[KATARIBE 28195] [HA06N]小説『なぎのうみ』

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Date: Tue, 11 Jan 2005 23:32:50 +0900
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Subject: [KATARIBE 28195] [HA06N]小説『なぎのうみ』
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ども、渚女です。
空帆ちゃんの小説をちょろちょろと書き。
渚女の分身ということで、こんな過去を付けてみました。
いやほんと、でっかくてぼけっとしてると狙われるのよ(何

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小説『なぎのうみ』
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登場キャラクター
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由良木空帆:さめつかいの少女。今回は海に出てる。実は……。
なぎさめ:空帆の使い魔。鮫なので海は好き。フォロー担当。
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 ぱたぱたぱた。
「あ〜……」
 力無くはためくセールを見ながら、わたしはひっそりと息をつく。
 海が凪いで五分くらい。まだ、風はやってこない。
 風がこなければ、風で動く乗り物は動かないわけで。
「はぁぁ」
 わたしの乗ったヨットも、海の中にぽつりんと取り残されていた。
 空を見ると、おっきな雲が、しっかり太陽を包んでる。
 その雲も、あんまし動いてないし。
 冬の海っていうのはかなり寒いものなんだけど、ドライスーツを着たわたし
にはあんまり関係ない。
 ただ、むきだしの顔、とくに鼻の頭は冷たくて痛くて、ちょっといやぁな気
持ち。
 こんな時は、いっそ海に飛び込んで泳いでいったほうがいい気もするけど、
間の悪い事に、ハーバーまではかなり遠かった。
 外海らしく少し粗い波にヨットが揺られ、わたしの頭もくらくら揺れる。
 まあ、これくらいの揺れでへばるような体はしてないけど。
 それにしても、暇。なので。
「なぎさめ〜」
「なんだぁ、お嬢」
 わたしの問い掛けに、海の中から声が聞こえた。
 普通なら、海の中から音なんて聞こえない。でも、なぎさめの声は不思議と
はっきり聞こえてきた。
 ちなみに、なぎさめはヨットの周りを悠々泳いでる。彼(?)には水が冷た
いとかは関係ないだろう、だって。
 ザパァ。
 水音と共に突き出した背びれ。時折見える背中はざらざらしてる。
「いいなぁ、鮫って」
「はぁ?」
「だって、いつでも泳げるじゃん」
 わたしの呟きに、なぎさめは、何いってんだこいつ、って感じに背びれを揺
らすと、海中に潜ってしまった。あ〜あ、暇つぶしができなくなっちゃった。
 ひま〜、と呟きつつ、わたしは、視線を頭上の雲に向ける。こんなときは、
考え事でもして過ごそう。
 最初になぎさめと会ったのは、まだわたしが小学生のころ。海に遊びにきて
たわたしが砂浜で見つけたのが、なぎさめが封じてあった腕輪だった。
 なぎさめと契約した最初は、なぎさめの姿の消し方がわからなくて、隠すの
が大変だったのを覚えてる。両親に抱き枕と言い張ってたのは、今思えばすご
い無謀なことだよね。
 なぎさめの隠し方を覚えてからは、いつも連れて歩くことにした。見えない
誰かと話すわたしを、クラスメイトは変な目でみてたけど、でも、元から人付
き合いの悪かったわたしは、そんなこと気にしなかった。
「中学校のときは、無茶したなぁ」
「ま、それも人生なんじゃないか」
 そう、こうやってなぎさめはいつもフォローを入れてくれる。ま、ほとんど
ツッコミなんだけど。
 でも、中学生のときは大変だった。誰がって、両親が。
 背ばっかり高くて、でも、ボケボケな駄目っ子だったわたしは、かっこうな
イジメの標的になった。クラスから廃絶されたわたしは、いつからか学校に行
かなくなり、市民プールで泳いでばかりいた。だって、水とか海が大好きだ
し、なぎさめと一緒に泳げるから。
 見るに見かねた両親が、気分転換に海に連れて行ってくれたときに、わたし
の人生はもう一度変わった。
 ハーバーのおじさんが乗せてくれたヨット。それは、とっても楽しくて、わ
たし、すぐにその虜になった。
 ハーバーまではかなり遠かったんだけど、両親に頼み込んで、何度も連れて
行ってもらった。最初は上手く出来なかった操作も、ちょっぴり慣れてきた。
 高校は、一応受験して、奇跡みたいな確立で吹利学校高等部に受かっちゃっ
た。本当は県外の海のある高校に行きたかったけど、それはさすがに両親に反
対されちゃった。
 高校生活は、イジメられないこと以外、中学校と同じだった。多分、わたし
が人との関わり方を忘れちゃったからかもしれないけど。
「でも、最近はちゃんと話してるじゃねぇか」
「一年もたてば、慣れてくるよ」
 でも、まだわたしは人が怖い。今まで親しく話してた友達が、いつ突然傷つ
けてくるか怖くて。
 でも。
「こうやって海の中にいると、そんなのは勘違いだ、って言われてる感じがす
るよ」
「海ってのは、大らかだからな」
 そう、海は全てを包み込んでくれる。だから、わたしは海が好き。
 ほっ、と息を吐いたわたしの頬に、冷たい風があたった。
「来たね」
「結構強ぇぞ」
 なぎさめの声を聞きつつ、体に緊張を走らせる。海は、時に暴竜になる、だ
から、海の上では気を抜いちゃいけない。
 ハーバーのおじさんから言われたその一言を心に秘めて、わたしは右手にシ
ートを、左手にティラーを握る。
 荒れが大きくなってきた波に揺られつつ、セールを思いっきり広げ、
風を取り込む。ヨットが動き出したら、ティラーを操作して方向を定める。よ
り、風を取り込み、そして、目的地に近い場所へ。
「なぎさめ、付いて来て」
「おぅよっ」
 すでにヨットはそこそこの速さで走り始めてる。でも、まだ最高速じゃな
い。
 風の来る方向の四十五度、それが、セールを広げる角度。
 ザァァァァァァッ。
 波を切る音が心地いい。シートを引っ張る風の力が気持ちいい。
 自分が、自分の手で、大海原を突っ切ってる感覚。
 わたしは、それが大好きだ。

END

時系列と舞台
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冬のとある日。海の上。

解説
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冬の真っ只中ヨットに乗る空帆。凪の海で回想する。
ちなみに、ドライスーツとは水の侵入をシャットダウンできるウェア。
冬の海では必需品だが、着たり脱いだりは結構大変。
……だったはず、です(うろ覚え)
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ヨット技能、もうちょっと上げた方がいいかも(w
ということで、でわ
“小説量産機”渚女悠歩

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