[KATARIBE 28219] [HA06N] 小説『待ちぼうけのイブ』 ( 前編)

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Date: Fri, 14 Jan 2005 01:01:54 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28219] [HA06N] 小説『待ちぼうけのイブ』 ( 前編)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月14日:01時01分54秒
Sub:[HA06N]小説『待ちぼうけのイブ』(前編):
From:久志


 ちは、久志です。

あと少し、あと少しで終わります。
ああ、幸久、お前って奴は(涙)

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『待ちぼうけのイブ』(前編)
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。美絵子とは旧知
 彼女  :幸久がメロってるらしい人。彼氏がいる、らしい。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ)
     :幸久の元カノ、よき理解者でもある。ちょっと悪女。

銀の翼
------

 葬儀屋って奴は、冬はかきいれどきらしい。といっても、たいした根拠はあ
んまりない。冬は体調をくずしやすいからだの、夏は水場の事故が多いだのと
もっともらしい理由はあるが、特にこれだというもんはない。まあ、ぶっちゃ
け縁起でもねえけどいつでもかきいれどきなわけなんだが。
 まあ、なんだかんだ忙しい中、後輩を拝み倒してなんとか休みを都合しても
らった。こんどなんかおごってやんねーとな。
 ポケットの携帯を取り出す。

「美絵子」
『ユキから電話してくるなんてめずらしいじゃない』
「ああ、すまんなイブに」
『別にこっちは遠方だからいーんだけどね』
「あのさ、今日ケリつけるから」
『例の子と?』
「ああ」
『ふぅん』
「なんつーかな」
『なによ』
「こないだは、サンキュ、な」
『……気色悪い』
「うるせえ」
『しっかり砕けてきなさいよ』
「……ああ」

 携帯の通話を切ってポケットにしまう。しまう際に、かさりと指先が包み紙
とリボンに触れた。


 一時間ほど前のこと。

「たっけーな、おい」

 ショーウィンドーの向こうにはきらびやかな世界が広がっていた。
 ここぞとばかりに飾り立てられたディスプレイに色とりどりのアクセサリー
が並んでいる、そこかしこに目が出そうな金額がついてたりもするんだが。
 俺の手が届く値段で、やつが気に入りそうなもの。片方はなんとかなるんだ
が、あわせると微妙に条件がきつくなる。俺だってそうそう余裕があるわけで
もないしな。

 あれこれひとつひとつ眺めていく。ふと、店の隅にある小さなケースの前で
足を止めた。

 銀色の翼。
 一つ一つ薄い銀の羽を数枚重ねて、ひとつの大きな翼を形作っている。なか
なかに作りも精巧で、翼の質感がよく出ている。付け根の先あたりに、ひとつ
小さな石が光っていた。

「ブローチか」

 気になる値段だが、そんなに目が出るほどのものでもない。まあ、それなり
に高くはあるんだが。
 あの白いストール巻いてこれで留めたら、きっと似合うだろう。

「プレゼント用ですか」
「……はい」
「ただいま通常ラッピングとクリスマスラッピング両方ありますけど、どちら
になさいますか?」
「クリスマス用で」
「かしこまりました」

 綺麗に箱に収められ、緑の包み紙に包まれて、赤と緑のクリスマスカラーの
リボンで結ばれていく銀の翼。

 やつは気に入るだろうか。


「いらっしゃいませ」

 店員の姉ちゃんが明るく挨拶する。職業柄、花屋には割と縁があるほうなん
だが、個人の用事できたことなど数えるほどもない。

「えーと、花ください」
「プレゼント用ですか」
「……はい」
「どのようなお花でお作りしましょうか?」
「あーお任せでいいですか」
「かしこまりました」


 待ち合わせまであと15分。
 駅前のやつとのいつもの待ち合わせ場所。
 あたりには同じく待ち合わせと思われるやつ、通り過ぎるカップルや親子連
れケーキの叩き売りに、サンタコスチュームで呼び込むカラオケ屋に寒そうな
トナカイの着ぐるみだので賑わっていた。

 俺の右手には赤と白の薔薇と緑の葉とを取り混ぜた花束、やっぱクリスマス
にあったイメージで作ってんだろうな、これ。

 18:00
 俺の時計は五分進めてあるから、まだ時間じゃない。

 まだ。

「は……」

 白い息が空にのぼってく。
 待ち合わせは18:00

 頬に当たる風が冷たい。
 やつはまだ来ない。


 なんていうか。
 俺って奴は、昔っから馬鹿で、どうしようもない馬鹿で、ほんとに馬鹿で、
笑っちまうほどに馬鹿で。
 いつも、いつも、いつも、こんなんばっかで。

 20:00
 ライトアップされた街路樹が淡い光であたりを照らしてる。
 遅い帰宅と思われる父親らしいサラリーマンが早足で駅をぬけて家へと足
を速め。駅前は行きかうカップルに家族連れ、パーティーと思われる集団で
にぎわってる。

 ふと、前髪に何かがあたる感触。
 見上げると、ふわりと目の前に舞う、雪。

「わーい、ゆきーっ」
「ねえ、雪だ」

 歓声が、なぜだか遠くで聞こえる。


 顔を伏せる。
 ぽつ、ぽつん、と、触れれば消えるような勢いで降りそそいでくる雪。
 その粒は、最初は溶けるように消えたように見えて、でも、少しづつ、確実
に俺にのしかかってくる。


 22:00
 ホワイトクリスマス、か。
 ちらちらと降り出した雪は、いつのまにか大粒になり、街を埋めていく。
 花束を握り締めた手が、指先の芯まで冷え切ってかたかた震える。

 それでも、まだ。


 23:00
 すっかり濡れそぼった前髪から、冷たいしずくがぽたりと落ちた。

 雪は、まだ降ってくる。
 もう確信してた。


 寒さで凍りつきそうな頭で、考える。

 どう考えたって、やつがくるわけがねえよ。
 イブに彼氏と予定がはいってねえわけねえだろ?
 彼氏放ってくるわけねえじゃねえか。

 俺のことが好きだあ?笑わせるな。


 なのに。

 それなのに、心の片隅で、まだ期待してる。

 それでも。
 ……来て欲しかった。

 いつの間にか頭に積もった雪を振り落とす。


 0時06分。
 やつは来ない。

「はは……」

 結局の所。
 やつは俺を選ばなかった。

 ただ、それだけ。


対面
----

 雪ですっかり濡れて、リボンのしわくちゃになった花束を乱暴に駅のゴミ箱
に放り込んだ。
 すっかり人通りもまばらになった駅前で、俺はやりきれない気持ちを抱えた
まま立ち尽くしていた。

 そこへ。
 俺の前をふさぐように、一人の男が立ちふさがった。

 革ジャンに浅黒い肌の俺と大して変わらない年頃の男。
 どうやら、俺を見知っているようだ。

「お前が」

 その声は、どう考えても穏やかに話し合うだのという雰囲気には程遠かった。

「お前が、携帯メールの相手か」

 もっとも、俺自身も。

「だったら、どうする?」

 そんな気は欠片もなかった。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年冬、駅前にて。

解説 
---- 
 幸久、さんざ待ったあげく来ない彼女。その上でくわしたのは…
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次、修羅場でーす(明るい声で)

ついに次が感動(?)のラストです。



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