[KATARIBE 28248] [HA06N] 小説『酒宴が縁』

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Date: Sun, 16 Jan 2005 14:22:07 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28248] [HA06N] 小説『酒宴が縁』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月16日:14時22分07秒
Sub:[HA06N]小説『酒宴が縁』:
From:久志


 ちは、久志です。
なんか、ツンデレな話が書きあがってました。
本宮史久特徴……酒豪:3、うっかり人を酔いつぶす:2

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『酒宴が縁』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警警察官。のほほんお兄さん。
 卜部奈々(うらべ・なな) 
     :吹利県警警部の一見キツイ女性。

第一印象
--------

「卜部奈々です、皆さんこれからよろしくお願いします」

 卜部警部が本庁から吹利署に配属されての初挨拶。
 警部の第一印象は、ちょっぴり小柄だけど、目元のはっきりした可愛いお嬢
さんかなって雰囲気でした。
 キャリア組さんという人たちは、警察に採用された時点で既に警部補、その
上研修が終わった時点で自動的に警部さんに昇進するので、20半ばで僕ら巡査
から四階級上の雲の上の人になる。

 僕の隣で、先輩が舌打ちする音が聞こえる。

「キャリア組め、お高くとまってんな」
「そういう言い方だめですよ、先輩」

 先輩も随分ひどい言い方するけれど、僕らノンキャリアの巡査がひとつ上、
二つ上に昇進する為には相当な努力と時間と運とが必要になる。叩き上げの人
達らから見るととんとん拍子に出世していくキャリアさんたちは、やっぱり見
ていていい気がしないんだろうなあとは、思う。

「まあしかしキャリア組など、現場のことなぞわからんさ」

 まあまあ、先輩そんなに目くじら立てないで。

 と、まあ、いきなり厳しい視線の中で入ってきた警部だったけど。
 赴任して三日もたつ頃には、その評価はまた大きく分かれることになった。
 敏腕ぶりというか、やり手ぶりというか。
 いわゆるキャリアというイメージにありがちな高慢ちきな態度もなく、的確
な判断力と優れた記憶力、明晰な頭脳を持っていた。
 けど、ちょっぴりきつかった。

「これからは現場との連携を重視する為、隔週の捜査方針会議の内容をより意
味のあるものにしたいと思います。各自報告書の内容をしっかり記載すること
を徹底してください」

 なんというか。

「くそうキャリアめ生意気な」
「現場と連携強めるのはいいことなんじゃないですか?」
「そーいう意味ではない」
「報告書全面書き直しって言われたの根にもってます?」
「……やかましい」
「ちゃんと書きましょうよ、先輩」

 そんなわけで、だんだん警部は県警内で次第に評価を得つつ、また逆に違う
意味での敵も増えていった。
 まあいわゆる、優秀ゆえのやっかみとか、色々。

 どっちかというと、ボケっぽい方に分類されてる僕は、しょっちゅう警部の
お小言を聞くことになったけど。


宴会決戦兵器
------------

 警部が赴任してから、はや三ヶ月。
 吹利署の新年の祝いで宴会が開かれた。まあ、ただの飲み会。

「ふふん、酔いつぶされてしまえ!女キャリア」
「後ろでこそこそいうの暗いですよ、先輩」

 お酒すすめて来たらどうですか?

「本宮、俺は下戸なんだ」
「僕にえらそうに言われても」

 しかし先輩のような考えの持ち主はわりといるらしく、警部の周りには数名
の同僚やら上司やらが酒瓶片手ににぎわっている。結構呑んでるらしいけど、
警部はまったく崩れる気配もない。逆にご返杯で集まった連中のほうが返り討
ちにあっている。

