[KATARIBE 28281] [PW01P]エピソード『鋼鉄の娘』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 19 Jan 2005 04:36:09 +0900
From: gallows <gallows@trpg.net>
Subject: [KATARIBE 28281] [PW01P]エピソード『鋼鉄の娘』
To: ML <kataribe-ml@trpg.net>
Message-Id: <20050119043313.4BF5.GALLOWS@trpg.net>
X-Mail-Count: 28281

Web:	http://kataribe.com/PW/01/P/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28200/28281.html

gallowsです。1/18の#PWのログよりエピソードです。

**********************************************************************
エピソード『鋼鉄の娘』
=====================
登場キャラクター 
---------------- 
ジゼル・L・C・ヴィオレット http://kataribe.com/PW/01/C/0017/
     :正義を宿命づけられた貴族の娘。
パオ=トゥ http://kataribe.com/PW/01/C/0014/
     :幻影曲馬一座のちょっとあやしい旅芸人

彼女の戦い
----------
 SE      :ずるん、べたん、ずるん、べたん、ずるん、べたん

 ある、晴れた日。
 バザーでにぎわうディマプラッツァの広場から一本脇に入った石畳の道。
 大きく左右に揺れながら道化のように前に進む金属の樽があった。それはよ
く見れば甲冑であるはずだった。だが胴鎧は大きく腰まで覆い被さり、お椀型
のヘルメットは目元までずり下がり、もはや一つの円柱に成り下がっていた。

 ジゼル    :(ご飯、抜いてくるんじゃなかった……)

 甲冑の中には今年17になる娘が入っていた。これでも貴族の端くれである。
 娘は兄から譲り受けた甲冑の予想以上の重量に息も絶え絶えになっていた。
足につけたグリーブを一歩引きずり進めるたびに、被ったハーフヘルムが大き
く前後に揺れる。
 
 ジゼル    :「負けるものか。私は負けるわけには、いかないんだ」

 娘は戦っていた。たった一人、心に正義を抱えて打ち震えていた。着込んだ
鎧の重さはこれから出会うであろう弱き人々の苦しみを代弁しているのだと信
じた。
 しかし自らを鼓舞する言葉すら首を覆うはずの鎧によって口を隠されてくぐ
もってしまう。その上でなお板金の鎧は17の娘にあまりに重くのしかかり。

 SE      :ぼてっ、ガシャーン、ごろりん

 仰向けに倒れた。
 かくして、正義は潰えたのだった。
 ディマプラッツァの空だけがどこまでも透き通っていた。

解説
----
 正義、ディマプラッツァの空に果てる。






救世主
------
 と、全てが終わったかのように見えたその時、顔に仮面のような笑顔を貼り
付けた男が現れた。

 パオ     :「──(子供か)」

 男はヘルメットにノックをするが、反応はなかった。
 試しに持ち上げようとしてみるも、腰を痛めそうであったのですぐに諦めた。

 パオ     :「──(重いのは始末に困るな)」

 ジゼル    :「む……」

 甲冑の中からくぐもった娘の声が響いた。

 パオ     :「──気がついたか。自分で歩けるか?」
 ジゼル    :「大丈夫、です」

 何度か振動する甲冑。

 ジゼル    :「あ………………立てません」
 パオ     :「ふむ。行き倒れか?」
 ジゼル    :「いえ、そう言うワケじゃ……おかしい、な」
 パオ     :(怪我をしてる様子は──ないな)

 振動を再開する甲冑。男には娘が何をしたいのかわからなかった。

 ジゼル    :「いえ、ちょっとなんといいますか……旅のお方、申し訳
        :ないんですが──」
 パオ     :「ふむ」
 ジゼル    :「………………………鎧が重くて、起きられないんです」
 パオ     :「わかった」

