[KATARIBE 28271] [LG02N] 小説『バードライン』

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Date: Tue, 18 Jan 2005 20:17:18 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28271] [LG02N] 小説『バードライン』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月18日:20時17分17秒
Sub:[LG02N]小説『バードライン』:
From:久志


 ちは、久志です。
 とりあえずLGネタを考えていて途中まで小説を書いてます。
続きがひらめかないので途中ながし。

設定的におかしなところがあれば即なおしという感じで。
序盤は以前流した『整備作業』を加工してます。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『バードライン』
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登場キャラクター 
---------------- 
 阿古崎陣内(あこざき・じんない)
     :父の整備工場を手伝う少年。宇宙船操舵手にあこがれている。
 阿古崎徹宵(あこざき・てっしょう)
     :陣内の父、寡黙な純日系頑固親父。整備の腕はピカイチ。
 ミハエル安東(みはえる・あんどう)
     :陣内の友人、同じく宇宙船操舵手を夢見ている。
 トム爺さん
     :陣内父の旧知でもある元船乗りのパーツ屋。

DREAM CHASER
------------

 膝を軽く曲げて、足の親指に力を入れる。 
 地面を蹴るというより、押し出すように足を伸ばす。力が足りないと目的の 
位置までたどり着けず、力が強すぎると到着時に反射ダメージが残る。 
 船の側壁が近づく、左手を伸ばして船外装甲に触れて、ゆっくり衝撃を流し 
ながら船外装甲に張り付く。ベルトにつけた作業用固定吸盤を装甲に貼り付け、 
位置を固定する。 
「結構やられてんな、こりゃ」 
 宇宙啄木鳥にでもやられたのか、船の右側側面外装甲に数え切れない程の穴 
が無数に開いている。外壁装甲は交換すればいいが、穴の深さや数を見る限り 
損傷が内壁のセンサー経路や内部制御機器にまで達している可能性もある。
損傷具合によっては最悪ここら一面の外壁をすべてはがして内壁総張替えをせ
ざるを得ない。 
 こめかみの通信ポートを開く。 
『親父、こちら陣内。船壁損傷箇所確認。損傷箇所情報転送します』 
『わかった』 
 親子でも、夫婦ですら必要最低限な言葉しか言わない無口な親父。転送した
情報データを受け取るが早いか、さっさとポートを閉じて損害状況の分析をは
じめた。外壁に手をついたまま親父の分析を待つ、ものの数分もしないうちに
通信が再開された。
『内壁のセンサー経路三箇所に損傷がある、内部制御機器には達していない。
外壁を剥がして作業にはいれ、修復位置と対応処置内容はすぐ転送する』 
『了解』
 転送されてきた破損位置を受け取りポートを閉じる。軽く外壁を蹴って体を
ゆっくりと移動させる、
 親父には、どれほど軽微な損傷だろうと、見る影もない損傷だろうと、果て
はどう整備するかもわからない異星機関船だろうと、恐ろしいほど正確にその
損傷状態や整備すべき点を見抜く目を持っている。一人で一代にしてこの整備
工場を興し、この競争の激しい惑星コーベ中央ステーションで、整備の腕一本
で生き抜いてきた。
 お袋はいつも口をすっぱくして言う、父さんが心血を捧げて育てあげた会社
なんだからお前がちゃんと守っていけ、と。親父も口には出さないながらも、
同じことを考えてるんだろうと思う。 
 けど。俺には、もっとやりたいことがある。 

 穴の開いた外壁を一つ一つ剥がしながら、ふと見える文字。
 サイクロン号。
 船の名前、この船はどこまで行く船なんだろう。
 不意に鼻の奥がむずむずする、最近親父の手伝いで渡航船を見ているといつ
もこんな感覚をおぼえる。体中がぞくぞくするような震えと胸の高鳴り。
 塗料が少しはげかけた名前を手のひらでゆっくり撫でてみる。
 こんな船を、いつか自分の手で駆ってみたい。
 遠い、宇宙で。


