[KATARIBE 28215] [HA06N] 小説『初見』

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Date: Thu, 13 Jan 2005 14:07:26 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28215] [HA06N] 小説『初見』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月13日:14時07分26秒
Sub:[HA06N]小説『初見』:
From:久志


 ちは、久志です。

続きがなかなかかけないくせに、新しい話がさくっと出てきます。
幸久のちょっと過去話、ちなみに失恋ではありません。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『初見』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。

最初に
------

 はじめて、俺がそういうもんを視たのは小学四年の頃だった。

 いや、視たという記憶自体はたぶんばあちゃんが死んだ三歳の頃からあった。
ただ、俺が視えているもんがそういうもんだということを最初に知ったのはそ
の頃だった。

 本宮本家の祖父が亡くなった、という知らせ。
 今では普通に親戚付き合いをしてるが、昔は色々複雑な事情があったらしい。
 まあ事情というのもよくある事情で、本宮本家の長男の長男である親父が、
周囲の反対を押し切って、今の母さんとほぼ駆け落ち同然で家を飛び出したと
いう古いドラマのような話があったわけだ。
 銀婚式をとうに過ぎて未だにバカップルやってる両親なだけに、親父の当時
の情熱はすごかったらしい。母さんを認めない限り縁もすべて切ると宣言し、
本宮の姓を捨てて母さんの実家汐野の苗字で通っていたそうだ。もしそのまま
だったら、俺も本宮幸久でなく汐野幸久になっていたかもしれない。
 しかし、さすがに本家も親父の情熱に折れて、母さんとの結婚を認めて晴れて
本宮姓に戻ったらしい。
 そんな確執があったから、やっぱり母さんの息子である俺らにとっても本家
の敷居ってのはえらく高いわけで。
 本家に向かうタクシーの中で、史兄と一緒に俺は居心地悪く座っていた。

「でも汐野姓だった頃をおぼえてるのは僕ぐらいだよ」
「ふぅん」
「気にしてるの?あの話」
「別に」

 祖父が亡くなる少し前、本家本宮から、俺を養子にしないかという話が来た
らしい。両親は俺たちには黙っていたけど、なんとなく立ち聞きとか噂とかで
俺らの耳にも入っていた。
 親父には二人妹がいて、上の叔母さん夫婦の子供の窓香は一人娘。下の叔母
さん夫婦はまだ若くて子供はいない。
 そこで、男ばっかり四人もいるうちに打診がきたわけだ。
 そしてなんとなく、本家が俺を選んだ理由もわかった。
 史兄はなんといってもうちの長男、手放すわけがない。友兄と末っ子は本家
が気に入らない母方の祖母と同じ青い目をしてる。
 つまり、一番普通でもらって問題なさそうなのは消去法で俺ってことだ。

「ばかだなあ、大丈夫だって。父さん母さんがお前を手放すわけないだろ」

 史兄はそう言ってくれたけど。漠然とした不安が消えたわけでもなかった。
 正直、本家の葬式にも行きたくなんかなかった。
 このまま帰れなくなってしまうんじゃないかなんていう、なんともいえない
恐怖感と葬式特有の重苦しい空気が、余計に俺を怖がらせてた。

「ほら、こっち」

 史兄に手を引かれて。見分けもつかない喪服連中が大勢いる中、先に到着し
た家族のところへ向かった。
 焼香とか挨拶とか、対応に追われてるらしい両親兄弟を置いて、俺は一人、
その場を離れてどこへ行くでもなく歩いていった。なんとなく、その場にいた
本家の親戚すべてが人さらいのように見えて、正直怖かった。

 本家の裏手のほうにある縁側に腰掛けて、早く葬式なんてが終わればいいの
にと、ぼんやり考えていた。
 ふと、縁側の向こうの和室に人の気配を感じた。
 振り向いた先、和室のすぐ近くに一人初老の男が着物姿で正座していた。
 親父に似てて、もっと年をとってて、なんだか、こう、なんか、懐かしい。

「……」

 声も出なかった。
 でも、目の前にいる人間が誰なのかはなぜか感覚的にわかった。
 血かな、やっぱり。

 じっと、俺を見る目。
 そんときは怖くて、ホントにただもう怖くて、動けなかった。
 ゆっくりと、こっちに腕がこっちにのびてくるがわかる。

「ひっ」

 連れてかれる。
 何でか知らないが、あんときの俺はそう思った。
 目を閉じて震えていると、大きな手がゆっくり俺の頭を撫でた。

『おおきくなったな、幸久』

 確かに、俺の耳にはそう聞こえた。
 おそるおそる目を開けて、祖父の顔を見た。結構、優しい目だった。

「おじいちゃん?」

 ちょっとだけ、笑ったように見えた。
 そのまま、砂が風に消えるように、ふっとその姿が消えていった。

「あ……」

 このあと、散々泣いて泣きつかれて眠っていた俺を親父が回収したらしい。
まあ、俺はさっぱりおぼえてないんだが。


 じいさまの法要。
 といっても、今じゃあすっかり親戚連中の寄り合いの席になりさがってるん
だが。ガキの頃はあんなに怖かった親族連中も、今みればただの普通なおっさ
んおばさん連中なわけで。
 もともと本宮本家とうちの社長が懇意であるってことで、毎年の法要はいつ
もうちがすべて取り仕切ってる。暇見つけて煙草を吸っていると、バカ高い声
が聞こえた。

「あーユキにい」
「んだよ、窓香かうるせえな」
「ユキにい、来てるなら言ってよ!」
「俺は仕事で来てんだよ」
「またそんなこと言って、お父さんや叔母さん達にちゃんと挨拶しなよお」
「いいよ、別に」

 んなの下手に挨拶したら、結婚いつだの、恋人はいるのだの、お見合いどお
だのうるさいことこの上ない。

「いいから、あとでいくから、煙草くらいゆっくり吸わせろよ」
「なによーさぼりー」

 こうるさい従兄妹を追っ払って一息。

 小さく、俺の耳に聞こえる声。

『元気か?幸久』

 まあボチボチ。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年冬、本宮本家にて

解説 
---- 
 ちび幸久が初めて霊を見たときの話。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

昔はちょっとは可愛げがあったのになあ。



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