[KATARIBE 28196] [HA06N]小説『歩道橋の少女』

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Date: Tue, 11 Jan 2005 23:45:07 +0900
From: "tuboyama" <tuboyama@wg7.so-net.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28196] [HA06N]小説『歩道橋の少女』
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渚女です。
ゆっき〜を借り受けてのエルの話。
久志姐さん、こんなもんでどうです?(w

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小説『歩道橋の人形』
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登場キャラクター
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本宮幸久:薄幸な葬儀屋。今回は振られた後らしい。
エル:謎の少女。実は……。
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 そいつに会ったのは、冬の日だった。
 詳しく何日だったかは、今となっては覚えてない、でも。
 俺が手ひどく振られた後の日だってことは、よく覚えてる。
 元宮幸久失恋記念パーティーを盛大にやって、俺振られちまったぜ〜、とか
言いまくって、酒飲みまくって。
 それで、最悪な気分を抱えつつ、俺は歩いてた。
 家に帰る気力もなくて、ふらふらと吹利のどこかを歩き回る。いつか家に着
くんじゃないか、なんて軽く考えてる間に、見たこともない歩道橋の上に着
た。
 ま、歩道橋なんて珍しいもんじゃないか、と酔った頭で考える俺の目に最初
に入ってきたのは、黒いフリルだった。
 良く見ればそれは、フリル付きの妙にヒラヒラした服を着たガキで、そし
て、そのファンシーさを強調するみたいに、右手に人形をもってた。
 やけに人間っぽいその人形の目が閉じられてるのが気になりつつも、俺はそ
こを通り過ぎようとする。だけど、な。
 今思えば、恐ろしく酔狂だったんだが。
「よぅ」
 そのガキに、声をかけてた。
 歩道橋から下を見下ろしていたガキは、俺の声にびくっと肩を震わせると、
ゆっくりと振りかえる。
 その顔は、ガキらしくなく、大人びた色香があった。
「結界を、破った?」
「は?」
 俺が聞き返すと、ケッカイ、とか何とか言ってたガキは、急に表情を幼いも
のに変えて、俺に笑顔を向けてきた。さっきの色香なんて、欠片もない。やっ
ぱ、見間違えだったのかな。
「おじちゃん、だぁれ?」
「俺はおじちゃんじゃなくてお兄さんだっての」
 ガキってのは遠慮がない。だから、こっちも遠慮しちゃいけねぇ。なんて勝
手な理論を振りかざして、ガキをにらみ付ける。でも、ガキは俺の睨みなんか
へでもねぇようにニコニコしてやがる。
 ガキってのは恐怖を感じねぇのか、と思いつつも、俺は別の可能性を考え始
めていた。
 こいつ、無理して笑ってるんじゃねぇか?
「お前」
「エル、だよ」
 問いかけようとした俺を、ガキの声が制する。える? と聞き返すと、指で
Lの形を作って突き出してくる。どうやら、名前らしいな。
 あらためて問い返すのも面倒になってきたので、ガキ、もといエルの隣に立
って、横から見下ろしてやる。
 相変わらずのニコニコ顔。でも、その奥に、何かがある気がする。
「おじちゃんは、何でここにきたの?」
「おじちゃんじゃなくて、元宮幸久」
 お返し、とばかりに問いをはぐらかす。俺の苛ついた雰囲気を察したのか、
エルは俺から視線を外すと、道路に視線を落とす。
 そっと窺った横顔は、どこか寂しげだった。
 何か話し掛けないと、とは思うが、俺が持ってる話題といえば、ただ一つ。
 ……ったく、しゃあねぇな。
「俺ってばよ、振られたんだ」
「え?」
 驚いた顔でこちらを見るエルに、ニッっと笑ってやる。ほら、お前も笑え
よ。
 でもしかし、エルは更に表情を暗くすると、押し黙ってしまった。
 あちゃぁ、話題選択間違ったか。でもまあ、一度話し始めたら、これでいく
しかねぇ。
「ま、結局は俺が悪いんだがなぁ」
 軽い口調で、彼女に振られた顛末を、なるべく面白おかしく話す。俺ってこ
んなに話術の才能があったのかっ、ってくらいの喜劇になった……はずだった
んだが。
 遠い目で俺から視線を外したエルを見て、何もいえなくなった。
 こんなガキにそんなことがあるわけないんだが、エルの横顔は、まるで、辛
い恋を何度も経験したような雰囲気がある。こんな、年端も行かない少女が、
だ。
「おじちゃん」
「だから、おじちゃんじゃないって言って」
「元宮さん」
 ゾクッ、っとした。
 ただ、名前を呼ばれただけなのに、背筋がゾクゾクとする。悪い意味でじゃ
ない、いい意味でだ。どう聞いたって、ガキの出す声じゃねぇ。
 それに、だ。
 こちらを見上げるエルの顔は、大人でも出せないような妖艶な雰囲気を漂わ
せてる。顔のパーツはお子ちゃまなのに、吸い寄せられそうな魅力がある。
 って、いかんいかんっ、俺ってそんなアブノーマルな趣味はねぇぞっ。