 ふと気がつくと、モニタの前に突っ伏していた。
「あ……」
 つけっ放しのモニタには船舶操船の詳細手順、緊急時問題対処一覧、機器系
統図詳細がずらっと並んでいる。
 昨日、親父の手伝いが終わって家に帰ったのが夜9時、それから夜食を食べ
シャワーを浴びてから部屋にこもったのが10時過ぎ、試験勉強の合間にチラ見
したとき2時半過ぎだったところまで覚えている。
 モニタの上の時計は朝六時、いつの間にか寝入ってしまってたらしい。
「……やべ」
 コンソールについたよだれをあわてて袖でこする。
「……六時か」
 今日の待ち合わせ時間は九時。ひと寝入りするには少々足りないし、寝ずに
いるには時間が少々余る。腕を組んだまま机に突っ伏す、このところ、ずっと
寝付けない日が続いている。その理由はわかっているけど。
「来週か」
 来週、友人と一緒に星間アジサシの集団ワープであるバードラインをを観察
に行くという名目で二泊三日の旅行にいく約束をしている。母親は渋い顔をし
ていたけど、必死の頼み込みでなんとか許可をもらえた。
 親指の爪を噛む。
 自分は嘘は嫌いだ。けど。
 けど、それが本当に自分がやりたいことで、どんなに反対されても絶対に貫
きたいことだから、親に嘘をついた。
 来週は船舶操船免許の二次試験。惑星コーベ周辺宙域で実際の船舶を使って
の初めての実地試験。一次の筆記試験とシミュレータ試験はなんとかパスした
けれど、まだまだ本当の本番はこれからだ。
 これからのことを考えると、絶対に二次実地試験はパスしなければいけない。
一次試験費用や今までのシミュレータ使用料金を考えると、そろそろ資金もか
つかつになってきてる。だからといって親に借りるわけにもいかない、母親は
猛反対するだろうし、頑固者の父親がそんなお金を都合してくれるわけがない。
 でも、今は不安や焦りよりも。ただ、どきどきしてる。
『知ってるか?ジンナイ』
 友人の奴の言葉をおもいだす。
『この宇宙世紀の世の中で、本当に宇宙へ出る人はすべての人口の比率から見
ると驚くほど少ないんだよ。実際のところ、一生宇宙にでることもなく惑星や
コロニーの中だけで生涯を終える人のほうが圧倒的に多いんだ』
 俺の両親もコーベからほとんど離れたことはない。
『もし宇宙へ出たとしても近隣の宙域だけで、更に遠くの星団や遠くへいくの
はほんの一握りの奇特な奴らばかりなんだ』
 握りこんだ手を開く。手のひらは汗で少し湿ってた。
『君はもっと遠くへ行きたいかい?』
 大きく息を吐き出す。
 鼓動が早まってるのが、自分でもわかる。ぎゅっと親指の爪を噛む。さんざ
ん母親になおせと言われているのに、まだこの癖はなおらない。


 星間アジサシ。
 ペルセウス腕宙域に生息する星間渡航生物の一種、体長は約2m程。
 巡回性宇宙エイの一種で、30〜50万にも及ぶ大集団を形成し、一定周期
で多数の星域を巡る。
 かつて地球に生息していた北極圏から南極圏にかけて往復で三万五千キロの
距離を越冬したキョクアジサシにちなんでこう呼ばれている。
 彼らの移動は常に同じ期間の決まった特定の星域で座標誤差はほとんどなく、
正確に目標地点に到着するという。
 最大で50万に及ぶ純白の一団が一斉に何万光年先の宙空へとワープする様
は非常に幻想的で、この集団ワープ時に見られる光の筋は通称バードラインと
呼ばれる。彼らがなぜ大集団で星間を行き来するのか、どうやって位置を把握
しているのかは、解明されていない。
 なんのことはないただの図鑑。
 でも、子供の頃この図鑑を見るだけで楽しかった。白い軌跡を描いて、一斉
に宇宙の遠い彼方へ飛ぶアジサシ達を思い描いてわくわくした。何度も何度も
読んでもう説明文を暗記できそうなほど読み返して。
 自分も遠い宇宙へ行きたい、と。切に思った。


