[KATARIBE 28207] Re: [HA06N] 小説『歩道橋の少女』補足リテイク版

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Date: Wed, 12 Jan 2005 09:45:35 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28207] Re: [HA06N] 小説『歩道橋の少女』補足リテイク版
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月12日:09時45分35秒
Sub:Re:  [HA06N]小説『歩道橋の少女』補足リテイク版:
From:久志


ちは、久志です。

なんか幸久のやつが微妙にいい目を見てて小憎らしいです(鬼)
くそう、またヒドイ目にあわせてやる(おいおい)

とりあえず、ゆっきー調にあわせて直しいれてみました。
結構細かいとこかわってるかもしれず。

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小説『歩道橋の人形』補足リテイク版
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登場キャラクター
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :霊感のある薄幸な葬儀屋さん。振られたばっからしい。
 エル  :謎の少女。実は……。

本編
----

 そいつに会ったのは、冬の日だった。
 詳しく何日だったかは、今となっては覚えてない、でも。
 あの人生最悪のイブの後だってことは、よく覚えてる。
 兄貴に山本、美絵子に他の友人数名と馬鹿みたいに飲んだくれて、さんざ泣
いて、さんざ美絵子の野郎に馬鹿呼ばわりされて。
 わかってても、いまだどっかやりきれない、そんな最悪な気分を抱えつつ、
 まっすぐ家に帰る気力もなく俺はぼんやり吹利の街を歩いてた。遭難しねえ
うちに帰らねーとな、なんてアホな事を考えてる間に、いつのまにか俺は見た
こともない歩道橋の上に立っていた。
 ま、歩道橋なんて珍しいもんじゃねえし、と酔った頭で考える俺の目に最初
に入ってきたのは、黒いフリルだった。
 良く見ればそれは、フリル付きの妙にヒラヒラした服を着たガキで、そし
て、そのファンシーさを強調するみたいに、右手に人形をもってた。
 やけに人間っぽいその人形の目がしっかりと閉じられてるのが気になりつつ
も、俺はそこを通り過ぎようとした、けど。
 今思えば、恐ろしく酔狂だったんだが。
「よぅ」
 俺はそのガキに、声をかけてた。
 歩道橋から下を見下ろしていたガキは、俺の声にびくっと肩を震わせると、
ゆっくりと振りかえる。
 その顔は、ガキらしくなく、妙に大人びた色香があった。
「結界を、破った?」
「は?」
 俺が聞き返すと、ケッカイ、とか何とか言ってたガキは、急に表情を幼いも
のに変えて、俺に笑顔を向けてきた。さっきの妙な色香なんて、欠片もない。
俺の見間違えだったのか?
「おじちゃん、だぁれ?」
「いや、俺はおじちゃんじゃなくてお兄さんなんだがな」
 ガキってのは遠慮がねえ、その上下手な嘘もごまかしもきかない。だから、
こっちも変な見下ろし口調でなく、同等に応じてやんないといけない。
 少々、強引な理論でガキをにらみ付ける。でも、ガキは俺の睨みなんかまる
でへでもねぇようにニコニコしてやがる。
 変なガキだな、と思いつつも、俺はこのガキの笑顔の裏に、どこか、こう、
不自然な何かを感じた。
 こいつ、無理して笑ってるんじゃねぇか?
「お前」
「エル、だよ」
 問いかけようとした俺を、ガキの声が制する。える? と聞き返すと、指で
Lの形を作って突き出してくる。どうやらこいつの名前らしい。
 あらためて問い返すのも面倒になってきたので、ガキ、もといエルの隣に立
って、横から見下ろしてやる。
 相変わらずの一見無邪気にも見えるニコニコ顔。でも、その奥に別の何かを
住まわせているような、何かがある気がする。
「おじちゃんは、何でここにきたの?」
「だから、おじちゃんじゃなくてお兄さんだろ。俺は本宮幸久」
 お返し、とばかりに問いをはぐらかす。俺の苛ついた雰囲気を察したのか、
エルは俺から視線を外すと、道路に視線を落とす。
 そっと窺った横顔は、どこか寂しげだった。
 何か話し掛けないと、とは思うが、俺が持ってる話題といえば、ただ一つ。
 ……まあ、俺が吐き出して楽になりてえってのもあるけどな。
「俺よ、振られたんだ」
「え?」
 驚いた顔でこちらを見るエルに、ニッっと笑ってやる。
 でもしかし、エルは更に表情を暗くすると、押し黙ってしまった。
 あーガキには受けねえか、これは。まあ、でも、俺の為に話してるような
もんだしな。
「ま、結局は俺がバカだっただけなんだけどよ」
 軽い口調で、彼女に振られた顛末を、なるべく面白おかしく話す。バカな
自分を笑い飛ばすように、笑われてすっきりするぐらいに。
 ……だが。
 遠い目で俺から視線を外したエルを見て、何もいえなくなった。
 こんなガキにそんなことがあるわけないんだが、そんときのエルの横顔は、
まるで、辛い恋を何度も経験したようなせつない雰囲気がある。こんな年端
も行かないガキが、だ。
「おじちゃん」
「だから、おまえなあ」
「本宮さん」
「え」
 ぞくっとした。
 ただ、名前を呼ばれただけなのに、なぜか背筋がゾクゾクとする。悪い意
味でじゃない、いい意味でだ。どう聞いたって、ガキの出す声じゃねぇ。
 それに、だ。
 こちらを見上げるエルの顔は、そこらの大人でも出せないような、なんと