 男はしゃがみ込み、娘の鎧に手をかけ脱がせてやろうとした。
 すると、男の頭の上で金属と何か硬いものがぶつかる音が響き、続いて鈍い
痛みが襲った。

 ジゼル    :「な、なにをしますかっ」

 娘は腕に付けた鉄の塊を振り上げたままの姿勢で吠えた。
 そんな動きだけは速かった。
 男は無言で頭を抑えていた。

 ジゼル    :「ああ! ごめんなさい!」
 パオ     :「──わかった」

 男は面倒くさくなったとばかりに立ち上がり、がさごそと肩に担いだ袋から
異国の獣を模したかぶり物を出した。
 そのかぶり物は巨大な口を持ち、頭部は赤く染め上げられ、目は金色に光っ
ていた。歯並びはよかった。
 そうして男はそのかぶり物を構えると、かぶり物の口で娘を鎧ごとのみこん
だ。一瞬であった。かぶり物の大きさは変わらない。娘だけが消えてしまって
いた。
 男は仮面のような笑みを浮かべたまま立ち上がり、あとには何もない石畳だ
けが残った。
 かくして、正義は潰えたのだった。

解説
----
 正義、ディマプラッツァの空に果てる。




 ジゼル    :「へ?」

 ──生きていた。

 SE      :ぐわーーーーーんっ
 中華獅子舞  :「んがぐっぐ」

 男が巨大な黄銅の円盾のようなものを叩くと、異国の獣のかぶり物が突然舞
い始めた。

 ジゼル    :「ひゃーっ」

 男は何度も円盾を叩き、異国の獣はそれに合わせるように舞う。口の中から
娘のくぐもった悲鳴だけが漏れる。

 パオ     :「宿まで運ぶ。不安なら口から顔を出すといい」
 ジゼル    :「わあー、すごい!」

 娘は素直に言葉にしたがって顔を出した。
 娘と全身板金鎧を腹に入れた異国の獣は、まるで重さなどないような動きで
男に付き従って練り歩いていく。

井戸端会議の婦人:(ぶっ)
 ジゼル    :「ん?」

 その様を見た井戸端会議中の婦人が驚愕の表情を浮かべて吹き出した。


菓子を持った子供:(ぼーっと見上げて泣き出す)
 ジゼル    :「む?」

 その脇にいた子供が泣き出した。

 パオ     :「さぁさっ、寄ってらっしゃい見てらっしゃいっ」
 ジゼル    :「へ?」(きょろきょろ)
 パオ     :「世にも不思議な自在に踊る獅子舞でございっ」

 一瞬思案した男が慣れた様子で声を上げると、奇異の目で見ていた街の人々
が集まってきた。

 ジゼル    :「旅のお方、なにやら衆人の注目がこちらに……」
 パオ     :「見ての通りタネも仕掛けもございません。ドラに合わせ
        :て自在に踊る自在獅子でございますよっ」
 ジゼル    :「って、見せ物にしないでっ!」
 パオ     :「──いっそ見世物になった方が気は楽だ」
 パオ     :「さぁさっ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

 その時、広場の方からわざわざやってきた商人が娘に声をかけた。

バザーのおっさん:「よ! ヴィオレットの嬢ちゃん、またなんかやってるの
        :かい?」
 ジゼル    :「うあっ、ひ、人違いです!」
 衆人     :(ひそひそ)「え、ヴィオレットって、あの? へー、あの
        :子が。貴族のやることはよくわからんね」
 ジゼル    :「お、おのれぇぇぇ」

 喉の奥に引っ込めばいいものを、娘は衆人の視線に完全に敗北し身動きが取
れない。顔は紅潮し目には涙まで浮かべていた。不器用な娘であった。

 パオ     :「獅子の中にはこの通り、妙齢のお嬢さんが──さぁさっ、
        :危機一髪。お嬢様が獅子に喰われてしまいますよっ」
 SE      :ぐわんぐわん

 その時再び男が円盾を一叩き。

 パオ     :「獅子の人喰いでございっ」
 中華獅子舞  :「んがぐっぐ」
 衆人     :「おーっ」(拍手)