 待ち合わせ時間の五分前。
 練習が終わってすぐ親父の手伝いにいけるよう作業用のツナギにキャップ姿
のままで、友人を待つ。
「おはよう、早いねジンナイ」
「早くいこうぜ、ミハエル」
「やれやれ、せっかちだね君も」
 少し中心通りから外れたところにある小さなビル。三階建てのその雑居ビル
の一階は殆ど寂れたジャンクメモリーショップ。階段を登ると、二階は動いて
るのがプレミア級な古い基盤しかない不良さえも足を運ばない小さなゲームセ
ンター。目指す先は三階にある入り口に乱雑にものが詰まれたパーツショップ。
天井から床までところ狭しと並べられた機器の中に埋もれるように、一人の老
人が手にした人工知能統合制御機器と自分の右目に取り付けられたポートとを
連結してダイレクト通信をしている。
「トム爺さん、おはようございます」
「トムじい、今日もヨロシクお願いします」
 一瞬遅れて、白髪に顎鬚のしわだらけの顔が動いた。老人の右目に取り付け
られた義眼の紅い光がゆっくりと点滅する。
「おうおう、お前たちか。かまわんさ奥へお行き」
 トム爺さん。長いことベテラントレーダーとして若い頃の親父にはお得意様
だったという。自分はトム爺さんが隠居してからの頃からしか知らないけれど、
自分が小さい頃は、よくトム爺さんの船乗りの時代の話をせがんで聞かせても
らったものだった。
 店の奥、様々なパーツに埋もれるようにして置いてある宇宙船シミュレータ。
すこし古い型ではあるけれど、トム爺さんの好意でタダで使わせてもらってい
るのだ、贅沢は言えない。普通に訓練場にある最新式の使用料金を考えると、
多少の型の古さに目をつぶっても回数をこなす為には必要だ。

 シートに腰をかけてベルトを締め、こめかみのポートと通信を開始する。
 視界が変わる。
 周りの景色が一転して、自分が宇宙船コックピットに座り、眼下には宇宙空
間が広がっている。各状況を告げるモニタをざっと眺めながら、コンソールを
確認しながら。モニタに提示された練習メニューをクリアしていく。
 流星群をかいくぐる際に腹に感じる衝撃、他船と通り過ぎる際での合図信号
の光、宙空到達の際の案内のアナウンス。
 来週の実地できちんと対応できるよう、何度も繰り返す。見て考えて覚える
のでなく、自分の体自身に覚えさせるために。

「お疲れジンナイ。ランクSだ、いい調子じゃないか」
「ああ」
「さあて、気を抜くのはいいが、僕の番なんでね。早く降りてくれないか」
「あ、すまん」
 足のフックと腰のベルトをはずしてシートから起き上がる。まだシミュレー
タ操作時の浮遊感がまだわずかに足に残っている。
 ミハエルがシミュレータで操作をしている合間、トム爺さんの店の中を軽く
見回す。自分では価値すらわからない用途もわからないパーツや機密電子機器
であふれている。ぼんやりと立ち尽くしていると、ふわりと目の前に白い湯気
が舞った。
「ほれ、陣内」
「あ、すいません」
 差し出されたマグカップを両手で受け取る。
「もう、来週かの?」
「はい、ミハエルの奴も一緒に」
「そうか」
 一口、トム爺さんがコーヒーを口に含む。
「親父さんにはなんて言った」
「……両親には」
 思わず言いよどむ。両親が自分が宇宙船乗りになることをずっと反対し続け
ていることを、トム爺さんは知っている。
「秘密か?」
「はい……」
「陣内、おまえさんどうして宇宙へ行きたい?」
「え?」
「船乗りなんざ、夢があるように見えて現実は過酷なもんばっかだ。下請けで
使い倒されて海賊崩れに成り下がっちまう奴もいれば、夢見て飛び出したもの
の、飼い殺しで一生会社に食われっぱなしで終わる奴だっている」
「はい」
「それでも、おまえさんは船乗りになりたいかい?」
 なぜ船乗りになりたい?
 何度か自分で自分に問うたこともある。でも、なんとなく漠然とした答えし
かでてこなかった。
「理由は、うまく言えないんです。ただ」
「ただ?」
 星間アジサシのことを思い出してみる。彼らがなぜ大集団で星間を行き来す
るのか、どうやって位置を把握しているのかは、解明されていない。
 自分も似たようなものなんじゃあないか、とも思う。
「ただ、それでも。俺はこのままじゃあいたくなくて」
 親父の仕事が嫌なわけでも、跡を継ぎたくないわけでもない
 宇宙を夢見て眠れない日をすごしたこともある、船乗りになることを考える
だけで今でもどきどきする。
「俺はもっと遠くへ行きたい、自分の手で」
「そうか」
「おまたせ、ジンナイ。いつもの夢語りがはじまったかな?」
「ミハエル!」
 いつの間にか訓練を終わらせたミハエルがにやりと自分の顔を見て笑った。
「おまえさんも終わったか。待っていなさいコーヒーをいれてこよう」
「どうぞ、おかまいなく」