「ちょっとしたおとぎ話、聞いてくれる?」
「あ、ああ」
 肯く俺は、完全にエルの雰囲気に呑まれていた。そう、と蟲惑的な笑みを浮
かべてから、エルは口を開く。
「今からずっと昔。そう、百年以上は昔。ある所に、腕のいい人形職人が居た
の」
 そう言うエルの腕の中には、一体の人形が抱かれている。でも、こいつと関
係のある話なんだろうか。
「職人の人形は、まるで生きた人間のように生き生きとし、そして、人間では
ありえないほど美しい、と評判だったわ」
 そう言われて見れば、エルの持ってる人形は、まるで眠り姫のごとく美し
い。その手の趣味の人間が見たら、無理矢理奪い取るんじゃないだろうか。
「しかし職人は、もっと上を目指していたの。人形に、人の心を宿らせようと
したのよ」
 不思議な話だな、と言おうとした俺の口は、動かなかった。エルの言葉に縛
られたかのように、体が動かせない。
「人形はまず、人の持つ感情を人形に込め、それで心を作ろうとしたの」
 そう語るエルの表情は、遠く何かを見つめている。まさか、本当にその現場
を見たんじゃないか、という気がしてくるほどに。
「喜び、悲しみ、怒り、色んな感情が色んな人形に込められ、そして」
 エルの表情が、すぅ、と硬くなった。思い出したくない過去を掘り起こされ
た、そんな顔。
「職人は、人形に愛を込め、それを“愛(ラブ)”の人形としたの」
 そう呟くエルは、手元の人形をいとおしそうに撫でる。多分、それがその
“愛”の人形なんだろう。確証はないけど、感覚がそう告げていた。
「“愛”は仮初の心を得て、そして、職人の手を離れたわ。様々な土地を回
り、そして、手放され、拾われ、手放され、を繰り返す」
 それは、“愛”にとっては辛いことなんじゃないか、と思う。職人によって
愛を込められたってことは、その心は愛で出来てるってことで、それは、つま
り。
「愛されないと、生きていけないって感覚、わかる?」
 エルの問いに、俺は答えられなかった。体が動かないからじゃない、そんな
ものの答えが考えつかなかったからだ。俺だって人を好きになる、愛されたい
し、愛したい。
 そして、振られることになる。
「あなたなら、私を愛してくれる?」
「は……?」
 私を愛して、って、まるで、エルがその人形みたいに。
 あ。
 エル、L、って、もしかして。
「Lは、LoveのL」
 そう言いながら、エルが俺の目の前に人形を差し出す。閉じられた人形の目
に、なぜか、俺の目が釘付けになった。
 これから何が起こるのか、何となく予想できる。そして、その時俺は。
「私を、愛してくれる?」
 動かないはずの人形の目が開き、紫色の瞳が俺の心を捉える。
「お、俺は……」
 俺は、どうしたいのだろう。この悲しい人形に、どうしてやりたいのだろう
か。長き時を、捨てられつづける、この人形に。
「俺は、愛――」
「な〜んてねっ!」
 人形が視界からどけられると同時に、急に体の力が抜けた。
 歩道橋の上にへたり込み、荒い息を吐く。今、俺は一体何を考えようとして
いたのか。あと一瞬遅かったら、どうなっていたのだろうか。
「お前……」
「へへんっ、おじちゃんにお話しちゃった〜っ」
 笑う少女に、先ほどまでの妖しさは微塵も感じられなかった。人形に視線を
向けると、ちゃんと目が閉じられてる。
 一体、さっきのは何だったんだ……。
 ともかく、もうこのガキとは関わりたくない。
「じゃあな」
「うん、またね〜っ」
 力んで立ち上がると、エルから背を向ける。きっと、振り返ったら誰もいな
いんだろう。そうだ、今までのは酔いすぎで見た幻覚、だ。
「おに〜ちゃんっ!」
 だから、呼ばれたときは安易に振り向いてしまった。
 そして、見る。
「え?」
 目の前に、見たこともない美女の姿があった。さっきのガキのフリフリ服と
は違う、赤いドレスを着ている。
 それが人形の着ているドレスだったと思い出したときには、美女の顔が接近
し終わっていた。
 俺の凍えた唇に、柔らかく温かい唇が重なる。
 ……。
 …………。
 ………………あ?
「は?」
 気付いた時には、歩道橋の上には、俺だけしかいなかった。
 いや、違う。
 さっきまでは影も形もなかった通行人が、せわしなく行き交っている。エル
と話していたときは、一人も見かけなかったのに。
 やはり、夢でも見てたんだろうか。
「違う」
 あぁ、違う。この唇に残った感触は、幻覚じゃない。
 ――話聞いてくれて、ありがと。
「エル……」
 風に紛れて聞こえた幻覚の行方を探しつつ、俺は思う。
 たかが数十年、まだまだ甘い、か。
「また、会おうな」
 虚空に向けて放たれたセリフは、空の中に消えていった。

END

時系列と舞台
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冬の吹利、歩道橋の上

解説
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傷心の幸久、のんだくれた先で出会った少女との、不思議な時間。

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気に入られちゃったみたいですね(遠い目)
お気をつけて〜(ぉぃ

それでわ
“小説量産機”渚女悠歩

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