「意外といける口みたいですね、警部さん」
「なあに、こっちには決戦兵器がいる」

 なんでそこで僕の肩を叩きますか、先輩。

「いけ本宮巡査!にくき女キャリアをのしてこい!」

 先輩、その発言は悪役っぽいですよ。

「よし、エモノはこれだ」

 どん、と押し付けられた一升瓶。

「いざゆけ本宮、見事轟沈させてこい」
「……また、そういう暗いことを」
「何を言う、並みいるお偉さまがたを次々と撃沈させてきたお前が」

 いや、それを言われると……
 というか、うっかりお酒をすすめてたら、潰れてしまっただけで。

「行け!本宮特攻兵行ってこい」

 特攻って、自分は手を汚さず僕に死ねってことですか。しょうがないなあ。
 てこてこと、死屍累々を避けて警部の隣に移動する。

「お疲れさまです、卜部警部」
「……あなたは本宮巡査?」
「はい、よろしかったらお注ぎしましょうか?」
「ええ、いただきます」

 とくとくとく、と。お酒を注ぐ。もちろん返杯ももらって。

「警部、お強いですね」
「そうですか?」

 いがいといけるんですね、警部。
 なんていうか、そこそこ飲める人が相手だと僕もちょっぴり嬉しい。なんか
僕は人と飲んでいるとなぜか相手がつぶれちゃうんだよなあ。

 一杯二杯、と。すいすい飲んで宴会はお開きになった。
 卜部警部はまったく酔う気配もなく、終始卜部女史としての顔を崩すことは
なかった。


そこにいたのは
--------------

 宴会も終わって、二次会へ行くもの帰るもの。

「みなさん今回はお疲れ様でした。しかし今は私人であるとはいえ、警察官と
しての立場をしっかり踏まえて、理性ある行動をとってください」

 終わりの挨拶もきびきびと。結局、警部は最後の最後まで酔っ払ったそぶり
の欠片も見せなかった。

「おにょれ女幹部め!なまいきにゃ」
「先輩、酔ってますね」

 女幹部ってなんですか、先輩。ほら、ちゃんと歩いて。
 酔っ払ってタクシーで帰る先輩を見送って、家に帰ろうとすると。

 ふと、見やった狭い路地の奥で、しゃがみこんでいる人が見えた。

「ん?」

 なんか、見覚えが。ぐったりとしゃがみこんでいるのは……

「卜部警部!?」
「う……ん……」
「警部、大丈夫ですか?しっかりしてください」

 警部、顔に出ないタイプでしたか。というか宴会だとやせ我慢タイプ?
 ああ、それよりも酔いをさまさせないと。先輩にそそのかされたとはいえ、
調子に乗って飲ませすぎてしまったのは僕も悪い。またやっちゃったなあ。

「警部!僕の声聞こえますか?」
「う……」

 とりあえず呼びかけて反応はする。まず楽な姿勢とらせて、水分とらせて、
あー吐き気はどうだろう?

「ん……あ?」

 あーよかった一応意識はありますね、急性アル中だったりしたらどうしよう
かと思った。

「警部しっかり」
「……うう」

 おっとっと、そんなに急に立ち上がろうとしたらこけちゃいますってば。
立ち上がろうとして、ぐでんと倒れこむ警部を抱えてなんとか立たせる。

「ふにゃ……」
「お宅までお送りします、お宅はどちらですか?」
「……あっち」

 わかりません警部(涙)
 まいったなあ……

「うー」

 この様子じゃあ歩いて帰れそうにもないし。タクシー捕まえようにもこれ
じゃあ家の場所言えそうにないなあ。
 あ、手帳みればわかるかな。しかし、勝手に荷物を漁っていいものか。
 でもこのままにしておくわけにいかないし、すいませんお荷物拝見します。
 手帳手帳、と、あったあった。えーと、住所は近鉄吹利。ああそんな遠くな
いですね、すぐ帰れそうです。

「卜部警部、いまタクシーつかまえますから」

 と、不意に細い手が僕のネクタイをつかんだ。
 ああ、目据わってますね。やばいなあ。

「……なにを、こそこそいってるんですか?」
「は?」
「なまいきだの……てつめんぴだの……かげでっ!こそこそとっ!」

 わーわー絡まないで、ていうかそんなこと言ってません言ってませんって。
そーいえば、鉄面皮って隠れて言ってたのは先輩だったよーな。

「いいたいことがあるならっ!はっきりいいなさい!おとこらしくないっ!」

 はい、わかりました。わかりましたから、絡まないでーー

「おんなで!しかもキャリアで!きにくわないからって!」
「そんなことないですって、僕は警部を尊敬してますって」

 ネクタイ引っ張らないでください、苦しいですって。

「お、落ち着いてください警部」
「……ぐすっ……」

 え。

「ひどい……うっ……ぐすっ……」

 わーわーわーちょっと待ってーやーめーてー
 僕の必死の抗議も空しく、警部の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれだす。
これは、やばい、ああ……