 トム爺さんが戻る間。
「調子はどうだ?」
「まあまあかな、やっぱり大事なのは慣れだしね。実技まで間がないんだ、
しっかり叩き込んでおかないとね」
 ミハエルとはジュニアスクール時代からの友人でお互い家族に隠してずっと
船乗りになるための訓練を続けてきた。自分が父の工場を継いで整備士になる
ことを期待されているように、ミハエルも父親が経営している船舶売買の会社
を継ぐことを期待され、互いにずっと自分の希望を周囲に隠し続けていた。
「なあ、ミハエル」
「なんだい?」
「お前は、試験をパスしたらどうする気だ?」
「気が早いね、もう受かったつもりかい」
「そうじゃなくって!」
「わかってるって、単純だね君も」
 からからと笑う。
「僕は試験をパスしたら真っ先にママに報告する。パパの説得に協力して欲し
いしね、まあ説得できなかろうと僕はさっさと飛び出してしまう予定だけれど。
それより心配なのは君だよ。君の融通のきかなさと君のママの口うるささと君
のパパの頑固さとで大激戦になるんじゃないかな?」
「それは……」
「ははは」
 口ごもっている間にトム爺さんがコーヒーとあぶったソーセージを皿にのせ
て戻ってきた。
「そら、朝も大して食べてないんだろう。食べておけ」
「あ、ありがとう、トム爺さん」
「サンキュトムじい」

 ソーセージをほおばりながら、ミハエルと一緒にトム爺さんの船乗り時代の
話を聞く。まだ自分達が小さな頃、互いに両親が共働きで家に帰っても誰もい
ない時、よく二人でトム爺さんの店に足を運んだ。
「おまえさん達は勘違いしているかもしれないが、宇宙を飛ぶのは機械だけ
じゃない、飛ぼうという気があれば誰だって飛べるさね」
「けど、僕らはまだその域にいない」
「そうさね。それを補佐するために誰でも飛べるように機器があり資格がある。
まずお前さんらはそこからだの」
「はい」

『飛ぼうという気があれば誰だって飛べる』
 トム爺さんの言葉。
『けど、僕らはまだその域にいない』
 ミハエルの言葉。

 親指の爪を噛む。じりじりと焦げるようなもどかしさを胸に感じながら。

『俺はもっと遠くへ行きたい、自分の手で』
 自分の言葉をかみ締める。
 もうすぐ、行ける。
 きっと。

時系列と舞台 
------------ 
 2145年 惑星コーベにて。

解説
----
 夢である宇宙船乗りになる為に、友人と独学で勉強と特訓をする陣内。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
一応続きは書くつもりあるけどひらめき待ち。

電球光ってくれないもんかねえ。



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