も言えない妖艶な雰囲気を漂わせてる。顔のパーツはただのガキなのに、
どっか吸い寄せられそうな女の魅力がある。
 って、おい!俺はそのテの趣味はねえっ。
「ちょっとしたおとぎ話、聞いてくれる?」
「あ、ああ」
 肯く俺は、完全にエルの雰囲気に呑まれていた。そう、と蟲惑的な笑みを浮
かべてから、エルは口を開く。
「今からずっと昔。そう、百年以上は昔。ある所に、腕のいい人形職人が居た
の」
 そう言うエルの腕の中には、一体の人形がしっかり抱かれている。こいつと
関係のある話なんだろうか。
「職人の人形は、まるで生きた人間のように生き生きとし、そして、人間では
ありえないほど美しい、と評判だったわ」
 そう言われて見れば、エルの持ってる人形は、まるで眠り姫のごとく美し
い。その手の趣味の人間が見たら、無理矢理奪い取るんじゃないだろうか。
「しかし職人は、もっと上を目指していたの。人形に、人の心を宿らせようと
したのよ」
 不思議な話だよな、と言おうとした俺の口は、動かなかった。エルの言葉に
縛られたかのように、体が動かせない。
「人形はまず、人の持つ感情を人形に込め、それで心を作ろうとしたの」
 そう語るエルの表情は、遠く何かを見つめている。まさか、本当にその現場
を見たんじゃないか、という気がしてくるほどに。
「喜び、悲しみ、怒り、色んな感情が色んな人形に込められ、そして」
 エルの表情が、すぅ、と硬くなった。思い出したくない過去を掘り起こされ
た、そんな顔。
「職人は、人形に愛を込め、それを“愛(ラブ)”の人形としたの」
 そう呟くエルは、手元の人形をいとおしそうに撫でる。多分、それがその
“愛”の人形なんだろう。確証はないけど、感覚がそう告げていた。
「“愛”は仮初の心を得て、そして、職人の手を離れたわ。様々な土地を回
り、そして、手放され、拾われ、手放され、を繰り返す」
 それは、“愛”にとっては辛いことなんじゃないか、と思う。職人によって
愛を込められたってことは、その心は愛で出来てるってことで、それは、つま
り。
「愛されないと、生きていけないって感覚、わかる?」
 エルの問いに、俺は答えられなかった。体が動かないからじゃない、そんな
ものの答えが考えつかなかったからだ。俺だって人を好きになる、愛されたい
し、愛したい。さんざんボロボロになって失恋した今でさえ、やっぱりまた誰
かを好きになりたいと、思ってる。
 たとえまた、辛い想いをしようとも、振られることになったとしても。
「あなたなら、私を愛してくれる?」
「は……?」
 私を愛して、って、まるで、エルがその人形みたいに。
 あ。
 エル、L、って、もしかして。
「Lは、LoveのL」
 そう言いながら、エルが俺の目の前に人形を差し出す。閉じられた人形の目
に、なぜか、俺の目が釘付けになった。
 これから何が起こるのか、何となく予想できる。そして、その時俺は。
「私を、愛してくれる?」
 動かないはずの人形の目が開き、紫色の瞳が俺の心を捉える。
「お、俺は……」
 俺は、どうしたいのだろう。この悲しい人形に、どうしてやりたいのだろう
か。長き時を、捨てられつづける、この人形に。
「俺は、愛――」
「な〜んてねっ!」
 人形が視界からどけられると同時に、急に体の力が抜けた。
 歩道橋の上にへたり込み、荒い息を吐く。今、俺は一体何を考えようとして
いたのか。あと一瞬遅かったら、どうなっていたのだろうか。
「お前……」
「へへんっ、おじちゃんにお話しちゃった〜っ」
 笑う少女に、先ほどまでの妖しさは微塵も感じられなかった。人形に視線を
向けると、ちゃんと目が閉じられてる。
 一体、さっきのは何だったんだ……。
 ともかく、もうこのガキとは関わりたくない。
「ああ、じゃあな」
「うん、またね〜っ」
 力んで立ち上がると、エルから背を向ける。きっと、振り返ったら誰もいな
いんだろう。そうだ、今までのは酔いすぎで見た幻覚、だ。
「おに〜ちゃんっ!」
 だから、呼ばれたときは安易に振り向いてしまった。
 そして、見る。
「え?」
 目の前に、見たこともない美女の姿があった。さっきのガキのフリフリ服と
は違う、赤いドレスを着ている。
 それが人形の着ているドレスだったと思い出したときには、美女の顔が接近
し終わっていた。
 俺の凍えた唇に、柔らかく温かい唇が重なる。
 ……。
 …………。
 ………………あ?
「は?」
 気付いた時には、歩道橋の上には、俺だけしかいなかった。
 いや、違う。
 さっきまでは影も形もなかった通行人が、せわしなく行き交っている。エル
と話していたときは、一人も見かけなかったのに。
 やはり、夢でも見てたんだろうか。
「違う」
 あぁ、違う。この唇に残った感触は、幻覚じゃない。
 ――話聞いてくれて、ありがと。
「エル……」
 風に紛れて聞こえた幻覚の行方を探しつつ、俺は思う。
 たかが数十年、まだまだ甘い、か。
「また、会おうな」
 虚空に向けて放たれたセリフは、空の中に消えていった。

END

時系列と舞台
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冬の吹利、歩道橋の上

解説
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傷心の幸久、のんだくれた先で出会った少女との、不思議な時間。
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いじょ

>気に入られちゃったみたいですね(遠い目)

くう、意外なとこでモテてるな。


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