「すいません警部、ほんとうにすいません僕が悪かったんです反省してます。
すいません」
「ひっく……」

 その場で顔をおおって泣き出してしまった警部の両肩を抱いて必死にあやま
る。ああ、周囲の視線がちくちく刺さる。誰か、助けてーー

「なに?どしたの?」
「痴話げんか?」
「男が悪いのよ、男が」

 違いますってば。いや、僕が悪いのは認めますけど……

「と、とりあえず、お送りしますから帰りましょう。ね、警部」

 なんとか手をあげてタクシーを止めて、警部を抱きかかえて押し込むように
して乗り込む。

「すいません、近鉄吹利までお願いします」
「はい、わかりました」

 とりあえずハンカチ渡して、落ち着くまで肩を抱いて頭を撫でておこう。

「お兄さんだめだよ、女の子泣かしちゃあ」

 ホントすいません……


やっと着いた
------------

 ほうほうの体で住所どおりの場所で下ろしてもらう。あー領収書もらっても
しょーがないんだよなあ、自分でまいた種とはいえ痛い出費だなあこりゃ。
 ともあれ、警部の肩を支えながら手帳にあるマンションを探す。

 なんていうか普段肩をいからせてるイメージがあるけど、結構華奢ですね。
 いやいや、そんなこと考えてる場合じゃなくって。ああ、あったあったパー
クマンション、たしかここの402号室でしたね。

「警部、卜部警部。お家つきましたよ」
「うう……」

 あー意識はあるけど、まだダメだなこりゃ。
 とりあえず、またまた失礼してバッグを探らせてもらって鍵を開ける。

「ホント、失礼します」

 お邪魔します、警部。ああ、結構キレイなお部屋なんですねえ。
 よいしょと警部を玄関に下ろして。うーーーん、しかしこのまま玄関に転が
しておくというのもなあ。冬だしこのままだと風邪ひいちゃいそうですよね。
とりあえずベッドに寝かせておいとましよう。

「重ね重ねホント失礼します」

 靴を脱いで抜き足差し足で警部を運ぶ。いや抜き足差し足に意味はないけど
なんとなく人のうちに勝手に上がりこんでるっていう罪悪感がちょっと。

 よっこらせとベッドの上に寝かせて布団をかける。はあ、やっと帰れる。
 失礼とは思いつつちょっと顔を覗き込んでみる。寝顔、結構可愛いですね。

「おやすみなさい、警部」
「ん……」

 と。首に、腕が巻きついた。

「え」

 えーと、わかりやすくいうと、僕は抱きしめられてるということですかね。
鼻先が耳元にあたってますね、耳小さいなあ。それに頬がふわふわ柔らかいで
すね。あーそれになんかふわーっといい匂いが、コロン?シャンプーかな、
フローラル?

 いやいやそうじゃなくて。
 この状況は、非常にまずい。

「ん……」

 あーあーやめて耳に息はやめて。って、警部は無意識なんでしょうけど、
いや、その一応僕も男なのでこういう状況は非常によくないです。
 とりあえず、抜け出さないと。

「……お父さん」

 なんか、力抜けた。
 ていうか、お父さんに間違えられるってのもどうかと思うんですけど。

 はーやっと抜けた。
 意外とお父さん子なんですねえ、ってそんなこと考えてる場合じゃない。
 僕も帰らないと。

 あ、鍵どうしよう。
 このまま鍵かけずに帰っちゃうてのも無用心だなあ、女一人暮らしだし。
 だからって女の人の部屋に朝まで僕が居座るわけにもいかないし。

 外でてドア閉めて、ドアに寄りかかってぼんやりする。
 これなら、なんとか。

 ああ、連絡もしてないや。

「あ、もしもし、幸久」
「なんだよ、兄貴」
「ちょっと、事情あって今日帰れそうにないんだけど、お前のうち泊まってる
ことにしといてほしいんだよね」
「女かよ、お安くねえな」
「あーそんないいもんでもなくって、とにかくそういうで」
「わかった、うまくやれよー」
「あーはいはい、じゃあまた」

 なんかもう、疲れた。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年から4・5年くらい前?

解説 
---- 
 史久と奈々さんの出会いの頃。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
いじょ



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