 娘は見事一飲みにされ、衆人の視線から逃れた。

 パオ     :「(埃まみれの格好だったから、ただの旅人かと思えば─
        :─どうやら街の有名人だったか。可愛そうなことをしたか
        :もしれん)」
 パオ     :「さぁさっ、幻影曲馬団が一の軽業講談師、パオ=トゥの
        :人喰らい自在獅子の芸だよっ」
 SE      :ぐわんぐわん

宿にて
------
 ジゼル    :「ああ、いい恥さらしだ……」
 パオ     :「すまなかった」

 宿の男の部屋で異国の獣の口から出してもらった娘は、鎧の中で大いにへこ
んでいた。ヘルメットは顔全体を覆い隠してくれたのが娘にとってせめてもの
救いだった。

 パオ     :「詫びに南方のチョコレート草の果汁はどうだ?」
 ジゼル    :「む、それはどういったものですか」

 娘は果汁という言葉に敏感に反応した。果汁というものはみな素晴しいと娘
の乏しい一般常識は告げていた。

 パオ     :「これだ」

 男はバンブーの筒を取り出し、カップに黒色の濃厚な液体を注ぎ込んだ。甘
い香りが漏れだした。
 娘は神妙な顔でカップを受け取り、こわごわと口にする。

 ジゼル    :「失礼……」
 パオ     :「元気が出る薬のようなもの、らしい」

 ヘルメットがずるりと後ろに下がり、娘の恍惚とした表情が一瞬露わになっ
た。

 ジゼル    :「い、いいものですね。これは──」
 パオ     :「子供はみんなそういうな」
 ジゼル    :「むっ、失礼な。これでももう17になります」
 パオ     :「──それは済まなかった」

 男は相変わらず薄い仮面が張り付いたような笑顔。

 パオ     :「元気は出たか?」
 ジゼル    :「す、すみませんが……さ、さっきのを、もう一口いただ
        :けませんか、か?」

 娘の声が裏返った。

 ジゼル    :「それで元気になる気がするんです!」

 目が真剣だった。やらねばやられるという気迫が、そこにはあった。

 パオ     :「いいぞ」(注ぐ)

 娘は何故か、重いガントレットをはめた両手をあげて喜んでいた。

宿の外
------
 ジゼル    :「色々申し訳ありませんでした。このご恩はいずれ必ず」
 パオ     :「気にするな。好きでしたことだ」

 陽も落ちつつある中、娘は宿を抜け出した。ヘルメットを深く被れば素性も
性別もわからないのは幸いであった。繰り返すが、曲がりなりにも娘は貴族だ
った。

 ジゼル    :「期を逸してしまい申し遅れましたが私はジゼル・ヴィオ
        :レットと言います。この街で何か問題があればいつでも仰
        :ってください」
 パオ     :「それは助かるな」
 ジゼル    :「大概のことはなんとか出来ると思います。それではっ」
 SE      :どたどたがっしゃんどたどたがっしゃん

 すっかり元気になった娘は足につけたグリーブを懸命に引きずり走っていく。

 パオ     :(たかがチョコレート草で大仰だが、もしや貴族の娘だっ
        :たかもしれんな)

 男は壁にもたれかかり、金属鎧の背面が見えなくなるまで見送った。

 ジゼル    :(ああ、ちょこれいとの人、いい人であったな。そういえ
ば名前を聞き忘れたな。まあいいか。ちょこれいとの人で)

 娘はすっかり上機嫌で駆けていた。当初の目的は果たせなかったが今日はな
にも悪いことなどなかったに違いないと思った。
 そして、屋敷の近くの下り坂にさしかかった時、転げた。

 ジゼル    :「なんですとっ!」

 後の証言によると鉄の塊が加速しながら坂を転がっていき、民家の壁を突き
破ったという。

 かくして、正義は潰えたのだった。

解説
----
 正義、ディマプラッツァの空に果てる。
 この後、ジゼルが板金鎧を全身に付けて外に出歩くことはなくなる。
$$


-- 
gallows <gallows@trpg.net>


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28200/28281.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage