[KATARIBE 28273] [PW01N] 小説:『曙光の騎士』

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Date: Tue, 18 Jan 2005 22:00:19 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 28273] [PW01N] 小説:『曙光の騎士』
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 ぱらでぃんです。

 幻影城を題材に手前味噌ながら一篇書いてみました。


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小説:『曙光の騎士』
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 幻影城に夜はない。
 雑踏は途切れることはなく続き、古今東西の珍品奇物を商う市場は終日ざわ
めきが途切れることがない。
 幻影城に昼はない。
 静まり返った路地を瘠せた獣がうろつき、戸を閉めた宿から出された残飯を
漁る。
 旅の詩人はこの都を称え、こう詠う。

 薄暮蔽う曙光の都。
 曙光指す薄暮の都。

 街の中心には陽炎に守られた城館がある。丘の上にもう一つ盛られたように
ある丘。その上にそびえるこれこそ、街が拓かれて以来誰も入ったことが無い
と伝えられる幻影城。
 無数の楼閣が生え、全ての表面に精緻な浮き彫りや薔薇窓など装飾が施され
たその威容は住人の誇り。
 しかし、失われた叙事詩を伝えているはずの画像石は陽炎で揺らめき、ある
者が見たときは竜と戦う勇者の物語、ある者が見たときは嵐を鎮める巫女とそ
の姿を一定させず、城の外観すら陽炎がゆらめく中で刻一刻とその姿を転変さ
せる。

 かような都の中心で唯一変わらぬ一の塔。
 最も高きこの塔こそ唯一、時の流れを観て取れる場所。
 今日もまた陽が昇り、柱廊の間を刺すように冷える風が吹きぬけると、彼は
ゆっくり眼を開け、曙光が鎧を玄く照らすと、一歩、また一歩と柱廊を踏みし
め露台へと出た。
 無駄な部分を削ぎ落としたかのように骨ばった顔が顕わになる。
 両手を大きく広げると、吹き上げる風に紅い繻子地の金襴で仕立てられた外
套がひるがえり、竜鱗のように重そうな玄い鎧と共に光を受けてきらめく。
 眼下には不夜の雑踏、城壁、そして。
 見るからにその躯に不釣合いな具足を重そうに着こなす少年と、長衣の小脇
に分厚い書物を抱えた老人。
 少年と眼が合い、微笑う。

「あ」

 途端一陣の風が吹き、男の姿は掻き消え、柱廊の奥、古ぼけた書見台の上で
頁が踊る。

「どうした、若いの」
「城の、城の塔に騎士様が」
 老人は歳若く経験の浅い同行の顔を覗き込むと、真っ白に色が抜けた顎髭を
捻りながら歩く。
「夢じゃよ、夢」
 もう彼の顔を見ていない。
「でも、城の騎士様か、領主様かもしれない。立派な鎧を着ていて」
 若い戦士は歳の割に足が速い老翁を追う。
「あの城に城主はおらんわい。それどころか、城に入った奴もおらん」
「それじゃあ僕は」
 振り返り、ぽかんと口を開けて突っ立っている少年を見てため息を吐こうと
した時、翁も何かに思い至る。
「そうさな」
 歩みを落とし口から過去を紡ぎ出す。
「わしも初めて来た時、紫紺の長衣を着た達人を見た」
 話を聞こうとしてか、追いすがってきた少年に続ける。
「がしかし、わしがお前のように白日夢を見るなど考えられん。よってこれは」
 侮辱されたと感じたのか頬がふくれている少年をちらと横目で見、老人はもっ
たいをつけて宣言する。
「城が見た夢かもしれんのう」
「城が、見た?」
 少年の頭では理解しかねると感じたのか老人は笑いながら続ける。
「それが証拠に今やわしは紫紺の達人じゃ。お前さんもわしほどでは無いにし
ろ、騎士くらいにはなれるかもしれんぞ」
 呵々と笑い、達人は少年を連れて丘を登り始める。
 昔、大成を夢見て潜った門を目指して。
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$$

 それでは。


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