[KATARIBE 28228] [HA06N] 小説『待ちぼうけのイブ』 ( 後編)

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 14 Jan 2005 19:53:08 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28228] [HA06N] 小説『待ちぼうけのイブ』 ( 後編)
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200501141053.TAA31410@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28228

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28200/28228.html

2005年01月14日:19時53分07秒
Sub:[HA06N]小説『待ちぼうけのイブ』(後編):
From:久志


ちは、久志です。

抽出の手待ち時間で一気に書き上げましたヨ。

ようやく横恋慕ストーリー完結です。
おめでとうおめでとう、幸久。こっからがお前の本当のスタートだよ(非道)

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『待ちぼうけのイブ』(後編)
==============================

登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。
 彼女  :幸久がメロってるらしい人。彼氏がいる。
 彼氏  :彼女の彼氏。怒っております。

対面
----

 なんつーか、修羅場ってやつだな、これは。

「おい!」

 襟首を乱暴につかまれる。
 おいおい、このワイシャツ今日おろしたばっかりなんだぜ?
 そんなひっぱんねえでくれねえかなあ。

 一瞬、頭の中が白くなる。

「ぐっ」

 左頬が熱い。
 衝撃で足がよろけて、口の中にじわりと血の味が広がる。

「顔やめてくんねーかな、一応客商売なんだぜ?」
「ふざけんな!」

 もう一発。

「ってえな、この寝取られ野郎が」

 襟ひっぱんなって言ってんじゃねーかよ。

「てめえっっ!」

 あんまケンカなれしてねーな、こいつ。
 それに頭に血上ってるせいか馬鹿みたいに大ぶりで拳の握り方も悪い。
 そんなぶん殴り方じゃおめーの手のが痛えだろ、それ。
 逆上してる男に対し、俺の頭は随分落ち着いて相手を分析していた。
 なんか、もう、反撃とか避けるとか守るとか、そんなことすら、もうめんど
くさかった。
 血の混じったつばを吐いて、小馬鹿にするような調子で口を開く。

「あんたさあ、いつ気づいた?」

 俺の襟首つかんだまま、男が動きを止める。つーかこの彼氏の怒りは立場的
にもっともで、横恋慕の間男である俺の方はぶん殴られてしかるべきなんだろ
うけどな。

「やつの携帯盗み見でもしたん?暗い奴だな」

 一瞬で男の頭に血が上るのが、見ててわかった。
 まあ、この様子だと盗み見はたぶんビンゴなんだろうな。

「この野郎っ」

 鳩尾のあたりにずしりと衝撃が響く。

「ぐっ」

 膝が深々と俺の腹にめり込む、さすがにこれは俺も一瞬意識が遠のいた。
たまらずその場に倒れこんで咳き込む。

「げほっ」

 降り積もった雪の上で腹を押さえてみっともなく咳き込む俺と、肩から息を
しながら見下ろす男。
 騒ぎに驚いた通行人が何事かと、こちらをちらちら見てる。


 そこに。
 鳴り響く、電子音。

 雪の上。

 乱闘の弾みで落ちたらしい携帯がちかちか光りながら着信を告げてる、しか
もご丁寧にも写真つきで。

 それは、俺の携帯じゃない。
 白けた空気の中で、流行りのポップスのメロディが無機質に流れてる。

 発信元は、やつ。
 肩で息をしながら、落ちた携帯を眺めてる男。

「出ねえのかよ」
「……」

 なんつうか、この男も正直やりきれねえんだろうなと、人事ながらもなんと
なく理解できた。

 ひとしきり鳴った後、携帯は切れた。
 俺もその場に転がったまま、男も立ち尽くしたまま、何も言わず生気が抜け
たように動けない。

 その次の瞬間、胸の辺りに鈍い振動を感じた。
 振動音に気づいた男もはっとしたように俺を見る。
 内ポケットを探る、震える携帯をとりだし、折り目を伸ばして、着信番号を
これみよがしに野郎の前に掲げて見せた。
 相手は、見なくてもわかった。

「………っ!」
「でるか?」

 男の両肩から力が抜けて絶句するのが、見てわかった。さんざん殴られてお
いてなんだが、心底この目の前の彼氏が気の毒に思えた。
 同時に、ふつふつと湧いてくるどうしようもない敗北感。
 わかりやすぎるほどにわかりやすい彼氏と俺との優先順位。

 二つ折りの携帯を両手で握り締めた。

 やつの顔を思い浮かべる。
 お前、本当に卑怯で残酷でずるくて……可愛い女だったよ。

 そのまま力任せに逆方向に捻じ曲げる。

 鈍い音を立てて、携帯が真っ二つに折れた。
 手の中から振動が消える。

 正直。
 もう泣きたい。


そんな終わり
------------

 呆然と立ち尽くした男を置いて。
 ふらふらと立ち上がって何事もなかったかのように歩き出す。集まった野次
馬達をすり抜けてその場を後にする。
 周りの視線も、何も、もうどうでもよかった。

 コートはさっきのドタバタのせいですっかり濡れて泥だらけ、おろしたばっ
かのワイシャツはしわくちゃで第一ボタンがどっか飛んでる。口ん中は切れて
さっきからしょっぱい味がするし、鏡は見てねえが左頬は多分腫れてんだろな。
鳩尾にくらった蹴りのせいで息するたびにずきずき痛む。


  『幸久。車、運転してるとき、カッコいいのに』

  『その仕草、いいね。様になるよ、すごく』

  『……ずるいよね、私』

  『好きよ、幸久』


 もう二度と思い出したくもねえのに、やつの言葉がひとつひとつ脳裏に浮か
んでくる。未練たらしく思い出してんじゃねえよ。

 煙草を取り出そうとしてポケットに手をつっこむ。
 かさりと、指先がリボンに触れた。

 銀の翼。

 結局、渡せなかった。
 最後の最後にやつに会うことすらなかったんだけどな。


 ぼんやりと、まだ雪の降る空を見上げる。
 大粒の雪が、空から降ってくる羽根のようにも見える。

 景色がゆがんだ。

  『その子やめなよ』
  『あんた、その相手にすっごいひどい扱いされてんのよ?』

 わかってんだよ、美絵子。

 俺は。
 それでも、俺は。

 本気で。
 好きだったんだ。

 顔を覆った手が熱い。
 熱いのは、ぶん殴られたせいじゃない。

「畜生っ!」

 叫んでも、届かない。

「畜生……」

 終わった。
 ただ、それだけ。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年冬、吹利駅前から自宅への道で

解説 
---- 
 幸久、恋の終わり。もうボロボロ。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
終わりっす。

やーーーーっと終わった(ふぅ)

なんと言うか、書いていて。
ちょっと二股女に引っかかって〜みたいな軽いノリで書くつもりが、
書いてるうちに必要以上にマジになってしまいここまで可哀想な話に
なってしまいました。

今後のゆっきーに幸多かれ(たぶん無理)





 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28200/28228.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage