[KATARIBE 28181] [HA06N] 小説『イブの前』

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Date: Tue, 11 Jan 2005 14:13:14 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28181] [HA06N] 小説『イブの前』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年01月11日:14時13分14秒
Sub:[HA06N]小説『イブの前』:
From:久志


ちは、久志です。

そろそろ、大詰めかなーって感じの横恋慕ストーリー

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
小説『イブの前』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。
     :女でいつもイイ目を見ない人。
 彼女  :幸久がメロってる人。彼氏アリ。ちょっと卑怯なひと。

早朝
----

 目が覚めたのは、薄暗がりの時間帯。
 ベッドに転がったまま、視線を動かす。ベッドの脇に置いた時計は朝4時半
を指している。

「馬鹿」

 なんだってこんな時間に目覚ますか、俺。
 遮光カーテンのかかった部屋は、わずかな隙間からさしてくる薄明かりに
照らされて薄ぼんやりとした灰色に染まっている。
 あちらこちらで平積みになったカバーつきの本、床に直置きになったまま少
し埃を被ってる電話機、テーブルの上には缶コーヒーの空き缶が三つばかしと
葬儀ディレクター試験の参考書と勉強用ノートが開きっぱなしで置いてある。
 正直お世辞にも片付いてるように見えないが、これでも昨日出がけに少しは
片付けたつもりなんだがな。
 まだ朝もかなり早いが、目もすっかり冴えてしまいもう一度寝ようという気
にもなれず、ゆっくりと体を起こした。
 隣でかすかに身じろぎする音がする。やつは俺に背を向けて、胎児の姿勢で
静かに寝息を立てている。寝てるやつを起こさないよう一旦動きをとめて、
寝息が少し落ち着くのを待ってから、ベッドを抜け出して肩まで布団をかけて
やった。

 あれから何回か、悪びれもなくやつは俺の部屋に泊まっていった。

 寝巻き代わりに貸したワイシャツの白い襟から細い首筋が見える。
 そっと、気づかれないように、首筋を指でたどってみる。ここに跡でもつい
てたら、彼氏のやつはどうすんだろな。
 指先を耳元に動かす、耳に掛かった髪を寄せて小さな耳に唇を寄せる。

 お前、何考えてる?
 お前は、俺をどうしたい?

 声もない問いに、もちろん答えはない。

『もし、ね。もし、ユキがその子を彼氏から奪えたとしても。きっと同じこと
繰り返すよ』

 この間の美絵子の言葉を思い出す。もし、もし万に一つでも、やつを奪えた
としても、また俺は苦しむんだろう。やつの今までの裏切りを知ってる限り、
俺もいつ裏切られるかわからないと思いながら、ずっと。

 でも、と言いかけて、止める。
 堂々巡りだ。


選択肢
------

 あれから何をするでなく、ベッドに腰掛けたまま部屋でぼんやり時間をつぶ
していた。煙草をくわえたまま、時計を見る。六時半を少し回ったところで、
背後にいるやつが身じろぎした。

「ん……」
「起きたか?」
「うん……早いね、幸久」
「ちょっと、目冴えちまって少し起きてた、起こしたか?」
「ううん」

 もそりと起き上がって、両手で目をこする。

「待ってろよ、コーヒーいれてくる」
「あ、いいよ、そんな」
「そこのパーカーでも羽織ってろよ、寒いだろ」

 返事を待たず台所へ向かう。なんつーか、こう、女の白ワイシャツって姿は
視覚上よくない、俺的に。
 ヤカンに火をかけて、一本煙草に火をつける。ため息と一緒に、白い煙が換
気扇に吸い込まれていった。


「コーヒーできたぜ」
「ありがと」

 俺の部屋で俺のワイシャツきて俺のパーカー羽織って俺のカップでコーヒー
を飲んでる、他の奴の女。

「なあ」
「何?」

「お前、何考えてる?」

 やつが無言になる。

「何考えて、俺に会ってる?」
「ごめん」
「俺はあやまってほしいんじゃなくて、お前の本音聞きたいだけなんだよ」
「……ずるいよね、私」
「質問に答えろよ」
「好きよ、幸久」
「……」
「好きだけど」
「だけど?」
「でも……」
「でも?」
「ごめんね」
「あやまるなよ」

 ふわり、と。やつの髪の香りがする。
 次の瞬間、やつの両腕が俺の頭を抱きしめてた。こめかみに頬があたる。

「ごめん、幸久」
「頼むよ、ごまかさないでくれよ」
「違う、違うよ。幸久も、好きなの」

 幸久も、好きなの。
 なんつうか、俺にとってひどく残酷な言葉だ。

「なあ」

 そっと、やつの背中に腕をまわす。ゆっくり力を込めながら、やつの耳元に
唇をちかづける。

「俺は、お前のこと、好きだよ」
「うん」

 抱きしめられたまま、小さくやつが頷いた。

「だから、このままは嫌だ」

 返事はない。

「こんな中途半端な状態のまま、お前と関係続けんの嫌だ」

 やつの返事はないまま、言葉を続ける。

「今までどおりなんて選択肢はねえよ」

 俺か、彼氏か。
 どう考えても、自分が絶望的なことを言ってるのは、目に見えてる。
 でも、このまま歯噛みしながら、やつと関係続けていくのは、もう俺自身が
耐えられない。

「来週、イブに、駅前のいつものとこで待ってる」

 俺を抱きしめた腕はそのままだったけど。

「待ってるから、来てくれよ」

 やっぱり、やつの答えはない。


時系列と舞台 
------------ 
 2004年冬、イブの一週間前っぽい。

解説
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 ケジメをつけようとする幸久。けど、既に手だしてるじゃん。
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こないね(いきなりネタバレかよ)

もうすぐラスト。がんばれ幸久、散って来い。



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