挨拶の後、酔いを醒まそうとしゃがみこんで、そこに……
 思い出したくもないのに、正確にかつ鮮明に脳裏に昨日の出来事が甦る。

「ああああ」

 二日酔いの吐き気も頭痛もどこかに吹き飛んで、全身の血の気が引いていく
のを感じていた。
 あの時、動けずにいた所に刑事課の本宮巡査が通りがかって……そして。
 震える手で自分の頭を抱える。
 介抱してくれた本宮巡査にさんざん絡んだ挙句泣き出して、タクシーで送っ
てもらい、あまつさえ。

「いやああああああ」

 顔を覆ったままその場にしゃがみこむ。

「うそ……」

 いっそ泥酔して記憶が飛んでいたらよかったのに。
 でも悲しいかな、どんな泥酔状態であろうと、彼女の頭脳は一度たりとも記
憶を飛ばしたことなどなかったのである。

「本宮……巡査、は?」

 帰ったのだろうか?
 ああ、それよりも……
 夢に落ちる間際のことを思い出す。夢と現がごっちゃになったあの状況。
 自分は確か……

「う……」

 しゃがみこんだまま動けない。
 これからどんな顔で県警に赴けばいいのか、職場で巡査にあってどんな顔を
すればいいのか、どう謝ればいいのか。
 考えれば考えるほどに、泣き出したくなる。
 本宮巡査、普段なにかとぼんやりしていてよく注意したのを覚えている。
 ふわふわと人の良さそうな雰囲気を漂わせた人だが、キャリアであり、口う
るさい自分に対してどんな感情をもっているだろうか?
 それに、もしもこの出来事を吹聴されようものなら?

「どうしよう……どうすれば……」

 もう涙がにじんでいる。
 よろよろと立ち上がって、台所へと向かう。ふと、台所から続く玄関を見て
ドアに鍵がかかってないのを見た。

「あ」

 本宮巡査がそのまま帰ったとすれば、考えてみれば当たり前だ。
 慌てて鍵を閉めようとして、ふと。こつん、とドアの向こうで何かがドアに
あたる音を聞いた。

「今の、音?」

 ドアを開ける。と、鈍い音を立てて何かに当たった。

「……あいて」

 そこには。
 ドアの前にしゃがみこんだまま、後ろ頭をなでる姿。
 再び、鮮やかに脳裏によみがえる記憶。

「あ、警部。おはようございます」

 半分寝ぼけ顔のまま、のんびりと挨拶する。

「……も、本宮巡査」

 それきり、その場に立ち尽くしたまま絶句した。

「あの、どうなさいました?顔色悪いですけど、警部?」

 もう、その声は耳に入っていなかった。


時系列と舞台 
------------ 
 2005年から4・5年くらい前?

解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。酒宴が縁の翌日。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
いじょ。

この後どうなることやら。



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