[KATARIBE 28229] [HA06N] 小説『きった』

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Date: Fri, 14 Jan 2005 23:25:47 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28229] [HA06N] 小説『きった』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月14日:23時25分47秒
Sub:[HA06N]小説『きった』:
From:久志


 ちは、久志です。

 失恋話が終わって気が抜けておりまする(ぷしゅー)
気を取り直して、さくさく思いついたネタを30分で小説にしてみました。
本来、幸久はこーいうシリアス系ネタで行く予定のキャラだったのになあ。

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小説『きった』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。

親指隠せ
--------

 外回りでの打ち合わせの帰り。
 事務所から15分程度の所にある契約駐車場に社用車を停め、襟元を寄せて
歩く。冬場は駐車場帰りがちょっとキツイ。
 煙草に火をつけて、かじかむ手をこすりながら歩いていると。目の前の通り
で4・5歳ほどのガキがしゃくりあげてるのが見えた。
 おいおい、迷子かよ。
 ったく、めんどくせーな。

「どしたよ、ぼーず」
「!」

 はじかれるようにこっちを見上げて、またしゃくりあげる。俺の声のかけ方
も悪かったのかもしれないが。

「お前、迷子か?」

 ぷるぷると、ガキが首を振る。

「おかあさん、しんじゃうよう」
「は?」

 おいおい、いきなりキツイ発言じゃねえか。

「お前、なんかあったのか?」
「だって、ひっ、救急車をみ、見たら、親指を隠さないと、親が死んじゃうん
だって」

 一瞬、両肩から力が抜けた。

「あーはいはい、なるほどな」

 いわゆる迷信ってやつだ。

 俺が聞いたのは霊柩車を見たら親指隠せだった気がするけどな、時代か?
 まあ、最近屋根のついた派手なアレは街中走らねえからなあ、一応うちにも
一台あるけど最近は斎場と焼き場が直ぐ近くだったりするし、車も普通の黒塗
りのやつだったりして他と見分けつかねえし。まあ、俺なんざさんざ見てきた
し両親ぴんぴんしてるから根拠なんてまるっきりねえんだが。
 しかし、救急車だと数が多すぎねえか、これ。家が病院の近くだったりした
ら親指出す暇ねーだろ。

「お前、両手だしな」
「え?」
「両手の指の人差し指をこうして、つけてみ」

 手を握って人差し指と人差し指の先っちょをつなげてみせる。ガキも素直に
俺の真似をする。

「うん」

 つないだ左右の人差し指の間に、すとんと手刀を落とす。

「きった」
「え?」
「これで平気だ」

 ガキの頃やったな、これ。カラス見たら切るとか、霊柩車見たら切るとか、
なにかにつけて。切ったらチャラとか勝手に思ってただけだったけど。

「平気?」
「ああ、きったから平気」

 まあ、すげえいい加減な理屈だけどな。こういうガキとかの手合いには理論
よりこの方が通りがいい。

「ホント、ありがとー」

 泣いたカラスがもう笑ってやがる。


も一度
------

 あれから、一週間ほど。
 また、外回りの帰りにこないだ通った道を歩く。

 と、誰かが俺の袖を引っ張った。

「ん?」
「おにいさん」

 こないだのガキじゃねえか。

「よかった、今度は無視しなかったね」
「ん?今度は?」
「だって昨日おにいさん僕の家の前にいたよ」
「は?」

 昨日は確かオフで美絵子の奴に買い物つき合わされたはずで、ひとんちの前
になんていなかったぞ。

「人違いじゃねーか?」
「まちがいないよ、黒い服だったし」

 おいおい、喪服着てたらみんな俺かよ。

「きってもらおうとおもったのに、呼んでも答えてくれなかったんだよ」
「覚えがねえぞ」
「ほら、きってきって」
「はいはい」

 差し出された指の間に、すとんと手刀を落とす。

「ほら、きった」
「えへへ、ありがとー」

 悪いクセつけちまったかな、これ。


急な仕事
--------

 三日後、俺は急な仕事で早朝出だった。
 まあ、仕事ってことは、つまり、あれだ。

「寒いっすね、ユキさん」
「しょうがねえだろ」

 会場設営の為の現地入り。後輩が運転する合間、助手席で祭具一覧を確認し
ながら、一緒にFAXで送られてきた仏様の写真を見て、凍りついた。

『ほら、きってきって』

 あのガキ。

「ユキさんどうしたんですか?」
「ああ、いや」

 俺の仕事柄、わかってはいる。が、なんだかこういうもんを見ると正直少し
くるもんがある。そうか、あのガキ……
 しょうがない、と、いってしまえばそれまでになるんだろう、な。

 家の前に車を停めて、外で待っていたご家族に挨拶をする。
 この一つ向こうの通りで、あのガキ泣いてたんだっけか。

 その時。

 ふいに。
 誰かが、俺の袖を引いた。

「……っ!」

 振り向いた先には、誰もいない。

 腕を撫でてみる。
 確かに、誰かが俺の袖をひっぱった感触が腕に残ってる。

『だって昨日おにいさん僕の家の前にいたよ』

 脳裏によぎる言葉。

「ユキさんどーしたんすか、顔色悪いですよ」

 今のは?

「ユキさん?」
「ああ、いや、なんでもねえよ」

 あのガキ?


時系列と舞台 
------------ 
 2005年冬

解説 
---- 
 不思議な体験をする幸久。袖を引いたのは誰?
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以上

 ホラーテイストを出そうとして失敗、むう。
即書きは良くないという、判断。



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